霊夢と巫女の日常録   作:まこと13

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久々の霊夢視点です。





第7章:紅魔郷② ―道中―
第50話 : 私は、帰ってきた!!


 

 

 

 何か、最近やる気が出ない。

 やる気が出ないってよりも、全身が怠い。

 

「ああ゛あ゛あ゛暑いぃぃぃ」

 

 まぁ、異常気象のせいで暑いだけの気もするけどね。

 

「魔理沙―、麦茶汲んできてー」

「えー無理ー、橙よろしくー」

「無理だよー、藍様お願いー」

「よしわかった、橙の頼みとあらば」

「……ってわあああああ藍様、行きます行きます、私が行きます!!」

 

 今、博麗神社では各々が布団も敷かずに適当に寝転がっている。

 無茶苦茶暑い上に動くのも億劫なので、誰かに何か水分を持ってきてもらわないと干からびて死ぬという命の危機に晒されている。

 橙がとっさに藍にお茶汲みを頼んだことからも、いかに精神的にギリギリの状態であるかが窺えるだろう。

 滅多にない橙からの頼みごとで張り切った藍が、結局止められて少しだけしょんぼりしているように見えた。

 

「魔理沙―、あんた魔法使いなら氷魔法くらい使えないのー?」

「んな無茶な。 私はひたすら光魔法をぶっぱするだけのパワープレイヤーだぜ」

 

 使えん、全くもって使えん。 何しに来たのよあんたって感じだ。

 

 ここ最近、異常気象の影響で、危険なので人里に外出禁止令が出ている。

 そのくせアリスが勝手に外出中らしいので、魔理沙も暇だからと早々に博麗神社に寝泊まりすることになった。

 私も退屈だったから、それについては丁度よかったっちゃ丁度よかったんだけど。

 

「ってよりもさー、暑さよりこの空気の悪さが個人的にキツイんだよな」

「あー、わかる。 ほんと何なのかしらこれ」

「まぁいいか」

「そうね、外に出なければ別に…」

 

「……って、早く動けえええええええ!!」

 

 と、そこに響き渡ったのは母さんの怒号。

 大袈裟に襖を開けて、プンスカした感じで入ってきた。

 って、やめてやめて! 開けないでよ、変な空気が入ってきちゃうじゃない!

 

「外を見ろ霊夢! 赤いんだぞ? 空気が赤いんだぞ!?」

「わかった、わかったから! だから母さん、早く閉めて!!」

「わかったって? 何がわかったんだよ!?」

「確かに今年の異常気象はちょっと異常よね、だから早く閉めないと体に悪いわよ」

「馬鹿だなー、異常だから異常気象っていうんだぞ霊夢ー」

「うるさいわね」

 

 異常な暑さに加えて、外の空気が最近赤い霧みたいなのに覆われている。

 阿求とか大丈夫なのかしらね。 ただでさえ身体が弱いのに、こんなに空気が悪かったら相当辛いでしょうに。

 まぁ、阿求には立派な家があるから平気でしょうけどね。

 すきま風の絶えない我が家が憎いわー。

 

「とにかく、空気悪いから早くシャットアウトして…」

 

「だ・か・ら、異変だああああああああ!!」

 

 ヤバい、何か今日は母さんが先生レベルで暑苦しい。

 なんでこんなに興奮してんのよ、何かいいことでもあったの?

 とか思ったけど、母さんの言葉を少しだけ冷静に反芻してみる。

 いへん。

 ……異変?

 ああ、異変ね!!

 

「今まで大目に見てきたがな。 霊夢には博麗の巫女としての自覚はないのか!?」

「博麗の巫女としての自覚?」

「幻想郷で起こった異変を解決する。 それが、博麗の巫女の一番の仕事だ!」

 

 そうそう、そういえばそういう設定もあったわね。

 「異変」なんてものは私が博麗神社に来て以来一度もなかったから、架空の設定かと思ってたわ。

 もっと妖怪が暴れ始めるようなのを想像してたから、こんなのただの異常気象だと思ってたわよ普通に。

 

「そして遂に久々の異変、私もドキドキしながら……もとい、心配な気持ちを押し殺して見ていたというのに、霊夢は一体いつになったら動き出すんだ!!」

 

 なるほど、そういうことね。

 今まで自分が博麗の巫女をやってた時は結構楽しみにしてた異変を、博麗の巫女を引退したら解決する立場じゃなくなったから、要するに暇だと。

 母さんにとって、異変とはただのイベント感覚だったのかしら。

 

 ……でも、そうと知ったからには寝てなんていられないわ!

 異変ってことは、この異常気象を起こしてる元凶がいるってことだし、やっつけてくればこの空気の悪さも直るってことよね!!

 それに、私が博麗の巫女になって初めての異変、そして『スペルカードルール』の練習の成果を試す絶好の機会!

 よっしゃ、ちょっと興奮してきたわ。

 

「そうか、異変か……っしゃ! 待ってたぜ、この時を!」

「え?」

 

 そう思ってたら、いきなり魔理沙が箒を持って駆け出した。

 ……もしかして、魔理沙もやる気な訳?

 いや、ちょっと待ちなさいよ、アレよ、せっかくの私の晴れ舞台なのよ? ちょっとくらい空気読みなさいよ!

 

「んじゃ、お先行ってくるぜ―」

「ちょ待っ、待ちなさいよ魔理沙、私が先に……ゲッホッ!?」

「げっほげっほ、ぅえっ何だこの空気、マジで前よりヤバくなってるぞこれ!?」

 

 でも、外に出ると私のやる気は3秒で霧消した。

 ああ魔理沙、私の代わりに解決しといてもいいわよ、割とマジで。

 今の私:怠さ>>>>>>やる気。

 もうダメだ。

 やる気でない。

 外出たくない。

 そうだ、二度寝しよう!!

 

「……少し落ち着きなさい、霊夢、魔理沙」

「ゆかりゲッホ、ちょっと、今まで何してたのゲッホ」

 

 ダメだ、急に走りながら吸い込んだから、咳き込み過ぎてまともに喋れない。

 いつも通り神出鬼没な紫にツッコミを入れることすらできない。

 

「だから、落ち着いて喋りなさい。 私は今まで異変の調査、というか元凶の監視よ」

「……元凶の監視? 何だ、もう黒幕知ってんのかよ紫」

「まぁ、ね」

 

 えー、何よそれ。

 元凶知ってるなら紫がさっさと終わらせて来ればいいじゃん、ってのは野暮なのかしら。

 一応、妖怪の賢者の立ち位置としては、異変に対して中立を保つってのがあるらしいしね。

 

「ふーん。 それで、元凶は一体誰なのよ」

「……いきなり、それを聞く?」

「あ、もしかしてここからは全部私の役目?」

「……まぁ、本来であればそうだし、私もそれを教えるべきじゃないんだけどね。 でも、今回だけはちょっと事情が特殊だから、一応は伝えておくわ」

 

 特殊?

 私の初めての異変だからってこと? まぁ、それなら少し難易度を下げてくれた方が……

 

「今回の黒幕は、吸血鬼よ」

「……うわぉ」

 

 はい、詰んだ。

 いやちょっと待ちなさいよ、アレでしょ、吸血鬼ってラスボスの一角みたいな相手じゃない。

 どう考えても初心者向けじゃないっていうか、藍や紫と同格クラスの相手でしょ、何その無理ゲー。

 

「いやいやいやいや、ちょっと待ちなさいよ紫、その、いきなり吸血鬼が相手っていうのは、ちょっと…」

「大丈夫よ。 霊夢や魔理沙だけで来るのなら、スペルカードルールには則るって約束はしてきたから」

 

 ……あー、そういうこと。 それで最近、紫がいなかった訳ね。

 黒幕の動向をいち早く察知して、スペルカードルールを導入するための布石を打っといたということだろうか。

 

「ちょっと待て、紫。 霊夢や魔理沙だけってことは…」

「そうよ。 私たちは待機。 敷地内に私たちが一人でも入れば容赦しないって、そういう条件になったわ」

「……そうか」

 

 うわー、要するに母さんや紫の助力も期待はできないと。

 まぁ、でもちゃんとスペルカードルールの範囲で勝負ができるのなら、負けても死ぬことはないだろうし大丈夫かな。

 そういう意味じゃ、紫にも少しくらい感謝しといた方がいいのかしら。

 

「でも、よく知りもしない吸血鬼の住処に私たちだけでいきなり行くのは、流石にちょっと厳しいよな…」

「ふっふっふ。 そう言うと思って……この時を待ってたよ、霊夢、魔理沙!」

「んあ?」

「じゃじゃーん! 異変ガイドブックー!!」

 

 と、何か橙が変なテンションで2冊の冊子を持ってきた。

 「まるわかり! 異変ガイドブック」とか書いてある、手作りっぽい本だ。

 あ、後ろに「監修・監督:稗田阿求 上白沢慧音 橙」って書いてある。

 何よ、阿求の用事ってこれのことだったのね。 しかも先生まで関わってるっぽいし。

 

「……って、なんでこんなに準備周到なのよ」

「え!? そ、そりゃあ、怪しい相手がいたらまずは情報収集するのが基本だからね。 ね、藍様!」

「ああ、そうだな」

 

 何か隠してるかのように焦りながらもドヤ顔な橙だったが、藍の表情はいまひとつ暗い。

 紫たちは橙がこんなのを作ってることは知ってたんだろうか、何かちょっと橙と他の3人に温度差を感じるのよね。

 

 まぁ、でもせっかくの厚意なのだから、ありがたく受け取っておくことにしよう。

 相手が明らかな格上なのだから、情報はできるだけ頭に入れといて損はないだろうし。

 ……よし、じゃあまずは中身を確認してみることにしましょうか!

 

 

 

 

 


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