霊夢と巫女の日常録   作:まこと13

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第53話 : まさかの

 

 

 

「……くっ、やるじゃねーか」

「そっちこそな。 人間にしとくには惜しい素材だ」

 

 辺りに降り注ぐ光の流星と押し寄せる闇の津波を、互いにギリギリのところでかわしていく。

 私と対極の属性の弾幕を放つこいつは、もしかしたら私にとって永遠の宿敵になるかもしれない、そんな可能性すら感じさせる。

 

「いくぜ。 次のは、私のとっておきだ」

「来いよ、いくらでも付き合ってやる」

 

 不敵に笑い合う2人。

 勝負は終盤戦、それでも疲れなんてものは気にならない。

 きっと、今この瞬間、この戦いが楽しくて仕方ないんだろう。

 次から次へと、身体の奥底から活力が湧き上がってくる。

 

「くらえっ。 スペルカード宣言、恋符『マスタースパーク』!!」

 

 そして、その気持ちを抑えきれないままに、私は再び弾幕戦に身を投じていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 以上、私が期待した、初めての異変のスペルカード戦の理想像。

 新たなライバルとの遭遇、肌を焦がすような張り詰めた緊張感、そんな幻想を信じていた頃が私にもありました。

 そして、現実。

 

「待てー、逃げるなー」

「いや、逃げるなってお前…」

 

 さて、この現実をどうコメントしたものか。

 ルーミアとスペルカード戦ってことになったんだが、正直こいつが本当にルールを理解してるのか怪しい。

 なぜって、「スペルカード宣言!」とだけ言って、こいつは私の腕を掴もうとしてくるのだ。

 逃げるなとか言ってくるけど、そんなの逃げるに決まってんだろアホかこいつ。

 

「ちょ待っ、お前本当にルール理解してんのかよ!?」

「してるさ。 前の博麗の巫女なんかよりはよっぽどな」

 

 妹紅、お前……

 

「でも、スペルカードルールは弾幕を放つ勝負で…」

「知ってるよ。 ただし、この技に関しては今の博麗の巫女の仕返しだけどな!」

 

 ……仕返し?

 要するに、霊夢はスペルカード宣言とか言って、ルーミアの腕を掴んだと。

 で、ルーミアが腰を痛めたってことは……物理攻撃かよ。

 何してんだあいつら、いきなり新旧の博麗の巫女が一緒になって妖怪いじめてんじゃねーよ。

 

「許さないぞ、関節「霊夢ストレッチ」。 屈辱のあの技の代償を、倍にして返してやる!」

 

 ……霊夢ストレッチ?

 霊夢、ストレッチ。

 霊夢ストレッチ! 霊夢ストレッチッ!!

 霊夢ストレッチ霊夢ストレッチ霊夢ストレッチ霊夢ストレッチ霊夢ストレッチ霊夢ストレッチ!!

 

「……ブ」

「あ?」

「ブフーーーーーーーっ!!」

 

 無理無理無理無理、何だそれ何だそれ!!

 ヤバい、それどころじゃないのに笑っちゃって力が出ない、マジで霊夢がそんなスペル使ったのか!?

 あー、でも確か一時期、必殺技の名前で悩んでるとか言ってたっけか。

 確かに普段のあいつは博麗の巫女の技しか使わないもんな、なるほど納得いったぜ、まさかここまでネーミングセンスが壊滅的だとは。

 余計なお世話とは思いつつも、将来の霊夢の子供に同情してしまう私であった。

 

「って、うわっ!?」

 

 とか考えながら爆笑してる内に、いつの間にか足が何かにとられて転んでしまう私。

 って、アホか何してんだ私!?

 私の足に絡みついた黒い何かは、縄のように巻き付いてとれない。

 くそっ、視界を奪うだけじゃなくて、実体化することもできんのかよ!?

 

「うふふ。 つかまえたぞー」

 

 何か、ゾワッとした。

 何故かはわからないけど、ひどい黒歴史をほじくり返されたような不快な気分だ。

 

 ……いや、さっきからほんとそんな場合じゃないだろ私、ちょっとは妖怪を相手にしてる危機感を持てよ!

 くそっ、箒は転んだ拍子に放り投げちまったのか取りになんて行けそうもないし、絶体絶命のピンチだ。

 助けてくれ、私はまだこの歳で腰痛になんてなりたくないんだ!

 まぁ、人食い妖怪に捕まって、そんな心配してるのもどうかと思うが。

 

「畜生、こんなところで……ん?」

 

 だけど、運がいいのか悪いのか、私の手は偶然にも今回用意した切り札を掴んでいた。

 私の兄貴分から預かった魔法具で、名をミニ八卦炉という。

 魔力を増幅して放つための道具なんだが、けっこう危ない代物らしいので、今までずっとリミッターをつけて使っていた。

 でも、博麗神社を出た時、吸血鬼を相手にするかもしれないので、今日は初めてそのリミッターを外してみたのだ。

 実際の威力がどんなものかは知らないけど、今は迷ってる時間なんてない! これで少しでも……

 

「動くな! 撃つと動く!」

 

 何か焦って訳わかんないこと口走っちまったけど、伝わるだろ。

 とりあえずは話し合いだ、少しは会話も通じる相手みたいだし、もしかしたら……

 

「そんな玩具で、どうするつもりだ?」

「え? いや、これ結構危ない魔法具なんだぜ?」

「どーせハッタリだろ?」

 

 ヤバい、こいつミニ八卦炉の危険性に気付いてない。

 まぁ、見た目は確かに玩具にしか見えないからな、脅しの道具としては使い辛いか。

 しょうがないな。 少しだけ、こいつの威力を見せてやるか。

 

「そんなに信じられないなら、一度だけ見せてやるよ。 こいつの威力」

「別にいいぞー。 ただし、それで私を仕留められなかった時が、お前の腰椎の最期だけどな」

「ちっ」

 

 加減を間違ったら、死ぬのは私の腰って訳か。 ははっ、笑えねーぜ。

 だけど、勢い余ってこいつを殺しちゃうのも流石に可哀想だ。

 だから丁度いい加減、うまくこいつを無力化できるのは……だいたい、出力50%くらいか?

 いや、でもそれで倒せなきゃ私は助からないんだ、70、80%……いや、いっそのこと100%出力全開で行くか?

 それがどのくらいの力なのかはわからない、でも、もう迷ってなんかいられない!!

 狙うは当たっても致命傷にはならないだろう、あいつの足元。

 よし! 覚悟決めろ私、たとえ当たらなくても脅しにさえなれば……

 

「後悔すんなよルーミア! 恋府『マスタースパー……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ――拝啓、香霖へ。

 

      帰ったらマジで殺す。

 

 

 

 

 

「クぅあああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?」

「ぎゃああああああああああああ!?」

 

 気づくと、私は魔法波の反動で空高くぶっ飛んでいた。

 ルーミアの悲鳴を一瞬で掻き消すほど耳をつんざく轟音とともに、輝く光の束が大地を抉り取っていた。

 広がった弾道は目も当てられないくらいルーミアのいた場所を焼き尽くし、同時に私の身体を赤い霧の更に上まで押し上げていく。

 

「止めっ、げっほ!? 誰か、誰か助けてっ…」

 

 ミニ八卦炉を止めればいいだけなのに、混乱するわ咳き込むわで、そんなことにも頭が回らない。

 いや、流石にここまでの威力があるだなんて想像もしてなかったんだよ、マジで!!

 っていうか、これマジで小さい山一つくらいなら吹き飛ぶんじゃねーか? いたいけな少女になんつーもんを渡すんだよ、あいつ!?

 とか言ってる場合じゃない、意識が、朦朧と……

 ……あ、アカンやつだこれ。

 

 そう思った時には、時すでに遅し。

 私の意識は、そこで途絶えていた。

 

 

 本日の教訓、得体の知れないものは軽い気持ちで使うな。

 そんなことを知るために犠牲になったのは、人間と妖怪が一人ずつ。

 一人の人食い妖怪の心の傷、人間恐いというトラウマを、確固たるものにして。

 一人の人間の少女の存在を、遠い世界へと旅立たせてしまった。

 

 さよなら魔理沙、感動をありがとう。

 お前のことは忘れないぜ。

 

 そして、私は空に輝くお星様の一つになって、幻想郷をいつまでも、いつまでも見守り続けた。

 

 

 

 

        満身創痍!

 

 

     → 最初からやり直す

 

       お星様になる

 

 

 

 

 

 

 


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