遊戯王GX ~もしもOCGプレイヤーがアカデミア教師になったら~   作:紫苑菊

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あけましておめでとうございます。今年もよろしく、駄作者です。

新年早々FGOで遊んでいます。リンクス?ウェムコ様お迎えできていないのでまだしばらくはパックしか剝きません。センジュください。

それはそうと、福袋でナイチンゲールとオルタニキ、呼札でナイチンゲールと三蔵ちゃんが来ました。心臓ください。新年早々運を使い果たしたらしいです。


第11話

 

「アニキ!!お兄さんが!お兄さんが!!僕の所為で!!」

 

 そう嘆いているのは、目の前で吸血鬼にカード化された男の弟だった。彼の目の前には高笑いしている女性がいる。

 彼女こそが、セブンスターズの一人。いまや刈られつくされた絶滅危惧種。吸血鬼カミューラ。

 

「お、オホホホホ。やったわ、やったわ!二人目の鍵が手に入った!!」

 

 そう言って、彼女は目の前の敗者を、物言わぬ人形に変える。それは、通常あり得ない光景。それを可能にしているのは他でもなく、闇のゲームの力であった。

 

「待ってろよ、カミューラ!!」

 

 そう言って、気丈にふるまい、目の前を悪を打倒せんと声を荒げるのは遊城十代。

「お前は、俺が倒す!」

 

 まるで映画のワンシーン。きっと、これが映画かドラマ(フィクション)なら、勧善懲悪に基づいて、十代がカーミラに挑みかかるのだろう。

 

 ・・・そんな中に、空気を読まずに参入するべきか、物陰に潜んでいる沖田は悩んでいた。

 どうするべきなのだろうか。この地に急いで帰ってきて、校長から所在地を聞き出した後大急ぎで駆けつけてみれば、すでにクロノス教諭とカイザーが人形と化していた。

 状況から、間に合わなかった気まずさと、完全にヒーローと化している十代の様子に、出るに出れない状況になっていた。

 

「それはいいけど、坊や。それよりも先に私は相手をしなければならない人がいるの。そうでしょ?そこの陰で見ている誰かさん?」

 

 カミューラの言葉に、皆がこちらの方を向く。どうやら、彼女にはバレていたらしい。ならば隠れている意味はない(というか隠れているつもりはない)ので、早々に出ることにする。

 出てきた沖田の姿に、十代達は驚愕していた。

 

「沖田先生?!なんでここに?!先生は出張でアメリカに行っているはずじゃ?!」

「急いで帰ってきたんです。」

 

 さすがに、一日でここまで来るのは少々しんどかった。飛行機を乗り継いで、船に乗り、そこから走って行動していたのである。誰かこの頑張りを褒めてほしいのだけれども。

 

「そんなこと言ってる場合じゃないだろ!」

 

 万丈目に怒られた。ちょっとしたジョークのつもりだったのだが。・・・それはそうと、その黒ずくめの恰好はやはり高校デビューなのだろうか。正直、中学二年生と同じ匂いを感じるのだが。

 だが、そんなことは最早どうでもいい。なぜか、先ほどから敵であるカミューラがこちらを射殺さんとばかりに睨みつけているのだが。

 

「覗き見は趣味が悪くてよ、殿方さん。」

 

 そんなカミューラが、非を問うてきた。覗き見のつもりはなかったが、やられて気持ちのいいことではないだろう。

 

「それはすまない。気を悪くしたのなら謝罪しよう。」

 

 礼儀は大事だ。そうだろ?『血の伯爵夫人』。

 

「・・・・・。」

 

 カマをかけてみたが、どうやら当たっていたらしい。吸血鬼。それも女性で『カーミュラ』と名乗っているのならばと辺りはつけていたが、どうやら当たりだったらしい。

 まあ、だからと言ってやることは変わらないし、有利に展開が進むようなことは一切ないのだが。

 

「・・・私のことをご存じなのね。でも、どうせなら自己紹介から始めませんこと?」

「それもそうだ。初めまして、Ecsedi Báthory Erzsébet。私の名前は沖田曽良。遅れはしましたが、一応、七星門の鍵の守護者の一人です。」

 

 そう言うと、カーミュラは満足そうにうなずいた。

 

「ええ、存じています、Mr.沖田。私はセブンスターズの一人、吸血鬼カミューラ。まさか、ハンガリー語で私の名前を呼ばれるとは思いませんでした。」

 

 ふふ、イイ男。そう言われた瞬間、尻の方から寒気がした。これはいけない。過去のトラウマは忘れるんだ、と心の底から全力で記憶をシャットダウンし、目の前の人物との会話に集中する。

 

「そのモジャモジャ頭は趣味じゃないけど、私たちについての知識もそれなりにあるみたいだし、何より精霊の気配が強い。優良案件ね、アナタ。」

 

 心底寒気がした。イイ男、優良案件、精霊の気配。この時点で沖田にとっては役満である。過去にそう言いながら全力でケツを狙ってくる精霊を思い出した。

 あの時の記憶は、自身の精霊である魔轟神に頼んで消してもらったはずなのに、どうしてだろうか。消した記憶が頭の中でフラッシュバックする。

 安心するんだ、俺。あいつとカミューラは違う。あいつとカミューラは違う。違うんだ。

 

「何か仰ってくださらない?無視は良くないわ。」

「あ、ああ済まない。」

 

 過去のトラウマがフラッシュバックしていた、とは言えない。彼女とアレを混同するのは彼女に失礼だ。忘れろ、カラテマンの悲劇は忘れるんだ・・・!!!

 あとで、もう一度精霊に記憶を消してもらうことにする。これは決定事項だ。掘られてはいないが、寸前までいった記憶(トラウマ)はそうそう簡単には消えないのだ。

 

「せ、先生。大丈夫かよ、顔色やばいぞ。」

 

 どうやら生徒に心配をかけてしまったらしい。その様子に少し癒されながら、大丈夫ですとだけ返事をして、目の前の敵に向き直った。

 

「それで、あなたは私の敵なのかしら?」

Exactly(そのとおりでございます)

「なら、やることは一つよねぇ。」

 

 そう言って、彼女はデュエルディスクを構えた。

 

「Shall we dance?お相手願います?」

「これはこれは、貴方のような美女にお相手出来るとは、光栄ですね。ですが、それは男である俺のセリフですよ、Asszony?」

 

 そう言って、一度お辞儀をして、デュエルディスクを構えた。美女、という言葉にその場にいた全員が先ほどのカミューラの顔を思い出す。とてもじゃないが、あれを美女と呼ぶのには抵抗があった。いや、今のカミューラは美女と呼んでも差支えはないのだが。

 

「十代君、皆を連れて、ココから出なさい。」

「え?」

 

 どうしてだろう。いきなりそんなことを言い出した。皆、困惑しだしている。

 

「先ほどの幻魔の扉。あれをカミューラに使わせてはいけない。一応、出させないようにはするつもりですが、だからと言ってそれが出来る保証があるわけではない。

 ・・・正直、あのカードの方が、俺の精霊の力より遥かに上なんです。あんなことを繰り返したいんですか?」

 

 あんなこと、とは恐らく、カイザーが人形になった時のことを指すのだろう。人質を取られたカイザーは、思うようにデュエルが出来ず、自身の相棒であるサイバーエンドドラゴンの一撃を受けて敗退した。その結果、今彼はカミューラの懐にいる。

 

「あら、観客(オーディエンス)はいないの?なら、私が引き止めちゃおうかしら。」

 

 そう言って、彼女は自身の分身を作り出した。その分身を彼らに差し向けるつもりなのだろう。

 だから、あえて沖田はこう言う。

 

「別に構いませんよ。」

 

 その言葉を吐いた瞬間、流石のカミューラも動きを止めた。

 

「・・・貴方、正気?生徒が可愛くないの?」

「まさか!可愛いですよ。可愛い可愛い、私の生徒です。

 ・・・ですが、それよりも優先しなければならないことはある。三幻魔の復活。それだけは阻止しなければならない。・・・たとえ、生徒を犠牲にしたとしても、たとえ、自分がここで死ぬことになっても。それだけの覚悟が、俺にはあります。三幻魔が復活すれば、だれも止められない。あの武藤遊戯ですらが、止められるか分からない。そんな化け物が、この世界を支配するならば、この世界は、人にとって住みやすいものじゃあないでしょう。

 

 だから、あえてこう言います。好きにしなさい。やることは変わらない。貴方を倒すだけだ。」

「そう、じゃあ・・・。」

「だが。」

 

 だが。その言葉の圧に、カミューラは声を発することが出来なかった。それだけのプレッシャーが彼にはあったのだ。

 殺される。そう思う瞬間が。

 

「覚悟することだ。もし、これ以上目の前で生徒に危害を加えるのなら。俺はお前を許さない。神が許そうが、悪魔が許そうが、必ずお前はこの手で地獄に送ってやる。」

 

 カミューラには、後ろにある何かが見えた。竜?違う。影?違う。恐らく、あれは悪魔(ディアボロ)だ。

 恐らく、彼はやるだろう。ここで何人の生徒が犠牲になろうが、セブンスターズを葬りつくすだろう。その後、生徒の墓に自分たちの生首でも吊り上げるのだろうか。心臓に杭を打ち付けて、凄惨に嬲り続けるのだろうか。その果ては分からない。

 だが、これだけは言える。彼はこちら側(・・・・)だ。こちら側の人間だ。他人が犠牲になろうが、その目的を達成するためなら是とする。大多数が生き残るならこれを善とする。人を、感情ではなく数で考える人間。

 そんなのはもはや化け物だ。怪物(ノスフェラトゥ)だ。彼は、ある意味でイカレている。

 

「そう、脅しや人質は無意味みたいね。」

 

 そう言って、カミューラは分身を消した。思わず身構えていた十代達も、それにほっとする。

 

「いいんですか?幻魔の扉の素材(・・)にはなったでしょう?」

「そんな気配を出しておいて、よく言うわね、アナタ。私が彼らに触れでもした瞬間、その生徒ごと私の分身を焼き滅ぼす(・・・・・・・・・・・・・・・・)つもりだったでしょう?」

 

 え?という風に生徒たちが沖田を見る。

 

「まさか、そんなわけないじゃないか。そんなことが出来るように思いますか?」

 

 そんな気配(・・・・・)を、私にだけ向けて良く言う。恐らく、デュエルをしないうちに私は殺されていただろう。

 だが、ある意味では合理的ではある。彼は既に取捨選択をした。この場にいる自分を含めた命と世界の命。

 文字通り世界を滅ぼすかもしれない三幻魔を復活させるくらいなら、この場の全てを燃やし尽くす。鍵ごと自分を含めて燃やし尽くす。全てをリセットする強引なやり方だが、それが逆に私たち(セブンスターズ)の選択の幅を狭めている。

 それはまさしく、鮫島が、我らが長である影丸に行った行為に似ていた。

 

「それで、どうします?ここであなたが人形をそこに置いて帰るというのなら、見逃しましょう。」

「まさか、そんなことをするはずが無いじゃない。私は、誇り高きヴァンパイア一族のカミューラ。人間ごときに、遅れをとるもんですか!」

「分かっていないなぁ。いつだって、化物を倒すのは人間なんです(・・・・・・・・・・・・・)。」

 

 そう言って、デュエルは始まった。生徒や、教師とのデュエルでは決して出さなかった、カミューラ(ノスフェラトゥ)の本気の気迫が、彼らを襲う。

 

「私のターン、ドロー!手札から、ヴァンパイア・レディを守備表示で召喚し、カードを二枚伏せるわ。ターンエンドよ。」

 

 カミューラ

  手札6→3

 

「では、俺のターン、ドロー。モンスターをセット。カードを二枚セット。ターンエンドです。」

 

 沖田

  手札6→3

 

「あら、随分と消極的ね。私のターン、ドロー!」

 

 カミューラ

  手札3→4

 

「私は、ヴァンパイア・レディを生贄に、ヴァンパイア・ロードを召喚!」

 

 カミューラの切り札。その繋ぎとなるモンスターが召喚される。そしてそれが出てきたということは、当然あれも出てくるだろう。

 

「ヴァンパイア・ロードをゲームから除外し顕れよ、ヴァンパイアジェネシス!」

 

 吸血鬼の真祖(ジェネシス)。創成の名を冠する吸血鬼が降臨した。その攻撃力は、あの青眼と同じ3000。召喚条件こそネックだが、それでも強力なモンスターである。

 だが、何よりも無視できないのは、その効果だろう。

 沖田は、それを知っている。それをさせるわけにはいかない。

 

「罠発動。不知火流 燕の太刀。フィールドに存在するゴブリンゾンビを生贄に、フィールド上のカード二枚を破壊する。その後、デッキの不知火モンスターをゲームから除外する。対象は、後ろの二枚。」

 

 だが、沖田が選択したのは後ろ、つまり魔法、罠の伏せられた二枚。このタイミングで出てきた罠だからと身構えていたカミューラは、ホッとしつつもその意味が分かりかねていた。

 

「あら、ヴァンパイアジェネシスを選ばなくてよかったの?」

「それはどうかな?」

 

 え?と思いつつも、チェーンはないかと尋ねられたら、何もないとしか言うほかない。伏せられたのは、かのミラーフォースと同じ、攻撃宣言時に発動する罠が一枚。そして、破壊されたときに真価を発揮するカードが一枚。どちらも今は使えない。

 沖田の背後に、白い夜叉の姿が現れた。妖刀を一太刀振るい、鞘にしまう。鞘と擦りあう音が鳴り、唾と鞘がパチン、と噛み合い音が鳴った刹那、二枚のカードが粉微塵になっていた。

 

「不知火の宮司をゲームから除外します。そして、墓地に送られたゴブリンゾンビの効果で、デッキから守備力1200のアンデットを手札に加えます。」

「だけど、破壊された不死族の棺の効果発動!墓地に存在するアンデット族が蘇る!」

 

 破壊されたカードの破片が、宙に漂う。その中から、妖しい光を纏った棺が現れた。棺が空いた瞬間に出てきたのは当然。

 

「ヴァンパイア・レディを墓地から特殊召喚!」

 

 チェーン1ゴブリンゾンビ、チェーン2不死族の棺でいいのだろうか、と沖田は解釈した。この時代のデュエルディスクは、時たま演出を優先するのが悪いところだ、なんて少々場違いなことを考えていたが、チェーン処理を続行することにした。

 

「それにチェーンして、除外された不知火の宮司の効果を発動します。」

「なんですって?!」

「フィールド上の、表側表示のカードを破壊します。破壊するのはヴァンパイアジェネシス。」

 

 その瞬間、消えかけていた夜叉の体が動き出す。再び、布が擦り切れるような鈍い音が起こったかと思ったその刹那、春光の如く光る一筋に、吸血鬼の真祖は為すすべなく破壊された。

 化物のあげた断末魔に、十代達は竦みあがる。それほどに、ジェネシスの悲鳴が悲痛だったのだ。

 

「行きなさい、十代君!大徳寺先生は彼らを安全な所に!」

「そんなこと出来るかよ!」

 

 そう十代が叫ぶが、正直沖田には迷惑な話だった。このデッキの真価を発揮するには、彼らは控えめに言って邪魔なのだ。

 

「十代君。平たく言って今この場に君たちは邪魔でしかない。カイザーを助けたいのなら(・・・・・・・)、今すぐこの場から離れてください。」

 

 卑怯な言い方だ、と沖田は軽く自己嫌悪する。そうでなければ助けられない、と言えば、彼はそうするしかないと知ってのことだった。

 だが、これから使うカードを、彼らに知られるわけにはいかない。これは、紛れもなく沖田の切り札(・・・)なのだから。それを、()に知られる訳にはいかない。情報は武器なのだ。

 逸る沖田は、気を落ち着かせるために懐からあるものを取り出した。学校だからと使うのを控えていたが、生徒が居なくなるのなら、多少使ってもいいだろう。

 

「あら、喫煙者なの?」

 

 いやだわぁ。血がおいしくなくなるのよ。そう言うのは、対戦相手のカミューラだ。心なしか名残惜しそうな声。そして十代達は、沖田が喫煙者だったことが驚きだったらしい。

 

「先生、吸うんだ。」

「先生の体はニコチンで出来ているんです。血潮はカフェインで心はガラスですね。」

「嫌な無限の剣製なんだなぁ。」

 

 全くである。隼人が言うが、まさにその通りであると沖田も思った。よく考えたら不健康にもほどがある。

 しばらくは健康に気をつけようと沖田は心底思った。そのしばらくがあれば(・・・)だが。

 

 「そんなことはいいから行きなさい。」と促すと、今度は十代達が何も言わずに、カミューラの城から離れていく。チェイテ城から離れていく。

 通路からは彼らが見えなくなった時、沖田はデュエルを再開した。

 

「効果処理を再開します。デッキから、ゴブリンゾンビの効果で手札に加えるのは、不知火の隠者。」

 

 沖田

  手札3→4

 

 カミューラは思わず舌打ちをしたくなった。手札は僅か1枚。だが、その手札消費に比べ、盤面にいるのはヴァンパイア・レディたった一枚と、あまりに心許ない。残ったのはこのターンに引いたカード、強欲な壺。それであの盤面を覆せるのか、と言われれば厳しいとしか言いようがない。

 だが、他にやれることはないので、運を天に任せることにした。この自分がまるでクリスチャンのように神に祈るのが、たまらなく悔しい。この雪辱は、対戦相手をいたぶることで、解消するとしよう。

 

「強欲な壺を発動!デッキからカードを二枚ドロー!」

 

 引いたカードは、今は使い物にならない魔法カード。精々、ブラフにしかならない。カミューラは思わず舌打ちをしそうになった。

 だが、もう一枚はイイ。もしかすると、次のターンは生き残ることが出来るかもしれないからだ。

 

「バトルよ!ヴァンパイア・レディでダイレクトアタック!」

 

 ヴァンパイア・レディが沖田に襲い掛かる。沖田はそれを受け入れた。レディは沖田の首元に齧り付く。多少血を吸われても、沖田は微動だにしなかった。相当なダメージを受けても、彼は喘ぎ声一つ出さずそれを受け入れる。

 

 沖田 4000→2450

 

 カミューラは違和感を感じた。・・・心なしか、レディの魔力が上がっていないだろうか。ステータスに違和感を感じたカミューラはデュエルディスクを見返すが、ステータスに変わりはない。きっと気のせいだろうと思い、効果を発動させた。

 

「ヴァンパイア・レディの効果発動!相手のデッキから、カードの種類を宣言し、そのカードを相手は一枚墓地に送る!私が送るのは・・・。」

 

 そこまで考えて、カミューラは悩んだ。普通なら、モンスターを送ると言っただろう。だが、相手のデッキはゴブリンゾンビなどから見るに、明らかにアンデットデッキだ。そして、アンデットデッキの最大の特徴は、蘇生が容易いということだろう。

 なら、魔法か罠。だが、先ほどの燕の太刀は警戒しなければならない札ではあるし、だからと言って、蘇生手段が多い魔法カードを墓地に送らせるべきではないだろうか。カミューラは悩んだ。こいつのことだ。もしかしたら、墓地から発動(・・・・・・)する罠も入っているかもしれない。

 

「魔法カードを宣言するわ。墓地に送りなさい。」

「了解。デッキから、おろかな埋葬を墓地に送る。」

「え?」

 

 おろかな埋葬。その優秀さは知っている。と、いうよりアンデットデッキには必須クラスの汎用カードだ。だからこそ違和感がある。カミューラは嫌な考えがうかんだ。他に、必須のカードしかデッキになかったのかもしれない。だけど、そうでないのなら。もうおろかな埋葬で出来ることは達成しているとしたら。

 前者はともかく、後者は不味い。目的が達成されているのなら、次に私のライフは残っているのだろうか。

 カミューラは手元のカードを見る。大丈夫だ。まだライフは間違いなく(・・・・・)残る。だから・・・。

 

「私はカードを一枚伏せてターンエンド。貴方のターンよ。」

 

 何もすることはない。あとは、相手の出方を待つのみだ。

 

「・・・俺のターン。」

 

 ドロー。静かにそう言った後、沖田は当たりを見渡した。既に、彼らはいない。誰の姿もない。あるのは、ただの二人のデュエリスト。

 なら、全力で行こうか。沖田は、自身に許されたその術を全て使い切ることにする。

 

 沖田

  手札4→5

 

「カミューラ。貴方のデュエルは確かに素晴らしい。」

 

 沖田のセリフに、思わずカミューラは呆気にとられた。

 

「貴方のデュエルは見せてもらいました。カイザーのデュエルだけではありません。あなたが現代に蘇ってから(・・・・・・・・)のデュエルもです。そのコンビネーション、戦略は素晴らしいとしか言いようがなかった。」

「そう、ありがとう。」

「だが・・・。」

 

 だが。そこから何を言い出すのだろうか。カミューラは、彼から流れる嫌な気配をひしひしと感じながら、賛辞の言葉を受け取った。

 

「だが、しかし、まるで全然!この俺を倒すには、程遠いんだよねぇ!」

 

 生徒の前ではしなかったであろう、その顔を彼はカミューラに向ける。顔には、黒い入墨(・・・・)の文様が浮かび上がり、それがもはや、人の気配でないことは明らかだった。

 

 そこでカミューラは確信した。彼は、精霊使い《・・・・》だ。それも、間違いなく強力な。そんな彼が、今や初期枚数と同じだけの手札(手段)を所持しているのだ。

 

 嫌な予感がする。直感と言うよりは本能に近い形で、カミューラは身構えた。

 

「通常召喚、ゾンビ・マスター。ゾンビ・マスターは手札のモンスターを捨てることで、墓地のレベル4以下のアンデット族モンスターを特殊召喚できる。手札のモンスターを捨てて、不知火の隠者を特殊召喚。こいつは、フィールドのアンデットをリリースすることで、デッキからアンデット族チューナー(・・・・・)を特殊召喚できる。特殊召喚するのはユニゾンビ。」

 

 先ほど手札に加えたカード。そこから展開されたのは、少々懐かしい雰囲気を残したモンスターだった。

 

「そして、ユニゾンビの効果で、デッキのアンデットモンスターを墓地に落とすことで、フィールドのモンスターのレベルを一つ上げることが出来る。ただしこのターン、俺はアンデット族しか攻撃できない。デッキの馬頭鬼を墓地に落として、ユニゾンビ自身のレベルを1上げます。」

 

 レベルを上げる?一体何の目的があるのだろうか。アンデットを墓地に送ることが出来るのは強力だ。だが、その効果はあくまでおまけのようなものなのだろうか。カミューラは少し考えたが、その次の効果が発動したので、その思考は隅に追いやることにした。

 

「さらに手札の、炎の精霊 イフリートの効果発動。」

 

 珍しいカードだ。素直にそう思った。大分昔のカードらしいが、其処まで警戒するモンスターではないだろう。なにより、アンデット族ではないモンスターはこのターン攻撃できないので、今回は無視して大丈夫か。

 その認識は、わずか数秒で裏切られる。

 

「イフリートは、墓地の炎属性モンスターを除外することで特殊召喚できる。そして、この瞬間除外された不知火の隠者が効果を発動する。」

 

 いや、このためだったのか!除外をデメリットではなく、展開のためのエンジンとして使用したのだ。成程、不知火というカテゴリには相性がいいのかもしれない。

 

「隠者は、除外されたときに隠者以外の除外されている不知火を特殊召喚させることが出来る。これで、先ほど除外された不知火の宮司を特殊召喚。」

 

 先ほどの宮司ほどではないが、なかなかに厄介なカードを出してくれたものだ。またイフリートのような除外するカードがあれば除去を許してしまうことにもなりかねない。

 

「ユニゾンビの第二の効果。手札を一枚捨てることで、フィールドのモンスターのレベルを1上げる。俺が選ぶのは不知火の宮司。」

 

 先ほどから、随分と気になってはいたが、いよいよ無視が出来なくなっていた。レベルを上げることが、そんなに意味のあることなのだろうか。

 

「レベルを上げて、何の意味があるの?確かに墓地肥やしが出来る点は、アンデットにとって、とても有利になる。それは分かるわ。

 でも、それならおろかな埋葬で十分じゃない。ゴブリンゾンビやその不知火の隠者で持ってこれるのは優秀だけど、そのために攻撃に制限をいれたら、せっかくのイフリートが無駄に終わるじゃない。イフリートの攻撃力は1700だけど、自分バトルフェイズ中に300ポイント上がる能力を持っている。でも、このターンは攻撃できない。宮司やユニゾンビ、ゾンビ・マスターだけでは、それだけモンスターを並べても、私のライフは残る。」

「それはどうかな?」

「何?」

「カードを一枚伏せる。」

 

 カードを伏せる。それは、通常ならメインフェイズ2に行う行動だ。攻撃を行った後に、防御策を講じるのは、ある意味セオリーである。だが、そのセオリーから外れたのなら、何か意味があるのだろう。

 

「俺は、レベル4、炎の精霊 イフリートに、レベル4となったユニゾンビをチューニング(・・・・・・)。」

「え?」

 

 ユニゾンビの体が、碧の光輪となる。その輪が、炎の精霊の身を包み、いつの間にか精霊の姿は、四つの光体となっていた

 

「地獄と天国の間、煉獄より、その姿を現せ!」

 

 炎は、(ほむら)となっていた。光は龍の形を彩るが、その光は焔に包まれる。焔、というよりは、魂を焼き尽くす煉獄の業とでも言うべきかもしれない。それほどまでに、禍々しい炎。

 

 

 

 

シンクロ(・・・・)召喚。顕現せよ、煉獄龍 オーガ・ドラグーン!」

 

 

 

 地獄の龍がカミューラの目の前に顕現した。

 

 

 

 

 

 

 

 




時空のペンデュラムグラフとクロノグラフがギル様にしか見えない私はFate厨。しばらくしたらゴッデスデッキに組み込みたいです。王宮の鉄壁で調律を使いまわしてシンクロしまくりたい。

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