遊戯王GX ~もしもOCGプレイヤーがアカデミア教師になったら~   作:紫苑菊

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続けて投稿。それから、もしかしたら割と完結まですぐかもしれません。まあ、こんな糞小説をまだ読んでくださる奇特な人が居れば、ですが。


第12話

 

 

 

 

 カミューラの目の前にに顕現したのは、まさに煉獄を冠したとでも言うべき龍だった。その攻守は共に3000。ステータスだけでも、かの青眼を上回る。

 

「シンクロ?そんなの、私は知らない。私たち(・・・)は知らない。」

 

 カミューラの体は、自然と震えていた。地獄の業火に焼かれるような恐怖を、感じていたからだ。

 カミューラは、これがインチキではないのでは、と疑い出した。だが、ディスクがこの情報全てを読み取っているからには、その召喚は、正常な処理で行われたことになる。

 まさか、(影丸)すら知りえない技術が、彼ら側には存在していたというのか。カミューラは、この場にいない自らの主に、思わず慄きそうになった。

 

「シンクロ召喚。I2社の新プロジェクト《Synchro Summon》。その一端だ。一般人に見せるのは、貴方が初めてです。」

 

 そんなはずはない。彼は、知っていたはずだ。知っていたはずだ。なぜなら、彼はI2社の、株主の一人だ。大株主の一人だ。知りえないはずがない。時に、経営方針にすら口出しが出来る彼が、知りえないはずがない。

 

「チューナーと、チューナー以外のモンスターをフィールド上で同調(シンクロ)させることで、シンクロモンスターを融合デッキから特殊召喚します。」

 

 なら、目の前のはなんだ。目の前の光景はなんだ。まさか・・・。

 いや、そんなことは関係ない。私は、今やれることをするだけだ。

 

「だが、だからと言って、そんなのは関係ないわ!そのモンスターはドラゴン族(・・・・・)。貴方はそのモンスターで攻撃は出来ない。それが、ユニゾンビの効果でしょう?」

「だからと言って、打点3000には変わりはない。」

 

 強がりもハッタリも聞かない男は、これだから。もう少し可愛げがあっても罰は当たらないのに。

 

「それに、いつからこれで終わり(・・・・・・)だと錯覚していた?」

 

 え?

 

 寒気がする。周りの温度が、数度低くなったかのような錯覚に陥る。何が起ころうというのか。

 

「墓地の、馬頭鬼の効果を発動する。墓地のユニゾンビを特殊召喚する。」

 

 チューナー。先ほど彼はそう言っていた。チューナー(同調器)と、チューナ―以外のモンスターをフィールドで同調させる召喚だと。ならば。

 

「レベル5不知火の宮司に、レベル3ユニゾンビをチューニング。」

 

 やはり、来るのだろう。シンクロ召喚。フィールドのモンスターを新たな力に変える、新時代の召喚法が・・・!

 

「今だ燃え尽きぬ武士の魂よ。煉獄の元に集い、その忠義を示せ。シンクロ召喚。戦神-不知火!」

 

 そこには、先ほど真祖(ジェネシス)を葬り去ったモンスター。先ほどと違い、其処には薄い幽霊のような影ではなく、実態を伴っている。その迫力も、先ほどとは段違いだ。だが、それだけでは終わらない。

 

「戦神-不知火の効果を発動。特殊召喚に成功したとき、墓地の不知火モンスターをゲームから除外することで、その元々の攻撃力を、このターンこのカードに追加させる。」

「なんですって?!」

 

 不知火の圧力がさらに飛躍的に上昇する。そして、その攻撃力は、最早神モンスター、その一角の域にまで達していた。

 その攻撃力、4500。かつて、神に到達しうるモンスターとして名を馳せた、青眼の究極竜と同じ攻撃力、同じ破壊力。

 そんなものを、闇のゲームで受けたくはない。たとえ、それが人ではなく、吸血鬼(ノスフェラトゥ)のカミューラだとしても、だ。

 

「そして、除外されたのは、不知火の宮司。宮司は除外されたときにフィールドの表側表示のカードを破壊できる。破壊するのは、ヴァンパイア・レディ。」

 

 ヴァンパイアの淑女は、不知火の一太刀の前に、為すすべなく破壊された。残るものは、何もない。カミューラを守るものは、もうない。

 

「バトル。」

 

 そう沖田が呟いた瞬間、戦神は走り抜ける。縮地。その技量にカミューラは驚かされつつも、最後の守り札を発動する。

 あたりには、鐘の音が響き渡った。

 

「バトル・フェーダーの効果を発動!手札からこのカードを召喚し、バトルフェイズを終了させる!」

 

 その鐘の音に、戦神(幽霊)は怯んだ。強制的に終了させられたその圧は霧散し、沖田のターンはそのまま終了する。

 

 沖田

  手札5→0

 

 だが、どうすればこの状況を突破できるというのか。そう考えた瞬間、頭の中に疑問が浮かんでくる。

 なぜ、彼はカードをバトルフェイズ前(・・・・・・・・)に伏せたのか。なぜ、彼は攻撃できないモンスターをわざわざ呼び出したのか。

 もしかして、彼はこのカードを警戒していたのではないだろうか。この、ブラフとして伏せていたカードを、使い物にならなかったこのカードを。

 だとするならば、辻褄が合う。少々飛躍しすぎかもしれない、とは思った。だが、もしそうだとするのなら・・・。

 

「ねえ、あなた。」

 

 だからこそ、確認する。フィールドのカードは本来、公開情報だ。私には、それを聞く権利が発生する。これがプロ戦なら、そうはいかない。演出や魅せることを念頭に置いたデュエルなら、そうはいかないだろう。

 

「そのドラゴンの効果(・・)を聞いてもいいかしら。」

 

 だが、今はそんなデュエルではない。正真正銘、ルールに沿った殺し合い。ならば、聞いても問題はないだろう。

 案の定、彼は渋い顔をした。

 

「・・・煉獄龍 オーガ・ドラグーン。その能力は一ターンに一度、手札が0の場合、相手の魔法、罠が発動した時に無効にし、破壊できる。」

 

 やはり、彼は可愛げがない。真の切り札は、その幽鬼ではなく、ドラゴンの方だったのだ。条件が限定される代わりに、その効果は強力そのものだ。それでいて、突破するにはあの青眼を超える必要がある。

 

 厄介、と一言で済ますには少々、いやかなり抵抗がある。

 

 カミューラは手札を見た。そして、伏せてある切り札も。使うには、抵抗がある。だが、それをしない限り、私には勝ち目はないだろう。

 

降参(サレンダー)してください。俺は貴方を悪いようにする気は一切ありません。」

 

 その言葉は真実だろう。この男の目は、私を見ていない。

 いや、見ていないわけではない。その双眸には、私の姿を映し出している。だが、それはセブンスターズ(大きな脅威)としてであって、私個人ではない。

 

 (ノスフェラトゥ)を、脅威として見做していない。

 

「舐めないでくださる?人間。」

 

 カミューラは、怒りにその身をつつんだ。畏怖される私が、化物である私が、脅威ですらない?

 

 フザケルナ。ワタシは、夜の王だ。闇夜に紛れる、現代に生きる吸血鬼。それが私だ

 

化物(ノスフェラトゥ)を舐めるなぁ!私には、私のプライドがある!化物には、化物のプライドがある!

 たとえ、勝利が千に一、万に一だとしても!その勝利が、貴方の懐にあるとしても。

 化物は化物らしく、最後まで戦い抜く!それが、私の矜持だ。化物の矜持!それを・・・。」

 

 彼女は叫んだ。化物は叫んだ。それが、彼女の誇りだからだ。

 

「それを、最後のヴァンパイアである私が守らなくて、どうする!

 舐めるな、人間。私は、貴方を倒す!降参?誰がするか。私を侮辱するな、人間。

 私を見ろ!今貴様の前に立っているのは、集まった恐怖の形ではない。私は、吸血鬼カミューラ。いや、吸血鬼カーミラ(・・・・)!それが私だ。覚えておけ、人間!」

 

 そうか。そう、沖田は呟いた。

 化物としての矜持が、沖田の言葉を許さなかったということを、正しく認識したのだ。傷つけたのなら、やることは一つしかない。

 

「申し訳なかった、ノスフェラトゥ。いえ、カーミラ夫人。俺は貴方を侮っていた。」

 

 沖田は、丁寧にお辞儀をした。その上で、デュエルディスクを再び構える。

 

「ドロー!私は、壺の中の魔術書を発動!お互いに3枚ドローする!」

 

 壺の中の魔術書。それは、沖田にとって最も厄介なカードだった。少なくとも、この場合においては。

 壺の中の魔術書は、お互いに3枚ドローするカードだ。それだけなら、ただの強力なカード(と、呼ぶには強すぎるかもしれないが)で終わる。強力なメリットとデメリットを兼ね備えるカードで終わる。

 だが、沖田は手札をあえて全て使い切る(・・・・)手段を用いている。それは、オーガ・ドラグーンが手札が存在しない(・・・・・・・・)時にのみ効果を発揮するからだ。

 このカードを止めなければ、沖田は三枚の新たな手段を手に入れることが出来るだろう。だが、それは同時にオーガ・ドラグーンによる征圧力を捨てることでもある。

 どのみち、オーガ・ドラグーンは詰んだ。あとは、相手の新たなアドバンテージと、自身のアドバンテージ、どちらに重きを置くか。

 

「・・・オーガ・ドラグーンの効果を発動する。」

 

 その瞬間、壺は煉獄の炎に焼かれた。魔術書は灰になり、当たりに破壊エフェクトが散らばる。どちらにせよ、使い物にならなくなるなら、相手にアドバンテージを与えるわけにはいかない。そう判断した。

 

「魔法発動!幻魔の扉!」

 

 幻魔の扉。そのカードは、自身の魂を勝敗にゆだね、フィールドのモンスターをすべて破壊し、その後、モンスターを召喚条件を無視して特殊召喚するカード。

 捨て身の策。更に言うなら、カーミラの勝機は正直薄いとしか言いようがないだろう。たとえ、この効果が通っても、蘇生したモンスターの攻撃を防がれれば、もう後はない。手札が無いのは同じだが、沖田にはまだ魔法罠ゾーンにカードが二枚存在する。カーミラが唯一優っているのは、ライフ・アドバンテージくらいだ。

 さて、正真正銘最後のカード、沖田の手はあるのか。

 果たして、冲田の罠が一枚、解放された。ダメか、とカーミラは絶望する。だが、それはカーミラが想像しているほど、悪くはなかった。

 

「永続罠発動。不知火流 輪廻の陣。フィールドの表側表示のアンデットをゲームから除外し、このターンのダメージを0にする。ゾンビ・マスターを除外。」

 

 それはつまり、沖田にはこの破壊を防ぐ術はないということに他ならなかった。煉獄のドラゴン、幽鬼の侍はフィールドから離れていく。

 

「私は、私の墓地のヴァンパイアジェネシスを特殊召喚するわ!」

 

 正常な判断で言うのなら、ここで蘇生するべきは沖田のオーガ・ドラグーンだっただろう。だが、吸血鬼のプライドが、あんな悪魔の手先のようなモンスターではなく、真祖としての矜持が、カーミラにそのモンスターを選ばせた。

 だが、このターンのダメージは0。手札も0。魔法、罠もないこの状況で、カーミラのやることは他にはない。

 

「ターン、エンド。」

 

 恐らく、カーミラは負けるだろう。それは、誰よりもカーミラが一番理解していた。残るは一枚の伏せカードのみだというのに、相手には余裕がある。なら、まだ相手に打つ手はあるのだろう。

 

 だが、それでもカーミラは不敵にほほ笑む。あくまで優雅に。不敵に。その笑顔は、敵ながら惚れ惚れするほど、美しかった。

 

 

 その後の展開は、あまり語る必要はないだろう。

 カーミラは、沖田の龍の氷塊に、その体を貫かれた。

 

 

 

   ◇

 

 

「こ、ココは何処なのーネ?私はいったい、何をしてたノーネ?何が一体どうなっているノーネ!」

 

 クロノス先生!十代が叫んだ。ここは湖の前。霧の中の城から離れたところに、十代達は沖田の帰りを待っていた。

 そんな中、万丈目のポケットの中から、光と共にクロノスが現れる。それが、何よりも沖田の勝利を立証していた。

 明日香と三沢大地は、今まで起こったことを全て伝えた。

 クロノスが負けた後、湖に城が建ったこと。カイザーが人質を取られて負けたこと。帰ってきた沖田が、カミューラに挑んで、その沖田に城から追い出されたこと。そして、恐らく沖田が勝利したこと。

 全部を伝えたとき、クロノスは少々複雑な顔をした。

 

「なんだよクロノス先生!元に戻ったのになんでそんな渋い顔してるんだよ。」

「十代やめろ!」

 

 万丈目が十代を制した。恐らく、彼もクロノスの気持ちがわかるのだろう。

 だが、そんな万丈目を、クロノスは手で制した。

 

「・・・嬉しくないと言ったら、嘘になるノーネ。ただ、途轍もなく悔しいノーネ。」

「悔しい?」

「十代!!」

 

 万丈目は声を荒げた。何故なら、万丈目は誰よりもクロノスの心中を理解していたからだ。彼もまた、敗北によって成長した人間だからだ。

 

 クロノスは、何度も沖田に挑んでいる。それは、エキシビジョンマッチ(最初のデュエル)で最早プライドを傷つけられた、なんて小さい理由じゃあない。デュエリストとして、リベンジがしたい。だが、それだけではない。

 

 彼の強さ、その理由をクロノスは知っている。彼の暗い過去を知っている。だからこそ、彼は自分の信じる明るいデュエルで、彼に勝とうとしていた。自分の信じる、光のデュエルの為に。

 いつだったか。彼に誘われ、酒盛りをした時だったか。強さの理由を聞いた時、彼は悲しそうな顔をしつつ、その過去を話してくれた。

 強くならねばならなかった。そうでなければ生き残れなかった。成程、クロノスが彼のデュエルに感じた違和感、『楽しむ』ことを捨てた合理的な面が、彼のデッキには内包されている。

 だからこそ、『楽しむ』デュエルで、彼を倒そうと躍起になった。それが、彼の未来に明るい光を差し込むことが出来ると、彼は今までの教師人生から学んでいた。知っていた。たとえ、今までにないまでに暗い過去があったとしても、だ。

 一人の教師として、一人の男として、一人のデュエリストとして。彼は試行錯誤して彼に挑み続けていた。その結果は30戦24敗6勝。実力差はあるものの、少しはついていけると思っていた。

 

 だが、彼はクロノスが手も足も出なかったカミューラを倒した。それは、クロノスにとってどれだけ苦い思いが生まれたことだろう。彼のデュエルは、常に一歩先を行く。何回も何回もデュエルをしていると実感していくそれが、たまらなく悔しかった。

 

 現に、生徒の前で見せないように、彼は拳を握りしめている。

 

  (やっぱり、無理なのかもしれないノーネ。)

 

 無理なのか。彼に、希望を見せてあげることは無理なのか。酒盛りの時に見せた、あの顔を忘れさせることは出来ないものか。

 

『クロノス先生、デュエルっていうのは、気持ちが悪いくらい残酷な世界が存在しているんです。』

 

 可哀想なくらい、泣きそうな顔で彼はそう言った。彼と深くかかわりのある、みどり先生は、彼は笑い上戸だと言っていたので、多分それは酒の所為ではないだろう。

 

『だから、俺はせめて、あいつらにはそんな世界を、知ってほしくはない。そう、ずっと願っているんです。』

『俺が出来るのは、彼らをデュエルの被害者にしないことだけだと思っていますよ。』

『それが、俺の過去への贖罪です。』

 

 そう言う彼の顔を、晴らしてやりたい。そう思っていたのにこの様だ。不甲斐ない。

 

「ドロップアウトボーイ。覚えておくノーネ。」

 

 だからこそ、このことだけは十代には知ってほしい。彼は、この中で一番自由だ。だが、この中で一番危うい(・・・)性質を持っている

 

「ここにいる生徒は、皆明確な目的と、将来のために必死で努力しているノーネ。三沢大地は言わずもがな、ここにいる天上院明日香や、万丈目準も、皆将来を見据えて、必死で努力して、必死でデュエルに勝ちたいと思っているノーネ。デモ、ドロップアウトボーイ。貴方は、楽しむだけのデュエル。

 もちろん、楽しむだけのデュエル。大いに結構。私も、そんなデュエルは大好きなノーネ。でも、ここアカデミアではそんなのは通用しない。デュエルだけでなく、勉強も、資格も。皆みんな必死でやっているノーネ。」

 

 十代は、それを真摯に受け入れている。説教は嫌だ嫌だと嘆く十代ですら、今のクロノスの話は聞いておかないとだめだ、と感じたのだろう。

 

「ドロップアウトボーイ。貴方はもっとデュエル以外のことも真剣に取り組んでほしいノーネ。そうでないと、オシリスレッドが皆、貴方を真似て努力するということをしなくなったら、この寮制度は、アカデミアは意義を無くしてしまうノーネ。」

 

 クロノスは、それを懸念していた。オシリスレッドの皆が、努力を放棄することを助長させるようなことはあってはならない。だからこそ、十代をクロノスは追い出そうとしたのだ。

 

 十代は、カリスマ性に溢れている。かつてのカイザーのように。かつての、天上院吹雪のように。

 質的には吹雪の持つカリスマ性に近いだろう。英雄的資質、というよりは一緒にいて心地いいと感じるタイプのカリスマ性。そんな彼が皆を引き連れてサボるような事態になれば、それがデフォルトになれば、学校制度は崩壊する。

 

 吹雪は、メリハリを持っていた。だからこその特待生だった。だが、十代はそうではない。頭は良くないが地頭がいい。それなのに、彼は努力しようとしない。それがクロノスには許せなかった。

 

「将来のこと、今すぐとは言わないーノ。でも、真剣にやっている人の努力の邪魔になるような、遊びほうけるのは控えてほしいノーネ。勉強も、デュエルも、遊ぶことも、友達も、何もかも。等しく、重要なノーネ。」

 

 そう、それはかつて沖田が出来なかったことだから。やりたくてもできない人間がいるのだから。この学校に入れることのできなかった人間だって、いるのだから。

 

「・・・湿っぽくなってしまったノーネ。沖田が帰るのを待ちましょう。」

「先生。その、なんかゴメン。」

 

 十代が謝る。ああ、今はそれでいい。そうやって、子供は学んでいくのだから。

 そうだな、もう彼はドロップアウトではない。立派なオシリスレッド(・・・・・・・・・・)の生徒だ。

 

 ああ、最後にこれだけは伝えておこう。

 

「あ、それから遊城十代。アナタ、赤色の制服がいい、っていう理由でオシリスレッドに残ったらしいけれど、別に制服の色は無理に合わせる必要ないノーネ。というか制服の色は強制されていないノーネ。」

「え?」

「当然なノーネ。学費に不安のある生徒の為に、所属寮以下の制服の色なら問題なく着れるノーネ。部屋が変わるだけでもいいノーネ。だから、出来るならアナタも頑張って上の寮を目指してほしいノーネ。」

 

 そうすれば、きっとオシリスレッドの彼らも努力するだろうから。

 クロノスは、そうあるようにと心から願った。

 

 

 

   ◇

 

 

 

「ねえ、あなた。どうして私を助けたの?」

 

 カーミラは生きていた。本来、幻魔の扉に喰われる筈だった彼女の命は、他ならぬ沖田の手で救われた。

 

「救ったのは、精霊ですよ。」

 

 そんなのは詭弁だ。と、カーミラは言った。

 それもそうだろう。カーミラが敗北した後、背後には幻魔の扉が、獲物を見つけたかのように早々とカーミラの体を引き釣りこもうとするその瞬間、沖田の龍が幻魔の扉を凍結(・・)させたのだ。

 

 救ったのは、明らかに冲田の意思だ。

 

 ブリューナク。ケルト神話の太陽神、ルーの投擲武器の名を冠した、氷結の海竜。その名に恥じない力を、かの龍は存分に発揮した。

 たとえ、幻魔の力と言えど、神さえ畏怖する氷結界の力には遠く及ばない。害悪さで言うのなら、間違いなく幻魔に軍配が上がっただろうが、純粋な力で言うなら、ブリューナクが一歩抜きんでていた。それはそうだろう。古来から神話に置いて、龍もまた神なのだから。

 トリシューラほどの力は無くても、かの龍もまた氷結界の伝説なのだと、沖田はヒシヒシと感じていた。普段、精霊の状態で出てくるときの行動は犬や猫そのものなのに、どこにあんな力を隠しているのか、沖田は不思議でたまらない。

 

「まあ、いいわ。それよりも、一つ聞きたいのだけれど、貴方はどうしてここにいる(・・・・・)の?」

 

 沖田は、その質問に答えない。

 

「貴方、今はアメリカの高級ホテルで金持ちやスポンサー相手に新規プロジェクトの発表会の筈でしょ?」 

 

 それでもなお、沖田は口を閉ざしている。

 

「それがあのシンクロ召喚って訳ね。それだけじゃないわ。ロックフェラーセンターやセントラルパークでのイベントにも出席しなければならないって情報もあった。それなのに、なぜあなたがここにいるのかしら。」

 

 沈黙。沖田はまだ何も話さない。

 

「私たちの主は、貴方やペガサス、武藤遊戯、海馬瀬戸、マリク・イシュタール。その誰もが介入できないように、いろんな手段を用いたわ。そして、それは見事に成功した。多忙な海馬瀬戸やペガサスは兎も角、送り込まれた貴方や自由に動ける武藤遊戯をこの学園から退けるために、様々な手法を凝らしたのに。

 それなのに、それらを乗り越えて貴方はここにいる。妨害がなかったとは言わさないわ。」

 

 カーミラは、ボロボロの体を無理やり動かして、鋭い爪を喉笛に突きつけた。

 

「答えなさい。」

 

 そこまでしてやっと、沖田は口を開いた。

 

「・・・そのボロボロの体に、俺の喉を掻っ切る力は残っているんですか?」

「仮にも化物よ。貴方たちとは体のつくり(・・・)が違う。こうしている合間にも、私の体は生気を回復させている。それくらいなら造作もないわ。・・・安心なさい。話が終わるまでは、この子は人形のままにしてあげる。」

 

 この子、のところで、カーミラは懐から人形を取り出した。それは、先ほど人形にされた、丸藤亮の姿をかたどったものがある。どうやら、他に人目もいないらしい。

 成程、それならいいだろう。別に、彼女に知られたところで、何も惜しくはないのだ。それに、セブンスターズ(・・・・・・・)処理せよ(・・・・)とは言われたが、殺せ(・・)とは言われていない。情報を知って、彼女が素直に帰ってくれるなら、その方が都合がいい。

 

影丸からの伝言(・・・・・・・)です。」

 

 「アイツ(カミューラ)の役目は済んだ。用済みは始末しろ。」だそうです。そう、沖田が言った瞬間、カーミラは全てを理解した。

 

 なぜ、影丸は彼を脅威とみなさなかったのか。なぜ、彼の情報を私たちには伝えなかったのか。なぜ、彼は影丸の手でこの時期に呼び戻されたのか。

 

 簡単なことだった。それは、彼が仲間だったからだ。そうか、そう言うことだったのか。彼の情報は私には聞かされなかった。私たちは、彼については警戒の必要はないとしか、聞かされなかった。

 

 当たり前だ。既に仲間ならば、警戒の必要はない(・・・・・・・・)。そうか、私たちも知らない最後(・・)のセブンスターズ、それは、彼のことだったのだ。

 

「・・・私は始末しなくていいの?」

「始末したところで、俺にメリットはありませんから。」

 

 殺生は嫌いなんです。

 そういう沖田に、カーミラは笑い出した。愉快だ。滑稽だ。人間に滅ぼされた私たちが、人間によって目覚めさせられ、人間によって、都合よく始末させられる。そして、人間の都合で、私は生かされた。

 それに対し、私は人間ごときと笑っていたのだ。滅ぼされたときから、何ら成長していない。これを滑稽と言わずなんと言う。

 

「ねえ、もう一つ聞いていい?」

「なんですか?」

「あなた、最初のターンからずっと伏せて、使っていなかったカード。あれ、何だったの?」

 

 そう言うと、沖田はデュエルディスクから一つのカードを取り出した。それを、カーミラに渡す。

 

「・・・ハァ?ちょ、何で使わなかったのよこれ?!」

 

 それは、相手の効果と攻撃(・・・・・)を封じるカード。デモンズ・チェーン。

 

「これがあったなら、貴方は闇のゲームのノックバックを受けなくて済んだじゃない!」

 

 最初からこれがあったのなら、確かに受ける必要はなかっただろう。ヴァンパイア・レディの攻撃。それを回避することは出来た。と言うより、闇のゲームはダメージが実体化する。敗北条件に、続行不可能が追加される闇のゲームでは、出来うる限りダメージを避ける必要が出てくるのだ。

 

「まさか、あなた。態と受けたの?!」

 

 ヴァンパイア・レディを警戒するよりも、他に警戒する必要があっただけだ。そう言うと、カーミラは呆れたようだった。

 

「あなた、命が惜しくないのね。」

「失礼な。」

 

 命は惜しい。だが、勝つためには、時として代償位は払うものだ。それに、あれくらいのダメージなら受けなれている。

 そう言うと、カーミラはさらに引いた。マゾスティック、変態。そんな声が聞こえるが、全くもってそんな事実はないのでやめて欲しい。

 

「そう、どのみち勝ち目はなかったの。それなのにあんな風に啖呵切って、バカみたいね、私。」

「そんなことはありませんよ。」

「嘘。あなた、終始余裕だったじゃない。大方、私の展開の軸は大体把握してたんじゃない?」

 

 それは、まぁ。そう言う彼に、カーミラは思わずまた笑い転げた。

 

「じゃ、これは返すわ。」

 

 そう言って、彼は人形を受け取る。

 

「その人形、私から離れたら元に戻るようになってるわ。私はこの島を出る。もうこれ以上義理で動くつもりもないし。」

 

 そうですか。沖田はそれだけ告げて、城門へ戻ろうとする。

 

「ねえ、一つ忠告してあげる。」

 

 そう言って、カーミラは沖田の肩を叩く。振り向いた沖田は、カーミラの長い指が、頬に当たっている。

 

「あはははは!」

 

 からかわれたらしい。どうやら、俺は遊び心のある女性に縁が多いようだ。

 

「・・・気をつけなさい、人間。影丸のことじゃないわ。あなたのその精霊。光の悪魔、影の人形。そして、巨悪な化物。今は貴方の精霊たちが協力してその巨悪を抑えている。でも、もし片方でも失えば(・・・・・・・)大変なことになるわ。」

 

 少なくとも、貴方の命はない。肝に銘じておきなさい。

 

 そう言って、カーミラは何処かへ消え去った。あたりから轟音が響いていく。どうやらカーミラが去ったことでこの城も消えていくらしい。

 人形は手元にある。急いでここから離れないと。走りながら、沖田はカーミラに別れの句を告げた。

 

「さようなら、吸血鬼。俺は、皆が幸せになるように、この事件を解決して見せましょう。

 ですが、其処に俺の姿はない。無駄な忠告、ありがとうございました。」

 

 

 

こうして、チェイテ城。セブンスターズの一人、カミューラの城は、完全に崩壊した。

 

 

   ◇

 

 

「単刀直入に言う。君には、セブンスターズになってもらいたい。」

 

  ・・・。

 

「なに?受ける訳が無い?それはこれを見てから言い賜え。」

 

  ・・・・・・・!!

 

「どこでこれを?それは言えんなぁ。だが、君の目的に、これは必須だ。それは君が一番よく理解していると思うんだがね。」

 

  ・・・。

 

「ああ、奪って逃げるのは止しておくといい。そうなると、君の背後にいる私のSPが、私に向かって発砲する手筈だ。それをされて困るのは、君のはずだろう?君はそれをもってあそこに行かねばならないが、その前に警察の厄介になるわけにはいかないだろうからねぇ。」

 

  ・・・・・?!

 

「事実は捻じ曲げるものさ。それが、私のやり方だ。」

 

 ・・・・・。

 

「なぜ君なのか?それは簡単だよ。I2社の新規プロジェクトの責任者にして、精霊がらみの案件の相談役(コンサルタント)

 その実力はI2社のなかでも群を抜き、かのティラ・ムークの元弟子(・・・)ときた。

 そんな人材が、デュエルアカデミアの教師をするにはいささか不信すぎるとは、考えなかったのか、君たちは。」

 

 ・・・・・・・・。

 

「リスクは承知の上。そのセリフは少々安く聞こえるな。リスクは承知するものではなく、塗りつぶすものだ。経営者として大成した儂が言うのだから間違いない。   

 今もこうして、危険な賭けを勝率が高いように塗りつぶしている真っ最中だ。」

 

 ・・・・・。

 

「君の仕事内容かね。乗ってくれたようで助かるよ。なに、簡単だ。他のセブンスターズの抹消(・・)というべきだね。」

 

 ・・・・?!

 

「七星門の鍵。あれの解放条件は、何もデュエルで勝ち、鍵を集めることじゃない。

 鍵を持ったもののデュエルエナジーを集めるための、いわば指標だ。デュエルの時に現れる精霊の力を効率よく集めるためのパイプと言ってもいい。

 そんな鍵だが、解放条件は他にもある。精霊の力が鍵に集中して、ため込む量が飽和すること。・・・と、言うよりもこちらが本来の鍵の使い方だ。7つ奪うためのデュエルなどする必要性はない。あの鍵をつけてデュエルをこなしていくだけで、彼らは勝手に開けてくれるのだ。」

 

 ・・・・・。

 

「そのシステムに心当たりがあるのかね。流石は相談役。そう、システムとしてはかつてドーマが行った儀式の形式に近いものだ。」

 

 ・・・・・・・・。

 

「ああ、話がそれたな。本題に戻そう。

 まあ、そんなシステムだ。セブンスターズは、そのことを知らん。というか伝えておらん。その方が本気で掛かる分、力の回収が早まるからな。

 だが、彼らは倒しきってはならない。そんなことをすれば、鍵は中途半端に力を使って、また一からやり直しだ。その時はその時だが、計画は確実な方がいい。

 

 だから、君には倒しすぎたセブンスターズを処理するバランサーの役割を担ってほしいのだ。それに、彼らが死んでくれれば、万が一私にたどり着くものが居ても、証拠がないと言い逃れれるからね。」

 

 ・・・・・・・・。

 

「もし、想定より早くセブンスターズが倒されたら、か。その場合は考えていなかったな。

 まあ、その時は君が全ての鍵を回収したまえ。汚れ役は得意だろう?」

 

 ・・・・・・・・・・・。

 

「腐れ外道?その通り。私は外道だよ。男なんてそんなものだ。人なんてそんなものだ。自分の為なら、他人がどうなっても構わない。それは君だって同じだろう(・・・・・・・・・)?」

 

 ・・・!!

 

「何、君の過去を調べただけだ。生きるために仕方なく殺し、倒し、見捨てた君の過去。そして、今から君は生徒を切り捨てる。それも、自分のエゴの為に。

 ああ、万が一の場合は生徒を殺すことも吝かではない。と、言うよりは君が出張るくらいになったら遠慮なく殺したまえ。

 

 ・・・・丁度いい。今カミューラが一人目の鍵を手に入れた。カミューラには幻魔の力の一部を持たせてある。生半可な相手では勝てぬだろう。二人目が犠牲になるようなら、君が始末してくれたまえ。七星門の鍵の守護者(ガーディアン)としてね。」

 

 ・・・・・。

 

「ああ、殺せ。遠慮なく殺せ。生き残ろうが死に絶えようが私の計画には関係ないが、死んでいた方が都合がいいこともある。」

 

 ・・・・・。

 

「それでは期待しているよ、沖田君。君は今日から、セブンスターズ(裏切り者)だ。

 

 

 

 

 精々、足掻くといい。悪魔の依り代(トラゴエディア)。」

 

 

 

 

 

 


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