今回は阿求視点です
さあ、遂にこの日がやってきましたよ。
ずっと楽しみにしていた、待ちに待ったこの日が!
興奮の抑えきれない今日この日の実況は、ここ博麗神社の階段下から私、稗田阿求がお送りします。
「紫」
「ええ、準備OKよ」
どうしましょう。 私、かなり緊張してます。
深夜の静けさが何かちょっと悪いことをしてるみたいで、余計にドキドキしてきてます。
そして、紫さんが盛大にクラッカーを鳴らすとともに、
「ではみなさーん。 これよりお待ちかねの、肝試し・トゥ・ザ・紅魔館を始めたいと思いまーす!!」
「イエエエエエイ!!」
待ってましたあああっ!!
さて、こんなテンションが続いてもポカーンって感じになると思いますので、簡単に説明します。
今日が何の日かといいますと、霊夢と魔理沙の初の異変解決……に、向けた下見の日なのです!
あんまり異変を積極的に推奨するのはよくない気はするんですけど、今回開催するのはいわゆる出来レース。
というのも、そろそろ幻想郷で『スペルカードルール』っていうのを流行らせ……もとい、浸透させる必要があるので、そのために黒幕に協力してもらって起こす異変とのこと。
という名目のもとに、霊夢や魔理沙にいきなり危険すぎる異変に向かわせるのを避けるために、妹紅さんや紫さんのプロデュースで、割と安全な異変を運営できるように、ずっと準備を進めてきたのです。
いやぁ、いいものですね、家族愛って。
「それでは、ルール説明に移りたいと思います。 皆さん、メモの準備はよろしいですか?」
「はーい!!」
でも、正直な意見、霊夢や魔理沙たちのためってよりも、運営サイドが完全に遠足気分なんですよね。
特に、さっきから紫さんと妹紅さんがノリノリすぎてヤバいです。
私も含めて、皆さんが既にワクワクを止められないのが見て取れます。
「まず、今回のゲームは2人1組の3チームで行いまーす。 皆さん、ペアとの挨拶や自己紹介は終わりましたかー?」
「はーい!!」
今回このイベントに参加するのは全部で7人。
ただ、紫さんは今回のルール上『境界を操る能力』がチートすぎるので、審判に甘んじているそうです。
「いやー、ちょうどよかった。 魔理沙の保護者って聞いてるからぜひ親交を深めたいと思ってたんだ」
「私もですよ先生。 ウチの魔理沙がお世話になっておりますー」
エントリーナンバー1、ウチの寺子屋の慧音先生と、魔理沙の魔法の師匠というアリスさん。
慧音先生については旧知の仲なんですけど、アリスさんは謎が多い人なんですよねー。
初対面で私を完全に玩具扱いして遊んでた時と今とじゃ、口調とか物腰が全然違うし。
いろいろ聞きたいこともあったんですけど、正直あんまり得意な相手じゃないので、同じチームじゃなかったことを喜ぶべきなんですかね。
「が、頑張りましょうね、藍様!」
「ああ。 そうだな」
エントリーナンバー2。 紫さんの式神で九尾の藍さんと、その更に式神で化け猫の橙。
2人の温度差や実力差が激しいけど、チームワークは抜群の仲良し姉妹チーム。
いやー、こういうのを見てると私も兄弟姉妹が欲しかったなーと感じます。 本当に羨ましいですね。
ま、最近の私は友人には恵まれてるので、これ以上贅沢言ったらバチが当たると思いますけど。
「じゃあ、改めてよろしくな、阿求」
「はい! よろしくお願いします、妹紅さん」
そしてエントリーナンバー3。 私と、先代巫女であり霊夢の義理の母親である妹紅さん。
密かに歴代最強の博麗の巫女とか言われてた上に特殊な術を使って若さを保ってるらしく、実は何十年も前からずっと博麗の巫女をやってるらしいです。
この中で一番の戦力であるっぽい妹紅さんは、ハンデとして虚弱体質の私とペアになって護衛をしつつの参加になったとのこと。
九尾の藍さんを差し置いて最大戦力扱いされる妹紅さんマジパないです。
妹紅さんは本当に何者なのだろうか、これを機に仲良くなってその秘密に迫れたらいいなーと、実はそっちも楽しみな私。
とまぁ、そんな3チームに分かれて、これからゲームが始まってきます。
「では改めて。 今回の目的はただの遊びではなくて、霊夢と、あと魔理沙もやる気になってるみたいなので、2人が安全にスペルカードルールに則った異変解決に向かえるための、下見となってます。 そのために、各チームで紅魔館とそこまでの道のりを探索して、危険な場所や強敵の情報を集めてくる、もしくは新たにスペルカードルールを誰かに広めれば高得点が得られる勝負になっています。 そして勝敗の判定は私、みんなのアイドル紫ちゃんが行いますっ!」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
……コホン。 さて、気を取り直して。
今回向かう紅魔館は誰もが恐れる吸血鬼の城。
初めての異変解決にはハードルが高すぎる気もしますが、紫さんがそこの主であるレミリアさんとあらかじめ話をつけたとのこと。
そして、人間の里の代表としてなぜか私が紫さんにお呼ばれして色々と協議した結果、今に至るという訳です。
「……えー。 ただし、今回の下見の件について紅魔館の了承は得ていないため、あっちの機嫌を損ねるような行為をしたら状況に応じてそのチームは減点、もしくは失格となります」
突然口調が不機嫌な紫さん。
さっきの全員スルーが意外と辛かったんですかね。
ってよりも、何かの冗談だと思って流したのに、まさか本気で言ってたんですかねあの人。 何か凄く不安になってきました。
これが妖怪の賢者かっていうガッカリ感は確かにハンパないですよね、霊夢の言ってたことがわかる気がします。
「じゃあ皆さん、間もなくゲームスタートでーす」
一斉にスタート位置につく皆さん。
私は妹紅さんにおんぶしてもらうような体勢で若干恥ずかしいですけど、私が普通に走ったら紅魔館に着く頃には朝になっちゃいますからね、仕方ないでしょう。
「さあ、レッツゴーです妹紅さん!」
「ああ、いくぞ阿求!」
ふふっ、でも妹紅さんにおんぶされて幻想郷を探検するだなんて、霊夢が聞いたら羨ましがりますかね。
口調が雑だけど頼れる妹紅さんは、私にはお母さんってよりも優しいお父さんみたいな感じ。
こういうの憧れてたんですよねー。
「では、位置について……すたああああとっ!!」
そして、紫さんのコールと同時に、3チームが一斉にスタート!
私たちはまずは近くの森の視察ですかね、頑張りましょう妹紅さん!!