霊夢と巫女の日常録   作:まこと13

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第17話 : 本日の教訓。 笑顔は怒ってる顔以上の危険サイン

 

 

 

 戦いは、白熱していた!

 私、博麗神社の期待の新人博麗霊夢と、最強の妖怪風見幽香の初の一騎打ち。

 誰もが固唾を飲んで見守る、世紀の一戦の火蓋が切って落とされた!!

 

「やっ!!」

「……」

 

 ここで、最高加速からの突きを囮にして、全力の霊力を込めた死角からの空中回転蹴り!

 私の小さな体ならではの奇襲は、藍の体勢すら少し崩したことのある必勝パターン。

 ……は、まるで蠅でも払うかのように片手で弾き飛ばされた。

 うん、弾かれた足が真っ赤に腫れ上がって打撲とかいうレベルじゃなく痛くて、もう何も蹴れる気がしない。

 だけど、それで諦めるような私ではない!

 

「っ―――霊符、『夢想封印』!!」

「……」

 

 出し惜しみせずに繰り出したのは、自らの霊力を空間そのものに溶け込ませて相手の力ごと飲み込み封じる、博麗の巫女に代々受け継がれる必殺技だ。

 母さんが私に使ってた時はある程度避けやすいように視覚化していたが、本気で使うと目にはほとんど映らない不可避の一撃。

 たいていの妖怪なら何が起こったかも気付かないまま一撃で地に伏す、私の最強の切り札……も、眉一つ動かさずに、雨水を凌ぐかのごとく日傘で簡単に防がれた。

 くっ、流石は風見幽香、他の妖怪とは一味違うわね!

 と、まぁ何とかここまでテンション上げて頑張ってはみたけど、そろそろ一つ言わせてほしい。

 

 ……いや、どう考えても無理よこれ。

 アレよ、序盤に大魔王が出てきたとかそういう類の負けイベントよ。

 でも、残念ながらそこで負ければゲームオーバーという、在庫まみれ確実のクソゲーよ。

 ヤバい、混乱しすぎて訳わかんないこと考えてるわ私。

 

 その間にも私は追い詰められている。

 少しでも逃げに回った瞬間に、一撃必殺レベルの魔力弾が掠ってくる。

 だからといって私が何か少しでも反撃しようとすれば、そのたびに身体の肉を削ぎ落とすようなカウンターが返ってくるので、開戦から30秒も経った頃には私は必死で逃げることしかできなくなっていた。

 満身創痍の私を前に、当然のごとく風見幽香は全くの無傷である。

 私のやっていること、私の力の全てが無意味だと思い知らされているかのように、先に心が打ち砕かれそうよ。

 特訓中の紫のスパルタが子供の戯れのように可愛く思えてくるくらい、もう一思いに殺せってレベルにヤバい。

 

「ひっ、ひぇっ、ぃゃああ」

 

 そして、なんかもう途中から私の顔は涙と鼻水まみれで、呼吸も喋ることもまともにできなくなっていた。

 ダメよ霊夢、そんなのピチピチの女の子が出すような声じゃないわ!

 もっと「きゃー、助けてー!」みたいに正義の味方とかが助けてくれそうな感じにしないと。

 でも、人間本当に追い詰められると、そんな悲鳴らしい悲鳴なんて上げる余裕はないのだ。

 

「いつまで逃げるつもりかしら?」

「はっ、はっ、お願い、もう許…」

「許さない」

 

 ニコッ、って感じの爽やかな笑顔だ。

 怒った顔よりも、笑顔の方が遥かに怖いってことを思い知りました。

 そんな楽しそうに笑って、やられてる側の気持ちを少しでも考えたことがあるのかお前はって言いたくなる。

 多分もう今の私の姿は、傍から見れば巨大な猫から泣きながら逃げている鼠の子供と同じくらいの感じでしかないだろう。

 ……だけど、それでも諦めるつもりはない。

 私だって、このまま終わるほどヤワに育てられてないのよ!

 

「ぁぁ、やめて……っと、引っかかったわねっ!!」

「何?」

 

「神技『八方龍殺陣』!!」

 

 はい、もう出ないわ、これ以上は出ないわよ。

 逃げながらも私の霊力を込めた札を至る所に張り巡らせてつくった巨大な結界。

 こいつが勝負を一瞬で終わらせてこない甘さに付け込んだ、最後の手段だ。

 一撃だけ当てればいいというルールなら、これで終わりのはず。

 どんな妖怪でも、この結界内を埋め尽くす霊撃を全て躱しきれる奴なんていないわ!

 演技じゃなくて本当に恐怖で逃げてたからこそ上手く中に誘導できたこの結界、そう簡単には…

 

「ふーん。 少し構成が甘いわね」

 

 そして、飛散した魔力の光で札を弾かれて簡単に書き換えられる術式。

 私の周りをいい感じに囲うよう計算して飛ばされてきた札の数々。

 消えたかと思ったら逆に私を取り囲む結界。

 術者であるはずの私に向かって降り注ぐ霊力の滝。

 

「っゃああああああ”あ”っ!?」

 

 霞みゆく意識の中で、私は後悔した。

 一人で挑むべき相手じゃなかった。

 いや、そもそも近づくべきですらなかった。

 私はまだ修業中の、未熟な子供なのだから。

 紫ですら勝てる保証のない怪物に、太刀打ちできる訳がないのだ。

 そして、私の意識はそこで―――

 

「―――っ!!」

 

 ……途切れる訳にはいかない。

 私には、助けなきゃいけない奴がいるから。

 私のせいで魔理沙の人生が奪われるのなんて耐えられないから。

 いや、そうじゃない。

 私の初めての友達を、助けたいから!

 

「っぐ―――ああああああああああっ……」

 

 だから、私は必死にそれに抗った。

 激痛の奔る身体に鞭打って、その結界から脱出しようとした。

 でも、それでももう限界だった。

 全身に力が入らない。

 結局私には何もできない。

 助けられない。

 私は、ここで死ぬ。

 何もできないまま私はここで終わる。

 そしたら、助けられない。

 このまま死ぬ。

 あいつが。

 魔理沙が死んで。

 誰のせいで?

 私のせいで?

 そうじゃない。

 違う。

 私は。

 私はっ……!!

 

「……私じゃない」

「え?」

 

 気付くと、私は何か呟いていた。

 何故、口を開いたのかもわからない。

 何故、この状況で自分が笑っているのかもわからない。

 それでも、湧き上がってきた得体の知れない何かとともに、私は自然と言葉を発していた。

 

 

「ふふっ、そうよ。 あんたが、消えればいいのよ―――」

 

 

 ……その時の光景を、私は夢だと信じたい。

 

 大地が砕け散って灰燼に帰す。

 空間が歪み、その狭間から天が裂けていく。

 辺りの景色が、近くでひっそりと生きていた木々や動物たちの命の息吹きが塵に消えていく。

 そして、目の前の世界が真っ白に染まるとともに、意識が途絶えて……

 

 

「霊夢っ!!」

 

 

 母さんの声で、私は目を覚ました。

 

 

 




そして次話、唐突なシリアスシーン再び。


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