霊夢と巫女の日常録   作:まこと13

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『紫たちと、話をつけてくる。』を、選択。
ほのぼの展開多めルート。 この小説のメインルートです。




第3章:博麗の巫女
第19話 : 何か友達になれそう


 

 

 

「うぅぅ、寒い……」

 

 ほんとに、寒気がヤバい。

 別に気温が低いという訳ではない。

 ただ、背筋を冷たい何かが奔ったような感覚が絶え間なく私を襲っているのだ。

 

 今私が来ているここは、無縁塚という縁者のいない死体が眠る地だ。

 外の世界からの迷い人の死体が多く眠るが故に、幻想郷で一番博麗大結界が薄いと言われる場所。

 何が起こるかわからない危険な場所なので、人間はおろか妖怪すらも近づこうとしないという。

 だけど、わざわざそんなところまで一人で来たことにも、意味はある。

 

「紫っ!! 出てきなさい!!」

 

 とは言ってみたものの、別にここに紫がいるという確証がある訳ではない。

 いや、多分ここにはいないはずだ。

 紫たちは普段、幻想郷とは少し隔絶された境界の中に住んでいるが、紫の能力を使わない限りそこに行く手立てはない。

 だから、ただ単純に博麗大結界の強度が最も弱くなるこの場所なら紫たちの住処へも声が届きやすいだろうから、ここを選んだに過ぎないのだ。

 

「紫、藍、橙! ねえ、そろそろ出てきなさいよ!!」

 

 私がどれだけ呼んでも、誰も出てくる気配はない。

 やっぱりここで叫んでも意味がないのか。

 それとも、ちゃんと母さんに言われたことを守って、私と接触しないようにしているのだろうか。

 ……いや、多分それはないだろう。

 あの紫が、誰かの言うことを大人しく聞くわけがない。

 だから、聞こえてるくせに面白いから無視しているという線も十分にあるのだ。

 

「……仕方ないか」

 

 そういう時のために、魔法の言葉がある。

 博麗神社だろうと寺子屋だろうと、どこにいても一度口にすると紫が飛び出してきて修業が倍厳しくなる魔法の呪文だ。

 使いどころを間違えるとヤバいことになる諸刃の剣だけど、いざ!!

 

「ゆかりおばあちゃーん!!」

「ぶっ!?」

 

 来たかっ!! と思って私が振り返ると、そこにいたのは紫ではなかった。

 真っ赤な髪や長身、そして先生が可愛く見えるほど豊満なボディとかも気になる。

 だけど、誰もが一瞬で目を奪われるのは、背負ってるあまりにも大きな鎌だろう。

 命を刈り取る鎌は、その証。

 死神。

 ……そう聞くとヤバい響きがするけど、そんなに危険な相手じゃないのも知ってる。

 

「おばあちゃんて、紫おばあちゃんて! あははははは、こいつは傑作だねえ」

 

 そして、多分こいつも死神の中ではかなり残念な奴なのだろうと思う。

 何か一人で腹を抱えて爆笑してるあたり、私の命を刈ろうとかいう好戦的な奴ではなさそうだ。

 それに死神は、仙人のように本来の寿命を超えて生き永らえようとする人にとっては天敵らしいけど、むやみやたらに寿命を刈り取ったりはしないはずだ。

 

「……それで?」

「え?」

「あんたは、誰よ」

「あ、ああ、あたいは小野塚小町。 死神をやってるよ」

 

 まるで「いらっしゃい、ここは道具屋だよ」ってくらい軽い口調だけど、普通は子供に向かって軽々しく死神だなどと言わないだろう。

 子供がそんなこと言われたら恐怖で卒倒するだろうからね。 ま、私は平気だけど。

 というよりも、こんなところまで夜遅くに一人で来てる時点で、私が普通の子だなんて思ってはもらえてないだろうなぁ。

 でも、うまく説明できないけど、この人とはなんとなく波長が合いそうな気がする。

 いわゆる、「あんたとはうまい酒が飲めそうだ」って感じの。

 

「それで? お嬢ちゃんは…」

「お嬢ちゃんじゃないわ。 博麗霊夢よ」

「博麗? ……ああ、お嬢ちゃんが例のアレか」

 

 うわ、人のこと例のアレとか言ってきたし。

 ってかやっぱり私のこと知ってるのか。

 いや、多分私ってよりも博麗の名が死神とかの界隈でも有名なんだろう。

 

「んで、こんなところまで一人でどうしたんだい? ここは子供が来るような場所じゃないんだけど」

「あー。 その、人を探してまして」

「人、というよりも妖怪じゃないのかい? 八雲紫は」

「そうともいう」

 

 さっきまで大声で紫を呼んでたせいか、なんだかんだで私の目的を知ってるみたいだった。

 そして、私の直感が、こいつは何か心当たりがありそうだと告げている。

 

「紫の居場所、知ってるの?」

「あー、まぁ知ってると言えば知ってるけども…」

 

 やっぱりか、何かそんな気がしてたのよねぇ。

 でも、紫たちの手がかりを見つけた喜びよりも、今は私の中の危険信号が強くサインを発していた。

 私の正体を知ったあたりから、こいつの表情が「厄介なものを見つけた」と言わんばかりに変わったのがわかったからだ。

 

「だけど、今あたいの用事があるのはお前さんの方なんだよねぇ」

 

 そして、死神さんは突然その背に括り付けた鎌に手をかけた。

 その瞬間、明らかに辺りの空気が張りつめたのがわかる。

 ……あ、ヤバい。 適当な雰囲気に騙されてけっこう侮ってたけど、こいつ明らかに格上だわ。

 最近の私は前に立てば、ある程度は相手との力量差を感じられるようになっていた。

 正直言うと下っ端の死神一人くらいなら倒せると思っていたんだけど、正直こいつからは逃げ切るのもキツそう。

 私は瞬時に、自分の考えうる最大限の臨戦態勢に切り替える。

 切り替えたはず、なんだけど……

 

「うーん……でも子供とはいえ博麗の関係者と戦うのは面倒だし、捕まえたら捕まえたでその後の処理も面倒だしなぁ」

「え?」

 

 こいつは何か一人で勝手に考え込み始めた。

 隙だらけのその体勢は、一見すると罠にすら見える。

 だけど、こいつはポンと手を叩いて「いいこと閃いた!」と言わんばかり口調で言った。

 

「って訳で、今日は一つ何も見なかったことにして解散にしないかい?」

「……はあ?」

「いや、ぶっちゃけると久々のオフの日にまで仕事したくないんだよねぇ。 ただでさえこんな急に見回りさせられて疲れ切ってるのに」

 

 いきなりスイッチを切り替えたように、ぶつくさと一人文句を垂れる死神。

 張りつめていた空気が、和らいだように感じる。

 何だこいつ。 死神って、そんな適当で大丈夫な種族だっけ?

 

 ただ、それを聞いて少しだけわかったことがある。

 私に用事があって、私を捕まえるのが仕事。 つまりは、私を捕えるよう非番の死神にまで命令が出ているみたいだ。

 え、何それ怖い。

 でも、その原因にも心当たりはある。

 

「……今、彼岸が大変なことになってるんでしょ」

「え? あ、ああ、よくわかったね」

「なんとなく、そんな気がしたのよ。 急に死者が増えて、三途の川がいっぱいなんだよね」

 

 多分、その原因をつくったのが私なのだ。

 昨日の一件のせいで、今の三途の川には異常な量の霊魂が彷徨っているのだろう。

 私が妖怪の山で数えきれないほどの生物を虐殺してしまったが故の、異常事態。

 正直、予想はしていた。

 死神に狙われるのも、当然のことなのだろう。

 どんな罰でも受ける覚悟はあった。

 でも、聞こえてきたのは私が予想もしていなかった答えだった。

 

「ん? ああ、そっちの方か。 まぁ、確かにある意味間違っちゃいないんだけど」

「え?」

「正確には、生者を大量に彼岸に送り込んできたはた迷惑な妖怪が一人いるってのと……あ、いや、こっちの話はいいか」

 

 死者じゃなくて、生者?

 要するに、死んでない人を勝手に彼岸に送り込んだ妖怪がいるってことか。

 そんなことをできる妖怪なんて……

 

「まさか、紫が…」

「ピンポーン!! 大正解、犯人は紫ちゃんでしたー」

「どわあああああっ!? ぐげっ!」

 

 と、例のごとく目の前の隙間から突然紫が飛び出した。

 そろそろ来るころだろうと思ってたし、私はもうそれに慣れ切っていたから、特にリアクションはしない。

 だけど、驚いてマンガみたいな叫び声を上げた死神さんは、勝手にズッコケて頭を打って気絶していた。

 

「……あ、あれ?」

 

 予想以上のリアクションに、流石の紫もけっこう動揺していた。

 そりゃそうだ、私も紫のイタズラよりもむしろ今の叫び声に驚いて心臓がバクバクしてる。

 そして、この微妙な沈黙が、何ともいえないシュールさを醸し出している。

 

「だ、大丈夫かしら、もしもーし」

 

 紫が、少しだけ焦ったように気絶した死神に声をかけていた。

 こんなに慌ててる紫を見るのも久々な気がする。

 そして、しばらくゆさぶっても反応がないことに気付いたのか、紫は少しだけ固まった後、

 

「……て、てへっ☆」

 

 振り返りざまに、ウインクしながら自分の頭をコツンと叩いたぶりっこポーズで、そう言った。

 ……正直、少し眩暈がした。

 「おい、自分の歳考えろ」とか、ツッコみたいことはあった。

 

「紫。 いろいろと、聞きたいことがあるの」

「へ?」

 

 だけど、私は無性に身体の奥底から湧き上がってくる衝動を我慢した。

 今は、そんなコメディ展開に気をとられている場合ではないから。

 全てのボケを総スルーして、私は真剣に紫と向き合った。

 

 

 

 


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