Fallout 運び屋の少女   作:Ciels

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第七十四話 ガンランナー、アーセナル

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、早朝。

私達は休憩所を後にすると、そのままニューベガスへと向かう。

補充品は買ったし、武器弾薬はまだまだあるので心配ない。

キャップもボルダーシティやフォーロン・ホープでの報酬のおかげでまだまだ足りる。

流石に三人分の三食と宿代を払うのは辛い所でもあるが……

その点、ED-Eはメンテさえしてあげればちゃんと動くからお金がほとんどかからない。

そのメンテだって今じゃベロニカがやってくれてるし。

 

 

「お前は良い子だね~」

 

 

そう言って隣りを浮遊するED-Eを撫でてやると、彼は疑問を浮かべるように鳴いて見せた。

後ろでベロニカが私にも、なんて言っているが、気にしない。

無視よ無視。

そうして私たちは砂漠を歩く。

うっすらと前方に見えてきた、大きな人工物を見つめながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ニューベガスへ入るためには、まずフリーサイドと呼ばれる地区へ行く必要がある。

フリーサイドとは、ニューベガスの外れにあるスラム街であり、貧しい人々が多く暮らしている。

しかし意外にも施設は充実しており、武器屋や酒場、雑貨店、そしてカジノなど、ただの買い物ならここだけで揃う物ばかりだ。

これには理由があり、ニューベガスへ入るにはまずこのフリーサイドを通らなければならない。そして、治安の悪いフリーサイドでは旅行客やギャンブラーが襲われることがしょっちゅうなので、武器を買う。あわよくば酒を飲み、泊まる……

まぁ、いつの時代も便利なものは使われるという事だ。

 

そして今、私たちはフリーサイドの入り口そばまでやってきている。

ここは北ゲート付近だ。

 

 

「用心しろ。フリーサイドは治安が悪い」

 

 

ボソッとブーンが忠告する。

 

 

「聞いてるわ。あまりうれしくないわね」

 

 

「私はクロエと一緒にいられればうれしいけどな~」

 

 

無視する。

本当に減らず口ね……まだ皮肉や嫌味を言われていた方がマシだわ。

日に日に貞操の危機が強まっていくわね……

と、フリーサイドのゲートの間近まで来たその時だった。

 

数メートル横の建物が目に入る。

あれは確か、ガンランナーの本社だったかしら?

あぁやっぱり、見知った顔がいるわね。

 

 

「アレクサンダー!」

 

 

第188交易所で会った、アレクサンダーがそこにはいた。

彼は私の存在に気が付くと手を振っている。

そんなに日は経っていないが、ライフルの件もあるし話だけでもしていこうかしら。

ベロニカが、あれ誰?なんて言っているけれど、あなたもあの交易所にいたのよね……?顔くらい覚えなさいよまったく。

とにかく、私はなにやら男と話しているアレクサンダーに近付いて話す。

 

 

「また会ったわね」

 

 

「あぁ。ボルダーシティでの事、聞いたぞ。血を流さずに人質を助けたそうじゃないか」

 

 

「たまには銃弾以外で解決したいからね」

 

 

はっ、とアレクサンダーが笑う。

すると、彼の隣にいる男が口を開いた。

 

 

「アレックス、ってことはこの子が?」

 

 

その質問にアレクサンダーが頷く。

二人して私の背中にあるライフルを見ているあたり、そのことについての確認だろう。

私はライフルを手前に手繰り寄せ、両手で抱える。

 

 

「このライフル、なかなか素晴らしいわ」

 

 

「それは何よりだな。どうだ、もう撃ってみたか?」

 

 

私は頷いて見せた。

まぁ、まだ害虫駆除程度にしか使ってないのだけれど。

 

 

「バレルはフリーフローティングだから短くても当たるし、トリガーのキレもいいわ。重量バランスもいいから構えてても苦にならないわ」

 

 

私は横を向いてライフルを構えて見せる。

その構えを見て男は感心したように唸った。

 

 

「嬢ちゃん良い構えだね。アレックスがそいつを預けただけはあるよ」

 

 

「えっと、失礼ですがあなたは?」

 

 

まだ名前も知らない男に尋ねる。

すると男はニコッと笑って、被っている帽子を指差した。

 

 

「名乗るのが遅くなったな。ガンランナーで資材の調達を担当しているアイザックだ」

 

 

「モハビ・エクスプレスのクロエです。よろしくお願い致します」

 

 

初対面の人間には丁寧に挨拶をする。

それがたとえ知り合いの友人であってもだ。運び屋の流儀みたいなものだ。

 

 

「御親切にどうも。良かったら売りもんも見てってくれよ。そこいらじゃ売ってない一級品がたくさんあるぜ」

 

 

その甘い誘いに、私はまるで密に集うジャイアントアントのようにたかろうとする。

しかし、今現在もっとも重要な使命を思い出し、なんとか踏みとどまった。

落ち着け、プラチナチップの仕事を終えれば報酬がたんまり入る。

それからここへ来ればいい……今はまず、あのスーツの男、ベニーを捕まえないと。

 

私は欲望を必死に抑え、苦笑いして言った。

 

 

「いえ、ちょっとストリップ地区に用があるので……また今度」

 

 

だが、それを言った瞬間二人がギョッと驚いた。

 

 

「お前さん、行くのは良いが金はあるのか?」

 

 

その質問に私は首を傾げる。

 

 

「千キャップくらいなら……」

 

 

「ストリップ地区には少なくとも三千キャップないと入れないぞ」

 

 

「は?」

 

 

思わず素で言ってしまった。

そんなの聞いてない。え、だって仕事を受けた時もそんな事言われなかったわ。

困惑する私を他所に、ブーンは一人ガンランナーのショップを眺めている。

私は速足でブーンの下へと駆け寄ると、尋ねた。

 

 

「ちょっと!ストリップ地区に入るのに三千キャップいるなんて聞いてないわよ!」

 

 

すると、ブーンはいつものように済ました顔で、

 

 

「そうだったか?……あぁ、俺が行った時はNCRのモノレールに乗っていったんだった。クロエ、本当に済まないと思っている」

 

 

なんだか妙に迫真の声色で謝罪をするブーン。

こんな所で天然属性をアピールされても困るんだけれど。

すると、すかさずベロニカが慰めてあげるだのなんだの言ってきたので迷わず裏拳を食らわせる。

彼女は地面にうずくまった。

 

あーもう!計画がおじゃんになっちゃったじゃない!

酷く憤る私にブーンが言う。

 

 

「なら、この近くにキャンプ・マッカランがある。一旦そこに行ってみて、モノレールを使わせてもらえるか聞いてみればいい」

 

 

さらっと提案するブーン。

あーもう、いろんなことが滅茶苦茶じゃないのよ。

 


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