霊夢と巫女の日常録   作:まこと13

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 今回は咲夜視点です。





第41話 : 紅魔館は今日も異常なし

 

 

 

 ――聞こえる。

 

 ――誰かが私を呼ぶ声が、聞こえる!

 

 そんな気がしたので、というか単純に戦闘音が聞こえたので、私は紅魔館の門まで駆け付けた。

 徒歩で。

 そして騒ぎに乗じて私参上、と思いきや時すでに遅し。

 そこには、血に染まった美鈴の変わり果てた姿が……!!

 まぁ、ナイフを突き刺すという過激なツッコミで、倒れてる美鈴を無理矢理起こしたの私なんだけど。

 

「で? 貴方がいながら、結局侵入者を取り逃がしたと」

「す、すみません咲夜さん」

 

 体裁上、とりあえず美鈴にはお叱りの形をとってはみたものの、今回ばかりはしょうがないと思う。

 その辺の妖怪ならともかく、相手が九尾の妖狐、最高位に君臨する妖獣だったのなら、美鈴が無事だっただけ御の字だからね。

 え? それなら何でナイフ突き刺したかって? ただのスキンシップよ、スキンシップ。

 美鈴って何だかんだで話しやすいし弄りやすいのよね、私より何十倍も長く紅魔館にいる大先輩のはずなのに。

 

「まぁ、過ぎたことを言ってもしょうがないから後は私が何とかしとくわ。 だから美鈴、これ以上侵入者を増やさないよう門の見張りはよろしくね」

「あ、はい、咲夜さん!」

 

 そう言って、私は颯爽と身を翻して紅魔館に戻っていく。

 まぁ、手負いとはいえ、九尾みたいな例外さえいなければ門番は美鈴に任せといて大丈夫よね。

 そして、最強の妖獣が紅魔館に侵入したとわかってなお、私は決して落ち着いた佇まいを忘れない。

 この最高にクールな感じが、たった3年で紅魔館のメイド長に抜擢された秘訣なのだから!

 

「……とは言ったものの、どうしたものかしらね」

 

 私はゆっくりと歩きながら思考を巡らせる。

 さて、一度状況を整理しましょうか。

 今回侵入を許したのは、九尾の妖狐とその式神の化け猫。

 九尾の襲来なんてのは多分、私がこの紅魔館に来て以来最大の事件だろう。

 一応他にも塀を飛び越えて侵入して、私の『空間を操る能力』でつくった罠にかかった輩もいるみたいだけど、そっちはパチュリー様が何とかするとのことだったので心配はいらない。

 でも、ということは今、パチュリー様はそっちに手を取られてるという訳だ。

 そして今、お嬢様は秘密の用事で席を外されている。

 秘密って何をしてるかって? ふふっ、花も恥じらう乙女にそんなこと聞くのは野暮じゃありませんこと?

 まぁ、実際のところお嬢様が何をしてるのかは私も知らないんだけど、とりあえず秘密と言われたらその秘密を守るのも私の役目の一つなので、今はお嬢様に頼ることもできない。

 となると、この状況では……

 

「やっぱり、私が片付けるしかないのよねぇ…」

 

「に゛ぇっ!?」

「―――っ!!」

 

 はい、まず一匹。

 お嬢様の部屋に続く廊下で標的を発見したので、とりあえず投げナイフで化け猫の方は壁に磔にしといた。 

 そっちは最初から頭数に入れてなかったから、別にここまでは問題ないんだけど。

 でも、やっぱり流石に九尾の方はこんなの簡単に避けてきますよねー、はいはいわかってましたよ、ええ。

 とりあえず、このまま襲い掛かられたらヤバいので、

 

「お前はっ…!?」

「館内ではお静かに―――『ザ・ワールド』!」

 

 

 ――時よ止まれ――

 

 

 ……ふっ、決まった。

 あ、この技カッコいいでしょ。 外の世界で昔見た漫画の、悪のカリスマの必殺技をパクってみました。

 『空間を操る能力』だけではなく、『時を操る能力』というチート能力も使える私だけど、せっかくなのでそれを可能な限りカッコよく表現したかったのよね。

 私はまだ、お嬢様のように振る舞いだけで表現できるほどのカリスマなど持ち合わせていないので、せめて技名で紅魔館メイド長のカリスマを、という訳だ。

 

 で、その結果が、これだ。

 九尾は私に何か言いかけたまま、完全に固まって動かない。

 いかに最強の妖獣といえども、止まった時間の中では置物と大して変わらない。

 だけど、この隙にナイフを串刺しにしたり紅魔館の外に放り出せば終わり……と、話はそう簡単ではない。

 実は、私が触れたものの時間停止は解けてしまうのだ。

 まぁ、静止した空気の壁とかに阻まれずに私が前に進めるのはこのおかげなので、確かに必要なことではあるんだけどさ。

 でも、時間停止を解いてる対象が内包してるエネルギーの分だけ、私に強い負担がかかっちゃうのが意外とネックだ。

 昔、私がお嬢様と手を繋ぎながら停止した時間の中で吸血鬼無双! というあまりにチート過ぎる使い方をしようかと思ったら、私の体力的なものが一瞬で根こそぎ奪われて倒れたのよね。

 今回もうっかり触って九尾クラスの時間停止を解いたりしちゃったら、その時の二の舞になりかねない。

 っていうか、触れた瞬間に時間停止の解けた九尾にそのまま掴まれでもしたらもう時間は止められないし、反撃されて終わり、とか考えると迂闊には動けない。

 私はこんな能力を持ってても一応は人間なので、ちょっと間違えて致命傷を受けたらそれで死ぬのだ。

 

 そして、時間停止自体がけっこう疲れるから、長いこと止め続けられる訳じゃないので……

 

「っ!? くそっ!!」

 

 はい解けた、今能力解けました。

 とりあえず時間稼ぎのために投げられるだけ大量のナイフを九尾に向かって投げといたので、すぐに私に攻撃が来ることはないと思う。

 とはいえ、めっちゃたくさんナイフ投げたはずなのに全部見切って弾き飛ばされてるところとか見ると、やっぱり明らかに格上っぽいことがわかるので、あまり長期戦にはしたくない。

 

 という訳で、ここで私に残された選択肢は3つ。

 選択肢1、ほっといて逃げる。

 別にこの先にお嬢様がいる訳じゃないので、勝手に進ませて一旦ここは退く……というのは、個人的にイヤ。

 せっかくここまでお嬢様たちの信頼を勝ち取るに至ったのに、有事の際に限ってこうも簡単に逃げる臆病者だと思われたら紅魔館メイド長の名が廃るしね。

 選択肢2、お嬢様が来るまで時間を稼ぐ。

 これが一番現実的よねー、流石の九尾が相手でもお嬢様がいれば普通に何とかなるだろうし。

 時間稼ぎくらいなら、私の能力があればそう苦労もせずにできるだろうし。

 

 よし、じゃあここは冷静に……

 

「傷符『インスクライブレッドソウル』!」

 

 選択肢3の、「侵入者? ああ、この生ゴミのこと?」とか言って、返り討ちにした2人を門の外に投げ捨てる、君に決めたっ!!

 なぜこの選択肢を選んだかって? だって、こんな非常事態を涼しい顔して異常なしの一言で片づけられたら、超クールでカッコいいじゃない!

 きっと、私が寿命とかで死んだ後も紅魔館メイド長の職は永久欠番とかになるに違いないわ。

 勝算がある訳じゃないけど、私の能力をフル活用すればぶっちゃけ何とかなるんじゃないかと。

 とりあえず今は、ただひたすらナイフを投げまくってるだけだけど、流石の九尾もそろそろ疲れてくるはずよね。

 九尾クラスなら串刺しになっても死ぬことはないでしょうし、とりあえずこれで倒れてくれればいいんだけど……

 

「これで、少しは……っ!?」

「舐めるな」

 

 ……と、うぇっ、は、あはは。 いやぁ、心臓止まるかと思ったわ。

 間一髪で時間を止めて事なきを得たけど、一瞬で目の前にいるんだものこの狐。

 ちょっと身体能力が違いすぎて訳わかんないわ、本当にお嬢様とタメ張るレベルじゃないかしら。

 こんなのを相手にしてたら命がいくつあっても足りないわね。

 

 という訳で前言撤回。

 

「このっ―――な!? 何だ、ここは……」

 

 選択肢4の、私の『空間を操る能力』で創った無限回廊にこの狐を閉じ込めといて、お嬢様が戻るまで放置プレイするのが一番冷静よね。

 その分いつも紅魔館の外に張ってる罠の方が解けちゃうんだけど、この後に九尾以上の侵入者が来るなんてことは考え辛いから、別によしとしましょうか。

 それじゃ、とりあえずこの狐は放っておいて、私は別の所の見回りに行ってきまーす。

 

 

 

 

 


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