霊夢と巫女の日常録   作:まこと13

42 / 91


 今回は阿求視点です。




第42話 : もう何も恐くない

 

 

 

 いろいろ紆余曲折はありましたけど、遂に辿り着いた紅魔館。

 ラスボスの館への侵入は中々に苦労すると思っていましたが……普通にすんなり入れました。

 といいますのも、門番のいないところをこっそり飛び越えてけば何の問題もなく入れたんですよね。

 あの門番、もう解雇していいんじゃないですかね。

 

「阿求、ここまでの道のりはバッチリか?」

「当然ですよ。 私を誰だと思ってるんですか!」

 

 さて、ここまでの道中、どう見てもただのお荷物でしかなかった私。

 しかーし、紅魔館に辿り着きさえすれば、今回のルールではむしろ最強のカードなのですよ!

 なぜなら私には、私の失言と妹紅さんの暴走のせいで失ったマイナス110ポイントなんて、一気に帳消しにできる力があるんですからっ!!

 

 今現在、私たちは既に紅魔館の中身を半分くらい解明済みです。

 妹紅さんが驚異のスピードで数多くある部屋のドアを開けて、閉めて、開けて、閉めて、鍵がかかっていてもドアの隙間から札を通して内側から開けて、閉めての繰り返し。

 その部屋の中の全てを、『一度見たものを忘れない能力』を持つ私が一瞬で覚えることで、歩いてきた道の地形から部屋番号と何がある部屋かまで鮮明に思い出せるのです!

 しかも、ほぼ無音で高速移動する妹紅さんは、その辺のメイド妖精に見つかる前にこっちから気配を察知して先に気絶させていくという荒業で、ここまで派手に動いておきながら未だに誰にも気付かれていないのです!

 最高の身体能力と最優の知能を兼ね備えた、正に最強のチーム。 これはもう、優勝は決まったんじゃないですかね。

 

「……むっ?」

「どうしましたか、妹紅さん」

「この部屋、鍵が開かないんだが」

 

 なんですとっ!?

 それは……怪しいですねぇ。

 他の部屋の鍵は簡単に開いたのに、たった一つ存在する開かずの間。

 何か私ワクワクしてきましたよ、妹紅さん!

 私も妹紅さんに背負われたまま全部任せっぱなしじゃアレなので、ちょっと降りて調べてみますね。

 

「うーん、どうしますか? ドア蹴破っちゃいます?」

「いや、流石にそんな音を立てたらマズいだろうし、何か方法は……っ!?」

 

 って、え?

 ええええええっ!? いつの間にか謎のメイドさんに背後をとられてて、妹紅さんの首筋にナイフがっ!?

 

「こんばんは」

「……ああ、こんばんは」

「あまり、いい趣味とは言えませんね。 こんな夜更けに…」

「それは悪かった、なっ!! っと……何!?」

「これはこれは。 話の途中で仕掛けてくるとは、随分と野蛮なことで」

 

 あわわ、あわわわわわ、何ですかこの人。

 あの妹紅さんに全く気付かれない内に首筋にナイフを突きつけられる人がいるなんて、完全に予想外ですよ!?

 しかも、妹紅さんの反撃を軽く避けて、気配すら感じさせないままもう一度背後に回り込んでるなんて、そんなのレベルが違いすぎて…

 

「へえ。 なるほどな、時間操作か?」

「っ!? ……何故、それを」

「さあね、なぜだと思う?」

「それは……っ!!」

 

 でも、私が混乱してるうちに、さっきまでの余裕の口調が少し崩れて隙を見せたメイドさんの後頭部を、何かが撃ち抜いてて。

 気付いた時には、妹紅さんはその人を地面に叩き付けて関節を極めてました。

 

「ぐっ……!!」

「慢心し過ぎなんだよ、強力過ぎる能力に」

「このくらい…」

「おっと、無駄だぞ? どう足掻いても自分の力じゃ動けない組み方をしてるからな。 たとえ時を止めても抜け出せない」

 

 ……正直、早すぎて何が起こってるかよくわかりませんでしたよ。

 ただ一つわかったのは、強力な敵の襲来が、あまりにもあっけなく終わってしまったことくらいですかね。

 

「……なるほど、降参です。 流石は博麗の巫女といったところでしょうか」

「あー。 もしかして、知ってた?」

「ええ、噂くらいは」

 

 あ、ヤバ。 素性バレてるじゃないですか。

 紅魔館の人の機嫌を損ねちゃダメなのに、これじゃ優勝どころか失格になっちゃいますよ!

 

「ま、いいか。 それよりちょっとこの部屋のことが気になってね、調べてもいいか?」

「嫌だと言ったら?」

「スペルカードルールで…」

「貴方のような無法者相手に、私がそんなルールに則る義務があると?」

 

 あー、やっぱりそうですよね。

 いきなり真夜中に不法侵入した挙句に拘束しといて、今さらルールとか言われても「何言ってんだこいつ」になりますよね。

 

「そうか。 だったら、悪いけどちょっと眠っててもらうことになるぞ」

「そうですか。 それは―――随分と舐められたものですね」

「え? あ、ちょっ、待ってくださ…」

 

 何か突然私の上から大量に降り注いでくるナイフの雨。

 嘘っ、何で、そんなの出す余裕なんてなかったはずなのに!?

 た、助けてください妹紅さ…

 

「さて、あっちの子を守らないと……がっ!?」

「悪いな。 ちょっといろいろあってね、その能力には慣れてるんだよ」

「ぁ……」

「じゃ、おやすみ」

 

 でも、いつの間にか私を囲うように結界が張られていて、降ってきたナイフは簡単に弾かれて終わってました。

 流石妹紅さん、私の不安なんて完全に杞憂でしたね。

 メイドさんは何か頭にお札を貼られて大人しくなってるし。

 

「それは……?」

「ああ、人間相手用の麻酔符だよ。 ちょっと眠っててもらおうかと思って」

 

 麻酔? 何ですかそれ。

 っていうか本当に、便利な感じの術を何でも使えるんですね、妹紅さん。

 ぶっちゃけ言うと、むしろ霊夢に博麗の巫女を代わらない方が、大体の異変とかは無事に解決できたんじゃないかと思っちゃいますよね。

 

「で、阿求。 どうする?」

「え? 何がですか?」

「いや、流石にこんな秘密にしてるような部屋に勝手に入るのはすごく悪いことをしてる気がするというか、あんまり深入りしちゃいけない気がするというか、何というか嫌な予感が……」

 

 何やらモゴモゴと歯切れの悪い口調の妹紅さん。

 まぁ、要するにここまで来てビビっちゃったってことですかね、でももう遅いですよ妹紅さん。

 いくら吸血鬼の館とはいえ、不法侵入した挙句に何人も気絶させてしかもそれが既に気づかれちゃってるんですから、今さら戻っても手遅れなんですよ。

 だったらもう、ここまで来たのなら、開き直って突き進むしかないじゃないですか!!

 よし。 ここは同調せず、意外と臆病な妹紅さんを私がちゃんと引っ張ってあげましょう!

 

「何言ってるんですか、だからこそですよ!!」

「え?」

「もしこの部屋に何か大変なものがあって、何も知らない霊夢がその直感力を発揮して開けちゃったら……どうなると思いますか?」

「あ、ああ。 そりゃあ、大変だな」

 

 ……という建前のもと、正直この知的好奇心を抑えきれないんですよね、私。

 ここまでして守られているってことは、まず間違いなく秘密の部屋。

 ふふふ、吸血鬼の知られたくないヒミツとか、あんまり人に言えない××とか、一体何があるんですかねぇ。

 何が出てくるのかちょっと不安ではありますけど、でも妹紅さんがいれば大抵のことは、いえ、もう誰が来ても全然大丈夫な気がするので!

 せっかく見つけた冒険スポット、みすみす逃すわけにはいきません!!

 

「んじゃ、引き続き……って、あれ? 今度は鍵、開いたぞ」

「え?」

 

 なんで突然?

 もしかして、このメイドさんを倒すと開けられる扉とかだったんですかね。

 時間操作とか言ってたし、ドアの時間を止めるような感じで鍵を開けられなくしてたとか。

 でも、そこまでして隠す部屋ってことは……これはますますワクワクが詰まってるという確信が持てますよ!

 暗号にトリック、厳重な金庫と謎の鍵穴に、そこから見つかる隠し階段!

 ふふっ、この名探偵阿求がこの部屋の謎を解いて……

 

「お。 なんか下りる階段があるぞ」

「……って、なんで隠してないんですかあああああああっ!?」

「ど、どうした阿求?」

 

 あああああああ、わかってない、何もわかってないですよ紅魔館の人たち!?

 なんで隠し階段が最初から見えてるんですか、もう意味不ですアホですガッカリですよっ!!

 せっかく地下へ向かう謎の階段という圧倒的アドバンテージがあるのに、そこへの道が無防備に開いてるとか、一体何を考えてるんですか!

 何かもう、楽しみの9割を理不尽に奪われた気分になってきましたよ。

 

「はぁ、もういいです。 早く行きましょう」

「……なんでいきなり不機嫌なんだ、阿求?」

「そんなの、この館の設計者に文句言ってください!」

 

 でもまぁ、確かに一気に冷めた部分はあるんですけど、隠し階段の先に一体何があるのかという楽しみ自体はまだ残ってるので、それで我慢しときますか。

 さ、では気を取り直して、早速謎の地下室に出発進行です!

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。