差し伸べられた手   作:カプロラクタム

8 / 10
そして星野逢は想いを固めた

私は気づくと真っ暗な世界に居た。

 

ここは一体どこなのだろうか。 当然頭の中にはその疑問が浮かぶ。 さっきまで私は八幡にメールをして横になって寝ようとしていた。

ということはここが夢の中なのだろうか? 八幡が見たっていう夢の世界なのかな。 そう思うと少し嬉しい。

 

しかし、ここから何をすればいいのだろうか。 私の意識があって夢と気づいただけだ。 何もできない。

ただ、ここは夢の中だ。 起きようと思い瞼を開ければアクションとなる。 おそらくそこからが八幡が話していた夢の内容だろう。

 

『……ァ! ……か?』

 

ふとこんな音が聞こえた。 その音に含まれているのは怒りの感情。

私に恐怖の感情が走る。 こういうとき八幡がいれば私は……とついつい思ってしまう。

夢の中であるのでさっきの怒声と私の記憶で中々結びつかない。 だからこそなおさら怖くなる。 何が起こるのだろうかと。

八幡によれば、この夢は自分の記憶にある意識していて欲しいことを夢に見るという推測らしい。 私は八幡を信じるほかない。

 

……なら、怖くても先に進まないとね。

 

私は瞼を開けた。

 

 

 

× × ×

 

瞼を開けたらそこにはかつて見慣れた建物があった。

それはいい思い出と辛い思い出が混じり、そして私にとって大事な決断をした場所-私と八幡の中学校。

 

私は今校舎裏の物陰にいた。 私は状況を思い出そうとするが中々思い出せない。 ……すごい大事な記憶だったのに薄れていたのを感じる。

そう思っていると私の耳に肉と肉が打ち合う音(エロい意味じゃないよ)と怒声が聞こえた。

 

「おい、比企谷ァ!歯を食いしばれよ!」

 

私はその言葉のする方へ物陰から伺うようにして見た。

 

そこに映っていたのはクラスメイトの男子達が八幡をいじめ……と呼ぶにはあまりにも残酷な行為をしていた事だ。

 

私は止めに入りたかった。 だが、動けない。 何で! 何で助けられないの!

その問いの答えは簡単に出てしまった。 この光景は私の記憶なのだ。 今私の意識はかつての私にある。 けど、今はかつての記憶が再現されている。 つまり、過去の私はここて止めに入れなかったから今の私は動きたくても動けないのだ。

 

私はただその光景を見ることしかできず泣いていたと思う。

 

その光景を見ている中で気になる台詞があった。

 

「おめぇみたいな害虫が星野さんに話しかけるな! クラスの雰囲気が悪くなるし、何よりムカつくんだよ!」

 

「お前何か星野さんを脅してるんだろ? そうでなきゃ彼女から話すわけないしなw どうだった? 少しばかり話し相手ができた感覚はよぉ? ギャハハハハハハハハ!!!!」

 

「だまれ……、星野は何も悪くない。 全ては俺が悪いんだろ?」

 

 

こういった台詞だ。 ねぇ八幡、なんで私を責めないの? 気づいているでしょ?

 

クラスメイト達が飽きたのだろうか、八幡を置き去りにして去っていった。 過去の私はすぐ様八幡に駆け寄る。 多分、ここからは今の私と同じ行動を取るんだろうな……と過去にした行動をそう思った。

 

八幡は意識はあるようだったが危ない状態であることには変わりない。

私は救急車を呼んだ。 それくらいひどい状態だったのだ。

 

救急車が来るまでの間私は八幡に付き添った。 少し意識のある八幡に私はこう言った。

 

「ごめんね、比企谷君……。 私がクラスでの比企谷君の立ち位置がかわいそうだという理由だけで話したからこういう結果になったんだよね。 やっぱり同情なんかで話しかけるからこんな事になったんだ……。 ごめん、これしか言葉が出てこないけど……ごめんなさい! 私、比企谷君を傷つけるだけだからさ、もう話しかけるのやめるよ。」

 

これは私の本音だった。 私の自己満足の感情から始めた行為の終点。 そして懺悔。

かつての私は八幡と居れるのが救急車が来るまでだなと思っていた。 だからこそ八幡にバレないように涙を堪えている。 救急車に乗った後一人で泣くために。

 

そんな私に掠れるような声で聞こえてきた。 発生主は勿論……八幡。

 

「まってくれ、星野……。 俺はお前が同情で話しかけてきたことを知っていた。……知っていたよ。確かに話すきっかけはそうだったかもしれない。 けどさ……、俺はお前と話すことが楽しかった。 それは俺に友達がいないからそう感じるのかもしれかい。 けど……、今俺はお前と本当の関係になりたいと思っている。 だからさそんなこと言わないでくれよ……。 もう一度、一クラスメイトとしてやり直しさせてくれないか?」

 

そんな言葉が八幡の口から出るなんて当時の私は勿論知らなかった。 今の私が聞いても驚くくらいだしね。

 

八幡はあんなにボロボロになっていて、私が同情で話しかけてきたのも知ってるのに殴ってきた人に対して私の事は何も言わなかった。

それどころか、こんなひどい私に対して絶交しろなんて言わずにやり直そうって言ってくれた。

私は最初、八幡がただかわいそうだと思っただけで話しかけた。

あんな扱いはおかしいだろうと、酷すぎると、そう思ったから。

それからも彼に話しかけた。 少しでも彼が居心地が良くなればいいなって、ただそれだけの理由。

少しの時間でも彼に話しかけた。

彼と話すと変なことは言うけど面白い話はしてくれるし、私の事をよく気遣ってくれた。主に私の立ち位置とかね。

そんな彼に私は少しずつ興味を持っていった。 気遣いでいうならば私の話している友達と同じくらい、いやそれ以上に出来ていたしなんで嫌われるんだろうとさえ思えてきた。

彼と話す少しの時間が私の中で楽しみとなっているのを私は知っていた。

最初は同情で話しかけた私はいつのまにかそんな理由関係なしに話すようになっていった。

楽しくなってきたところでこんな事件が起きた。 こんな事が起きたら私は彼から離れるしかないじゃない……。 そう思っていたのにさっきの比企谷くんの言葉。

 

ずるいよ、比企谷くん……。 そんなこと言われたら惹かれちゃうよ……。

 

私の中で彼の存在がかけがいのないものになっていくのを感じる。

……あぁ、そうか。 私、彼の事が好きになってたんだ。 彼の不器用な優しさが、大事な時の決断力が、全部が好きになってたんだ。けど、同情で始めた付き合いだから私は何もできなかった。

 

今彼が言った言葉で私たちの関係は言葉で表せない不思議な関係から一クラスメイトになった。

……なら、私も恋をしていいよね?

 

「うん、こちらこそよろしくね八幡。」

 

「! ありがとう、逢。」

 

 

× × ×

 

 

ここで私の意識は現実へと戻ります。

夢であんなに鮮明に過去の記憶を体験すると案外びっくりしますね〜。 しかも、私が恋を認識するところとか今日八幡にどんな顔して会えばいいんだよ〜。

 

……そっか、私あの時から恋してたな。

すっきりした気持ちが私の中にあった。 気持ちの再確認も出来たし私の中の八幡の印象も整理できたし!

 

こんな夢を見たことだし八幡を今日も起こしに行ってあげよう。 きっとまだ寝てるんだろうな。

 

私は朝食を食べ学校の準備を済ませ家を出る。 ……八幡の家が私と近いのを知ったのはあの頃だったな。知った時はびっくりしたけど、それ以上に八幡と気軽に会えることが嬉しかったな。

そういえば、確かに八幡の言う通りだったな。意識しておいたほうがいいものを夢に見る。 あの夢に感謝しなくちゃ、私の思いを揺らがなくしてくれたことを。

 

考えているうちに八幡宅に着いた。 私がドアの前に立ったら八幡が丁度ドアを開けた。 声には出さなかったが、はははは八幡!?!?って感じにきょどってたのは八幡にはナイショのはなし。

 

あんな夢を見たせいかいつも以上に八幡を意識していた。 私は早速夢の話を持ち出した。……まぁ、私は詳しく話せないけれども。

 

どうやら八幡は1年前の交通事故の記憶を夢に見たらしい。 ……あの時のことは思い出すだけでも辛い。

 

学校に着いて他愛もない話で盛り上がっていた。 そんな時に八幡から出たある言葉。

 

「あぁ、逢がいなかったら俺は楽しめないね。 一生いて欲しいくらいだよ。」

 

他愛もない話からでたこの言葉は私を照れさせるには十分な医療を持っていた。

普段の私なら対処出来ただろう。 ただ、今の私……いや、"これからの"私は上手く返せないだろう。

あんな夢を見た後は自分の意識から常に離れないような感覚がする。 これのせいで八幡の冗談でいうこんな言葉もガチで照れてしまうのだ。 いや本当顔が熱い。 耳まで真っ赤じゃないかな? 大丈夫かな? 八幡に恥ずかしい姿見せてないかな?

 

「おい、逢。 どうした?」

 

八幡が心配している。 答えないと八幡が不審がっちゃうな。 不自然じゃないように返さないと……。

 

「あ、うん。 ダイジョウブダヨー。」

 

あ、やばい。 片言になっちゃった!

八幡がジト目で見てるよ! ……かわいいかも。って違う!どうにかしないと……。

 

「ラブコメの波動を感じる……!」

 

不意に声が聞こえる。 声のする方には昨日八幡を呼び出した教師、平塚先生の姿がそこにあった。

 

「ひ、平塚先生どうしたんですか?」

八幡もすごい動揺してそう。 そりゃそうだよね……。

 

「いや、友達いないと思ってた奴に友達がいる……と思ったらそれを越えて彼女がいるこの生徒をどうしようかと考えていてな。」

 

え、か、彼女って私?

思わず顔が赤くなってしまう。 そ、そりゃあ将来的にはなりたいけれども!

 

「いや、彼女じゃないですよ。」

 

「比企谷……。 いや、何も言うまい。 しかし、まさか友達が星野とはな。」

 

「だから言ったじゃないですか友達がいるって。 これで俺奉仕部抜けていいっすか?」

 

「駄目に決まってるだろ。 友達以外も色々とおかしな部分があるからな。 少し奉仕部で反省しろ。 ……まぁ、友達の件は悪かった。」

 

 

あ、奉仕部抜けちゃダメなんだ。 案外厳しいんですね。

「よかったです。 じゃあ、教室行くから逢。」

 

「うん。」

 

平塚先生に礼をして脇を通り抜ける。

その際に平塚先生に「大変だと思うが頑張れ。」と言われた気がした。 気のせいかな。

 

しかし、今日は朝からハードだなぁ。 放課後の奉仕部大丈夫なのかな。 若干心配になってきたよ……。

 

そうは言いつつも八幡と過ごす日常が楽しいなぁ……といつも思う。

 

……八幡、大好きだよ。




第8話終了です。

今回は星野逢視点でした。
前書きに入れないことでいきなり本編から始まる臨場感を出したいと思ったのですが、前書きに視点を星野逢にしたほうがいいならば感想に書いてください。 直しておきます。

逢回はついつい私自身張り切って書いてしまいました。

次回もよろしくお願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。