今回は慧音視点です。
さて、正直なところ、言おう。
あああああああっ、何だこの状況わけがわからああああああんっ!
ちゃんと説明しろアリス何してんだ妹紅何のつもりだ紫いいいいっ!!
と、叫びたいのが今の私の気持ちだ。
普段ならこのまま誰かに頭突きをかましてやりたいのがこの私、上白沢慧音の本音だ!
それが、本来の私のはず、だった。
……だが、流石の私も今回は空気を読まざるを得なかった。
紫たちがここの吸血鬼を追い込んでいる状況に割り込んだ、紅魔館の魔法使いであるパチュリーと、それに協力している私とアリス。
いや、正確に言えば私とパチュリーはただアリスに言われるままここに来ただけだった。
「……アリス、どういうつもりかしら?」
「どういうも何もないわよ。 まったく、妖怪の賢者が聞いて呆れるわね。 何の根拠もなしに、3人がかりでよってたかって1人の子供を虐めて」
「子供を虐めるって、相手は吸血鬼よ?」
「それでも、中立を貫く立場のはずのあんたが、今の幻想郷でこんな一方的に特定勢力を潰すことが許されるわけ?」
何だ、この重々しいシリアスな空気。
というよりも、未だに信じられないんだが、ここにいるのは本当にあのアリスなのか?
適当なこと言ってばかりの、いや確かに紫とかも普段はそうだが。
それでも、この状況の中に、たった一人であんな平然と入っていけるなんて…
「まぁ、これ以上あんたが無駄な争いを続けるつもりなら、私は今回こっちにつかせてもらうけど」
「……貴方はわかってないのよ、彼女を放っておくことの危険性を。 貴方にとっても他人事じゃない、魔理沙にもどれだけ危険が及ぶか…」
「悪いけど、私はあんたたちほど過保護じゃないわ。 それで死ぬようなら、魔理沙も所詮その程度の人間だったってだけのことよ」
……ゾッとした。
ほんの10分くらい前までなら、魔理沙を蔑ろにしたようなことを言ったアリスを、私は叱っていただろうと思う。
だけど、私は何も言うことができないまま、自分の冷汗すら止められなかった。
なんというか、こんなに冷たい眼差しってものが存在するのかってくらいに、別人を見ているかのようだったから。
「……随分な言い草だな、大した力もない魔法使い風情が。 貴様一人が抜けたくらいで…」
「よしなさい藍」
「しかし……」
「あんまり怒らせないほうがいいかもしれないわ。 アリスのことは私もよく知らないけど……少なくとも、この状況で幽香まで敵に回したくはないのよ。 アリスは幽香の友人だから」
「はあ!? 誰の友人って!?」
突然、今日一番の怒りを爆発させたアリス。
……幽香って、あの風見優香のことだよな?
あんな奴の友人だとか、本当に一体何者なんだこいつは。
「お嬢様っ!!」
「無事ですか、お嬢様!?」
「パチュリー様、これは一体…?」
そこに現れたのは、ここの住人の3人。
確か藍たちと戦っていた門番と、それを呼びに行っていた小悪魔と、階段の前で倒れていた……恐らくは妹紅に眠らされていただろうメイド。
その3人も、今の状況を前に混乱していた。
「はい、これで形勢逆転ね。 妹紅はあんまり乗り気じゃないみたいだし、いくらあんたでも藍と2人だけでこれだけの人数を相手どれる?」
「それは……」
「はい、という訳で今日は解散! ほら、貴方も仮にも吸血鬼なんだから、いつまでもそんな情けない顔しないの」
「お前は…」
「あ、別に貴方の味方じゃないわよ。 どっちかというと、貴方のお友達に協力してあげただけ。 感謝するならパチュリーにしてね」
どの口が言うんだ、こいつ。
パチュリーは別に、何もしていない。
ついでに言うと、私も本当に全く何もしていない。
……って、何故だあああああああっ!?
いやお前アレだろ、確か妹紅を引き込めるのは私しかいないからとか言ってただろ?
なのに、どう考えてもこの流れじゃ私必要なかっただろ、心の準備ができるまで私がどれだけ思い悩んだと思ってるんだ!?
うわああああああ畜生こいつ、私のこと馬鹿にしやがって!
あああああツッコミたい、こいつに何度も頭突きをくらわせてやりたいいいいいいっ!!
「うわああああああああああああ!!」
「お、おい!? 何やってんだ慧音!!」
「……へ?」
……あ。
久々に、やってしまった。
妹紅の声で我に返ると、いつの間にか私は両手でアリスの頭を掴んでて。
私の連続頭突きをくらって血まみれになったアリスが、白目をむいてぐったりとしてて。
「……あ、あはは」
……うん、これは言い訳できない。
いつかきっと、いっぱい謝ろう。
許してくれなかったら、その時はアリスの我が儘を何でも聞こう。
だから、今は……
「き、消えてなくなれええええっ!!」
私は『歴史を食べる能力』を全力で使って、この十秒くらいの歴史を「なかったこと」にした。