霊夢と巫女の日常録   作:まこと13

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再び霊夢視点に戻ります




第28話 : カッコいい必殺技とか憧れるよね

 

 

 

 私には、悩みがある。

 最近、割と深刻な悩みがある。

 以前の私なら、くだらないと言って一掃してたことだけど、『スペルカードルール』が広まるこれからの幻想郷では、死活問題なのだ。

 

 そう―――私も、自分の必殺技とかほしい!!

 

 きっかけは、前に母さんと一度戦った時のこと。

 天に舞う不死鳥を繰り出した、あの技。

 あの時は必死であまり気にしてなかったけど、後になって振り返ってみて、私は思った。

 『鳳翼天翔』って響き……何かカッコよくない?

 そういう感じの技名なら、私としても皆の前で宣言することもやぶさかではない。

 

 という訳で、この前私は母さんにその技の伝授をお願いしてみたのだ。

 すると、こう返された。

 

「あー、それは無理かな」

「どうして?」

「これは、私の個性に合わせた技だからな。 博麗の巫女の技とかじゃなくて」

 

 私の技とか言われた途端、私はハンマーで頭をホームランされたような衝撃に襲われた。

 冷静に考えると、私って自分の技とか一つも持ってないんじゃない?

 封魔陣とか夢想封印とか、それって母さんも使える、博麗の巫女に伝わる技だし。

 確かにちょっと前まで、私は技名を叫ぶのとかが恥ずかしくて真面目に考えてこなかった。

 だけど、今になって少し後悔している。

 なぜって、これからの幻想郷では、スペルカード宣言、つまりは技名を口に出すのが必須項目になるからだ。

 そして、母さんも橙も藍も紫も、魔理沙や先生ですら何かしら自分のオリジナル技を持っているっぽい。

 なのに、私だけが何もないし、カッコいい技も浮かばない。

 納得いかない。

 

 納得いかない、だから――――私は思い立ったが吉日とばかりに、一人旅に出ることにした。

 

 

 そうして、今に至る訳だ。

 人里離れた森で森林浴でもしてれば、いい技が浮かぶんじゃないかなーと。

 そして、ここならスペルカードルールに則るつもりのない妖怪とかが適当に襲い掛かってくるので、悪い妖怪退治という名目のもと返り討ちにしつつ、思いついた技名を叫んでみようかなーと。

 実益と仕事を兼ね備えた、我ながらナイスアイデアだと思うわ。

 ほら、噂をすれば「見かけ倒し」ってのを絵に描いたかのようなムキムキの妖怪が一体。

 

「シャーッ!」

 

「博麗封印!!」

 

「グギュ!?」

 

 私に向かって突進してきた妖怪を、力任せの霊力で上から叩き潰した。

 ……うーん、これはちょっと違うわ。

 こんなの『夢想封印』をもじっただけじゃない、とても恥ずかしくて口に出せないわ。

 紫あたりを相手に使ったら、「……え、何て? ねえ霊夢ちゃん、今何て言ったの!?」とかニヤニヤしながら馬鹿にされるに決まってる。

 ここはそう、もっとカッコよく…

 

「アルティメット・バスター!!」

 

「グギャアアアアッ…!?」

 

 後ろから私の首に噛みつこうと飛びかかってきた野生の狼は、こんがりと美味しそうに焼けていた。

 振り向きざまに何か適当に両手から霊力光線を出してみたら、それがちゃんと必殺っぽくなる私マジ有能。

 ……って、だから違うでしょうがっ!!

 こんなの魔理沙のマスタースパークの響きをパクっただけじゃない。

 いくら新しい技ができようと、技名のセンスがそれに伴わなきゃ意味がないのよ。

 もっとこう、私だけにしかないオリジナリティに溢れた、色々混ぜ合わせて斬新で奇抜な、そう、奇抜な……!!

 

「霊夢ストレッチ!!」

 

「ぎぃゃぁああああ!? やめて、ギブギブ!!」

 

 これよ、これ! 相手の腕をとって関節を極めつつ私の身体を伸ばし、攻撃と柔軟体操を兼ね備えた最強の……ってアホか私はああああっ!?

 弾幕ごっことして使い辛いどころか、そもそも名前がお手本のようなカッコ悪さの極みよ!

 こんなの、馬鹿にしてすらもらえずに可哀そうな顔をされてお終いじゃない。

 もう、こんな技名を叫んだ悲惨な黒歴史自体をこの世から抹消したい。

 

「ぎゃっ――……」

 

 という訳で、可哀そうだとは思うけど、この妖怪の記憶は念入りに消しておくことにしよう。

 背骨がゴキッって感じで鳴る音とともに、金髪ショートの妖怪は大人しくなった。

 見た目が私と大差ない幼い子に見える妖怪だから罪悪感ハンパないけど、何かごめんね。 だけど私に襲い掛かったあんたが悪い。

 

「ま、これに懲りたら、次からはちゃんとスペルカードルールに従うことね」

 

 だから、忠告の意味も込めて、去り際はちゃんとそれっぽく締めておくことにした。

 

 ……さて、これでまた振り出しに戻る訳だ。

 流石に学習したのか、この周辺で私に襲い掛かってくる猛獣や妖怪はいなくなったし。

 何もしていない妖怪に自分から仕掛けていくのは流石に心が痛んだので、正当防衛として襲い掛かってきた奴にだけ試してたけど、それもままならなくなりそうだ。

 しょうがない、また場所を変えて……

 

「……」

 

 だけど、場所を変えようかと思っていた私の視線の先で、誰かが森の中をのんびりと歩いていた。

 全身に動き辛そうな水色の着物と変な帽子を纏い、右目はケガをしているのか、眼帯をしている。

 それも、私を標的から外して新たに機を窺っている、猛獣や妖怪たちに囲まれながら。

 ……ヤバくない?

 こんな立ち入り禁止区域に一人で歩いてたら、私みたいに自己防衛の手段を持っていなければ妖怪に食い殺されてもしょうがないはず。

 なのに何の警戒もなく歩いている人が、一人。

 そして、腹を空かせた猛獣が一匹、飛びかかった。

 

「マズいっ!!」

 

 とっさに走ったけど、間に合うか?

 いや、間に合うかじゃない、間に合わせるんだ!

 博麗の巫女になっていきなり、目の前で誰かが食われる場面を見過ごす訳には……

 

「……嗚呼、哀しいわ」

 

 背筋が凍った。

 冷たく静かに響き渡った声とともに、私の身体は硬直したように動かなくなった。

 この場で私だけが感じている、確かな危機感。

 それでも、猛獣たちは止まることなくその人に噛みつこうとして……牙は空を切った。

 その人がゆっくりと開いた扇子の滑らかな動きに合わせるように、完全に軌道を逸らされていた。

 合気扇術とかいうヤツだろうか、全く力を使っていないように見えた。

 

「何故、貴方たちはそんなに死に急ぐのかしら」

 

 その扇子で口元を覆い、見透かすような視線で猛獣や妖怪たちを見回す。

 一見すると隙だらけに見えるけど、恐らくは一分の隙すらもない。

 その実力差に全く気づいていない猛獣たちは、ここぞとばかりに数の暴力で一斉に飛びかかっていく。

 

「……そう、そういう運命なのね。 ならば、せめて安らかに星に還りなさい。 散り際は儚くも優雅に―――」

 

 だけど、その人が片手を軽く振ると同時に、突如として周囲を覆い尽くすほどに白き蝶が舞い、

 

 

「霊蝶――『蝶の羽風生に暫く』――」

 

 

 その羽ばたきが宙に波紋を描くかのように咲き乱れ、その羽風に微かにでも触れた猛獣たちが糸の切れた人形のように落ちていった。

 後から漁夫の利を狙っていた妖怪たちも、その光景を前に動けずにいた。

 ただ、何事もなかったかのように立つその人の目には、微かに涙が浮かんでいる。

 争いそのものを嘆くかのような、儚い眼差し。

 その美しき恐怖を前に立ちすくんでいた妖怪たちは、やがて蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

 その、野蛮さもなく、ただ美しく全てを終わらせて私の方に振り向いた姿は、

 

「……さて。 貴方には、多少の思慮分別くらいはあるのでしょうね」

「かっ…」

「か?」

 

 かっけえええええええええ!?

 何これ、そうよ、これこそが私の求めていたものよ!

 紫の時には言わなかったけど、今なら言える気がする、私を弟子にしてくださいと!

 

「あ、あの、私、博麗霊夢といいます! 貴方は…」

「止まりなさい」

「え?」

 

 だけど、その人が手に持った扇子を可憐に振りかざすとともに、辺りに吹いた向かい風が私の足を止めた。

 ただ、その人は吸い込まれるような瞳で私を見回して、

 

「感じるわ。 貴方の中にある、邪悪な『気』を」

「なっ……!?」

 

 驚きで、本当に心臓が止まるかと思った。

 見ただけで私の中の力を見破った、初めての人。

 この気持ちを、上手く言葉にはできないけど。

 でも、きっとこの出会いが、私の人生を変える。 私にはそんな確信があった。

 

 

 

 


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