霊夢と巫女の日常録   作:まこと13

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         すみません。



 何か無性に謝りたくなったので先に謝っとくことにしました。
 今回はアリス視点です。






第36話 : 花鳥風月の囁き

 

 

 夜の静けさと、情緒ある虫の鳴き声。

 暗闇の中、吊り橋効果とでも言うべき鼓動の高鳴りが一種の高揚感をもたらしてくれる。

 なるほど肝試しとはこうも趣溢れたものであったか。

 人生いろいろと奥が深いわね。

 

「……ねぇ。 私、暗いの怖い」

「安心しろ、私がついてる」

 

 暗闇に震える可憐な少女とそれを守る騎士の物語。

 グラマラス女教師の腕にしがみついて夜の逃避行。

 暗闇の湖で2人きりのパーリナイッ、テンション上がってきたぜええええええっ!!

 

 という勝手な脳内シチュで盛り上がるの楽しすぎ、何か興奮してきたわ。

 今度魔理沙を相手にでも実践してみることにしよう。 年齢的にちょっと犯罪の臭いがするけど、多分それがまたそそる気がするわ。

 

「……大丈夫か? だいぶ息切れしてるぞ」

「ごめんなさい。 魔法使いって、基本的に虚弱体質なの」

「そうなのか? 魔理沙とかは元気いっぱいな感じだけどな」

「魔理沙はまだ魔法使いの駆け出しだからね」

 

 とりあえず答えつつも若干震えたまま辺りを警戒しつつ、慧音の腕に強くしがみつく。

 興奮して息切れしてるだけなので、別に怖くも何ともないし疲れてもないけど、こういう女の子女の子した「守ってあげたい」感じの雰囲気を醸し出しとけば、だいたいの包容力のある相手は扱いやすくなる。

 妹紅も、また然りだった。

 妹紅や慧音は何だかんだで似たもん同士な部分があるんでしょうね、からかいやすくてしょうがないわ。

 まぁ、魔理沙ほどじゃないけど。

 

「……だったら、魔理沙もいずれそうなるということか?」

「どうでしょうね。 私はもう人間を辞めた身だから、人間のまま魔法使いとして生きていこうっていう魔理沙とは少し違うもの。 魔理沙がこの先どうなるかは……」

「そうか。 でもまぁ、魔理沙には霊夢や阿求といういい友がいるからな。 少しくらい身体が弱くなっても、何も心配はいらないけどな」

 

 霊夢に阿求、ねえ。

 阿求はいいわ。 年相応とは言わないけど普通の子だし、反応も悪くない。

 問題は霊夢ね。 まぁ、初対面の反応は霊夢も霊夢で魔理沙とタメ張るくらい面白そうだったんだけど……何か危ない感じがするのよね、あの子。

 クールぶってるだけで精神年齢的には魔理沙や阿求より幼そうだけど、霊夢は直感力が図抜けてていろいろ見透かされそうというか、あんまり近くにいるのは本能的に危険だって感じるのよね。

 まぁ、本能ってよりもただの女の勘ってヤツだけど。

 

「それにしても、肝試しとか紫も変なこと考えるわね。 確か、もこたんも一枚噛んでるんでしょ」

「ああ。 私も最初は不安だったが……ん、もこたん?」

「妹紅のあだ名よ。 多分、流行るわよ」

「そ、そうか」

 

 あ……いいわぁ。 中々に私好みのいい顔してるわ。

 親友を突然なれなれしくあだ名で呼び始めるライバルの登場に、慧音の内心はいかに?

 思い悩んだ挙句に明日から突然もこたんと呼び始める慧音と、それに戸惑う妹紅のぎこちない距離感……うん、多分これだけでご飯3杯はいけるわ。

 

「ま、まぁ、それはさておきな。 紫も紫で思ったより悪い奴ではないみたいだし、妹紅も見張ってるのなら訳の分からない暴走をすることもないだろう」

 

 露骨に話題を逸らしてくるか、なるほど懸命な判断ね。

 でも、慧音の妹紅へのその信頼は一体どこからくるのかと少し疑問な私。

 紫は見た感じおちゃらけてるけど、あれでも賢者とか呼ばれるくらい実際はちゃんとしてる妖怪なのよ。

 ぶっちゃけ妹紅の方がよっぽど暴走しそうな感じがあるし、慧音のそれは全然理にかなってないわよね。

 これが俗に言う「信頼関係」とかいう何かの産物なのかしらね。

 その辺は私にはまだ無縁のものでよくわからないから、とりあえず適当に話を合わせときましょう。

 

「そうね。 で、とりあえず霧の湖には着いた訳だけど、最初の目的地はここでいいのかしら」

「ああ。 紅魔館に向かうならここを通るだろうし、霊夢も魔理沙も要注意ポイントだ」

 

 ええ、確かに要注意ね。

 妖精がいることを考えると少なくとも私には無理だわ。

 会話が通じない奴の相手とか本当に億劫よ。

 特にチルノとかチルノとかチルノとかチルノとか。

 馬鹿のくせに妖怪並みの力を持ってるあの氷の妖精は、本当に厄介だと思うわ。

 

「おい、お前! 誰に断わってあたいたちのナワバリに来たんだ!」

 

 って、ほらぁ噂をすればもう来たわよ、何こいつ私のこと好きなの? でもお断りよ!

 あ、でも慧音がいるなら何か面白いことになりそうだし、それならそれで楽しいから別にいいんだけど。

 馬鹿と教師、2人が出合えばどんな化学反応が起こるのか……

 

「おお、チルノじゃないか。 久しぶりだな」

「え? ………ぁ、う、うわああああああ頭突き妖怪だあああああっ!?」

「誰が、頭突き妖怪だっ!!」

「もぷっ!?」

 

 そして結局頭突きする慧音と、頭からシュウゥゥって感じの煙を上げて動かなくなったチルノ。

 何よ知り合いだったの、ちょっと拍子抜けね。

 

「何、どういう関係?」

「前に少しだけ妖精たちに勉強を教えてみたことがあってな。 チルノはその時のガキ大将的存在だ」

「ああ、納得」

「でも、反発してくる元気な子もそれはそれで可愛くてな、よく覚えているぞ」

 

 一方でチルノは、勉強を教えてくれる先生ってよりも頭突きをしてくる怖い妖怪って思ってたみたいだけどね。

 それと、物陰からコソコソと慧音を見て怯えている妖精が数匹。

 残念ながら全く慕われてなかったみたいね、憐れ慧音。

 

「あっちにもいるわね、妖精」

「む、そうなのか?」

「ええ、とりあえず蹴散らしとくわ」

 

 せっかくなので慧音に少しくらい私のデキるところを見せておこうと、そういう妖精を人形を使ってまとめて駆除することにした。

 あ、ちなみに私は魔理沙の魔法の師匠的なのもやってるけど、本職は魔法使いじゃなくて人形使いなので、そこんとこヨロシク。

 魔法は使うといちいち疲れるけど、人形はいろいろと私の代わりに動かせるから便利なのよね。

 普通は魔力や糸で人形を手動操作するんだけど、魔力を込めたら半分くらい自動的に動いてくれる上海とかは特に重宝してるわ。

 それに加えて癒し効果もあるし、そういう可愛らしい人形と一緒に暮らしてるのとか、女子力高そうに見られて得だと思わない?

 どこぞの花妖怪みたいに、お花がお友達のメルヘン妖怪のくせに怖がられてるコミュ障とは違うのよ。

 

 ……って。 うっわ、しまった。

 嫌なもん思い出して一気に萎えたわ。

 

「きゃっ!?」

「うわー、逃げろー」

 

 とか考えてる間に、妖精駆除完了。

 たった一体で妖精たちを撃退できる万能上海人形が今ならたったの1980円、ただし人形使いはついてきませんクーリングオフの対象外です。

 ……あーもう、やっぱダメね。

 何かいまいち調子出ないしテンション上がらないし。

 嫌なもん思い出したせいでやる気なくしたし、そろそろこのノリも飽きてきたわ。

 

「チ、チルノちゃん!?」

「お、今度は大妖精か、久し…」

「飽きたから帰るわ」

「……え、はあっ!?」

 

 という訳で、帰って新しい人形でも作ろう。

 新しい妖精の登場とか割とどうでもよくなってきたし。

 もう、せっかく楽しい気分だったのに、だいたい幽香のせいね。

 今度腹いせにあいつの花畑とか毟り尽くしてやろうかしら。

 

「それじゃあね」

「って、待て待て待て待てええええいっ!?」

「どうしたの慧音?」

「いや、どうしたのじゃないだろう? 何だ、私にはさっぱりわからん、なんで今帰ろうとした!?」

「言ったじゃない。 飽きたからよ」

「答えになって、なああああああいっ!!」

 

 はい、そしてまさかの頭突きで解決という。

 思ったより痛いわ、なるほどこれは頭突き妖怪扱いされるのも無理はないわね。

 こういう無駄にテンション高いだけの暑苦しい感じは苦手だから、今後は慧音からは距離をとるようにしよう。 このノリに付き合うのは正直しんどいわ。

 という訳で、とりあえず頭痛いし起き上がるのも怠いし、このまま気絶したことにして寝よう。 おやすみ。

 こいつの根性は私が叩き直してやらないと、とかいう面倒な言葉が聞こえてきた気がするけど、知らん。 おやすみ。

 

 

 

 


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