霊夢と巫女の日常録   作:まこと13

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 思いのほか書きやすかったので、アリス視点再び。





第40話 : 夢幻泡沫の願い

 

 

 

 ――魔理沙へ。

 

 

 ごめんなさい。 私はもう、駄目みたい。

 疲れてしまったんだもの、何もかもに。

 貴方と過ごした刹那の日々は、私の心に秘めた砂時計にとって、ほんの泡沫の夢に過ぎなかったけれど。

 それでも、どんな永久の記憶よりも大切に、最果ての時まで噛みしめておくから。

 

 ……でも、最後に一つだけ、我が儘を言ってもいいかな。

 私なんかに、そんな資格なんてないのかもしれないけど。

 それでも、もし。

 もしも許されるのなら、こんな私が最後に願ってもいいのなら。

 

 せめて、私を想って泣いてくれる貴方の優しい声を、幻でもいいから聞きたかったわ――――

 

 

 

 さよなら。

 

 

 

「……で、そろそろ反省したか?」

「ええ、そりゃあもう」

 

 以上、題目『儚き少女アリス、最期の落葉(仮)』、完。

 

 ……ふぅ、悲劇のヒロイン的な気分に浸る妄想で、ちょっとは鬱屈な気分も晴れたわ。

 いや、こんな風にちょいちょい適当に現実逃避してないとやってられないわよ、マジで。

 だって、慧音に頭突きされてできた漫画みたいなたんこぶが痛くてヒリヒリする上に、長時間正座させられて足が痺れてきたんだもの、もうどこにも帰れる気がしないし死ぬしかないじゃない!

 正座で説教とか、時代錯誤も甚だしいのよ慧音は。

 まったく、せっかく紅魔館に着いたというのに、どうしてこんなことに。

 

「っ、何だその適当な返事は!! いいか!? 飽きた飽きたと、そんな気分屋な態度が魔理沙にうつったらどうするつもりだ!? 仮にもお前は魔理沙の師匠なのだろう!! なら、大人として然るべき対応を心がけるべきじゃないのか!? そういう些細なことの積み重ねが…」

 

 まぁ、慧音が教育熱心なのはわかる。

 それに、私から魔理沙への悪影響を懸念するのも、なんとなくわかる。

 それでも、私も慧音に忠告してあげたい。

 慧音の説教は、大人の対応として見本にするべきとはとても思えないほどに、マジでうるさいのよ。 

 いちいち「!!」とか「!?」みたいなテンションにならないと話せないのかしら。

 

「第一な!! お前は最初から…」

 

 ……あー、でも本当に何かもう心の中でツッコむのも嫌になってきたわ。

 多分ここからは慧音の無駄な叫びがしばらく続くと思うけど、それを真面目に聞くのも面倒だし疲れるので。

 

 せっかくだしこの隙に、慧音の声を都合よくあらすじ風に脳内補完して回想しておくことにするわ。

 

 

 という訳で、ここまでのあらすじ――――

 

 

 上白沢慧音の頭突きに倒れてしまった美少女アリス・マーガトロイドは、実は気絶したと見せかけて寝たふりをしていた。

 それでも、普通なら加害者は責任をもってそれを介抱して安全な場所に送り届けるのが正しい社会人としてのあり方であるはずが、この悪逆非道教師はあろうことか私を背負ってそのまま紅魔館へと向かった。

 まぁ、慧音に背負われてるのはいい感じに柔らかくて温かくて、起きるのはもったいない気がしたので、寝たふりは続けておくことにしたんだけど。

 一応は、紅魔館に連れていかれること自体は当初の目的には沿っているし、何となく心地よかったから、その件は特別に許すことにした。

 だけど、その時に一つ、どうしても看過できない問題が発生した。

 

「いくぞー、あたいに続けー!」

「うんっ、チルノちゃん!」

「あまりはしゃぎ過ぎるなよー」

 

 な ぜ 増 え た し 。

 

 なぜか復活したチルノと、大妖精とか言われてる妖精がついてきたせいで、私はますます起きられなくなった。

 何故って、面倒だから。

 慧音の相手だけでも面倒そうなのに、それに加えて妖精が、特にチルノが一緒に行動してるのとかほんと意味わかんない。

 でも、そんなこんなで辿り着いた紅魔館。

 チラッと見た感じ、どうやら先に着いた藍たちがここの門番と勝負してるみたいだった。

 で、それを遠くから見ながら律儀に順番を待っていた慧音に、チルノからの無情な一言が襲い掛かる!

 

「こっちから入れるよ!」

 

 チルノに促されるまま門番を無視して、私たちは横に回り込んで門じゃないところから塀を飛び越えて侵入した。

 わざわざ門番のいる正面通る必要なんてないし、幻想郷の奴らなんてほとんどが飛べるんだから、ぶっちゃけあの門番自体必要ないんじゃないかと。

 その発想は……まぁ、確かにあったけど、それは言わないお約束じゃないかという。

 まさかの策士チルノの活躍で、いとも簡単に紅魔館に侵入したはずの私たちは――――案の定、そういうズルい侵入者向けに仕掛けられていたトラップに引っかかって閉じ込められた訳だ。

 いやー、そりゃそうよね、冷静に考えればわかるでしょ、そんなの。

 で、紅魔館の中でまでチルノたちと一緒に行動するのは流石に勘弁してほしかったので、飛び起きて何とかあの二人だけ罠の外側に放り投げたんだけど、私と慧音はそのまま変な空間に閉じ込められて出られなくなったと。

 で、そこで状況を確認しようとしてる内に、イライラした慧音になぜか説教されるという理不尽に見舞われてるのよね、私。

 

 以上、ここまでのあらすじ。

 

 

「――という訳だ。 わかったか、アリス!!」

「……そうね。 ごめんなさい慧音、私目が覚めたわ。 これからは魔理沙を真っ当な魔法使いに導けるよう、頑張るわ!」

「お、おお、わかってくれたならいいんだ。 なら、改めてこれからもよろしくな、アリス!」

 

 そう言って、私の両手をがっちりと掴んでくる慧音。

 慧音が私に何を言ってたのかは全く聞いてなかったけど蒸し返すのも面倒なので、とりあえず何か反省してるっぽいそぶりでも見せとけば大丈夫よね。

 あー、早くここから脱出したいわ。

 

「で、話を戻すけど、今の状況はあまり芳しくない訳よね」

「……面目ない。 私がついていながら…」

 

 うーん。 とはいえ、これは慧音にどうにかできるレベルのものじゃないし、しょうがないわよね。

 まず、状況を整理しましょう。

 ここはどこまで進んでも、ひたすらまっすぐ同じ景色が続く廊下に、窓はなし、扉は開かない。

 壁を壊そうにもビクともしないし、進めど進めど先は全く見えない。

 ……多分これ、時空間魔法と結界の二重構造よね。

 正規のルート以外から入った場合に空間を捻じ曲げて、結界の中に侵入者を誘導して捕えるトラップ。

 つまりは、創造した無限空間に張り巡らせた結界の中に敵を閉じ込めるなんて高等魔法を常時使えるような超絶魔法使いがいると。

 それが普通にできるとしたら、むしろ吸血鬼よりそっちの方が厄介じゃない。

 なんかもう、本当にさっさと白旗振って帰りたくなってきたわ。

 

「おーい! 降参よ降参、大人しく帰るからここから出してー」

「なっ……おいアリス、諦めるのがあまりに早…」

「いいえ、妥当よ。 この魔力の流れ……少なくとも私たちじゃとても太刀打ちできないような、かなり使い手の魔法使いがいるわ」

「そ、そうなのか?」

 

 それに、私のリタイア宣言に紫が反応できてないことからも、この時空間魔法が紫の能力以上のものの可能性すらもあるしね。

 別に太刀打ちできないって訳ではないと思うけど、そんなレベルの使い手を出し抜くのは、ぶっちゃけ面倒すぎてやってられない。

 まぁ、紫の場合ただ単純にこの状況を面白がってるだけか、もしくはこのペアの動向についてはあんまり興味がないって線もあるけど。

 

「……ファファファ。 やっと自らの愚かさを思い知ったか、この愚か者め」

「っ!! 誰だ!?」

 

 と、そこに突然聞こえてきた謎のダミ声。

 

「我はこの吸血鬼の館を根城にする悪魔。 契約に従い、貴様らのような愚かな侵入者の生き血を啜る者なり」

 

 この魔法の使い手かしら。 すごい魔法使いなんだろうけど、小物臭がヤバいせいで期待外れ感が現時点でK点超えなんだけど。

 しかも愚かな以外の貶し言葉は見つからないのかしらね、ゲシュタルト崩壊起こしそうよ。

 まぁでも、これはむしろ脱出のチャンスなのかしらね。

 こういう自尊心の高そうな輩は刺激してはいけない、とりあえず下手に出て持ち上げとけば勝手に自爆してくれるだろうことは自明の理だ。

 

「ご、ごめんなさい悪魔さん。 どうしたらここから出してもらえますか」

「無駄だ。 貴様らはそこで一生、自らの愚かな過ちを悔いながら干からびていくのだ! ファッファッファ」

 

 いやいや、生き血を啜る話はどこにいったのよ、さっきから言ってることブレブレじゃないこいつ。

 私の中のツッコミ魂が目覚める前に、早くどうにかしてこいつを引きずり出したいんだけど。

 

「ふざけるな!! 隠れてないで出てこい、私がお前を…っ!?」

「黙って」

 

 余計な事するなと言わんばかりに、私は小声で囁いて慧音の足を踏む。

 こういう奴はたいてい実は小心者で、こっちが戦意を失うのを待ってたりするのよ。

 多分、私たちが空腹とかで動けなくなって、反撃できないようになって初めて前に現れるタイプ。

 少なくとも、そうなる前に引きずり出さなきゃいけないんだから、こっちが強気に出ちゃいけないのよ。

 

「そんなっ!? どうか……どうかご慈悲を」

「……ふふっ、ならば命令だ。 我が軍門に下れ」

「えっ!? わ、わかりました、貴方の仰せのままに」

「なっ、アリス!?」

「……ほう、やけに物分かりがいいな」

「貴方との力量差くらいはわかってます、逆らっても無駄だって。 私も、まだ命は惜しいので」

「ふふっ、よかろう。 我も利口な奴は嫌いではない。 どれ、少し待っておれ」

 

 すると、壁に突然大きな魔方陣が浮かび上がるとともに、その中心が暗く淀んでいく。

 大魔王の登場とでも言わんばかりの、派手な演出。

 慧音がゴクリと唾を飲んでいた。

 そして、その中心から現れたのは、一つの影。

 真っ赤な服に漆黒の翼を携えた、その不敵な笑みに向かって―――

 

「さあ、待たせ…」

「そおいっ!!」

「きゃんっ!?」

 

 私は持っていた大きな魔導書を思いっきりブン投げてやった。

 まだ半分しか出てきてないまま額に本の角が直撃した悪魔(笑)は、そのまま倒れて痙攣していた。

 グッジョブ霊夢。 あんたの技、とても役に立ったわ!

 

「んで、あんたが黒幕?」

 

 とは言ってみたものの、どう見ても使いっぱしりの雑魚キャラにしか見えない。

 ってか意外とかわいい声してたわよね、わざわざあんな耳障りな声に変声する必要ないじゃない。

 まぁ、確かにこの声じゃ威厳も何もあったもんじゃないとは思うけど。

 

「……フフ、フフフフ、なるほど何という策士。 だが、それで黒幕を倒したつもりか、笑わせてくれる」

「何?」

 

 そして、この子は足をプルプル震えさせながら、涙目で立ち上がった。

 うん、改めて観察すると、どう見ても雑兵よね。

 

「我は紅魔四天王の中でも最弱。 我ごときを出し抜いて満足するとは、侵入者の面汚しよ」

 

 何言ってんだこいつ、頭打ってネジが何本か吹っ飛んだのかしら。

 ……でも、ぶっちゃけ言うと、何かこいつのノリがだんだん面白くなってきた。

 正直、割と私好みかもしれない。

 

「そして、我もまだまだ終わりはせぬ。 ここから、真の本気を――」

 

「そこまでよ」

 

 そこに響いたのは、まるで寝起きのように凄く面倒くさそうな声。

 その、寝ぼけたような声のままに、

 

「え、パチュリー様?」

「ちょっと頭冷やしなさい小悪魔。 水符『プリンセスウンディネ』」

「――えちょっ、待ってください私まだごふっ、あばばばばばばばばっ!?」

 

 そして、突然押し寄せた水流に飲み込まれて廊下の果てまで流されていく悪魔っ子。

 多分、パチュリー様ってのはあいつの親玉か何かなんだろう、それなのに問答無用に流されていく。

 ……ヤバい、やっぱり面白いわあの子、このまま下っ端で終わらせるのはもったいないわ。

 

「……ふぅ。 ウチの子が迷惑かけたわね。 あ、私はパチュ…」

「ねえねえ、ところで私にあの子を任せてみる気はないかしら。 磨けば光るものを持ってるわよ!」

「へ?」

 

 という訳で思い立ったが吉日、早速ヘッドハンティング開始よ!

 

 

 

 


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