Fallout 運び屋の少女   作:Ciels

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お待たせしました。
亀更新ですが更新いたします


第七十五話 マッカラン、フィーンド

 

 

ブーンの提案に乗り、キャンプ・マッカランのモノレールを借りることにした私達。今はその道中であり、NCRの兵士達が巡回する道を歩く。

この分だと11時にはマッカランの正面ゲートにたどり着けそうだ。

 

割れたコンクリートで舗装された道路の両側には、破壊された戦前の建物が並び、ここがあのリッチなニューベガスの傍であるということを忘れさせる。

 

滅入った気持ちで前方を見てみれば、キャンプ・マッカランの外壁が見えて来た。

キャンプ・マッカランは、戦前のマッカラン国際空港の建物をそのまま転用した、モハビにおけるNCRの拠点である。

モハビ各地に散らばるNCR兵達は、ここを中央指揮所、または補給所として利用するため、頻繁に訪れているらしい。

……最も、それは名目上のもので、兵士達はニューベガスへ行くための通過点くらいにしか思っていないだろうが。

 

と、その時ED-Eが何かを感知した。

警告音と共に、その場にしゃがんで左腕のPip-boyを確認する。

どうやら、前方、かなり遠くでエナジーウェポンの発砲音がしたらしい。私にも聞こえない距離だから、1キロ以上離れているだろうか。

 

と、私の耳にも発砲音が聞こえる。

エナジーウェポンの類の音ではなく、実弾を用いた音だ。

ということは、NCRだろうか。彼らはエナジーウェポンは原則用いないはずだから、エナジーウェポンで武装した輩に襲われている……?

 

 

「きっとフィーンドの奴らだろう。よくあるんだ、奴らがマッカランの守備隊や警衛と小競り合いすることはな」

 

 

周辺を警戒しながらブーンが言う。

そういえばいたわね、エナジーウェポンを使うジャンキーレイダー集団が。

私は遭遇したことがないけれど、今NCRとドンパチしているのがそのフィーンドなんだろう。

 

 

「BoSとしては、レイダーごときが持っていて良いテクノロジーじゃないわね。いつか全て回収しないと」

 

 

珍しく仕事モードなベロニカ。

エナジーウェポンと聞くと彼女は人が変わる。まぁ、BoSであるから無理もないだろうが。

 

さて、ここで私の手元にある選択肢は三つ。

一つ、NCRとフィーンドの小競り合いを高みの見物といくか。

二つ、マッカランは面倒なので諦めて3000キャップ集めて堂々とフリーサイドからニューベガスへと入場するか。

三つ、加勢してフィーンド相手にR91を試すか。

 

答えはもちろん、三つ目だ。

 

 

「売れる恩は売っておかないとね。行くわよ」

 

 

そう言って私達は前方を目指す。

 

 

 

 

 

 

 

 

戦闘が起こっている地点、200メートル手前に到着して観察してみれば、意外にもNCRは苦戦していた。

どうにも今日はフィーンドの数が多いらしく、防戦一方に陥っている。

これは助けがいがある。

 

私は目立たないように倒壊した家屋近くで匍匐してライフルを構える。

 

 

「ブーン、スポットを」

 

 

そう言うと、ブーンは何も言わずに双眼鏡で前方を観察しだす。

 

 

「前方敵7、距離220、南南西からの風、3ノット」

 

 

淡々と情報を述べるブーン。

私は言われるがままに照準を調整する。

このスコープのゼロインは100メートルで調整している。なので、実際狙っている場所よりも少し下に弾が落ちる。また5.56mm弾はその軽量さ故に弾道落下係数と風の影響を受けやすい。

 

 

「私たちはお休みね。一緒に休みましょうED-E」

 

 

ベロニカがそう言うと、ED-EはBeep音を出して彼女の横に寄り添った。

 

私はゆっくりと呼吸して息を整える。

完全に体勢が整ったところで、息を吸って止めた。

安全装置を外して引き金に指をかける。

そして少しずつ指に力を入れ、引き金が一段重くなったところで維持。

 

 

「……」

 

 

何も言わず、動かずに。

ただタイミングを合わせる。

 

そして、バァン!

 

引き金を引ききり、銃身から弾丸が発射される。

音速を超えて飛来した弾丸は、一秒も経たずに、エナジーウェポンを操作していたフィーンドの頭を貫いて殺してみせた。

 

なかなか良い。

反動は後ろに強めだが、跳ね上がらない。

 

 

「続けて次弾。警戒してこちらを見ている敵兵。距離、風速同じ」

 

 

新しいターゲットを狙う。

先ほどと同じ条件なので外す理由はない。

そしてまた引き金を引く。

これではハンティングと変わらないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

ものの数分でNCRを苦しめていたフィーンドを倒した私達は、わざとらしくライフルを手にして正門へと向かう。

NCRの兵士達は私達の姿を見て、自分達がどうして助かったのかを理解したようだった。

 

 

「助かったよ。まさか奴らが群れを成して来るなんてね」

 

 

軍曹の階級章を付けた兵士が手を振ってそう言う。

 

 

「何事も助け合いですから。ここはキャンプ・マッカランでよろしくて?」

 

 

丁寧な言葉でそう尋ねると、兵士は頷いた。

 

 

「そうだが、ここに用なのかい嬢ちゃん?」

 

「はい、少しばかり」

 

 

それを聞いた兵士はうーん、と唸る。

良い顔はしていない。

そりゃそうだろう。助けてもらったとはいえ、見ず知らずの人間を基地に入れるようなお人好しはウェイストランドにはいない。

 

さて、ここからどう交渉してみせるか。

私の話術の見せ所だ。

 

 

「あれ、軍曹じゃん。どうしたの?」

 

 

と、不意に後方から声が。

振り返ると、ブーンと同じく赤いベレー帽を被った女性兵士が、若い男の兵士を引き連れている。

 

階級は兵長で、手には狙撃用に改造してあるハンティングライフルを手にしている。

 

 

「ああベッツィ。いやな、フィーンドに襲われてたとこをこの嬢ちゃん方に今し方助けてもらったんだが、どうやらマッカラン内に用があるみたいでな。恩人だから通してやりたい気持ちは山々なんだが……通行証も持ってないようだし、入れられないんだ」

 

 

軍曹がそう言うと、ベッツィは笑い、

 

 

「そんな堅いこと言わないでさ、私からダトリ少佐に言っておくから、ね?」

 

 

軍曹は納得がいかないというように頭をかくが、どうやら折れたようで門の開閉ボタンを押す。

 

 

「今回だけだぞベッツィ。お前さんにも恩があるからな」

 

 

やった!と可愛らしく喜ぶベッツィ。

それにしても、この女性はなんでやたらと私達の肩を持つのだろうか。

 

 

「あの……」

 

 

その事を尋ねようとするが、ベッツィと呼ばれた女性は手を振って、

 

 

「ああいいのいいの、それより、ね?お礼なんて言ったらあれだけど、お姉さんとちょっと付き合って欲しいなぁ〜なんて。ね? 可 愛 い 子 ち ゃ ん ?」

 

 

ゾクッと、身震いがした。

何かこの女性はまずい気がする。

ベロニカと会った時と似ている……これはまさか。


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