霊夢と巫女の日常録   作:まこと13

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第35話 : できる! スペルカードルール(入門編)

 

 

 さあ、無防備に歩いていく妹紅選手と、未だに動かないルーミア選手。

 誰もが目を見張らせる勝負の行方、果たして先に仕掛けるのはどっちだ、先に……

 とまぁ、ノリでそれっぽく実況はしてみたものの、スペルカードルールがそういう勝負じゃないっていうのはわかってるんですけどね。

 

「おい、ルーミアって言ったな。 スペルカードルールって知ってるか? 知ってるなら正々堂々…」

「んあ? いや、いきなり不意打ち仕掛けてきたくせに正々堂々とか何言ってんだお前」

「え? あ、ああ、あれは…」

「そういう野蛮なことは確か今の幻想郷じゃ推奨されないらしいけど、そこんとこどーなのか」

「えっと、その……ごめんなさい」

 

 ああっとおおおお、ここでまさかのルーミア選手からの正論攻撃、妹紅選手は反論できない!

 ってよりも意外とルーミアってまともな妖怪だったんですねぇ。

 てっきり「スペルカードルールっておいしいの?」とか言い始める妖怪だと思ってたのに、何かあったんですかねぇ。

 妹紅さんが初対面の妖怪に説教されてる絵とか、少し面白いんですけど。

 

「まーいいや。 じゃあ、スペルカード戦するなら宣言回数は2回でもいいのかー?」

「あ、良かった知って……2回? えっと、何で2回で、1回とか3回とかじゃ…」

「あーもう、面倒だなお前。 いいか、スペルカードルールっていうのはな…」

 

 ……妹紅さん、焦りすぎて何かすごくアホっぽく見えます。

 いつもスタンダードなルールしかやってなかったみたいなので、イレギュラーに対応できてなっぽいですね。

 先代博麗の巫女がルーミアからスペルカードルールの説明受けてるのとか、うわぁ…って感じに見えます。

 しかも不意打ちしちゃったことの罪悪感で恐縮してるのとか、見てていたたまれなくなってきました。

 

 でも、妹紅さんのためにも、とりあえず開始前にルールをもう一度確認しとくことは大事ですよね。

 という訳で皆さーん、稗田阿求流スペルカード講座、はっじまっるよー。

 

 コホン。 では、まずスペルカードルールとは、そもそも4つの理念を柱として設けられたものです。

 一つ、妖怪が異変を起こし易くする。

 一つ、人間が異変を解決し易くする。

 一つ、完全な実力主義を否定する。

 一つ、美しさと思念に勝る物は無し。

 このルールの本筋は、幻想郷の規則とかに縛られた妖怪の不満が爆発する前に危険のない形で適度に発散しようという試みと、力で劣る人間でもそれを止められるようにという試みを、同時に解決しようというものみたいですね。

 妹紅さんや霊夢みたいな一部例外を除けば基本的に人間が妖怪を制圧するのは生身じゃほぼ不可能だったんですけど、力の強さ以外の要素も勝敗に関わるようにすることで、その時の運や状況次第で人間が妖怪に勝つことをも可能にしようというものらしいです。

 それで、3つ目まではわかりやすいと思うんですけど、4つ目については、勝負はただ強大な力がぶつかり合うだけじゃなくて、美しくないといけないということみたいです。

 まぁ、日常的に妹紅さんや紫さんレベルの人が出力重視で勝負したら相手が冗談抜きに死にますからね。

 強さではなく美しさを……意味のある弾幕というものを重視することによって、過度に互いを傷つけることなく平和に遊ぶように勝負できるようにという意味合いが強いみたいです。

 

 そして、スペルカードルールは相手を倒すんじゃなくて、相手の技を攻略することが勝利条件なのです。

 スペルカードというのは、各自の必殺技を霊力や妖力とかを使って弾幕にしたもの。

 別にカードそのものに効果がある訳ではなくて、スペルカードはただ単に相手に自分の技を宣言して魅せるための象徴、簡単に言えばエンブレムみたいなものですね。

 それで、最初にスペルカード宣言枚数を決めて片方がその枚数分の弾幕を放ち、片方が避ける勝負。

 霊夢たちを見た感じ、短期決戦なら1回、通常は3回、長期戦なら5回くらいでいつも勝負してますかね。

 放つ側は相手に全部の弾幕を避けられたら、避ける側は弾幕に被弾したら、たとえ余力があったとしても互いに負けを認めるというものです。

 

「……と、いう訳だけれども、理解してるのか―?」

「そ、そんなの言われなくてもわかってるよ」

「本当に?」

 

 ルーミアにそう言う妹紅さんの姿が、言い訳してる子供みたいで若干ほっこりしてきますね。

 ま、でもとりあえず御託を並べるよりも実際にやってみた方が早いですよね。

 という訳で、気を取り直してスペルカード戦、スタートです!

 

「……でも、とりあえずさ。 私が勝ったら、今日の失態はなかったことにしてくれるか?」

「まぁいいけど。 そしたら、私が勝ったらそこの人間は食べちゃうぞー」

「えふっ!?」

 

 って、妹紅さんが負けたら私食べられちゃうじゃないですかー、やだー。

 妹紅さん頑張ってー。

 

「んじゃいくぞー。 スペルカード宣言、夜符『ナイトバード』」

 

 気の抜けるような声とともに、妹紅さんに向かって鳥の羽ばたきのような形で黒い弾が飛んでいく。

 夜の暗闇に溶け込んでて視覚的には見えにくいけど……まぁ、ぶっちゃけ難易度「低」って感じですね。

 前に博麗神社で霊夢や魔理沙のスペルカード戦を見せてもらったこともありますけど、多分このレベルだとあの2人とは勝負にならないかなーと。

 言っちゃ悪いけど、準備運動には丁度いいかなってくらいですね。

 妹紅さんなんて足すらほぼ動かさずに最小限の動きだけで完全に見切って、「ふむ」とか言いながら一つ一つの弾を吟味してますから。

 あー、ルーミアの顔が完全に引き攣ってきてますね。

 

「よし。 スペルカード、ブレイクだな」

「……くそっ、闇符『ディマーケイション』!!」

 

 そして、続け様にやけくそ気味にばら撒かれた弾幕は、全く掠りもしない。

 これじゃ霊夢や魔理沙の役には立たないだろうし、ルーミアの情報じゃゲームとしてはあんまり高得点は望むべくもないでしょうね。

 ま、このまま何事もなく終わって早く次に行きましょう……と思ってたら、何かバチンって音と同時に妹紅さんの肩で何かが弾けてました。

 

「あ、ヤバ…」

「え、当たっ……た?」

 

 わー、当たってるー、ってことは妹紅さん負けてるじゃないですかー。

 油断し過ぎってレベルじゃないですよもー。

 確かに完全な実力主義の排除もスペルカードルールの意義とはいえ負けるなんて微塵も思ってなかったから安心してたのに当たったから妹紅さんの負けでつまり私はルーミアの餌として短い生涯を…

 

「よーし、私の勝ちだな。 じゃあいただきまーす」

「いやあああああああああっ!?」

「って、待てえええええいっ!!」

 

 慌ててスペルカードを構える妹紅さん。

 助けて妹紅さん! ……とか思ってる一瞬の内に、暑いってより熱いくらいに一気に気温が高くなった気がするんですけど。

 ルーミアに襲われそうになった時よりも、遥かに嫌な予感がするんですけど。

 

「た、確かに私は被弾した、だけど今度は私がスペルカード宣言する番だろ!?」

「いやー、私はもう満足だし別にいいよ。 ほら、両者の合意の上じゃないと次の勝負は…」

「問答無用っ! 阿求は渡さん、スペルカード宣言、蓬莱『凱風快晴 ―フジヤマヴォルケイノ―』!!」

「え……いや待っちょ待っ、待って、食べちゃうとか普通に冗談だから、だから待って、そんなの撃たれたら…」

 

 わー、凄いー、何か妹紅さんのいるところの地面が融けてますねー。

 妹紅さんの足元から湧き上がってるのは溶岩というか火山の噴火というか、弾幕ってレベルじゃないですよそれって感じの……

 って、ルーミアどころか私まで死にますよそれえええええっ!?

 

「くらえええええええっ!!」

「いやあああああっ!?」

 

 そして涙目のままなす術なく大噴火に飲み込まれていく私とルーミア。

 ああ、もう駄目ね、これは。

 ごめんなさい霊夢、魔理沙。

 短い間だったけど、貴方たちに会えて、今まで楽しかっ………

 

 

 ……その後、私とルーミアは駆け付けた紫さんに何とか助けられたんですけど、妹紅さんはこっぴどく叱られてました。

 正直、妹紅さんがここまで向こうみずだとは思ってませんでしたよ、この辺一帯焼け野原ですから。

 威力を加減しないと何のためのスペルカードルールなんだとか、仮にも先代の博麗の巫女が負けを認めないのとかいきなりルールを破るとはどういうことだとか。

 私たちのチームはこれで更にマイナス100ポイント、合計マイナス110ポイントという最悪のスタート。

 足引っ張ってただけの私が言うのも何ですけど、やれやれだぜって感じですね。

 

 

 

 


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