遊戯王GX ~もしもOCGプレイヤーがアカデミア教師になったら~   作:紫苑菊

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 ぶっちゃけ廃人が行き詰ったのでこちらを投稿。文才がないことを改めて自覚しました。
 
 それはそうとFGO、賢王目当てで20連回し、当たり0。
 友人と徹夜で遊んだ帰りに、マックで10連回しようやく金の気配が・・・?!

 オジマンディアス「我が業を見よ!!」

 お前はなんでピックアップの時に来ないんだ・・・!!
 残った石は邪ンヌか沖田さんか弓ギルの時に使うことにします。


第10話

 

 アメリカ、ラスベガス。

 昼は繁華街、そして夜は権力とギャンブルの、欲望渦巻く大人の街。

 

 ・・・なんて事はなく、ラスベガスも割と最近は平和な雰囲気になっていた。

そもそも、ギャンブルとはいえ国の政策として経営されているものが、違法であるはずもなく。この街は、割と平和なのだ。

 

 だが、違法なものがないわけではない(・・・・・・・・・・・・・・)

 

 国が始めたからと言って、経営はあくまで個人で行われているところが殆どだ。そんな中、ある問題が発生した。

 

 観光客だ。正確には、観光客が破産した場合のケースと言ってもいい。

 債権を回収しようとも、観光客の住まいは別の国。それも、ほとんどの場合が海を隔てた向こう側。

 クレジットカードのない今の時代、その負債回収するのには莫大なお金がかかってきた。しかも、負債が莫大すぎると、破産申請されてハイおしまいと、貸し付けた金が戻ってくるのは絶望的である。

 当然ながら、すぐに対策が打たれた。だが、そんなものは何のその。例外、新たな例外が現れ、経営困難に陥っていった。

 

 そんな中、国が裏で行ったのが、一般市民、つまりは私営のカジノが集まり、作っていた裏カジノ。つまり、地下だった。

 

 参加できるのは、各国有数の資産家や、石油王、不動産王、そして政治家などの社会的地位が確立された者だけ。レートは表とは比べ物にならない。そこに国が参加すれば、この負債を清算できる。向こうは、その行いを少なくとも国からは咎められることは無くなる。

 そうして、国公認、いや、黙認というのが正しいのだろうか。実際、国営のカジノがそれ(・・)に関与しているという事実的な証拠はない(・・・・・・・・・)。金は確実にプールされているが、だからと言って違法なことに、国が係るわけにはいかないのだから。

 

 まあ、兎に角。

 

 黙認されたカジノ。裏カジノ『アンダーグラウンド』。通称地下。

 

 そんな、清も濁もごった煮にしたような場所に長年居ると、心が荒んでいくのは当然なわけで。

 それが、まだ成年にもなっていない少年なら、当然なわけで。

 そんな彼は、荒んだ心をリラックスさせるために、数か月ぶりに外の世界(カジノの外)に出てきた。

 買い物はいいものだ、とは誰の言葉だったか。男女問わず、買い物はストレスを和らげるものだと。

 そう言われたのを思い出して外に出たのはいいが、いまいち少年は気が乗らなくなっていた。

 それもそうだろう。買い物の軍資金となるお金は、汚い手段で手に入れたものだ。人の命を奪って手に入れたものだ。それを喜んで使えるほど、少年は悪人ではなかった。

 世話を焼いてくれているスライム使いの男がここに居れば、「悪人もまた才能だ。それは、お前は悪人には成れない証拠だ。だから誇れ。」と言うだろう。あるいは、「死んだやつは弱かったから死んだのだから、お前が気にする必要はない。他のやつが死んだことにお前は関係ない。」と元気づけてくるかもしれない。そう思うと、少年はあの不器用なスライム使いの、筋肉ムキムキマッチョマンの変態を思い浮かべた。

 

 ふっ、と思わず噴き出した。よし、今日は映画でも借りに行こう。もしかしたら、コマンド―もあるかもしれない。アクション映画は趣味ではないし、どちらかと言えば名探偵ムンクか、刑事コロンボのような推理物が好きなのだが、偶にはこういうのもいいだろう。

 そこまで思考が一巡すると、先ほどまでの憂鬱感がいつの間にか無くなっていた。少年はショッピングモールにあるレンタルショップに向かう。あそこには、世界規模でチェーン展開している店があったはずだ。ついでに、服でもいくつか買っていこう。持っている服がダメになっていっているのを思い出した。

 

 買い物が終わり、ショッピングモールを出ると、辺りは暗くなっている。仕方がないだろう。少年がカジノを出たのは昼の3時過ぎ。買い物を終わらせれば、夜中になるのは分かり切っていたが、ここまで遅くなるのは少年も予想外だった。

 少年は焦った。家に帰ることが出来なくなっていたからだ。いや、帰れないわけではない。

 問題は、家に帰る手段だ。少年の家はカジノの中にあると言っても相違ない。そしてカジノは、夜になると自分のような少年を店には入れてくれない。それがたとえ、従業員である少年でも。少年は、表ではいないものとして扱われているからだ。人の出入りが多くなる夜に少年があそこに行くのは、支配人から止められている。

 裏口からこっそり入るか、諦めてどこかで一晩明かすか。出費は嵩むが、どこか安宿でも借りようか。時間を忘れて買い物していた俺のミスだ。

 そう思い、安い割にはセキュリティがしっかりしていた宿に、少年は向かうことにした。途中、電話で今日は帰れないことを支配人に伝えると、親切なことに自身が所有している高級ホテルを手配してくれるらしい。

 まったく、自分が金を落としてくれる黄金の鵞鳥とはいえ親切な支配人だ。善行を積めば(厚遇すれば)俺が金を生み続けるとでも思っているのだろうか。

 でも、そのお節介が少し嬉しくもある。なんだかんだ気遣ってくれる支配人と筋肉ムキムキマッチョマンの変態には、頭が上がらない。お土産にプロテインと毛生え薬でも買っていこう。ついでに彼のデッキに合わせてスライムでも買って行ってやろうか。ちょっとした親切である。どう考えても嫌がらせにしか思えないが、親切である。

 

 ショッピングモールに戻る。毛生え薬とプロテイン(流石にスライムは売っていなかった)を買い終わると、不思議なことに、自分とそう年の変わらない女の子が一人でいるのを見かけた。

 この街のこの時間、普通なら女の子一人で出歩くなんてことは普通ありえない。だというのに、彼女はそこにいた。周りをキョロキョロと見渡していることから、何か店を探しているのだろうと推察できる。

 

 そこに、男が声を掛けに言った。素行が悪いことでカジノでも有名な男だ。親が有名な議員で、小遣いで遊びほうけているらしく、負けが嵩むと父親が負け分を支払いに来る。支払い分の受け取りを手伝ったことがあるので、彼と彼の親には面識があった。

 ここで問題を起こされては困る。次、彼が問題を起こせば、あの議員は息子を家に連れて帰るだろう。それは困る。彼には、金蔓でいてもらわなければ。それに、こんなところに一人とはいえ女の子がいるということは、よほどのお嬢さんかもしれない。だとすれば恩を売っておいて損はないかも。そう、理由を作った(・・・・・・)

 

 そんなことを考えて介入するかを考えていると、男が声を荒げたのが聞こえてきた。どうやら迷っている場合ではないらしい。

 急いで彼らのもとに駆け寄る。すると、男はこちらを見ると舌打ちをして、何処かに行ってしまった。女の子はため息を一つつき、こちらに向き直った。

 

「ありがとうございます。おかげで助かりました。」

 

 だが、それは不適切だ。俺はあくまで駆け寄っただけだ。何もしていない。そう伝えると。

 

「あ、それもそうですね。」

 

 ・・・流石にそう言われるとあれ?というものを感じる。それを見抜かれたのか、クスクス笑って彼女はまたお礼を言った。

 

 だが、どうしてこんな時間にこんなところにいるのか。不思議に思った少年は、それを伝えると怪訝そうな顔をされる。

 

「え?あなたがそれを言うんですか?」

 

 それを言われればそうだ、と思った。だが、そんな自分の様子を見て、また彼女はクスクスと笑いだす。少し笑いすぎではないだろうか。

 

「いや、実はですね?」

 

 そう言って、彼女は笑顔で・・・。

 

 

 

    ◇

 

 

「・・・起きてくだサーイ。起きてくだサーイ、沖田ボーイ!」

 

 え?と目を開ければ、目の前に久々に見る顔。どうやら自分は寝ぼけていたらしい。シャバシャバとした目を擦り、体を起こした。

 

「・・・すいません、ペガサス会長。」

「まったく、パーティの準備があるのですから早く準備をしてくだサーイ。先方を待たせるわけにはいきまセーン。」

 

 まったくその通りである、と数か月前の俺ならそう思っただろう。だが、今は違う。

 

「あの・・・ペガサス会長。」

「なんですか、沖田ボーイ。」

「・・・なんで、俺はここにいるんですか?」

 

 首を横に傾げ、大げさにクエスチョンマークを体で表現する。だが、それをされても、自分にはいまだによく状況がわからない。何せ・・・。

 

「俺、プロジェクトからは外されて、教員に左遷させられているんですけど。」

 

 それを言って、ようやく、「ああ!」と言った感じに、手を叩き、これまた大げさにエクスクラメーションマークを体で表現する。その元上司の様子に、思わずイラッときた。

 

「左遷とは人聞きが悪いデース。ただ、万が一精霊の力が働いた場合に、対応できるであろう人員が、貴方しかいなかっただけの話。それをそんな風に言われるのは心外デース。」

「でしたら、なぜ試験用の、俺が没にした筈のカードがそのまま原案で通っているんですか。」

「貴方の後任が通しました。私は関与していないのでわかりません。」

 

 流暢な日本語で政治家みたいなこと言ってんじゃねぇと、叫びたくなった思いをグッと堪える。

 

「ですが、アレは通すべき案デシタ。」

「カードバランスが壊れるようなものを通すわけにはいかない、とカード開発部で廃棄された案件ですよ?」

「だとしてもデース。新たな召喚法を広めるためには、それなりに目立つカードが必要なのデース。日本ではそれを必要悪と言いマース。」

 

 必要悪というか、ただ混沌としているだけのカードを、俺は必要とは思わない。俺は、それを知っている。ぶっ壊れというのだ。そういうのは。

 さようなら、DDB。そしてブリューナク。お前らのことは割と好きだったよ。その内エラッタしてやるから、それまで獄中で我慢してほしい。・・・まあ、獄中に放り込む最終決定権を持っているのは俺なのだが。

 そんなことを考えながら、この際だからと思い、沖田はかなり食い込んだ質問をすることにした。

 

「通さなかった俺が邪魔になり、左遷したのは事実でしょう?なぜ俺を呼び戻したんでしょうか。」

 

 流石に、これを聞かれると思わなかったのか、少しペガサスは動揺したようだった。悲しそうな顔つきになり、どういったものかと思案を凝らす。

 

「・・・時として、必要なことデース。それに、向こうに人員が必要だったのも確かデシタ。精霊の力を借り受けることの出来る人間は稀デース。なら、人員と時間を無駄にするわけにはいきまセーン。」

 

 そのあたりは、沖田も分かっている。だからさして左遷されて教師になったことはそう咎めるつもりはないし、怒ってもいない。

 むしろ聞きたいのは今回、半分無理やりにこのホテルに連れてこられたことだった。

 

「今回、ここで行われるのは出資者や株主に対するお披露目会のようなものデース。それに、新プロジェクト《Synchro Summon》の元とは言え責任者で第一人者(・・・・・・・・)のあなたを連れてきたのは、道理にかなっていまセンカ?」

「ですが、送り出したあなたが一番今の状況を知っているでしょう?セブンスターズが攻め入るかもしれないという時に、こちらを優先させたのは何か意図があってのはず。」

「ですから、その戦いが本格化しないうちに、こうして重役たちに顔出ししておいてほしいのデース。拒否権はありまセーン。」

「いつかこのブラック企業辞めてやる・・・。」

「仮にも前科者の貴方がまともにこの業界で就職できるとでも?」

「そういうセリフだけ流暢にしゃべるのやめてもらえます?」

 

そういうと、ペガサスは満足したように笑い出した。ナイスジョークなんて言いながらその白い歯を見せつけられ、殺意のボルテージが高まっていくのを沖田は感じていた。

 

 (静まれ、静まれ俺の右手。殴るのは一億ポイント貯まってからだ。)

 

 そう思い、必死に殺意を抑えていると、不意にペガサスが顔を覗き込んでいた。驚いて、思わず反射的に仰け反ってしまい、バランスを崩した。

 

「・・・何をしているんです?」

 

 落ち着いて気を取り直した際、改めてペガサスの顔を見ると、心配そうな顔でこちらを見ていた。

 

「・・・いえ、先ほどここで呆然としていたので、どうかしたのかと思いマシテ。」

 

 なんだ、心配してくれるのか。そう思って聞いてみたが、ここから先のパーティが心配だと言われ、また殴りたいと思う気持ちが芽生えてくる。

 

(落ち着け、落ち着け俺。こんなのいつものことだ。最近沸点が下がってきてるぞ。こんなんじゃポイントなんてすぐ貯まる。だから落ち着くんだ俺!)

 

 そう思い、気を落ち着かせる。幸い、目の前に神妙な顔をしている人がいるので気の落ち着きは早々に取り戻した。

 

「・・・少し、昔のことを思い出しただけですよ。」

「昔?」

「あいつと最初に遊んだのも、こんなホテルだったなぁと思いまして。」

 

 それを言うと、会長はことさら苦い顔をして、申し訳なさそうな声になった。

 

「申し訳ありませんが、例の件に進展は・・・。」

 

 それはそうだろう。なんせ自分が、多大な時間と、金と、人員と。そのすべてを総動員しても全く進展しなかったものが、このたった数ヶ月で解決するなんて思っていない。心配ないとペガサス会長に伝えると、また悲しそうな顔をした。

 

「あれは俺の個人的な問題です。貴方が責任を感じる必要はありませんよ。」

「ですが・・・。」

 

 いまだに食いつくペガサス会長に、思わずクスッと来た。本当にこの人には一部の責任もないというのに、それでもここまでしてくれるのは、少々人が良すぎるというものだ。

 だからこそ、この人についていくのだろう。20代の若さでI2社を作り上げ、今や世界規模の会社となったのは、間違いなくこの人の好さに優秀な人材が集っていったに他ならない。

 頭の中にかかっていた靄が霧散していく。この人に対してのイライラは、最早無くなっていた。

 改めて、目の前の人物の顔を見る。感じていなくていいはずの責任感で苦しそうな顔をしている彼の顔を見る。溜飲が下がるとはこのことだろうか。

 いや、違うだろう。ただ、この人を見ていると、不思議と引き付けられるのだ。

 カリスマ。以前、社長が仰っていた。「人を使う天才」なんて、随分と皮肉な言い方だが、その通りなのかもしれないと思う。この顔を見たくなくて、I2社の人間は仕事に打ち込むのだ。

 そう考えると、自分もその一人なのかもしれない。この人の責任感を、どうにか和らげまいと今も励ましている。きっと、こういうのは「絆された」というのだ。

 

「ですが・・・。」

「そんな辛気臭い顔してたら、パーティが心配ですねぇ。」

 

 そう、意趣返しのつもりで言った言葉に、思わずぽかんとする会長。

 

「オー、それもそうデース。」

 

 そう、この人にはその調子でいてほしい。たとえ少々ウザくても。

 

「それはそうと、休んでいますか?酷い顔デース。ここの準備はもういいですから、部屋を借りているのでゆっくり休んでくだサーイ。」

 

 これはまた珍しい。いざとなれば社員の体調など関係なしと言わんばかりに働かせるブラックの社長とは思えない発言だ。

 

「失敬デース。ブラックなんじゃなくて、一定時期の仕事が鬼畜いだけデース。」

「鬼畜いとか使うくらい日本語堪能ならその胡散臭い語尾を外してくだサーイ。ま、寝れるならありがたく使わせてもらいます。部屋の番号は?」

「502号室を借りていマース。」

「鍵は?」

「胸ポケットの中デース。」

 

 え?と手を当ててみると、確かにカードキーが入っていた。ドヤ顔のペガサス会長に思わず「馬鹿なんですか?」と言いそうになるが、それを言ってしまうと貴重な休息の時間を奪われるので、ありがたく受け取ることにする。苦々しい顔に満足したのか、ペガサス会長はチーフスタッフのところに向かっていった。

 

「502号室・・・か。」

 

 何たる偶然、いや、運命とでもいうべきなのだろうか。あの時のホテルの部屋の番号も、確か同じだった。

 

 部屋に行き、シャワーを浴びて、ドレスコードに袖を通す。その状態で横になるのは少々行儀が悪いとは思うが、この際、そうも言ってられない。万が一遅刻しては目も当てられないのだから。

 虚ろになりゆく思考の片隅で、精霊たちが「おやすみ。」というのを聞いて、安心したのか。

 沖田の意識は、微睡の中に消えていった。

 

 

   ◇

 

 

「実はですね、道に迷ったんです。」

 

 あの時、彼女はそう言って俺に笑いかけてきた。いや、それなりに大事じゃないだろうか。彼女がこの辺りの人間でないことはもはや明らかだ。土地勘のない場所で一人彷徨うのは少々、いやかなり危険すぎると思うのだが。

 

「心配性ですねぇ。いや、道に迷ったと言ってもこのショッピングモール内での話です。行きたい店があるんですが、それがどこだか分らなくて、気付いたらこんな時間に・・・。」

 

 こんな時間って、一体何分迷っているのだろうか。

 

「・・・服に見とれていたのもありますが、大体2時間くらい?」

 

 それはそれで大丈夫やないやろ?!思わず声に出してしまった。しまった、英語じゃないと通じない。

 

「あ、やっぱり日本の方だったんですね。私もこの間まで日本で暮らしていたんです!」

 

 どうやら幸いにも通じたみたいだが、そういって笑う彼女は何処かずれている。

 

「いやぁ、ぶっちゃけ英語で話すの大変だったんです!日本語通じないから仕方なく頑張って話してたんですけど、通じるならこっちでいいですか?」

 

 それはいいのだが、その、あなたは日本人には見えないのだけれど・・・。

 

「ああ、私、出身はカナダですけど、暮らしていたのは殆ど日本なんです。だから、英語は一応話せはしますけど、読めませんし、書けません。と、いうか半分縁が切れかけてた父に、つい最近引き取られたというのが正しいですね。」

 

 さらっと流されたヘビーな状況に、思わず言葉に詰まる。彼女の口から次から次から出てくる父親の悪口に、どう対応していいか分からずおろおろしていると、笑い声が聞こえてきた。

 

「・・・ふ、ふふふ。」

 

 え?と思い、目の前を見ると、彼女は笑っていた。

 

「いえ、すいません。ちょっと可笑しくて・・・。」

 

 何があったのだろうか。もしかして、自分の状況が嫌になって笑いしか出てこないとか、そういうのじゃないよな?

 とりあえず、ハンカチを差し出してみる。よく見れば彼女の目から涙が出ていた。

 

「あ、あはははは!!」

 

 何が可笑しいのだろうか。俺には全く分からないが、大爆笑している。

 

「いえ、そんな顔をする人は今まで居なかったもので。」

 

 そんなにひどい顔だったのか、俺。ここまで笑われると、立場というものがないのだが。男として。

 

「いえ、でもどうやらナンパじゃないみたいですね。」

 

 ナンパなら、今の話を聞いた時点でそそくさと帰りますから。そう言って、彼女はハンカチを受け取って涙を拭きとった。

 

「まあ、それで掲示板が読めなくて、どこにどの店があるのか分からないからショッピングモールの中で延々と迷っていたわけです。迷っていたというよりは、どんな店があるのかゆっくりと回っていたというのが正しいですが。」

 

 成程、それは無理もないだろう。ここはかなり広く作られている。道に迷うのも当然だ。

 ・・・だが、迷子対策に日本語版の掲示板はないけれど、観光客用にパンフレットがあるのだが。

 そう言うと、え?という顔をされたので、持っていたパンフレットを彼女に渡す。数秒、それを捲ると一気にげんなりとした顔になった。

 

「私の2時間の努力って・・・。」

 

 そんな彼女に今度はこちらが思わず吹き出してしまう。むくれる彼女に、ならお詫びに案内する、と言うと。

 

「おやぁ、ナンパですか?」

 

 ニヤニヤと、こう返された。そのつもりはなかったが、まあ、偶にはいいだろう。

 そう受け取ってもらってかまわない、と言ってみた。どうやらこちらも気が乗ってきたらしい。最初の憂鬱感が嘘のようだ。

 

「なら、お願いしますね。」

 

 了解した、どこに行きたい?

 

「そのバッグ、それ、ビデオ屋のですよね?そこに行きたいです。」

 

 ああ、これか?DVDを借りたんだ。

 

「へぇ、何のですか?」

 

 コマンド―とか、あとは推理物かな?

 

「推理物いいですよね。日本にいたころは相棒が好きでした。」

 

 へぇ、趣味が合いそうだ。でも、渋くない?

 

「あとは魍魎の箱とか?」

 

 だから渋いよ。趣味が。確かに有名だけどさ。

 

「じゃあ、貴方はどんなのが好きなんですか?」

 

 黒死館殺人事件とか?

 

 そういうと、彼女は大げさに額に手を当ててポーズを取った。

 

「まさか日本三大奇書を持ち出すとは思いませんでした・・・。」

 

 分かる貴方が凄い。

 

「難解すぎて未だによく分からない本ではありましたね。」

 

 それは俺も思った。というか読了出来た貴方に感服する。犯人を当てない探偵という新ジャンルは、受け入れがたいものではあった。あと蘊蓄が長いし。蘊蓄が長いし。読者の読む気を損なわせるという意味では最高の出来栄えだろう。あの本は。

 

「ドグラ・マグラの方が読みやすいと感じたのはあれが初めてでした。」

 

 だからなんでそう趣味が偏っているのだ。

 

 そう思うが、彼女は本についての蘊蓄を語っている。

 

「ドグラ・マグラは、岡島二人のクラインの壺と似たものを感じます。いや、時系列的に岡嶋二人が真似をしたのかもしれませんが。」

 

 終わりのないループという意味では確かにそうなのかもしれない。余談だが、岡嶋二人なら焦茶色のパステルが面白かった。

 

「やはり趣味が合いますね。趣味は悪いですけど。」

 

 お互いにね。それはそうと、行くなら早くいかないと時間は大丈夫なのか?

 

「あ、もうこんな時間ですね。ついでですから晩御飯もご一緒しませんか?そうすればゆっくりお喋りできます。」

 

 それはいい。偶には、そういうのもいいだろう。

 

「でしたら、其処のパスタでも。食べ終わった後は、私の部屋で映画鑑賞でもしませんか?」

 

 ・・・そういう誘いのセリフは、男の俺が言うべきじゃないかい?

 

「逆ナンと思っていただいて構いませんよ?まあ、変なことをしようとしたらぶっ飛ばしますが。」

 

 男らしさを磨くべきと思ったのは今日が初めてだ。潔さとかは見習うべきなのかもしれない。

 

「それ、褒めてるんですか?」

 

 さあね。褒めているような気がするけど。

 

「おかしな人ですね。まあ、私もですが。」

 

 そう言って、笑いあった。それが、彼女との最初の思い出。

 いや、正確には、彼女()と俺()の、最初の思い出だった。

 

 

   ◇

 

「思い出に浸る間もありゃしねぇ。」

 

 思わずそう呟いたとしても、無理はないように思う。

 

 挨拶、発表、挨拶、苦情、挨拶、挨拶、挨拶。無駄に多いスポンサー各所に新召喚の説明とメリット、デメリットの提示。従来とは異なる環境に対応するためのカードの紹介。あらかじめ数年がかりで動かしてきたプロジェクトとはいえ、それでも問題は山積みだった。パーティとは名ばかりの、ただの仕事場である。休息が取れないのが普段の仕事より質が悪い。

 

「いや、それでもよく考えたら後任の人材で十分だっただろ、コレ。」

 

 発表と言っても、全て自分が出張らなくてはいけない問題だったわけじゃない。むしろ、後任の人材に少しでも顔合わせするべきだったのではないだろうか。

 

「いや、そういう訳にはいかないのか?」

 

 退いたとはいえ、一応元責任者だったのだからやらなければいけないことではあったのだろうが・・・。もしかしたら、学校の件が片付いたら速攻で元の部署に戻す気なのかもしれない。ペガサスさんは左遷ではないと言っていたが、本当にただの出向だったのだろうか。

 

「ま、どうでもいいか。」

 

 なるようになれ。そうして生きてきた沖田には関係のない話だろう。今の自分には責任はないのだから、今だけは何も考えずに自由にさせてもらおうじゃないか。

 まあ、これでやることは全て済んだ。騒がしいパーティももうすぐお開き。明日の早朝便で変えるためにも、早々に部屋に戻らせてもらおう。

 

 部屋に戻ろうとすると、会長が急ぎ足でやってきた。どうかしたのだろうか。

 

「ここに居ましたか、沖田ボーイ!探しマシタ。」

「どうかなさいましたか、会長。」

 

 会長にしては随分とあわただしい。よく見れば頬を汗が伝っている。余程の急ぎだったのだろう。

 

「電話してくだされば・・・って、携帯の電源は切っているんでしたね。すいません。」

 

 パーティの際に携帯の電源を切っていたのをすっかり忘れていた。せめて電源は入れておくべきだったか。

 

「そんなことはどうでもいいのデース!

 それよりも、来るはずのないお客様(・・・・・・・・・・)がいらっしゃいマシタ!貴方も至急あいさつに来てくだサイ!ハリー!ハリー!ハリー!ハリー!ハリィィィー!!」

 

「ど、どうしたんですかそんなに慌てて!分かりました、すぐに行きますから!」

 

 どうやら、よっぽどの上客が来たらしい。ここまで慌てるとなると、海馬コーポレーションの人間か。それとも大株主か。あるいは・・・。

 

 そう考えているうちに、その客人のいる部屋にたどり着いた。

 

「失礼します。」

 

 中にいたのは、一人の老人だった。いや、ただの老人ではない。なにか、凄みを感じる。

 随分と不思議な感覚に陥ったが、その老人に俺は見覚えがあった。面識はない(・・・・・)が、見覚えはあった。

 

「初めまして・・・じゃったかな。」

 

 そう言って、彼はソファから身をゆっくりと起こす。

 

「いえ、そのままで構いません。初めまして。」

 

 間違いがない。間違えようがない。

 

「おお、すまんのぉ。なんせもう100を超えた身でな。体を動かすのがやっとなんじゃわ。座ったままで失礼させてもらうよ。」

 

 政治界、経済界。そしてもはや社会の一部となったデュエル界。その全てに多大な影響力を持つ怪物。

 

「影丸理事長。」

 

 人は彼を、『日本の怪物』と呼んだ。

 

「改めて自己紹介をさせてもらうよ。儂は影丸。・・・よろしく頼むよ、沖田君。」

「こちらこそ、よろしくお願いします。」

 

 

 

 

 

  運命の歯車は、回り始めていた。

 

 

 




第一部ラスボス登場。

ぶっちゃけ、三幻魔趣味じゃないので作者は使うことはないです。暗黒界ストラクはよ。

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