遊戯王GX ~もしもOCGプレイヤーがアカデミア教師になったら~   作:紫苑菊

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デュエルが・・・デュエルが長い・・・。
もう二度とこんな長いデュエルは思いつかないそう思う作者でした。

2/15 ライフ計算を間違えて、十代が敗北したはずなのにデュエルを続行していました。訂正しました。
アブソルートZeroが融合解除でエクストラに戻るはずが墓地に行っていました。訂正しました


第14話

     ◇

 

  沖田 LP4000 手札2(暗黒界の尖兵 ベージ、魔轟神クシャノ)

    フィールド 暗黒界の門

          魔轟神ヴァルキュルス

          魔轟神レヴュアタン

          琰魔竜レッド・デーモン

          レベル・スティーラー

 

  十代 LP4000 手札6(ブレイズマン、クレイマンを含む)

    フィールド E・HERO エアーマン

 

「俺のターン、ドロー!手札から、クレイマンを守備表示で召喚。そして、カードを2枚セットしてターンエンド。」

 

 今できることは、他にもあった。サンダージャイアントを召喚することもできたし、ブレイズマンで融合を手札に加えてもよかった。でも、それを召喚しても状況は変わらない。それなら寧ろ・・・。

 伏せた2枚のカード。それを使えば、あるいは・・・。

 

「ドロー。」

 

 ドローフェイズ。そしてスタンバイフェイズ。通してメインフェイズまで移動した。

 

「・・・成程。成程成程。」

 

 そう言って、先生は何か納得したかのよう。

 

「その二枚、こちらがアクションを起こした時に発動するタイプだね。」

 

 その瞬間、思わず伏せたカードを見る。確かにそうだ。伏せたカードは、どちらも先生が攻撃しないと使えないカードだった。

 思わず先生を見る。なぜ分かったのか、と。

 

「・・・全く、君はポーカーフェイスを知らないのか?」

 

 え?

 

「・・・伏せカードなんて、大抵が相手がアクションを起こした時に発動する物だろう。改めて普通のことを言われただけで動揺するのは、愚者の極みだ。」

 

 ・・・そう言われればそうだ。

 

「まあ、君が伏せたカードは想像がつく。

 ミラーフォースか?それなら確かに延命できるな。おまけに一発逆転できる。攻撃の無力化?それでも可能だね。

 だけど、クレイマンを召喚する意味はない。壁が必要な状況か、もしくはクレイマン、ないしはE・HEROがいる時のみに発動できるカードの可能性が高い。いや、E・HEROがいる場合限定の罠ならエアーマンがいる。となれば条件はクレイマンがいること。

 よし、内1枚は大体の想像はついた。ならもう一枚・・・か。」

 

 そこまで言うと、先生はヴァルキュルスの効果を発動させた。またクシャノを墓地へ送るつもりなのだろうか。

 

「手札の、魔轟神クシャノを手札から捨てて、カードを一枚ドローする」

 

 先ほどから効果を墓地で発動しているクシャノが、また墓地に行く。これでまた、好きなタイミングで魔轟神の効果を発動できるようになった。

 

「門の効果で、手札のベージを捨てて墓地の暗黒界の術師 スノウを除外し、ドロー。ベージは自身の効果で特殊召喚される。」

 

 ベージ。暗黒界がフィールドに現れたということはつまり。

 

「グラファの効果で、暗黒界の尖兵ベージを手札に戻すことでカードを一枚ドローする。」

 

 こいつのご登場というわけか。へぇ、攻略し甲斐がある。

 

「・・・その顔、グラファだけでなく、こいつら全員を倒そうと画策しているのか。」

「もちろん、それがデュエルだぜ。」

「だとしたら甘いことこの上ないな。俺は、今の一連の流れで伏せカードの大体の見当をつけたぞ。」

「なんだって?!」

 

 その言葉には確固たる確信があった。だからこそ驚く。さらに言うなら、後ろの三沢もカイザーも驚きを見せていたし、翔や万丈目は疑いの目を、明日香は少々の絶望感を見せていた。

 

「今、行動したのは大まかに分けて3つ。ヴァルキュルスの効果、門の効果、ベージとグラファの特殊召喚。そして、その二枚はどちらも発動しなかった。いや、目線すらいかなかったところを見ると、発動タイミングを逃していると考えるべきだ。

 サイクロンのように、魔法罠を割るなら門に、禁じられた聖杯のように、効果に干渉するカードならヴァルキュルスに、落とし穴系統や激流葬みたいなカードなら、ベージか、それともグラファに発動させただろう。これら全てのカードは、それぞれが単体で厄介な効果を織りなす。発動しない理由がない。

 

 つまり(イコール)、そのカードはそのどれでもない。ということは自身に干渉するタイプ、そのモンスターを守るカード、蘇生札、そして攻撃反応系(・・・・・)のカード。

 ・・・素直だな。攻撃反応系、と聞いた瞬間に伏せたカードを見た。そして、クレイマンを召喚し、なおかつ君が最近使用したカードで該当するもの・・・『クレイ・チャージ』か?そしてそれに相性のいいカードなら『立ちはだかる強敵』のように攻撃対象を限定させるカードも伏せているのか?いや、もしかすればクレイマンというよりは防御力で見るべきか?なら、『仁王立ち』と『立ちはだかる強敵』の二枚の可能性もあるのか。だが、それだとわざわざクレイマンを手札に加えた意味が分からない。やはりクレイチャージ、と見るべきか。

 まあ、その程度なら問題はない。それから、目線で注意されているのにそれでもまだ目線を行き来させるのは止めたまえ。もうネタバレはしているが、だからと言って確定と推測には雲泥の差がある。」

 

 そう言うが、あまりにもドンピシャすぎて、驚くなというのが無理だろう。確かに、伏せられたカード二枚は『クレイ・チャージ』と『立ちはだかる強敵』。クレイマンを立ちはだかる強敵を打ち、クレイチャージで一体を道連れにするつもりだったのだ。

 

「だが。それも意味はないな。暗黒界の龍神グラファで攻撃、対象はエアーマン。」

 

 エアーマンは成す術なく破壊される。済まない、エアーマン。

 

「魔轟神レヴュアタンでクレイマンに攻撃。」

 

「罠発動、クレイ・チャージ!クレイマンが攻撃されたとき、相手モンスターとクレイマンを破壊して800のダメージを与える!さらにチェーンして、立ちはだかる強敵をクレイマンに対して発動!」

 

 クレイマンがレヴュアタンに一矢報い、爆散した。だが、これで一体は仕留めて・・・。

 

「その程度は織り込み済みだ。魔轟神レヴュアタンの効果を発動。破壊された時、墓地に存在する魔轟神と名のついたモンスター3枚を墓地から手札に加える。加えるのは、魔轟神グリムロが二体、そして魔轟神レイヴン。」

 

 そんな効果が・・・。先生の手札が、7枚にまで回復している。ライフは800削ったが、今の状態じゃ微々たるものだ。

 

 沖田 LP3200 

 

「メインフェイズ2に入る。」

「えぇ?!なんでヴァルキュルスとあのドラゴンで攻撃しないんすか?!」

 

 翔が叫ぶが、それは違う。しない、のではなく出来ないのだ。

 

「翔、立ちはだかる強敵のせいだ。」

 

 そう切り出したのはカイザーだが、解説したのは先生だった。

 

「丸藤翔。立ちはだかる強敵は、対象としたモンスターが場を離れた場合、特殊裁定として、その他のモンスター、プレイヤーには攻撃宣言が出来なくなってしまう。だから、俺は遊城十代にダイレクトアタック出来ない。特殊だが、有名な話だ。」

 

 そう、その通り。立ちはだかる強敵は、その強敵が居なくなっても他には攻撃できなくなるという珍しい効果を持っている。それを主軸にするなら他にもカードはあるが、フレイム・ウィングマンや今みたいなクレイ・チャージと合わせて使うなら相性がいい。

 と、いうか翔。そんなんで昇進試験は大丈夫なのだろうか。

 

「まあいい。魔轟神ヴァルキュルスがフィールドにいるので、手札から魔轟神グリムロの効果を発動。デッキから魔轟神クルスを手札に加える。もう一枚の効果で手札に加えるのは、魔轟神獣チャワ。」 

 

 そして、また手札が入れ替わる。クレイ・チャージの破壊効果をうまく利用させられた。これで、また新たなシンクロモンスターを呼び起こせる。

 なんせ、このターン。まだ先生は通常召喚(・・・・)を行っていないのだ。

 

「・・・大方、クレイ・チャージをうまい具合に使われた、とでも考えているのだろうが、それは違う。元々、大方のあたりをつけているのだから、利用されるのはある意味必然だった。それともあれか?自分の行動で罠をバラしたようなものだったから、後悔しているのか?」

 

 先生は、読心術でも使えるのだろうか。まさしく、其のことで後悔している最中に、それすらも見破られた。

 

「反省するなら、相手からデュエル中に目を逸らさない訓練をしろ。罠を過信するな。相手の言葉は全て嘘だと疑ってかかるくらいで丁度いい。必要な情報だけを抜き取り、吟味しろ。そしてそれを相手に悟られるな。心理戦を仕掛けてくる相手なんて、星の数ほどいる。そんな奴らの挑発に一々引っかかっている気か?」

 

 ・・・あれ?

 言い方はキツイ。だが、その実励まされているような気がした。

 と、いうよりは実際励まされている。だが、それじゃあ今の状況と説明がつかない。

 どんどん、自分の気持ちと折り合いがつかなくなっている気がした。そして、そう思ったのは俺だけではないだろう。カイザーと、それから明日香もその違和感に気付いたのか、顔を歪ませている。恐らく、俺と同じ気持ちになったのだろう。

 これは、根拠のない結論だ。結論、というよりは推測に近い。願望に近い。理想に近い。

 

 だけど、もしかしたら。

 そんな気持ちを知ってか知らずか、先生はデュエルを続ける。

 

「だが、まあ。立ちはだかる強敵とクレイ・チャージのコンボは美しかった(・・・・・)。流石だよ、遊城十代。褒美だ。1000のライフを呉れてやろう。」

 

 え?褒美?いや、それよりも先生、また雰囲気(口調)が変わった?

 

「成金ゴブリン、1000ライフを相手が回復する代わりに、カードを一枚ドローする。」

 

 十代 LP5000

 

 ライフが回復する。大型モンスターが3体いるこの状況ではあってないようなものだが、無いよりはいい。

 だけど先生。その実、デッキ圧縮してるだけってことはないか?

 

「通常召喚、魔轟神レイヴン。そして、レベル8、暗黒界の龍神グラファにレベル2、魔轟神レイヴンをチューニング。」

 

 そして先生は足につけてある融合デッキを開き、目的のカードを取り出そうとしたその時。ふと、動きが止まった。

 

「・・・そうか、それが、お前たちの答えなんだな。」

 

 その呟きは、多分他の人には聞こえなかったのかもしれない。だけど、異変には気づいていた。

 なんせ、今までポーカーフェイスを貫いていた先生が、涙をこぼしたから。気付いたみどり先生が駆け寄ろうとするが、先生はそれを、大声でデュエルを続けることでそれを制止させた。

 カードを叩きつけるようにディスクにセットし、モンスターの名を叫ぶ。

 

「シンクロ召喚、魔轟神レヴュアタン!」

 

 レヴュアタン。再び現れたその悪魔は、今度はみどりさんから沖田先生を遮るかのように現れた。

 

「・・・いいでしょう。お前達が力を貸してくれるのなら、これほど心強いことはない。俺の道を、切り開いてくれるのか。俺とともに、進んでくれるのか。俺のこの選択に、愛想を尽かさないで居てくれるのか。

 なら、俺も覚悟を決めましょう。」

 

 そう、独白した先生は、空を見上げた。そこには、何もない大空があるだけ。先ほどの快晴は既に無く、ただ曇天が広がっていた。

 先生の手が赤く鳴っている。だけど、それは怪しい光ではない。先ほどの禍々しい光ではなく、もっと暖かい光。

 だけど、何故か。俺には、その光が不思議と泣いているように見えた。

 

「手札の魔轟神を捨てることで、魔轟神獣チャワは特殊召喚できる!チューナーモンスター、魔轟神獣チャワを特殊召喚!」

 

 現れたチューナーモンスターは魔轟神獣チャワ。レベル1、と先ほど現れていたレイヴンやケルベラルとはまた毛色が違うモンスターだった。

 

「見せてやろう、決闘龍、その真価を。」

 

 デュエル・・・ドラゴン?

 

「レベル8、レッドデーモンに、レベル1、魔轟神獣チャワをチューニング!」

 

 レッド・デーモン。現れたモンスター、その中でも一際強い力を持っていたモンスター。何かある、と思い警戒していたモンスターが、その力を更に上げてくる。

 

 初めて、かもしれない。こんなにデュエルで恐怖心が出てきたのは。

 

「深淵の闇より解き放たれし魔王。その憤怒を爆散させよ。シンクロ召喚!琰魔竜レッド・デーモン・アビス。」

 

 深淵(アビス)。その名を関したモンスターに相応しいカードだった。

 

「手札のクルスを捨てて、クシャノを回収する。そしてクルスの効果で、墓地のチャワをもう一度復活させる。」

 

 そして、チャワが再度現れる。そして、瞬時に炎の渦と化した。まて、もしかしてつまりは・・・。

 

「琰魔竜レッド・デーモン・アビスに魔轟神獣チャワをチューニング。」

 

 連続のシンクロ召喚。いや、もはやこれは進化、というべきだ。先生は真価、といったが、進化と真価を掛け合わせてでもしていたのだろうか、と現実逃避してみる。まあ、そんなことをしても一切状況は変わらないのだが。

 

「泰山鳴動。山を裂き地の炎と共にその身を曝せ。シンクロ召喚、琰魔竜レッド・デーモン・ベリアル。」

 

 深淵、からの悪魔(べリアル)。文字通り、泰山鳴動して現れた。地面を切り裂き出てきた新たな龍は、その大きさと迫力で、思わず委縮してしまいそうになる。

 そして、その攻撃力は3500。普通に突破するには少々厳しい状況ではある。なんせ、これであの青眼(ブルーアイズ)の攻撃力を超えるモンスターが3体、また並んだのだから。

 皆はグロ画像でも見るかのように目を逸す。もう、この状況では勝てないだろう、という雰囲気が滲み出ていた。カイザーは脳内でシミュレーションでもしていたのかもしれないが、だからと言ってこの状況がサイバーエンド一枚で突破できるなどとは思っていないだろう。

 

「カードを一枚伏せて、ターンエンド。」

 

 一枚の伏せカード。あれが何なのかは、全く見当がつかない。だが、変わらず4枚の手札がある状態、たとえ返せても更に3枚がレヴュアタンの効果で戻ってしまう。

 だが、まだ余裕はある。ライフは大量に残っている。手札もまだ4枚ある。ドローを合わせれば5枚。問題はない。絶対逆転できる。いや、するのだ。

 

「ドロー!強欲な壺を発動!デッキから二枚ドローする。」

 

 勢い良く引いたカード。それは、マイフェイバリットカードの一つ、フェザーマン、そして手札にはバーストレディ。

 そして、そこから組み立てる切り札への道のり。大丈夫、これなら・・・。

 

「手札から、E・HERO ブレイズマンを守備表示で召喚!効果発動!こいつは、デッキから手札に融合を持ってくるカード!融合を手札に加えて、融合を発動!手札のバーストレディとフェザーマンを融合し、融合召喚を行う!」

 

 そして出てくるのは、俺のマイフェイバリットヒーロー。

 

「E・HERO フレイム・ウィングマン!」

 

 フレイム・ウィングマン。俺の切り札。だけど、それだけじゃない。

 

「HEROにはHEROの、戦うべき舞台ってもんがあるんだ!摩天楼-スカイスクレイパー発動!」

 

 暗黒界の門が焼失し、新たに現れたのはHEROの舞台、摩天楼。ビルが蔓延るその頂点に、フレイム・ウィングマンが聳え立つ。

 

「バトルだ!魔轟神ヴァルキュルスに攻撃!行け、フレイム・ウィングマンの攻撃!スカイスクレイパー・シュート!」

 

 そして、この攻撃が通れば、フレイム・ウィングマンの効果と合わせて、3100の大ダメージが先生に通る。

 だが、この攻撃は通ることはなかった。レヴュアタンの後方、先ほど先生が伏せていたカードから、無数の鎖がフレイム・ウィングマンに襲い掛かったからだ。

 

「罠発動、デモンズ・チェーン。効果モンスターに対して発動可能。フレイム・ウィングマンの効果は無効化され、攻撃することは出来ない。」

 

 デモンズ・チェーン。それは、カイザーの時のデュエルでも使われていた。先生がサイバー・エンドの攻撃を止めるために使用したカード。攻撃を止められては、このターンは何もできない。

 仕方がない。プランBだ。

 

「カードを一枚伏せて、ターンエンドだ。」

 

 手札は一枚。今使えるものでは無かったが、問題はない。あとは、このカードがいつ発動できるか、ということと、スカイスクレイパーが破壊されないかにかかっている。

 

「ドローフェイズ、ドロー。スタンバイ飛ばしてメインフェイズ。」

 

 フェイズ確認。敢えて口を出したと言うことは、こちらの出方を伺っていたのだろう。

 その証拠に、先生の目は獲物を狙う鷹のように、鋭い眼光をこちらに向けている。

 

「・・・そうだ、表情には出すなよ、十代。」

 

 そう言って、先生はふっと笑った。

 

「だが、そのHEROは目障りだ。消えてもらおうか。バトルフェイズ。レッド・デーモン・ベリアルでフレイム・ウィングマンに攻撃。」

「HEROの戦闘時、攻撃力がスカイスクレイパーの効果で1000ポイントアップする!」

「だが、ベリアルには届かない。破壊されてもらおうか。」

 

 十代 LP5000→4600

 

 フレイム・ウィングマンと、それを拘束していた鎖が、ベリアルの攻撃で燃え尽きる。残るはブレイズマンのみ。

 

「ブレイズマンにヴァルキュルスで攻撃。」

 

 幸いにも、守備表示で召喚していたためダメージは入らない。だけど、場にはまだレヴュアタンが残っている。

 

「レヴュアタンでダイレクトアタック。」

「罠発動、ヒーロー見参!このカードは」

「カードの解説は不要だ!十代、何ならその残ったカードも当ててやろう。E・HERO エッジマン。違うか?」

「・・・その通り、流石だぜ先生。」

 

 まるで、手の内が全てバラされているみたいだった。デッキを丸裸にされたような錯覚。手の内どころか、やることなすこと全てが裏目に出ていくみたいだ。

 

「エッジマンを特殊召喚。」

「スカイスクレイパーの効果で、打点が上がるため、レヴュアタンでの突破は不可能。よく耐えた。俺はそろそろダメージが行くと思っていたが、君を過小評価していたみたいだ。

 褒美だ。もう一度ライフを回復させてやろう。メインフェイズ2に入る。」

 

 そう言って、先生は成金ゴブリンをもう一度発動させた。

 

 十代 LP5600

 

「さて、だが少々まずいな。メインフェイズ2、ヴァルキュルスの効果、手札のクシャノを捨てて、ドロー。」

 

 ・・・あれ?

 

 どうして、攻撃前に発動しなかったのだろうか。そうすれば、もしかしたらデッキに眠っているカードで打開策が出来たかもしれないのに。

 でも、その疑問を解決する暇もなく、デュエルは加速していく。

 

「魔轟神レイヴンを通常召喚。効果発動。手札を2枚捨てて、レベルを4に変更する。

 手札から捨てられたのは、暗黒界の狩人ブラウ。ブラウは、手札から効果で捨てられた時、デッキからカードを一枚ドローする。

 レベル1、レベル・スティーラーにレベル4、魔轟神レイヴンをチューニング。」

 

 レベルの合計は5。シンクロ召喚で今まで出てきたのは・・・。

 

「魔轟神 レイジオンをシンクロ召喚。」

 

 魔轟神レイジオン。先ほど2枚ドローする効果を発揮していたが、今回先生の手札はまだ三枚ある。つまり、エッジマンのダメージを減らすためにシンクロ召喚したのだろう。

 エッジマンには貫通効果が備わっている。レベル・スティーラーの守備力は0。恐らく、パンプアップされて殴られたら負けに繋がりかねないモンスターを放置するわけにもいかなかったのだろう。堅実な先生らしい。

 

「ターンエンド。」

 

 エンド宣言。伏せられたカードはない。と、言うことはこのターンは間違いなくチャンスだ。

 フィールドにはエッジマン。そしてスカイスクレイパー。・・・大丈夫、自分を信じろ。自分のデッキを信じるんだ。

 

「俺のターン、ドロー!インパクト・フリップをエッジマンに装備!」

 

 インパクト・フリップ。その効果は、今この状況においてはパンプアップにも匹敵するくらいに頼もしいカードだ。

 

「インパクト・フリップの効果発動!一ターンに一度相手モンスターを表側守備表示にできる。俺が選択するのは・・・。」

 

 選択するのは・・・どれだ?手札入れ替えを行うヴァルキュルスを突破するのか、何か嫌な予感のするベリアルを突破するのか、レイジオンを選択するのか。いや、レイジオンは問題ないはずだ。なら、ヴァルキュルスかベリアルか。

 だが、確実に警戒するべき効果を持っているのはヴァルキュルスだ。未だ効果が不明なモンスターを選ぶより、そっちの方が確実性がある。

 

「ヴァルキュルスを選択!守備表示になってもらうぜ。そしてバトルだ!エッジマンでヴァルキュルスに攻撃!この時、スカイスクレイパーで1000ポイント攻撃力がアップする!」

「そして、守備表示モンスターを攻撃したので、その差分のダメージを与える訳か。」

 

 先生の言う通り、これで先生のライフは大幅に削られる。ヴァルキュルスの攻撃力は2900。だけど、守備力は1700。守備表示ではあるが、エッジマンの攻撃力より、ヴァルキュルスの攻撃力の方が高い。すると、スカイスクレイパーの効果で攻撃力が1000ポイントアップする。

 本来なら、守備表示モンスター、それも既に攻撃力が勝っている相手に攻撃力の上昇など意味はない。だけど、エッジマンは守備表示モンスターを攻撃した時、その差分の数値を相手に与える、貫通効果を備えている。

 つまり、通常より多くのダメージを先生に与えることが出来るのだ。

 

「・・・仕方ない。甘んじて受けるとしよう。」

 

 沖田 LP3200→1300

 

 あっさり受けた先生。大幅にライフが削られ、残るライフは一撃で消え去る範囲になってしまった。その割に、先生は動揺しない。精神的なアドバンテージは、まだ先生にあるものだと思っていた。

 

 だけどその瞬間、これが闇のゲームだということを俺は再認識することになった。ダメージが大きかったからなのか、先生はダメージのフィードバックを受ける。それも、1000ポイントを超え、2000に近いダメージを。

 そのダメージは、どれだけ取り繕っても重たいものだったのだろう。表情も何も変わらないように見えていた先生が、いきなり血反吐を吐いた。

 口から、血の塊を吐き出し、唇から血が流れる。それでも、先生は表情を変えずに袖で血を拭い、ディスクを構えなおす。

 

「敵の心配をしている場合か、十代。」

 

 俺が心配しているのを見抜いたのか、先生は自分のことなど気にも留めず、デュエルを続行するように勧めてくる。

 

「・・・インパクトフリップの効果で、戦闘ダメージを与えたとき、相手はデッキの一番上を墓地に送る。」

 

 無言で、先生はデッキを一枚墓地に送った。送られたのは、遠目で見たが魔法カードだったらしい。イラストの感じから見て、暗黒界の門だろうか。

 

「ターンエンド。先生、やめようぜこんなデュエル。」

「そうもいかない事情がある。それが嫌ならサレンダーしろ。大丈夫だ、敗者に興味はない。鍵しか取らん。」

 

 その鍵が重要なんですがそれは・・・。

 

「俺のターン、ドロー。・・・ッ!」

 

 先生が顔を顰める。それが、ほしいカードが来ないのか、それとも傷の痛みからなのか。

 

「仕方ない。やりたくはなかったんだけどな。」

 

 やりたくなかった。そう呟いた先生は、モンスターを召喚する。

 

「暗黒界の狩人 ブラウを召喚。墓地のグラファは、フィールドの暗黒界モンスターを手札に戻すことで墓地から特殊召喚する。」

 

 出てきたグラファの攻撃力は2700。攻撃力はエッジマンより高いが、スカイスクレイパーで1000ポイントアップする効果が適用されるため、グラファでは突破できない。むしろ、ダメージを増やすだけだ。

 ということは、突破できる何かがあるのだろう。

 

「琰魔竜レッド・デーモン・ベリアルの効果を発動する。フィールドのモンスターを一体リリースし、墓地の『レッド・デーモン』モンスターを復活させる。蘇れ、琰魔竜レッド・デーモン!」

 

 最初に出てきたドラゴン。効果を発動することなく消えていったドラゴンだったから、効果はないのかと拍子抜けもしていた。だけど、このタイミングで復活させたのだから、強力な効果を持っていたのだろう。それも、スカイスクレイパーかエッジマンを突破できるような強力なものを。

 

「フィールドのベリアルとレヴュアタン、そしてレイジオンを守備表示に変更。そしてレッド・デーモンの効果発動!このカードを除くフィールドの攻撃表示モンスターを全て破壊する!真紅の地獄炎(クリムゾン・ヘル・バーン)!」

「な、はぁ?!」

 

 攻撃表示モンスター。今現在この場に存在しているのは俺のエッジマンだけ。インパクト・フリップには破壊を無効にするような便利な効果など存在しないため、必然的に俺のフィールドはがら空きになる。

 ミラーフォースに似た効果を内蔵しているそのドラゴンの効果は、あまりに強力だった。闇のゲームの所為だろうか、あたりに実害が出る。地面が地獄の業火に包まれたかのように炎が散らばり、エッジマンはなすすべなく破壊される。

 真紅の地獄炎(クリムゾン・ヘル・バーン)。まさしく地獄だ。焼けた地面から、僅かに光が反射している。どうやら、地面がガラス化した部分もあるらしい。

 

「インパクト・フリップの効果発動!お互いのプレイヤーはデッキからカードを一枚ドローする。」

「この効果を発動したターン、このカードしか攻撃できない。バトルフェイズ。行け、レッド・デーモン。極獄の絶対独断(アブソリュート・ヘル・ドグマ)。」

 

 攻撃宣言と同時に、巨大なドラゴンが襲い掛かってくる。・・・防御するか、とも思った。墓地には、先生が発動した取引の効果で墓地に送られた、ネクロ・ガードナーがいるのだ。

 だけど、それは本当に、今このタイミングなのだろうか。フレイム・ウィングマンの時はヒーロー見参があったから発動はしなかった。でも、今この攻撃を受ければ3000のダメージを受けることになる。

 でも、ライフには少々の余裕がある。先生が発動した成金ゴブリンがあるからだ。ライフは初期ライフから2000ほど回復し、5600。受けても、まだ余裕がある。

 なら、あとはその恐怖心を克服するだけ。大丈夫、あの攻撃を受けても大丈夫なんだと言い聞かせる。

 

「うわあああぁぁぁ!!」

 

 受けたダメージに、思わず叫んでしまうが、少々拍子抜けもした。痛い、がダメージは思っていた程酷くはない。

 ふと、先生を見る。少し驚いた表情をしていたが、早々にバトルフェイズを終了させ、同時にターンも終了させた。

 

 十代 LP5600→2600

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 ・・・行ける。すべては、このドローにかかっている。

 

「カップ・オブ・エースを発動!コイントスを行い、表が出たら2枚ドローする。裏が出たら、先生が2枚ドローするぜ。」

 

 正直、賭けだ。随分と前に先生が俺にくれたカードだった。運がないと使いこなすことが出来ないカードだが、君なら大丈夫、と笑いかけながら、このカードを渡してくれた。

 さて、このカードが一体どんな結果を出すか。

 

 果たして、結果は表だった。

 

「表!カードを2枚ドロー!」

 

 そして、そこには新たなドローカードの姿。迷わず、俺はそれを選択する。

 

「HEROの遺産を発動!レベル5以上のHEROモンスターが二体以上墓地に存在する場合、デッキから3枚ドロー出来る。俺の墓地にはフレイム・ウィングマンとエッジマンがいる。3枚ドロー!」

 

 ドローしたカードを見る。手札にはワイルドマン、戦士の生還、そして融合。

 フィールドにはスカイスクレイパーがある。そして相手の場には・・・。

 

「戦士の生還を発動!墓地に存在するエッジマンを手札に加えるぜ!そして、融合を発動!手札のエッジマンとワイルドマンを融合!」

 

 先生も、これにはさすがに驚いたのだろう。先生のことだ、ここから出てくる融合モンスターにもあたりをつけている。

 そして、俺の目的にも気づいた。少々焦っているのが分かる。流石の先生のポーカーフェイスも持たなかったのだろう。

 

「融合召喚!現れろ!ワイルドジャギーマン!」

 

 E・HEROワイルドジャギーマン。その効果は至って単純。相手モンスター全てに攻撃できるという効果。

 そして、スカイスクレイパーのある今なら、攻撃力が3500以下のモンスターなら全て破壊できる。そして、先生の場には攻撃力3600以上のモンスターは存在しない。

 

「行け、ワイルドジャギーマン!インフィニティ・エッジ・スライサー!」

 

 まず一撃、魔轟神レイジオン。そして、返す刃で隣にいたレッド・デーモン・ベリアルを葬り去る。

 残るはレヴュアタンとレッド・デーモン。破壊してしまえば、また墓地の魔轟神が先生の手札に戻ってしまう。だけど、もしスカイスクレイパーが破壊されたら、ワイルドジャギーマンはレヴュアタンに破壊されるだけだ。

 

「ワイルドジャギーマンでレヴュアタンに攻撃!」

「レヴュアタンは破壊される。が、しかしレヴュアタンの効果で墓地の魔轟神クルスを3体、手札に加える。」

 

 クルス。墓地からレベル4以下の魔轟神を特殊召喚するカードだったか。それが3枚。それだけでシンクロ召喚が可能になる。

 

「まだ終わりじゃない!ワイルドジャギーマンでレッド・デーモンに攻撃!」

 

  沖田 LP1300→800

 

「カードを2枚伏せて、ターンエンド。」

 

 やったぁ!と歓声があたりに響く。どうやら、後ろで翔たちがあげたものらしい。三沢や万丈目はガッツポーズをして、明日香もカイザーも心なしか嬉しそうだ。

 パチパチパチ。音があたりに響く。誰かが拍手をしている音だ。・・・そして、その発生源は他でもない先生だった。

 

「素晴らしい、想像以上だったよ。本当、そういうところは紅葉そっくりだ。」

 

 弟子は師匠に似るのかな。そういう先生は、やっぱりいつも通り過ぎて、これがただのデュエルではないのかと錯覚させる。

 いつも通りの白いシャツにジーンズというラフな格好で、その上に教員用の制服のジャケットを羽織る、いつもの姿。口から垂れた血と、この周りの状況さえ変わっていれば、それはいつもの光景だ。

 やっぱり、先生は大徳寺先生の言う通り、誰かに操られているとしか思えない。

 

 思いたい、じゃなく、思えないのだ。

 

 そう考えたとき、先生が俺に比べて随分とダメージを負っているのが気にかかった。ライフは俺の方が勝っている。でも、それは先生がライフを俺に分けてくれたから、これだけ残っているのであって、先生が負ったダメージは3200で、俺が負ったダメージは3000なのだ。

 先生は俺とデュエルするまでに4回、デュエルを行っている。明日香、万丈目、三沢、カイザー。そのダメージも蓄積されてたと考えるなら、何らおかしくない。でも・・・。

 

「なあ、三沢、万丈目。」

「なんだ、十代。」

「デュエルに集中しろ、貴様は。」

 

 集中はしている。でも、これを聞かないと前に進めないのだ。

 

「おまえら、先生にダメージをどのくらい与えた(・・・・・・・・・・・・・・・・)?」

「十代、それは俺たちに対する当てつけか?」

 

 万丈目が答えてくれたが、それは答えになっていない。それに続けたのはカイザーだった。

 

「十代、俺たちは先生のライフを一つも削れていない(・・・・・・・・・・)。今のところ、お前が一番健闘している。」

 

 ・・・。やっぱり、だ。

 その瞬間、俺の中ですべてが繋がった。

 

「話し合いは終わったか?俺のターン、ドロー。」

 

 先生、ちょっと待ってくれ。そう言おうとしたが、先生は取り合ってくれそうになかった。

 

「成金ゴブリン、効果は知っているな。」

 

 十代 LP2600→3600

 

 俺のライフは、初期の数値近くまで回復した。そして、先生の手札には魔轟神クルスとベージ、ブラウを含んだ計8枚。

 

「墓地の、魔轟神クシャノの効果を発動。手札のクルスを墓地に送り、このカードを手札に戻す。そして、魔轟神クルスの効果で墓地のレイヴンを特殊召喚。」

 

 クルス。さっき先生が回収したモンスター。これを使うことで、召喚権を使わずにモンスターを呼び寄せることが出来る。

 

「レイヴンの効果を発動。手札の暗黒界の武神 ゴルドを手札から捨てて、レベルを1上げる。そして、ゴルドは自身の効果で特殊召喚される。ゴルドのレベルを一つ下げ、レベル・スティーラーを特殊召喚。」

 

 レベルを下げた。まだ他に特殊召喚するつもりでいるのか、それともレベルを下げて、レベル7のシンクロモンスターを呼び寄せるつもりなのか。

 

「いくぞ、十代。これが俺の真の切り札だ。レベル4となった暗黒界の武神 ゴルドと、レベル1レベル・スティーラーに、レベル3となった魔轟神レイヴンをチューニング!」

「レベル・スティーラーも?!レベルを下げる必要がないじゃないか!」

 

 思わずそう叫んだ。そう、レベルの総数が変わらない以上、無駄にレベル・スティーラーを召喚する意味はない。一体、何が狙いなのだろうか。

 そう叫んだ俺を無視して、先生は叫ぶ。禍々しい気が、辺りに充満していく気配がした。

 

「シンクロ召喚レベル8!降臨せよ、カオス・ゴッデス-混沌の女神-!」

 

光の輪。そこから出てきたのは、闇の塊だった。そして、その中からまばゆい光があたりを照らし出し、気が付いた時には、白髪の綺麗な女性が佇んでいた。

 あれが、先生の切り札なのか。

 

「こいつは召喚条件がひどく厳しい。光属性チューナーと、闇属性モンスター2体なんて気狂いじみた召喚条件。だが、その効果はその手間をかけるだけのことはある。」

 

 成程、確かに重い条件だ。最低モンスターを3体並べなければいけない上、属性にまで縛りがついている。

 

「カオス・ゴッデスの効果発動。墓地の闇属性、レベル5以上のモンスターを、手札の光属性モンスターを捨てることで特殊召喚できる。」

 

 だけど、手札の光属性のモンスターが限定的な死者蘇生に代わるのなら十分手間をかける価値はあるのだろう。そして、先生の手札にはあれがある。

 

「手札のクシャノは光属性。このカードを手札から捨てて、墓地のレッド・デーモン・ベリアルを蘇生する。」

 

 クシャノ。魔轟神を手札から捨てるために戻したカード。だけど、そのモンスターを墓地に送ることが出来て、なおかつモンスターを蘇生できるのなら万々歳だ。

 

「さらに貪欲な壺を発動。デッキに戻すのは、レヴュアタン2体と、レイジオン2体。そして、ヴァルキュリス。その後2枚ドローする。暗黒界の門を発動。」

「先生、俺のドローの事、絶対言えないぜ。速攻魔法非常食!スカイスクレイパーを墓地に送って、ライフを1000回復するぜ!」

 

 悔し紛れに、非常食で破壊される運命だったスカイスクレイパーを墓地に送りながら言ってみたが、その言葉に皆が同意したような気がした。

 なんせ、先ほどから一向に手札が減っているような気がしない。あれだけ展開しておいて、ほとんどの場合において手札が0になったタイミングがない。

 さらに、手札の入れ替えと同時に魔轟神か暗黒界を捨てて、効果を発動していくのだから、フィールドアドバンテージまで稼がれていってしまっているのだ。

 

「手札のクルスを捨てて、墓地のクシャノの効果。魔轟神を捨てて、墓地からクシャノを手札に戻す。魔轟神レイヴンを特殊召喚。レイヴンの効果で、手札から暗黒界の尖兵 ベージと暗黒界の狩人 ブラウを手札から捨てて、レベルを2つ上げます。そして、捨てられたブラウとベージの各々の効果が発動。ベージを特殊召喚し、ブラウはカードを1枚ドローする。」

 

 おまけに、ドロー加速のカードまで入っている。その上でまた場にはチューナーとそれ以外のモンスターが揃うことになった。

 

「レベル4となった魔轟神レイヴンに、レベル4暗黒界の尖兵 ベージをチューニング。シンクロ召喚レベル8、魔轟神ヴァルキュリス。ヴァルキュリスの効果で手札のクルスを捨てて、ドロー。クルスの効果でレイヴンを特殊召喚。」

 

 そろそろ流石にイライラしてきた。ターンが長すぎてこちらがやることがないうえに、効果を説明してくれるのはいいのだが、その半分ほどしか理解できないせいで、何が起こっているのか半分くらいしかわからない。

 これを後で明日香に言ったら、「十代が半分も理解できたのが凄い。」と褒められたのか褒められてないのかわからない感想をもらった。

 

「レベル8の魔轟神ヴァルキュルスに、レベル2の魔轟神レイヴンをチューニング。シンクロ召喚レベル10、魔轟神レヴュアタン。」

 

 さぁて、通常召喚が行われたような気がしないなぁ、と半分現実逃避してみる。大徳寺先生とは違う意味で、勝ちのビジョンが見えない。

 

「通常召喚をまだ行っていない。魔轟神レイヴンを通常召喚。そして、レイヴンの効果で手札を2枚捨てる。レベルを4に変更し、レッド・デーモン・ベリアルのレベルを1下げて、墓地のレベル・スティーラーを特殊召喚。」

 

 あ、手札がようやく無くなった、と思ったらレイジオンの召喚条件が完成されていた。2枚ドローの構えである。

 

「レベル4となった魔轟神レイヴンに、レベル1、レベル・スティーラーをチューニング、シンクロ召喚レベル5、魔轟神レイジオン。レイジオンの召喚成功時、カードを2枚ドローする。そして、ベリアルの効果でレイジオンをリリースし、レッド・デーモンを特殊召喚する。」

 

 これで、再びフィールドには4体のシンクロモンスターが揃うことになった。倒されたディスアドバンテージを、一瞬で元の状態に戻すその技術には、驚愕としか言いようがない。

 てか、これほんとにさっきのターンワイルドジャギーマンで更地にされたフィールドだったのだろうか。その前の状態より強力になっている気さえするのだが。

 

「バトルだ!琰魔竜レッド・デーモン・ベリアルで、E・HERO ワイルドジャギーマンに攻撃!割山激怒撃(グレイト・サミット・ブレイカー)。」

 

 それを受けたら流石に負ける!

 

「墓地のネクロ・ガードナーの効果を発動!攻撃を無効にする!」

 

 温存しててよかったと思った。ありがとう、ネクロ・ガードナー。

 

「ならば魔轟神レヴュアタンで攻撃。」

 

 魔轟神レヴュアタンの攻撃力は3200。ワイルドジャギーマンの攻撃力2600を上回る。なすすべなく破壊された。

 でも、ただじゃ終わらない。最後の一枚。それが、新たなHEROを呼ぶ道しるべとなる。

 

「罠発動、ヒーロー・シグナル!デッキからレベル4以下のHEROを特殊召喚する!来い、E・HERO バブルマン!」

 

 バブルマン。そいつが召喚されたことでフィールドのシグナルは効果を解決し、墓地に行く。そしてこの瞬間、フィールドと手札にはバブルマンしかいなくなった。

 

「フィールドにこのカード以外が存在しないため、バブルマンの効果を発動!デッキからカードを2枚ドロー!」

「いいだろう!だがそのにはHERO退場していただく。カオス・ゴッデスでバブルマンに攻撃。レッド・デーモンでダイレクトアタック。」

 

 十代 LP3600→4600→4000→1000

 

 俺のライフが大幅に削られる。受けたダメージは合計3600。先生の成金ゴブリンと、非常食がなければ負けていた。

 そして、案の定というべきか、俺の闇のゲームへのダメージは、どう考えても吹雪さんのときやほかのセブンスターズの時より、ダメージが少ない気がする。

 

「カードを一枚伏せて、ターンエンド。」

 

 先生のターンがようやく終わった。俺のフィールドにはもう何もない。だけど、バブルマンのおかげで増えた手札には、新たな逆転の一手があるはずだ。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 引いたカード、それは、俺が大徳寺先生にとどめを刺した時に使ったカードだった。

 

「俺は魔法カー・・・ッツ!」

 

 発動させよう、としてふと思い至った。今発動させようとしているカードはミラクル・フュージョン。墓地のモンスターを除外して融合するカードだ。

 それで出てくるモンスターは、今はセイラーマン、スチーム・ヒーラー、マッドボールマン、ランパートガンナー。ランパートガンナーやセイラーマンの効果でダイレクトアタックを仕掛けるか?先生のライフを考えれば、無理な話じゃないし、最初はそうしようと思った。

 でも、それは本当に可能なのだろうか。先生が伏せたカード、それがまた、デモンズ・チェーンのようなカードだったら。

 それなら、俺は返しのターンで総攻撃を受けて負けてしまう。賭けに出る、というのもありかもしれない。と、いうよりは他に手があるような気がしてならなかったのだ。

 おもむろに融合デッキに手を伸ばす。腰のところに掛けられたデッキケースから、カードを見てみると、ふと、あるものが目に入った。

 それは、先生のデスクの中に、エアーマン達と一緒に入っていた、融合HERO。俺はそのモンスターをよく知っている。なんせ、俺の師匠的存在(・・・・・)が使っていた、最強のHEROなんだから。

 

 力を貸してもらうぜ、紅葉さん。

 

「手札から、ミラクル・フュージョンを発動!墓地のフェザーマンとバブルマンで融合召喚!」

「セイラーマンか!だが、十代。先生の場に伏せカードがあるのを忘れたか?!」

 

 三沢が叫んだのが聞こえた。三沢は、俺のデュエルをよく知っている。だから、その組み合わせで出てくる融合モンスターが何か想像がついたのだろう。

 でも、今から出すモンスターはセイラーマンじゃないんだ、三沢。心の中で、大丈夫だぜ、と三沢をはじめとした皆に告げながら、俺はそのHEROを召喚した。

 

「来い、最強のHERO!E・HERO アブソルートZero!」

 

 アブソルートZero。なんでこれを先生が持っていたのかは分からない。珍しいカードだし、所持者も大して多くないこのカード。

 でも、今は頼らせてもらう。行こう、アブソルートZero。

 

「スパークマンを召喚し、バトル!アブソルートZeroで、カオス・ゴッデスに攻撃!」

 

 攻撃力はカオスゴッデスと同じ、2500。このままいけば相打ちになるが、先生はどう出るか。

 

「罠発動、デモンズ・チェーン!攻撃を封じ、効果も無効にする!」

 

 無効にした。やっぱり、先生もアブソルートZeroの効果は知っていたのだ。そりゃそうだ、この攻撃が通れば、先生の負けなんだから。

 

「カードを一枚伏せて、ターンエンド。」

「俺のターン、ドロー。バトルフェイズに入る。レッド・デーモン・ベリアルでアブソルートZeroに攻撃。」

 

 そして、先生は何かを召喚したりはせず、そのままバトルフェイズに入った。そりゃそうだ。ベリアルで攻撃すれば、たとえフィールドが全て凍り付いても(・・・・・・)俺のライフは風前の灯火となる。そんなライフを削りきるのは、先生にとっては容易なことだろう。

 だから、そうはさせない。

 

「速攻魔法!融合解除!フィールドのアブソルートZeroをデッキに戻すぜ!」

「馬鹿、何をやってる十代!墓地にはフェザーマンもバブルマンもいないんだぞ!」

 

 万丈目が俺の発動したカードを見て、それではだめだ、と叫んだ。でも、これでいいんだ万丈目。

 

「この瞬間、アブソルートZeroがフィールドから離れた時の効果が発動!相手モンスターを全て破壊する!瞬間氷結(Freezing at moment)!」

 

 これが、最強のHEROの力。フィールドは一瞬にして凍り付き、ベリアルも、カオスゴッデスも氷の彫像となって爆散した。 

 だけど、それすらも読まれているだろう。これは先生が持っていたカード、効果を知らないわけがない。先生は淡々とデュエルを続行していた。

 

「読めていた。魔轟神レヴュアタンの効果で、墓地のクルスを3枚手札に加える。」

 

 魔轟神レヴィアタン。ここに来てまた先生の手札が回復する。そして、その三枚とは別に手札からカードを発動させた。

 

「メインフェイズ2、死者蘇生を発動。墓地のカオス・ゴッデスを蘇生する。蘇れ、カオス・ゴッデス。」

 

 死者蘇生。まさか、まだそんなカードがあるなんて。そして、手札のコストはさっきレヴィアタンの効果で・・・。

 

「さらに門の効果を発動。墓地のブラウを除外し、手札の暗黒界の軍神 シルバを捨てて、カードを一枚ドローする。軍神 シルバもまた、手札から捨てられたことで特殊召喚。さらに、シルバを手札に戻して、暗黒界の龍神 グラファを特殊召喚。」

 

 フィールドに、またあのグラファが特殊召喚された。

 

「手札のクルスを捨てて、クシャノの効果を発動する。クシャノを手札に戻す。クシャノの効果で墓地から特殊召喚するのは魔轟神レイヴン。レイヴンの効果で手札を2枚捨てて、レベルを2あげる。そして、捨てられたクルスの効果で、魔轟神グリムロを特殊召喚する。」

 

 レイヴン、からのクルスでモンスターを蘇生。ここ十分で見慣れた光景となったような気がする。

 

「シンクロ召喚ヴァルキュルス。ヴァルキュルスの効果で、手札のクルスを捨てて、ドロー。クルスの効果で墓地からレイヴンを特殊召喚。」

 

 あ、レヴュアタンの構えだ。また破壊されたとき用の保険をかけているのだろう。

 

「グラファにレイヴンをチューニング、シンクロ召喚レベル10。魔轟神レヴュアタン。」

 

 そして、手札のクシャノを捨てて蘇生するという寸法だろうか。カオス・ゴッデスが持っていた杖を隣のモンスターゾーンに向ける。そこから、闇の渦が生まれ、光が中に入り込んだ。

 

「カオス・ゴッデスの効果を発動。手札のクシャノを捨てて、墓地のレッド・デーモン・アビスを特殊召喚。」

 

 ターンエンド。長いターンがようやく終わったが、またしても更地になったフィールドが一瞬で元に戻った。

 でも、これを返せるカードなんてデッキにあっただろうか・・・?

 

「俺のターン、・・・スパークマンを守備表示にして、カードを一枚伏せてターンエンド。」

 

 引いたカード。それは俺の相棒を呼び寄せるための布石。頼むぜ、相棒。

 

「俺のターン、ドロー。これで最後だ、ベリアルでスパークマンに攻撃!」

 

 スパークマンがベリアルに焼かれてしまう。済まない、スパークマン。

 

「カオス・ゴッデスでダイレクトアタック!」

 

 それはさせない!

 

「クリボーを呼ぶ笛を発動!デッキから、ハネクリボーを特殊召喚!」

「・・・カオス・ゴッデスでハネクリボーに攻撃。」

「ハネクリボーが墓地へ行ったターン、俺はダメージを受けない。」

 

 これで、なんとかこのターンは耐えきった。返せるのか・・・?

 

「・・・カードを一枚伏せて、ターンエンド。」

 

 ターンエンド宣言。

 

「俺のターン、ドロー!・・・え?」

 

 それは、よく知っているイラストだった。だからこそ、俺にはわからない。このカードは、俺は1枚しか(・・・・)持っていないのだ。どうして、このカードが。このカードはさっき使ったはず。

 でも、来たからにはやるしかない。それが、俺のデッキが出した答えなんだから。

 

「先生。どうやら、これが俺たちの最後のターンになるみたいだぜ。」

 

 そう、最後だ。これを止められたら、もう俺には勝ち目はなくなる。だから、このカードが正真正銘、俺の最後の足掻きで、そして唯一無二の勝ち筋だ。

 先生も、それが分かったのだろう。顔を引き締め、先ほどまで見せていた苦痛に満ちた表情は、見る影もない。それだけの気迫が、俺に襲い掛かった。

 

「俺は、ミラクル・フュージョンを発動!」

 

 ミラクル・フュージョン。さっきも使ったこのカードは、墓地のモンスターだけでの融合を可能にする。

 呼び出して勝てるモンスターはいくらかいるが、締めるのなら、最後はやっぱりマイフェイバリットヒーローだ。

 

「墓地のスパークマンとフレイム・ウィングマンで融合する!現れろ、シャイニング・フレア・ウィングマン!」

 

 シャイニング・フレア・ウィングマン。こいつは、墓地のHEROの数だけ攻撃力が300ポイントずつ上がり、倒したモンスターの攻撃力分のダメージを与えるモンスター。

 

「墓地のHEROは、バーストレディ、エアーマン、ブレイズマン、ワイルドマン、クレイマン、、ワイルドジャギーマン、エッジマンの計7体!よって、攻撃力の数値は2100ポイントアップして、4600になる!」

 

 もうスカイスクレイパー無しでも十分にベリアルすら倒せる数のHEROが墓地に行っている。頼むぜ、シャイニング・フレア・ウィングマン。倒された仲間の思いの分、頑張ってくれ。

 

「バトルフェイズ!カオス・ゴッデスに攻撃!シャイニング・シュートォ!」

 

 シャイニング・フレア・ウィングマンがカオス・ゴッデスに襲い掛かり、かの女神に攻撃する寸前まで行く。やった、勝った!そう確信した。

 それがいけなかったのだろう。カオスゴッデスの後ろから、またしても鎖が登場した。

 

「デモンズ・チェーン。言うまでもないが、効果は相手の攻撃と効果を封じる。」

「・・・カードを伏せて、ターンエンド。」

 

 終了するしかない。あれは俺の起死回生の一手だったのだ。

 

 ミラーフォースのようなカードがまだあれば、また違ったのかもしれないが、それはたらればの話。今はもう何もできない。伏せたカードはブラフの死者転生。これじゃあもう何もできない。 せめてサイクロンがあれば・・・。そう考えざるを得ない。

 負けを確信した。精一杯全力を出しても敵わなかった。最後の一枚の伏せたカードが、そのことを雄弁に語っているような気がした。

 

「・・・ガッチャ!楽しいデュエルだったぜ、先生!」

 

 暗に負けたことを告げた俺の言葉に、先生は満足げにうなずいた。

 

「ああ、十代。楽しいデュエルだった。」

 

 

 

 

 

 そしておめでとう、君の勝ちだ。

 負けを確信した俺に、最後に先生はそう言い残して、そのまま倒れてしまった。

 

 

 




もし聡明な方が居ましたら、あれ?おかしくないか?と思うシーンがあるかもしれません。特にアビス関連で。
それとは別に単純に効果間違えてない?と思うところがあれば感想に記載お願いします。

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