遊戯王GX ~もしもOCGプレイヤーがアカデミア教師になったら~   作:紫苑菊

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 お久しぶりです、紫苑菊です。皆さん覚えていらっしゃるでしょうか。作者は忘れていました、遅れてすいません、新ルールで萎えてペルソナ5とギルティギアとニーアオートマタやってました。ズァークのプレイマットが当たったのと魔弾の射手の情報がなければ更新していなかったでしょう。

 ぶっちゃけ、廃人のストーリーなんか忘れてしまった作者です。こっちは半分以上書き込んで放置していたから更新できました。さて、ここからどうしよう。

 FGO、沖田さんも頼光ママも来ませんでした。新宿のアーチャーガチャ?もちろん爆死ですが何か?そんなことよりシャドバやろうぜシャドバ。イージスとヘクター糞過ぎるけど。作者のマイデッキ?もちろん旅ガエルアルベールロイヤルですが何か?←
イスラーフィール可愛い(あらゆるデッキにピン積みの模様)。

 リンクス?バブーン強化くればやるかもね。モモンガください。

 
 

 
 


過去編 2

 あの日から、5年が経った。俺は成長し、世間一般的に成人と見られる年齢になり、大学生という身分を獲得するまでに至った。

 それもペガサスさんのおかげだろう。あの人は、前科者となった俺を養子として受け入れ、大学までの学費まで出してくれている。まあ、学費に関してはI2社で働くことを条件に出されたが、それでも破格の条件。一年にかかる学費が140万近く。奨学金を含めたとして、アルバイトしながら稼げない金額、とまでは言わないが、生活費の事も考えれば、相当な無茶をしなければ稼ぐことは出来ない。

 だから、とは思うが、俺はそれなりに忙しい仕事を任される。忙しい、といっても、入ったばかりだからか失敗してもリカバリの効く範囲、ではあるのだが。それが、このカード開発部だった。

 カード開発部。その名の通りカードの効果やイラストを作って、それをディスクに読み取るようにプログラミングし、QRコードなどを用いることで、ソリッドヴィジョンの映像ををネットを経由して映し出すためのコードを作ったり、カードのイラストや効果を決めたり、と様々な仕事が、ここで扱われている。I2社の中でも一番大きい部署であり、一番仕事が多い部署。そこの、所謂世間で言うテスト・プレイヤーの一人として、俺はここに在籍していた。

 年若い、それも開発に関しては殆ど素人な俺がこんな仕事にかかわってもいいのだろうかとは思うが、I2社は現在、先日起こったフェニックス氏殺害事件が尾を引いて軽いパニック状態だ。責任者が不在となったうえに、引き継ぎ作業などは一切出来ていない(というより突発的に起こった事件にそれを要求するのも無理な話ではあるのだが)。その事件の余波として、彼の担っていた仕事を改めて再分配した時、少し問題が起こったのだ。

 ブラック社員の鏡であったフェニックスさんは多くの仕事を担っていたらしく、多くの仕事が機能不全になる。社畜の鏡だなぁと現実逃避する間もなく、I2社は未曽有の危機に晒された。流出してしまったかもしれない情報の調査と、彼の担った仕事。それをいくら大会社だからといって、I2社の、それもカード開発部の人間だけでは到底出来るものでは無かった。

 よって、I2社は人員を補充せざるを得なくなった。元々ブラックよりなのもあって、I2社の離職率は割と高い。だけど、急場とはいえすぐに辞めていくような人員を雇う訳にはいかない。I2社が最も恐れるのはカードの情報が外部に漏れだされること。つまり、それなりに信用がいる。・・・雇うのに一々ツイッターやフェイスブックを検索し、ほとんどネットストーカー一歩手前まで調べつくすような会社はここくらいだと思いたい。

 よって、すぐに雇えてそれなりに信頼のある俺やペガサス・チルドレンのメンバーが雇われるのはそう不思議なことではなかった。なかったのだが・・・。

 だからと言って、俺をわざわざ呼び出す必要があったんですか?ペガサス会長。

 

「オー、そんな堅苦しい敬称は必要アリマセーン。」

 

 要件は手短にお願いします。ペガサス会長。

 

「・・・怒ってます?」

 

 ははは、何をいまさら。

 いいえ、怒ってなんていませんよ?ただ、この糞忙しい中に呼び出したかと思えばまさか社長室の中で漫画を読んでいて、呼び出したことすら忘れているとは思っていなかっただけです。ええ、ちっとも怒ってはいません。

 ただ、仕事しろよとは思っていますが。

 

「べ、別に忘れていた訳デハ・・・。」

 

 さっき、この部屋に入った瞬間にぽかんとした顔をしていらっしゃいましたが。

 そりゃあ呼ばれた俺がびっくりするくらいに。

 

「・・・申し訳アリマセーン。デスガ、彼が亡くなってからは、私のところに来るはずのチェックの仕事すら回ってこなくなったのデース。仕事が滞っているのでしょうが、お陰で私は暇なのデス。」

 

 なら仕事を手伝ってくださいよ。フェニックスさんの前任がペガサスさんだったのは皆知っていますよ。

 

「それでは次の世代は育ちまセーン。次の責任者を可及的速やかに育成するためにも、この修羅場は必要なのデース。・・・つくづく惜しい人材を亡くしマシタ。」

 

 ああ、それはそう思う。

 殺されたアルフォンス・フェニックスさんは俺の恩師であり、そして優秀なスタッフだった。開発責任者としてだけでなく、会社員としてもデュエリストとしても優秀だった彼は、次期社長候補として名をあげられるほどに。何より、ペガサスさんが信頼していたスタッフの一人だった。

 それだけに、今回のことが残念でならない。

 

「何よりも、息子さんの事が気になりマース。アルフォンスさんは妻を亡くしていらっしゃいましたから、息子の彼は天涯孤独の身に・・・。」

 

 そんなに気になるならあなたが引き取った方がよかったのでは?

 

「そのエドボーイが後継人にあのDDを選んだんです。残念ではありますが、私は本人の意思を尊重したいのデース。」

 

 まあ、おせっかいとは思いマスが、いくつかおもちゃでも見繕おうかと。それで今、コミックを読んでいた訳デース。ペガサスさんはそう言って笑った。

 その餞別選びから本腰入れて読み始めて仕事を忘れたと。いい御身分ですね。

 

「・・・最近、アナタの毒が強くなりマシタ。あの頃は純粋だったのに・・・。」

 

 そう言ってペガサスさんは懐から俺の写真を取り出し泣き真似を始める。あなた、俺の小さい頃知らないだろ。5年前とかとっくに物心ついて働いてたわ、違法だけど。

 

「本当に可愛げがアリマセーン。夜行なら乗ってくれるというのに。」

 

 夜行の奴は純粋なんですからからかうのは止めてあげてください。 

 

「反抗期だからってからかわない理由はアリマセーン。」

 

 そんなんだから、兄へのコンプレックスと温厚な性格に押しつぶされて半グレみたいになった時に、まともなフォローが一つも出来ないんだよ。そう思ったが流石に言うのははばかられた。今は夜行も時期社長候補の一人として懸命に働いている。一時期は本当にヤバかったみたい(俺はその時をあまり知らない)だが、あいつ(・・・)が言うには問題ないとのことだった。最悪舞子先生が何とかしただろう。あの人、孫が沢山いるらしいからそのあたりの扱いに長けてそうだし。

 夜行のことを考えるついでに、他のメンバーがどうしているのかが気になった。リッチーやデプレの奴はどうしたのだろう。カードプロフェッサーの資格を取ってプロになったとは聞いていたが、今具体的に何をしているのかは知らない。

 

「リッチーは今、北欧のI2社支部で仕事をしながら、その地域のプロリーグで活躍していマース。デプレは日本の大会に出場中デース。可愛い息子たちが活躍しているようで私は嬉しいデース。」

 

 流石会長。『ミニオン』の事はしっかり把握していらっしゃる。

 『ミニオン』は、ペガサス会長が起こした慈善事業『ペガサス・チルドレン』の中から選ばれた、才能ある子ども達を『次代のペガサス』として育て上げられた子供たちの総称。天馬月光、夜行の兄弟、リッチー・マーセッド、デプレ・スコット。そして、少し過程が違うが俺とあいつ。他にも『ミニオン』に数えられた奴らはいるが、俺がかろうじて面識があるのはこのあたりだ。

 『ミニオン』達は『チルドレン』の中でも特に手塩にかけて育てられている。俺とあいつのような例外(・・)はともかく、彼らには特に何か愛情のようなものがあるのだろう。

 

「当然デース。彼らは、私の大事な子供たちなのデス。少々、年は近いデスガ。」

 

 そう言って笑う会長を見ると、微笑ましい反面、胸が少し締め付けられる。俺には、そんな親はいなかったから、羨ましいのだろう。

 今となっては、そんなことを望めたような身分じゃあないが。

 

「・・・本題に入りマース。」

 

 そう会長が言った瞬間、彼の雰囲気がガラリと変わった。切り替えだけは早い人だ。若くして大会社の会長となっただけのことはあるのだろう。

 

「カール・コクランについては知っていマスカ?」

 

 いや、世事に疎い俺でも、流石にI2社の副社長くらいは知っていなければおかしい。

 『カール・コクラン』。I2社副社長にして、事実上の社長とまで言われる、超のつくやり手(・・・)。I2社における他社との契約や取引に、必ずと言っていいほどにこの人が絡んでいる。やり方は多種多様。外堀から固めて、取り込む場合もあれば、産業スパイを送り込んで内部から切り崩す、なんて今時ヤクザでも使わないような手段を取ってくる、なんて噂まである。噂の中には、送り込まれた産業スパイをそのまま自社の優秀な社員として取り込んだ、なんてものまである始末だ。

 超のつく有能。一流大学の出身で、政財界のコネまである。そのかわり、超のつくワンマンぶりでも有名だ。

 

「そして、『反会長(ペガサス)派』の筆頭デース。」

 

 知っているんですね。そのこと。

 まあ、月光や夜行がそんな情報をペガサスさんに伝えないわけないか、と一人納得した。『反会長派』の筆頭をカールさんとするならば、『会長派』の筆頭は実質夜行のようなものだ。社長は事なかれ主義なので、実際に派閥を作ったり争う、なんてことはしない。強いて言うなら『穏健派』と呼ばれ、大多数の社員がその穏健派に位置する。

 ここだけの話、その『穏健派』に比べれば『反会長派』も『会長派』も等しく塵芥のようなものだ。それだけ人数に差があり、持ち前のカリスマ性から社長を支持するものが多い。ペガサス『名誉会長』がれっきとした『会長』に社長を一歩すっ飛ばしてなったのも、この人がいなくなればI2社そのものが成り立たなくなるから、仕方なしに社長をすっ飛ばしたのだ、なんて話まである。まあ、穏健派といっても社長は心情的にはペガサスさんよりではあるらしいのだが。

 

 それで、どうするおつもりで?まさか、派閥争いに興味でもあるんですか?

 冗談半分に聞いてみた。そんなつもりはないでしょう?と暗に言っているようなものではあるのだが。

 そして、帰ってきた答えは予想通り、「そんなつもりはない」ということだった。

 

「元々、そこまで会長の座に未練はアリマセーン。次の世代がデュエルモンスターズを進化させていくことだけが望みデース。」

 

 ああ、そうだろう。あなたはそういう人だ。I2社と、デュエルモンスターズ。それらの明るい未来が彼の望みで、そのためなら彼はなんだってする。そういう人間だということを、俺はこの数年でよく知っていた。

 だから、この人が派閥争いを気にする、ということは、それだけI2社全体の問題になる、ということなのだろう。

 

「今日呼び出したのは、カールについて少し調べてほしいからデース。」

 

 そういう事情でしたら、お断りさせていただきます。 

 この俺の返事に、ペガサスさんは驚くことはしなかった。要するに、彼は俺が断ることも織り込み済みだったのだろう。

 

「別に時間は取らないはずデスガ?」

 

 手段が問題なのだ。俺はそれだけはしたくない。確かに俺はそのことについて調べることは簡単だ。でも、それだけはやりたくない。してはいけない。そういうものなのだ。

 

「ジュリアに、聞くだけじゃないデスカ。」

 

 それが嫌だから言ってるんでしょうが。

 

 ジュリア。俺を警察署に連れて行ってくれたあの少女は、成長して立派な女性になっていた。

 ジュリア・K・コクラン。カール・コクランの実子。彼女なら、確かに反会長派の情報を持っているだろう。なにせ、彼女は今やカールの秘書だ。そして、同じ大学で学ぶ学友であり、俺にとっての恩人。

 恩人に、そんなスパイみたいなことをしたくない。そう俺が思うのは当然で、でも心を読めるこの人は、それを承知で俺に頼み込んだのだ。そのくらいは分かっている。でも、それでも。

 俺は、この人(ペガサスさん)を裏切れない。それだけの恩がある。

 でも、それはジュリアに対しても同じだ。申し訳ありませんが、この件はお断りさせていただきます。

 

「そんなことは百も承知です。デスガ、このままいけば駄目なんデス。ジュリアさんの為にも・・・。」

 

 ジュリアの為、と言えば俺がホイホイと乗るとでも?そういう訳じゃないのは分かっているのでしょう?

 

「・・・・。」

 

 黙りこくるペガサス会長に、俺は失礼します、と言って会長室から出ることしか出来なかった。ペガサスさんに何か考えがあるのは分かっている。でも、それ以上に俺はジュリアにそれをすることが出来ない。ペガサス会長以上に、俺はジュリアに、恩以上のものを感じているから。

 

「待ちなさい。」

 

 至極真面目な声で、会長は俺を引き留めた。そこには普段は片目を隠すように髪を下していたペガサスさんがいる。そこには、俺が知る通りなら千年アイテム、その中でも強力な部類に入る効果を持つ、『千年眼』が・・・。

 

 ない。

 

 千年アイテムがない。千年眼がない。

 

 どういうことだ。そしてどうして俺にそれを見せる。関係あるのか?その話と。

 

「千年アイテムは、とある少年に盗られてしまいました。いえ、そのことは問題ありません。これを抉り出されたことで、私は一時的に意識を失い、意識不明に陥りました。

 問題は、その後です。この怪我で私の仕事が滞りました。そのことを不審に思ったのでしょうね。副社長は独自に私に関する調査を行いました。」

 

 気が変わった。俺は会長の話をじっと聞いている。ペガサスさんはどこか遠くを見るように、私に話しかけた。

 

「彼は、私がもう『心を読む力』を失ったのを知ったのデース。この会社がここまで大きくなったのはこの力があっての事デシタ。彼にとっての目の上のたん瘤であったワタシに、利用価値がないのを悟ったのデース。心を読めないワタシは、ただのアーティスト風情でしかアリマセーン。カールが何をするのか、わかるでショウ?」

 

 『心を読む力』。これがI2社の切り札だった。その効力を知っていたからこそ、副社長は出世に邪魔だった会長の存在を受け止めていた。その力が社に有効だと知っていたから、それを渋々受け入れた。

 でも、その(利点)が無くなった。と、なればペガサスさんはもう社にとっては有益になりにくい(・・・・・)だろう。ならない、という訳ではない。そう言い切るにはなまじ、今まで会長があげた利益が大きすぎる。

 ならば、いっそ立場を小さくするか、ペガサスさんより自身の存在を大きくする方向に走る。だが、大半の人間は前者を選択するだろう。相手の立場を破壊する(・・・・)方向に走ったほうが、圧倒的に楽だからだ。

 それが、人間だということを、俺はよく知っている。裏で死ぬほどみたから、そのことは誰よりも知っている。生産的な方向に心の底から生きることが出来る人間は、実は少数だということを。

 でも、事実そうはなっていない。

 現状、内部から何か工作が行われた、なんてことはなく、ペガサス会長の評判は、現状は今まで通り。むしろ、王国(キングダム)による売り上げの貢献に関して評価されているくらいだ。

 

 だから、少なくとも副社長はそう言うことはしていないだろう。

 

「だといいのデスが・・・。」

 

 そう言っても、ペガサスさんは納得していないようだった。まあ、無理もない。俺もカールさんのことはよく知っている分、それを否定できない。

 

「・・・何か分かったら、報告をお願いしマース。私の予感は、よく当たるのデース。それも、悪い予感が。」

 

 ペガサスさんの特性、きけんよちなんですかね。冗談半分にそう言ってみた。

 

「ポケモンに例えるのは止めまセンか?」

 

 しかも、微妙に使えないヤツ。そう言って笑うペガサスさんを見て、調子が戻ったように感じる。

 話は終わった。会長室のドアノブを回す。部屋を出ようとして、一つ思い出した。これだけは言っておこう。

 

 エドはスーパーマンよりも、バットマンの方が好きだと思いますよ?

 

 最後に、ペガサスさんが読んでいた漫画についてコメントを残し、俺は部屋を出た。「参考にさせていただきマース。」という言葉を、背中で受ける。予定の時間に間に合えばいいんだが、それは無理そうだ。仕方がないので携帯を開く。俺のいたころにはガラパゴス、なんて言われた型の古い携帯だが、これがこの時代の最新機器なのだから仕方がない。早々にiPhoneが出ることを待ち望むほかないだろう。

 

『ペガサスさんに呼ばれてた。少し遅くなる。』

 

 そうメールを打つと、数十秒と経たないうちに返信が帰ってきた。怒っているのか、いつもに比べて随分と無機質なメールだと思う。

 

『いつものカフェ。』

 

 ・・・いや、無機質、というレベルではないか。怒ってるなぁ、こりゃあ。

 こういう日は遅くまで付き合わされることが多い。飲む約束があるから、出来れば早めに切り上げたかったのだが、それは無理になりそうだ。仕方がない、そちらにも最悪メールを出すとしよう。

 

 

 

 

 

「遅い。」

 

 誠に申し訳ありません、お嬢様。

 

「お嬢様って年齢じゃない。」

 

 冗談だよ。そう言って俺も席に着く。ウェイトレスさんがメニューを持ってきてくれるが、それをやんわりと断っていつものを頼む。俺のことを覚えていたのか、メニューを断った瞬間に、「いつものですね。」と言われたので、少々気恥ずかしい。顔を覚えられる程度にはいるんだなぁ、と改めて自覚する。

 

「・・・今日は、大事な話をしに来たのに。」

 

 そう言わないでくれ。ペガサスさんの呼び出しは流石に断れない。

 

「そりゃあそうだけど、女としては男に約束事で負けるってのはなんか癪。」

 

 よって、ここの支払いはあなた持ちぃ!朗らかに笑う彼女は、まるで気にしていないかのようだ。もう5年になるから、こういう時の彼女は、本当に機嫌がいいか、それとも気丈にふるまっているか。

 こいつが何かを溜めやすいのは、長い付き合いで分かっているが、また何かあったんだろうか。

 大事な話。そう呼び出されたんだが、まるで見当がつかない。長い付き合いではあるのだが、大事な話、とまで前置きをされたことは一度もない。

 

「・・・いや、少し遊びに行こ。話す気分じゃ無くなったし。少し気分変えたい。」

 

 ・・・覚悟してきたのだろう。それも、よっぽど嫌なことだったのだろうか。こいつがそこまでしてきたのに、俺が遅れてきたせいで気が抜けたのか。悪いことをした。

 俺も、実は覚悟を決めてはいたのだ。だけど、それらは出鼻をくじかれた形になる。つくづく自分が嫌になる。間が悪いというかなんというか。

 だけど、遊ぶのにそんな顔をするわけにはいかない。必死に笑顔を作り上げる。向こうは、そんな俺を笑ってくれるだろうか、少し不安になった。

 

 

 

   ◇

 

 

 

「珍しいな、お前が飲みに遅れないなんて。」

 

 俺、そんなに遅れた覚え無いぞ、紅葉。

 そういう俺に、「そんなことないさ」と言ってこいつはグラスに入った酒をあおった。お前は最近忙しいからな。そう言って笑うこいつに、多少むかつくところがある。

 俺たちがいるこの場所は、所謂バーだ。日本と違い居酒屋、なんて場所がないアメリカ。あるのは少々年季の入ったバーと、レストランのような場所くらいしか酒を飲めるところはない。日本酒を飲んでみたいとは思うのだが、この時代にそんなのを置いているのは上等なレストランだけで、そして野郎二人でそんなところに入るような気はさらさら無かった。

 つか、そういうお前はなんでそんなに時間に余裕があるんだよ。お前、最近引っ張りだこだろ?チャンピオン様?

 

「大学に行ってるわけじゃないし、メディア露出は殆どない。よって、試合のある日以外は暇なのさ、プロは。」

 

 そう言って笑う紅葉に、俺は殺意が沸き上がる。俺があれだけ働いて、学費云々を別にしても、どれだけ頑張っても給料は約30万が限度だろう。それに対し、多少暇にしているこいつの給料の方が上なのが解せない。働く時間で言ったら軽く倍になるのに。

 

「その辺もチャンピオンなのさ。」

 

 うっせぇ、みどりに未だに勝率0のくせに。

 

「姉貴は・・・もう、なんていうか別次元だから。」

 

 ・・・ああ、うん。まあ、相性悪いよなぁ。

 紅葉の使う『HERO』は融合を主軸に添えてる分、手札消費が多い。その分効果が強力なモンスターが大量にいる。コントロールを奪った後にそのまま融合素材にできる、非常に強いテーマだ。攻撃力半減効果を持ったガイアやGreat TORNADO。HEROの弱点である手札消費を抑える効果を持ったノヴァマスター。打点を上げるならエクスリダオ。そして何よりの切り札は、アブソルートZeroの全体除去効果や、強力な壁になるCoreもいる。

 だが、その何よりの弱点は、融合体を破壊された時のリカバリが効きにくいことや、特定のカードが手札にないと戦いにくいということだろう。

 それに対し、堕天使の効果はサポートカードの対応が広いうえに、墓地肥やしが容易。おまけに、特殊召喚も容易で、決まったカードが必要、という訳ではない。下手をすれば融合の天敵であるクリスティアや、遠回しではあるが、除去効果を持ったモンスターやコントロールを奪うカードもある。強いてあげるべき弱点は堕天使自体も特殊召喚に依存していることと、手札事故を起こしやすいこと、ライフコストが重たいこと・・・なのだが、天使の施しや強欲な壺が未だに制限カードであることを考えると、少し厳しいものがあるようにも思う。

 

「・・・どうやって勝ったのか聞いてもいいか?この前、お前が姉貴に勝ったのを聞いたんだ。」

 

 それを聞かれたところでお前には無理だ。そう言ったがしつこく食い下がるので、仕方がないから教えた。

 と言っても、本当にHEROで取れる手段じゃないのだ。俺がやったことは魔轟神 ディアネイラを出すことで、通常魔法の効果を一度封じたうえでシルバやゴルドの効果で手札やフィールドを破壊すること。堕天使はその構造上、通常魔法に大きく依存する。1ターンで展開することを考えるなら、必須と言えるのは堕天使の戒壇。そのカードにアクセスするカードである堕天使の追放。それをさらに引っ張っていくためのトレード・インの様な手札交換カード。そのどれもが通常魔法の為、魔轟神ディアネイラが真価を発揮したと言える。妨害カードが少ないHEROでは取れない手段だ。ダークロウ(害悪)が居れば話は別だろうが、残念ながら紅葉は持っていないので取れる手段ではない。

 似た手段をとりたいならいっそ、ハンデス三種の神器でも突っ込むか?

 

「それするともはやHEROの所業じゃない気がするからやめとく。」

 

 ははは、そりゃそうだ。

 それやったら、もうグッドスタッフとしてデッキ作ったほうが安定しそうだ。つか、そのカードこの前禁止制限リストのトップに書いてあったし、多分そろそろ獄中に放り込まれるだろうから、態々そのデッキ組んでも使える期間は短そうだ。I2社の禁足事項だから部外者には言わないが。

 

「・・・それで、どうなったんだ?」

 

 は?

 

「会ってたんだろ?ジュリアと。」

 

 ああ。

 そう言って俺は黙りこくってしまった。紅葉にジュリアの事を聞かれるのは予想出来てはいたが、それに対する答えを俺は持ち合わせていなかったからだ。

 紅葉は元々、ジュリアの友達(響みどり)の弟ということで紹介を受けて、友人になった。その肝心のみどりは、今は教師を目指して就活中らしい。と、言っても肝心のみどりは日本の大学に言っているため今はほとんど交流はないが。

 

 ・・・みどりは元気にしてるのか?

 

「あ、露骨に話そらした。」

 

 うっせぇ。そらしてくれてもいいじゃないか。

 

「ていうか、姉さんに関してはお前も知ってるだろう?連絡先持ってるんだし、仲いいし。」

 

 仲がいいのはあいつと俺のデュエルに対する発想が一緒だからだ。互いの近況報告をするような間柄じゃない。

 

「発想が一緒?」

 

 カードの悪用法だよ。悪夢の蜃気楼を墓地に送って4枚アドバンテージを取る、みたいなことを考えるのが、俺もあいつも好きなだけだ。

 実力伯仲やモンスター・スロット、ドロー・マッスルみたいなカードを、いかに上手く使えるか。苦渋の黙殺を使ってカテゴリを混ぜたりできないか。蠱惑魔デッキにアロマージを混ぜ込んだときの罠カードの比率と使いようとか。

 俺たちは、そういうことでよく盛り上がっていた。

 ジュリアもお前も、一つのカテゴリーしか使わないからそういうことはあまり考えないかもしれないが、俺もみどりも、どちらかと言えばいろんなカテゴリを片っ端から試していくタイプのデュエリストだ。

 まあ、最終的に俺は魔轟神や暗黒界といった悪魔族を好むようになり、みどりは堕天使を使うようになった。その自分に合うデッキを探すために、お互いが意見を交換していただけ。今じゃ多少話すことはあっても、そこまで頻繁に連絡は取ってない。

 

「・・・姉さんの堕天使に、どうしてモンスター・スロットが入っていたのか今分かったよ。」

 

 お、どうだった?あれは俺の案だ。

 

「スペルビアからイシュタムを出されて、エッジインプ・シザーのコストで戻したクリスティアをモンスター・スロットで特殊召喚された時はどうしようかと思った。

 ・・・サンダー・ブレイクでクリスティアを破壊しても、デッキトップに戻ったクリスティアを、もう一枚のモンスタースロットで出されるとか。」

 

 他にも、デッキから特殊召喚できないアスモディウスを手札から特殊召喚できるようになる。シザーで引きたくなかった『堕天使』カードを戻してユコバックで墓地に落っことすとか、面白い動き方ができるぞ。

 

「シザーを使わずに失敗しても、1枚ドロー出来るし、闇の誘惑も採用しているから、闇次元の解放での除外エリアからの特殊召喚を無理なく採用できるようになる、か。」

 

 俺はD・D・Rの方がいいとは思ったんだがな。手札を一枚捨てることが出来る(・・・・・・)。手札や場では使わない堕天使カードでも、墓地に落とせばやりようがある場面なんていくらでもある。

 まあ、みどりはライフアドバンテージやカードアドバンテージも気にして、少々遅いが解放の方を選んだみたいだが。

 

「姉さんの切り札はあくまでディザイアとルシフェルだから、出来る限り手札が欲しかったんじゃないか?生贄召喚するしゼラートもいるから、できるだけ手札は温存したいだろうし。

 それでもエッジインプ・シザーはないわ。シザー特殊からの列旋でルシフェル出てきて、デッキトップに戻したゼラートが出てきたときはもう無理だと思ったね。」

 

 その口ぶりだと勝ったのか?

 

「いんや。頑張ったほうだとは思うけど、最後の最後に戒壇からのモンスター・スロットのコンボで負けた。」

 

 ・・・鬼だな、それ。出てきたのはまたゼラートか?

 

「その通り。その様子じゃやられた?」

 

 やられたよ。まあ、温存しておいたデモンズ・チェーンで事なきを得たが。

 

「・・・妨害カード、もっと入れるべきかなぁ。」

 

 おまえはプロなんだし、客受けが悪いだろ?チャンピオン様。

 

「そうだけど、何かいいカードを探さないと。このままじゃどうあがいたって姉さんに勝てないし。」

 

 ・・・いいの考えておいてやるよ。HEROに似合うカード。

 

「お願いするよ。と、いうか姉さんや君たちとデュエルをすると、正直そこらのプロが緩く感じるんだよね。」

 

 まあ、期待はするな。というか、まともにやってあいつに勝てるような相手なんてそうそういないから。

 

「それ、暗に自分はそのレベルだって言ってない?」

 

 俺だって勝てないから、まともじゃない手(ハンデス)を使ったんだよ。勝ったってなんもうれしくない。ビートダウンで勝つのが一番楽しい。なにより、パーミッションは趣味じゃないんだ。

 

「趣味じゃないってだけで使わないとは言ってないんだね。」

 

 そりゃあ、そういう風にカードがデザインされているんだ。使わない手はないだろう?

 

「それ、矛盾してない?」

 

 してないんだなぁ、これが。

 

「お前のデュエルはビートダウンじゃなくてソリティアだと思うけど。」

 

 本当のソリティアは先行で終わるか蓋してるから温情温情。

 

「温情が温情になってない・・・。」

 

 それは言うな。お前のアブソルートも大概なんだから。まあ、潜海奇襲だけは教えてやろうとは思わないが。するならあれだけは自分で見つけろ。毎ターンサンダーボルトだけはごめん被る。

 そう言って俺たちは笑う。よかった、話の話題は変わったらしい。

 

「・・・まあ、いい。それよりも話を戻すよ。」

 

 変わった矢先にコレかよ、と思わず舌打ちをしそうになった。

 何かあったの?ジュリアと。そういう紅葉には、確信めいた何かがあったらしい。えらく核心をついてきている。

 こういう時の紅葉は、おそらく何を言っても話題を逸らしてはくれないだろう、そういうお節介(・・・)な奴なのだ。

 ・・・言いたくない。

 

「それ、通用すると思ってる?」

 

 紅葉は、俺の逃げは許してくれなかった。

 怒っている。紛れもなく怒っている。こいつ、ここまで察しがよかっただろうか。そう思うほどに、今の紅葉は普段とはかけ離れていた。

 普段のこいつは、そこまで察しはよくない。その反動と言っていいのか、察した瞬間や知った瞬間にお節介ともいえるほど過剰に世話を焼く癖がある。癖、と呼ぶには違うかもしれないが。そしてこれがこいつの魅力であったということを、俺は忘れていたようだ。

 カラン、とグラスの音がする。俺のグラスだ。どうやら、話し込んでいたせいで氷が大分溶け出していたらしい。グラスに口をつけ、一気に煽る。こうなりゃ自棄だ、酒の力でも借りて一気に言ってしまったほうがいいだろう。ついでにバーテンダーに、カシスオレンジを頼んでおく。女かよ、という目で紅葉に見られるが、どうにも酒は苦手なのだ、このくらいは大目に見てほしい。

 

 ・・・振られた。

 

 そう言った瞬間、ブフォオ、と噴出音が聞こえた。そういうこととは思っていなかったらしい。テーブルに水しぶきが散乱した。汚い。

 

「いや、汚い、じゃないよ!あ、ウェイターさんすいません、台布巾ありますか?」

 

 テーブルを掃除しながら、紅葉はどういうことなのかの説明を求めに来た。

 と、言われても説明には困る。実際問題、俺は告白する前に振られたようなものなのだ。

 元々、ジュリアには縁談話が舞い込んでいた。カールの実子というだけでなく、ペガサス・チルドレンでもある彼女には、そんな話は珍しくない。俺は例外として、それ以外の殆どがI2社に密接な関係であり、なによりそのほとんどが、戸籍上はペガサス・J・クロフォードの養子となる。コネクション、として非常に有用なのだ、要は。

 今回、それを受けることになった。あいつはそう言った。ようやく、俺も過去から吹っ切ろうとした矢先のこれだった。正直、予期してなかったわけじゃないが、それでも精神的に少しキている。

 今まであいつは、そういった類は断っていたのだが、何らかの心境の変化でもあったのだろう。いや、心境、というよりは状況、と言い換えるべきか。先日のペガサスさんの一件以来、ペガサス派の権力は狭まる一方、その分の勢力がカール派に移ったのも大きいだろう。ジュリアはペガサス派ではあったが、そのことを周囲に悟らせるようなことはしなかった。

 だが、それ自体は父親であるカールは気づいていたのだろう。カールはジュリアに嫌われていたが、それを見抜けないほど間抜けじゃない。大方、そのあたりが関係しているのだ、ということは俺にはわかっていた。

 分かっていた、はずだったのだが。

 

「未練満々、ってかんじだね。」

 

 そうそう諦めれねぇよ。5年越しの片思いだぞ。

 

「でも、仕方ないとも思っている。」

 

 そりゃそうだ。俺は一応『前科者』で『人殺し』でもある。でも、それを踏まえた上でもジュリアなら受け入れてくれるかも。一緒に背負ってくれるかも。心のどこかでそう思っていたのも事実だった。

 

「諦めるのか?」

 

 仕方がない。そもそも、カールさんは俺という存在を嫌っていた。今はうまくいっても、その後には続かなかっただろう。

 

「それでいいのか?」

 

 しょうがない。そもそも、ジュリアだって俺なんかじゃあ、告白したところで付き合うまで行く保障すらなかったさ。

 

「それ、本気で言ってる?」

 

 そんなわけないだろ。そうじゃなかったことだって、自惚れじゃなきゃ分かっていた。

 だけど、現実はそうじゃない。だから、そう思わないとやっていけそうにない。

 

「・・・そうか。」

 

 その落胆の声は、言外に意気地なし、と言われた気がした。でも、それを俺は否定することが出来ない。いや、きっとする気力もないのだろう。

 喪失感。俺の中はその感情で埋め尽くされている。どうしようのない虚無感が、俺を襲っている。あいつがどこか遠くに行って、俺は一人になるのだろう。そして、一人になった俺がどれだけ空しい人間であったのかを、それは思い出させた。

 

「・・・帰る。」

 

 紅葉を、俺は引き留めることはしなかった。あいつも、今の俺と飲んでも楽しくないだろう。どうせ飲むなら楽しく飲む。それが出来ない日なら早々に切り上げる。

 友達ではあるけど、傷を慰め合う親友じゃない。それが俺たちの今の関係。それに明日、リーグを終えた紅葉は日本の大会に挑むために帰国する。

 

「・・・また、一緒に飲みに来てくれないか。」

 

 でも、不思議とその言葉が口から出てきた。慰めてほしかったのか、それとも誰か人と関わりたかったのか、この時の俺にはわからなかった。

 でも、どこか紅葉は嬉しそうに笑ってて。

 

「その時は、その酷い顔を直しておけよ。」

 

 次はジュリアと姉さんを連れてこよう。そう言い残して、バーを後にした。会計をテーブルに残していく。

 でも、そうだ。せめてあいつの声を最後に聞いておきたい。諦めるのか、もがくのか、今の俺にはそれすら決意すらできないけれど、それでも一言声だけ。

 そう思って電話を掛けたが、あいつは電話に出ることはなかった。・・・手遅れだったのだろうか。

 悲しくなる胸を紛らわすように、俺は煙草に火をつけた。

 ・・・紅葉(友達)が倒れた、という知らせをみどりから受けたのは、それから一週間もたたない、昼下がりだった。

 

 

 

   ◇

 

 

 

 ・・・何があった、紅葉。

 ベッドの上の紅葉はボロボロだった。と、言っても体が、という訳ではない。倒れた、と言っても貧血のようなもので、疲れがたまったのだろう、と医者は言っていたらしい。そりゃあそうだろう。これは疲労のようなものだ。だが、その疲労の原因が違う。

 

「・・・わざわざアメリカから来てくれたんだ。そこまで大したことじゃないのに。」

 

 そう言って笑うあいつに殴り掛からないことで精いっぱいだった。それがまともに見えるか。

 いや、大半の人間にはそう見えるのだろう。事実、彼の体はどこも異常はない。衰弱してる以外には。だけど、その心臓だけは違う。そして、そのことは紅葉も気付いているのだろう。

 気付いてなければおかしい。こいつも、精霊は見える人間だ。あいつの精霊であるアブソルートも、こいつの現状を横で歯噛みしながら見守っている。

 その『呪い』、どこで受けたか心当たりくらいはあるんだろうな。そう言うと、紅葉は笑って流そうとした。

 まるで、俺には絶対に教えるつもりがないかのようだった。

 ふざけるな、と言いたかった。だけど、言えない。俺とこいつは傷をなめ合うような仲じゃない。そう思った。

 でも、これはないだろう。このままいけば、こいつは死ぬ。それが、俺には理解できてしまう。そして、それを分かったうえでこいつは俺に何もするなと言うのだ。

 

「・・・そういう訳じゃないさ。」

 

 じゃあどういうことなんだよ。

 

「お前も、こうなるかもしれない。」

 

 それがなんだ。そうならないかもしれないだろ。

 

「そうなったとき、誰かが死ぬ。あれは、そういうゲームなんだろ?」

 

 それがどうした。お前も死ぬかもしれないじゃないか。

 

「俺はいい。でも。」

 

 そんなわけあるか!そう叫んで、俺ははっとした。いくらなんでも、こいつがそこまでするのは不自然だ。つまり、何か目的がある。これだけ何も言わない、ということはつまり。

 

 お前、だれかをかばってるのか。

 

 ビンゴだった。明らかな反応がある。だけど、それだけじゃないような気もした。

 こいつの言い方は、まるで何かを隠しているかのようだった。そして、この俺に対する心配様。

 俺には関係ない、と言ったあの言い方。

 そして、俺が負ける、と確信したあの物言い。

 最後に、振られたと言った時の紅葉と、何故か電話に出なかったジュリアの姿が脳裏に過った。

 俺が、何かに気が付いたことに、紅葉も気が付いたのだろう。苦々しい顔で俺を見る。

 

 ・・・その呪い、ジュリアも気付いていたんだな。

 

 そう言うと、観念したように紅葉は手をあげる。ホールドアップ。降参の意。

 

「・・・お前と飲みに行った日の3日前だったかな?リーグ戦が終わった後にジュリアと会ったんだ。」

 

 その時に気付かれた。紅葉はそう言った。

 

 事の次第はこうだ。

 リーグ開始前日の開会式の夜、紅葉は一人のファンにねだられて、デュエルをした。ファンの頼みを断るには少々気が悪いので、受けることにしたらしい。少々様子がおかしかったらしいが、緊張しているのかと、その時は気にも留めなかった。

 だけど、それがいけなかった。

 紅葉は、途中で異変に気が付いた。妙に周りが静かだったのもあったが、それ以上にダメージが実体化していたことに気が付いた。

 闇のゲーム。気が付いた時には負けていた。でも、相手は命を取らず、そのまま闇に消えていった。

 そこまではよかったかもしれない。少々自信を失っただけだ。その程度なら問題はない。だけど、日に日に、それもデュエルをするたびに体調が変化する。一時は本当に顔色が土色になっていたらしい。

 そのことに違和感を覚えたみどりが、ジュリアに相談し、試合の後に会ったのが、俺と飲みに行った日の3日前。ジュリアは、一目見て呪いに気が付いたらしい。

 ジュリアは俺よりも呪いや精霊の力に長けている。それ故に、俺が気付かなかった呪いに先に気が付いたのだろう。ジュリアは衰弱の原因を探るために調査を行っていた。

 

 そして、こいつの口ぶりからして、おそらくジュリアは・・・。

 どうして、俺に伝えなかった。伝えていれば、協力して犯人を追うことだって出来た。

 

「ジュリアがお前を頭数に入れてないんだ。何か理由があったんだろうと思った。それに、振られたって聞いて、言うのも憚られた。」

 

 そんなこと言ってる場合じゃなかっただろ。

 

「その通りだ、ごめん。」

 

 いや、そうじゃない。紅葉を責めてもどうしようもない。紅葉だって被害者だ。

 それに、ジュリアが負けた(・・・・・・・)ところを想像できないのも事実だった。少なくとも、俺にはできない。俺たち4人の中で一番強いのがジュリアで、その次に俺か、それともみどりだろう。いや、勝率で言うならもしかしたら俺よりもみどりの方がジュリアに勝っているから、もしかしたらみどりの方が強いのだろうか。

 そんな彼女が負けた、というのは確かにジョークかと思ってもおかしくはない。なにより、ジュリアが負けた時には紅葉は俺と一緒にいたのだ。言っていたところで手遅れだっただろう。

 だけど、何で秘密にしようとしたんだ。

 

「・・・姉さんに口止めされてた。」

 

 お前が気にすることを分かってたんだよ。そう言ったが、つまり俺の周りの人間は全員知っていて、俺だけが蚊帳の外だったことには変わりはない。ペガサスさんも、多分知っていたはずだ。そうじゃなきゃ説明がつかないことが多すぎる。

 

「・・・ごめん。」

 

 そうじゃねぇだろ。

 そうじゃない。お前が今からしなければいけないことは、この呪いを解いて、生きることだ。そのために使えるものはすべて使う。それがお前のしなければいけないことだ。俺に謝ることじゃない。

 それとも、もうデュエルなんてしなくてもいいとか思ってんのか?まさか、死んでもいいとか思っているわけじゃないよな?

 

「・・・。」

 

 おい、なんとか言えよ。

 

「いや、引退しなきゃなってさ。そうしないと死ぬかもしれないとはいえ、さ。やっぱりやめたくないなぁって未練満々なんだ。」

 

 その言葉に、正直驚いた。こいつは、意地でもデュエルをやめないやつだと思っていたから。それくらいにデュエルに情熱を注いでいたし、こいつ以上に楽しくデュエルするやつを俺は知らない。4人の中で一番弱いのが紅葉だが、一番楽しそうに戦うのも紅葉だった。

 だからこそ、この状況が口惜しくてたまらない。デュエルは好きでも、比較的どうでもいいと考える俺だけが無事で、俺よりもデュエルが好きで、命すらかける勢いだった紅葉が、こうしてデュエルをあきらめなければいけない。皮肉にしてもほどがあるし、笑えない。そして、それはジュリアにも言えたのだ。

 

「それにさ、嫌なことだけじゃないんだ。最近、この病院で知り合った子供がいて、その子もデュエルが好きなんだそうだ。この子がまた楽しそうにデュエルする子でさぁ、その子に俺のデッキを託すのもありかもしれないな!」

 

 それでいいのか。本当にそれでいいのだろうか。本当に、こんな結末でいいのかよ紅葉。

 

「いいんだよ。これ以上俺のせいで犠牲になることはない。お前までジュリアのようになるほうが、俺にとってはつらいんだ。」

 

 それでいいのか、紅葉。

 

「だからさ、お前は俺の事なんか気にしなくていいんだ。」

 

 そういう紅葉に、俺はもう意識を向けてはいなかった。帰国の便を早めて、ペガサスさんのところに向かう。向こうについたころにはもう真夜中だったが、そんなのはお構いなしに、俺はペガサスさんに突っかかった。そして、そのことはペガサスさんも予期していたようだった。

 

「全て、知ったのデスネ。紅葉ボーイから連絡が来ていマス。」

 

 乗ってください。リムジンに乗せられ、連れ出された先は病院だった。嫌な予感は的中していたことを悟った。いや、本当は分かっていた。紅葉のあの口ぶりから、ジュリアがどれだけひどい状況なのかは察することは出来ていた。

 

「この部屋です。」

 

 そう連れてこられた個室には、いつもと変わらないジュリアの姿だった。よかった、安心した。まだ彼女は無事だったのだ。正直、このまま霊安室に連れていかれたらどうしようかと考えていた。

 ジュリアは眠っていた、ベッドの上で。外傷もなく、いつも通りの姿だった。病衣に身を包んでいるものの、それ以外に問題はない。

 起きろ、ジュリア。もう昼だぞ。そう言って、俺はジュリアを起こそうとする。寝ているところを起こすのは申し訳ないが、心配させた罰だと思え。

 

「ジュリアは、起きまセン。」

 

 そんな筈はない。だって、寝てるだけじゃないか。

 

「・・・ジュリアは、もう一週間もそこにいマス。」

 

 その言葉に、俺は固まった。

 

「倒れた場所はアリーナの近く。ジョギング中の家族が見つけました。医者の話だと、倒れた原因は不明。どこからか生気でも吸い取られているみたいだ、と言っていたそうデス。」

 

 そんな筈はない。だって、こんなに綺麗に寝ているじゃないか。こんなに安らかに寝ているじゃないか。

 

「ジュリアは、もう・・・。」

 

 そんな筈はない!だって、ジュリアは、この間会った筈だ。それなのに、それなのに!

 

・・・いや、本当は分かっている。

 

「ジュリアは、精霊の呪いに敗れたのデス。」

 

 分かっている。

 

「受け入れなさい、これが現実です。」

 

 分かっている!

 

「・・・事件の詳細です。ここに、置いておきマス。」

 

 ペガサスさんの言葉をただただ拒絶するだけの俺に、心の整理に時間が必要だ、と判断したのか。ペガサスさんは資料だけを置いて、俺をジュリアの病室に置いていった。

 遠くからエンジン音が聞こえる。恐らく、ペガサスさんの車の音だろう。自然と遠くなっていく音を聞きながら、俺は茫然としていた。

 どれくらい時間がたったのかは分からない。彼女の様子をただただじっと見つめながら、俺は実は起きてくるんじゃないか、なんて甘い考えを抱いていた。でも、そんな願いは空しく、物音ひとつさせない彼女の様子に、現実に打ちのめされる。

 

 ・・・ジュリア。

 

 どうして、教えてくれなかったんだ。呪いのことだって、お前ほどじゃないが役に立てた。そうなる前に、対策だって立てれたかもしれない。お前じゃなくて、その呪いを代わりに受けることだって出来たはずだ。

 あの話をする前から分かっていたことだったんだから、その時に教えてくれたってよかったじゃないか。

 

『今度、見合いをすることになったの。受ければ、多分婚約まで行くと思う。』

 

 そう聞いた瞬間に、頭が真っ白になった。

 

『あなたはどう思う?』

 

 そう言った彼女に、俺はお前が幸せなら祝福するよ、としか言えなかった。だって、それ以外に何が言えるのか。何が言えたのか。

 あいつは、ただ一発俺を殴っただけでどこかに行ってしまった。信じられるか?グーで殴ったんだぞ?せめてビンタだろ?という疑問はそのまま彼女の表情で消え去った。

 でも、それ以上は俺には言えない。今まで俺はあそこで暮らしたのだ。スラムで過ごし、カジノで過ごし、裏社会で生きた。そんな俺を救ってくれたのは他でもないお前とペガサスさんで、そんな人たちに、俺のわがままでこれからの人生を変えてほしくなんかなかった。

 でも、こんなことになるなら、いっそ伝えればよかった。そうしたら、この結果は変わったのだろうか。

 

「好きだ。」

 

 思わず口からこぼれた。

 

「お前が好きだった。」

 

 覆水盆に返らず。ぶちまけられた(言葉)はもう戻らない。気付けば、起きない彼女に思いの丈をぶつけていた。

 全てを言い終わったとき、言いようのない虚無感に襲われた。もう、俺の好きな彼女はいない。半植物状態となった彼女には、もう何も届かないだろう。紅葉よりもはるかに呪いに満たされた彼女は、その元凶を取り除いたとしても、その呪いをかけた相手を倒しても、もとには戻らないかもしれない。

 

 でも、それでもいい。

 

 それでもいい。この言いようのない虚無感を晴らすことが出来るのなら、それでもいい。それに、もしかしたら、万が一にも呪いが晴れてくれるかもしれないじゃないか。

 そう決めた後、最後に彼女の顔を見た。病衣に身を包む彼女を見た。

 色んな彼女の姿が脳裏を駆け巡る。上物の服を着ながら、実はパンクファッションが好きだ、と笑っていた彼女。大学の式に着物を着たかったと言っていた彼女。泣いている姿、笑った姿、怒った姿、悲しそうにしている姿。最後に、あの時俺を警察署に連れて行った彼女の姿と、ついこの間の殴られた時の顔を思い出した。

 

 ・・・そう言えば、彼女の婚約話はどうなったのだろう。十中八九おじゃんになっているだろうが、それでも気になった。

 もし、彼女の婚約話が流れたのなら。このまま彼女が誰の物にもならないのなら。

 

 叶うなら、彼女の呪いが晴れませんようにと、卑怯な俺はそう願ってしまった。

 

 

 

    ◇

 

 部屋を出た後、ペガサスさんに渡された資料を見る。被害はジュリアが調べた数日で判明しただけで二十件。ジュリアを含めて二十一件。始まったケースは、紅葉が最初で、共通することはアリーナ、もしくは大会会場の近くの午後6時あたりから行われていること、か。つまり、ここ三週間の間に何かが起こったことになる。

 ジュリアが調べただけで、二十件以上も判明した。今はもう、被害者の数はとんでもないことになるだろう。それだけの力、今までなぜ出てこなかったのか。なぜ、今になってそれが活動した?

 三週間以内で起きた大きな出来事。グールズでも動いたか?いや、あの組織はコピーカードで大規模に活動こそしているが、流石に精霊のカードを作り出した、なんてことは聞いていない。なにより、もう解散していたはずだ。これも違う。

 なら、ここ三週間以内に新たに精霊のカードが生まれた、もしくは復活した?考えにくい。ここ一ヶ月フェニックスさんの件で既存のパック収録以外のカードの製造業務は滞っている。これも違う。

 なら、何が原因だというのか。他にここ三週間以前で起きた、大きな出来事。ワルキューレ事件、違う。オレイカルコス、違う。海馬コーポレーションの『ユベル』の入ったタイムカプセルの打ち上げ、違う。何か、他に事件があったはずだ。

 

 考えろ、考えろ、考えろ。少なくともここ一ヶ月に、何かが起こった。時期は多く見積もっても二ヶ月以内。その合間に起こった事件。

 カード関連じゃなくていい。強盗、傷害、殺人、未遂・・・、殺人?

 そこまで考えて、一つの事件を思い出した。フェニックス氏殺害事件。彼が死んだことで、何が起こった?

 新カード含む資料の紛失、および流出。彼が受け持った仕事の滞り。そして、『D』のカードを含む、完成版のカードとプロトタイプのカード数十枚(・・・)の紛失及び盗難。

 紛失されたカードのうち、そのほとんどが彼の息子であるエド・フェニックスが所持していたことが分かった。それもそのはず、そのプロトタイプ含め、完成品のカードは、その息子のために作られていたのだから。

 でも、もし、そのカードの中に、精霊のカードがあったなら。呪われたカードがあったのなら。

 

 大急ぎで、I2社に戻り、リストを確認する。紛失が確認されたカードのうち、『D・HERO』を始めとしたカード、その殆どが棒線で消されている。これらはエドが持っていたカードだろう。これらは除外しても構わない。あのカードに、そこまで強力な精霊は憑いていなかった。

 問題は、無くなったほう、消されてないリストの方だ。『D-HERO ディアボリックガイ』のプロトタイプデザイン、『D-HERO Bloo‐D』、『D‐フォース』、『D‐HERO ダークエンジェル』、これらは、『D』の中でも強力なカードたちだった。可能性あり。

 他は・・・未開発のカード関連には手を付けられた形跡なし。なら、あの精霊世界(DT)は関係ないのかもしれない。自分の精霊に聞くことは出来なさそうだ。

 後は、『ディアバウンド・カーネル』か。可能性はある。これは、確かペガサスさん直々にデザインしたカードのはずだ。強力な精霊の力を宿していたから流出しないようにフェニックスさんの家で厳重に保管していたはず。これが無くなったのか、と思ったが、これは幸いにも一時的にI2社の方で保管していたため問題なし、か。

 まて、よく見ればこのリストは旧型のリストだ。最新版はどこに・・・あった。このファイルか。しかもアクセス履歴が一週間ほど前になっている。ジュリアの倒れた日と同じだ。

 おそらく、このファイルをジュリアも見たはずだ。俺と同じ考えをしているなら、これでジュリアも答えを得た。だからこそ、あの日、俺と別れた後に倒れた。

 紛失した、『D』関連以外のカードはそのほとんどが見つかっている。フェニックスさんの残した資料を整理するうちに、ある程度は見つかり、ある程度は地元のカードやで売られていた。それらは全て回収済みであることも分かっている。それ以外に紛失したカードは二枚。

 一つは研究用に残された『神』のコピーカード。これに関しては重要性は高いと判断され、今なお捜索が行われている。しかし、神のカードは使ったものに害を及ぼすのであって、闇のゲームを強制的に行えるわけじゃない。マリク・イシュタールが使った時は、あくまで闇の力は『千年アイテム』によって生み出された。これは違う。

 なら、これだ。『トラゴエディア』。ペガサスさんが見つけた、古代エジプトの割れた石板から着想したカード。その割れた合間にも石板が嵌め込まれており、それらが封印を表していた。それらのカードごと、ペガサスさんは『プラネット・シリーズ』として蘇らせ、それらを大会の景品にした。だが、トラゴエディアは余りに強力な精霊になってしまったため、しばらくの間はフェニックスさんの預かりになっていたらしい。

 プラネット・シリーズに関しても、資料が残っている。誰がそのカードを手にしたのか、その中には、紅葉の名前も記されていた。

 もしかして、と連鎖的に疑問がわいてくる。そしてその予感は的中した。襲われたうち、その半分以上が大会の有力者であり、そのうちの紅葉を含む2人が、プラネット・シリーズの所有者だった。

 プラネット・シリーズ狩り。これが『トラゴエディア』の狙いなのか?いや、そうとは思えない。それなら、このリストに記されている人を片端から狙えばいいだけだ。これの情報自体は、ネットを使えば時間はかかるかもしれないが、十分入手できる範囲と見ていいだろう。

 ・・・もしくは、犯人はネットの情報が手に入りにくい、とも考えられるが、流石にそれはないだろう。そうであるなら犯人は浮浪者になってしまう。

 なら、他に狙いがある。紅葉の呪いをかけたやり方から見て、相手は生気を吸い取ることを念頭に置いているようにも感じた。つまり、相手の狙いは、プラネット・シリーズではなく、強力なデュエリストのエネルギーを吸い取ることと考えられる。封印を解くのは二の次にしてはいるが、あわよくば、と言ったところか。

 

 精霊、トラゴエディア。クル・エルナ村の精霊。世界を滅ぼす、神程の強力な精霊ではないため、こうして重要度が下がってしまったのだろう。だからこそ、急いで回収しろ、とはならず、こうして今まで放置されていた。

 

 そして、紆余左折を経て、今誰かが精霊を操ってこの事件を起こしている。もしくは、この精霊そのものが人を操ってこの事件を起こしたのだろう。

 だが、それだけだ。手がかりが少なすぎる。事件の起こった場所はまちまちで、そのほとんどがアリーナの近くで行われてはいるものの、それ以外にめぼしい共通点がない以上、これ以上は調べようがない。

 

 仕方ない。今日はとりあえず近場のアリーナに行ってみようか。そう考え、I2社を出た時、『それ』に出会った。

 

 そして理解する。どうして紅葉が頑なに犯人の特徴を告げなかったのか。どうして紅葉とジュリアが負けたのか。どうして、『プラネット狩り』を効率よく進めようとは思わなかったのか。どうして、犯人の行動した時間帯が夕方以降に限定されていたのか。

 

 そりゃあそうだ。

 

 相手が子供(・・)なら、誰だって手加減する。闇のゲームだというのなら、優しい人間ならわざと負けに向かってもおかしくはない。その存在を知っている良心ある人間なら、子供に危害が及ばないように敗北してもおかしくはないだろう。ジュリアも紅葉も、そういう人間だ。

 時間帯も、周囲に怪しまれないように行動するために、子供が出ていてもおかしくない範囲で行われていたから。ネットは、扱い方がまだわからない子供だったから。親のいないところでネットを扱うには、9歳くらいの女の子では厳しいものがあるだろう。そこまでコンピューターが世間に浸透していないこの時代ではなおさら。

 

 そして、紅葉が俺にこのことを教えなかったのは、あいつが俺のことをよく知っていた(・・・・・・・)から。

 

 デュエルだ、トラゴエディア。

 

 そう言った瞬間、女の子の口元が、三日月のように吊り上がった。

 

 

 

 その後の顛末は、あまり語ることはない。容赦のある紅葉やジュリアとは違い、俺はこういうデュエル(命のやり取り)に慣れている。結果として、ドラゴエディアの封印には成功した。

 

 でも、俺の願いは空しく(叶えられ)、ジュリアが目を覚ますことはなかった。

 

 

 

 

 




魔轟神新規ください。それから、何かおかしな点等ありましたらご指摘お願いします。

時系列は、大体初代が終わったあたりだと思っておいてください。アテムは冥界に帰りました。

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