幻想郷の地主   作:Sady

4 / 5
三話 紅魔館当主、そして姉

 

「まぁ、まずは食事でもどうだ」

 

 

咲夜ちゃんの案内で連れられた部屋は華美な装飾品が置いてあった。

その調度品の一つであるテーブルに優雅に腰をかけていたレミリアがいる。

 

向かい合う形で座り、レミリアが指を鳴らすと豪勢な食事がテーブルに並ぶ。まるで魔法のようだ。まぁ似たようなものだろうが。

しかし食事まで用意するということはすぐに終わる話という訳でもないだろうな。

 

 

「では、遠慮なく頂こうかな」

 

うん、うまい。文句のつけようのないレベルだ。

向かいを見ればいつの間にやらレミリアの分も同時に用意されておりナイフとフォークを使い丁寧な仕草で食べている。

 

 

 

「それで、調子はどう?」

 

レミリアから主語が抜けた質問をされたのは丁度、食事を終える頃合いの時だった。

おそらくはフランドールのことだろう。まずは世間話でも、というように気軽に問いかけてきてはいるが内心ではどう思っているのか若干そわそわしている風に感じ取れる。

 

 

「このままだとそうだな……あと三十年から五十年、あるいはそれ以上掛かるだろうな」

 

俺と一緒にいるだけで改善されるといえば聞こえはいいが効果の程はほんの少しだ。既に十年経っているものの完治の兆しはない。頻度増やせばいいというものでもなく本当に気の長い方法で妖怪だからこそ出来る方法でもある。確実なもの程効果は低い、そんなものだ。

一気に改善しようと思えばそれこそ外部からの大きな刺激がいるだろう。取り返しのつかない程に悪化するか、治るか。そんな博打になる。

 

 

「そうか……まぁアレには私達も手を焼いていた。そんなものでしょうね」

 

十年前既に当主であり姉であるレミリアには説明しているのだが、どこか期待していたのか僅かに残念そうだ。弱みを見せぬよう努めているのかアレなどとモノのように言うが、本当は心配なのだろう。

 

 

「それよりも、何やら最近新しい決闘法とやらが出来るそうじゃない」

 

フランドールのことは会話の取っ掛り程度だったと言うようにレミリアは新たな話題を振ってきた。今からが本題のように聞こえるが、俺にはどうもフランドールの様子を聞きたいが為で、こちらこそ建前の話だったと思えて仕方ない。

 

十年前も思ったのだが、レミリアはどうもプライドが高いというか見栄っ張りな節が多々ある。フランドールのことを聞きたいが俺に尋ねるのもフランドールのことが気になって仕方ないと思われると感じてるのか今まで殆ど尋ねられなかった。

だから今みたいに本題に入る前の世間話という体裁を取ってさりげなさを演出したと俺は思ってる。

妹のことを気にかけることの何がいけないのか、不器用な姉である。

どうやらレミリアは大切なものは遠ざけるタイプのようだ。

 

 

「まだ正式に決まった訳じゃないけどな。まぁアレを魅せられたらな、決まったようなもんだろう」

 

霊夢と魔理沙が行った弾幕ごっこ、あれは本当に綺麗なものだった。美しさと思念に勝ることはない。その信条通り、こちらの想像以上だった。

 

 

「お前達も、そう思っただろう?」

 

「あぁ、私も見させてもらったけれど実に興味深いわ。美しさを競うなんてね、吸血鬼である私に相応しい」

 

 

あの日覗き見をしていたのは天狗だけではなかった。何やら他にも視線を感じていたのだが、おそらく遠見の魔法を使っていたんだろう。それがパチュリーである確信はなかったが、どうやら正解だったようだ。

レミリアも覗き見がバレてることなど承知だったようだ。まぁ隠蔽系の魔法を併用していた訳でもなかったしな。

 

 

「ということはつまり、我々紅魔館に課せられていた制約も近々解けるというね」

 

「そういうことだろうな、紫もおそらくそのつもりだろう」

 

その点については俺も詳しく分からないが最近の紫を鑑みるにそうなのだろう。

 

「幻想郷でも発言力のある貴方の口から聞けば確信出来るというものね、相星伯仲」

 

発言力ねぇ。交友関係が広い自信はあるがただの地主だよ、俺は。

 

「貴方がどう思っていようが少なくとも、私は信用してるわ」

 

 

俺を見るレミリアの眼光は鋭く、放たれた言葉の力強さはただの世辞ではなく本気であると理解する。その堂々とした姿は一つの館の当主としてのカリスマを感じさせ、齢五百にして既に大妖怪と言っても良い風格を醸し出していた。

 

 

スペルカードルールもそうだが紅魔館という勢力もまた、幻想郷に新たな変化を呼び起こしそうだ。

 

 

 

 

 

 

「お嬢様はあれでも、伯仲さんに対して恩義を感じているのですよ」

 

 

帰りの見送りの際に、美鈴はそんなことを言ってきた。

先程の場にはいなかったが付き合いの長い美鈴はレミリアがどのような対応を取ったのかくらいは予想するまでもなく分かりきっているということか。

言われてみれば確かに、食事は豪勢なものだったし随分と俺のことを評価している口振りだった。

紅魔館に訪れることは多くてもレミリアと会話を交わすことはあまりなかった。

だからこの対応も当主としての器を見せているとかそういうものだと思っていたが、美鈴の言ではどうも違うらしい。恩というとやはり十年前のことなのか……?

 

 

「幻想郷に侵略してきた私達に対して味方してくれたこともそうですが何より、大切な妹様を救おうとしてくれてるお方ですし、ね」

 

 

俺の内心を見透かしたように美鈴は続けた。

それにしても大切な、というあたりレミリアがフランドールのことを気に掛けているのも当然のように理解しているのだろう。

 

 

 

 

 




レミリアの現時点でのカリスマ度 80%

姉馬鹿度 40%

なおカリスマ度は以後下がり続ける模様


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。