Fallout 運び屋の少女   作:Ciels

83 / 87
第七十三話 グラブン・ガルプ休憩所、ループ

 

 

 

 

 ボルダーシティで一晩休憩し、私達はストリップ地区を目指し北上する事にした。

あの瓦礫まみれの町を出たのが午前九時。ちょっと遅めの出発だったが、何も今日中にストリップ地区へと辿り着くわけではない。

地図を見た所、道中に休憩所があるらしいから、そこで宿を借りるなり野宿するなりすればいい。

 

砂漠は続く。

アスファルトから反射する太陽の陽が、私の白い肌を焦がすように撫でる。

生まれつきなぜか日焼けしにくい身体だが、暑さや辛さは感じるため、それなりにきついものだ。フードを深々と被り、せめて頭上のお日様だけでも耐えている。

まぁこういう事は今に始まった事ではない。運び屋という仕事柄、色々な環境を見たし味わった。酸性の雨や銃弾の嵐が降らないだけマシだろう。

ブーンも元NCR特殊部隊という事があり、砂漠には慣れているようだ。シュマグと呼ばれるスカーフを頭下半分に巻き、暑さだけではなく巻き上がる砂からも身を守っている。

 

 

「あっつぅ~、ほんとモハビは地獄ね。核の冬でも来ないもんかしら」

 

 

ベロニカは……違う。

同じようにフードを被って暑さをしのいではいるものの、定期的にブツブツと文句を垂れている。

 

 

「嫌ならついてこなくていいわよ」

 

 

「あら、そんな事言ってないわよ?愛しのクロエの為なら灼熱だろうが極寒だろうがお構いなしだもの」

 

 

そう言って先ほどの様子とは一変、スキップし出す。

その様子に私とブーンは呆れてため息を漏らす。

ただでさえ暑くて機嫌が良くないのに、まるでおちょくられているような態度と言動にイライラし出す。

 

しかしなんともまぁ、この女には謎が多い。

機械に強いスカベンジャーかと思えば、近接戦闘がピカ一の戦闘狂。

武器の使い分けもしっかりとしていて、相手が少し離れているなら拳銃を、手が届く距離なら迷いなくパワーフィストを。

もし自身の武器がどちらも届かないのであれば……私達に攻撃をさせ、自らは迂回して敵を倒す。

 

実は、道中リージョンの斥候と遭遇した。

今回想した彼女の行動は、その際に行った事に過ぎない。

だが、これだけの事をしてくれれば嫌でも分かる。

彼女には、従軍経験かそれと同等な何かがある。

 

 

「……あ、クロエ。何か見えてきたよ」

 

 

目には自信があるらしいベロニカが、遠くにある何かを指差す。

私は双眼鏡を取り出してそちらを覗いた。

 

……恐らく、例の休憩所だろう。

 

 

「十二時十五分……ちょうどお昼ね」

 

 

計算通りだ。

昼食はあそこでとろう。ついでに補給品も。

ボルダーシティじゃ碌なものが買えなかったし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 十二時半、グラブン・ガルプ。

見た目は寂れたビッグホーナー農園だが、意外にも人は多い。

ニューベガスへと向かうキャラバンやNCRのパトロール、それにギャンブラー。

NCR兵に関しては、ここから北上するとキャンプ・マッカランがあるため、そこへ向かうようだ。

 

とりあえず今はここでのんびりと昼食を取り、休んで明日に備える。

ここには宿が無いようだが、無料のテントがあるため雨が降っても安心だ。

なんだかここ最近休んでばっかりかもしれないが、それもいいだろう。

だって、私を撃った奴の場所はもう掴んでいるのだから。

ヤツが何をしようが関係ない。ただ、プラチナチップは返してもらう。そして、それなりの報いは受けてもらう。

きっと、ヤツがプラチナチップを奪ったのは単なる金儲けではないだろう。

ストリップ地区でカジノを仕切るような奴が、あんなチップを金目当ての為に盗み、グレートカーンズを裏切るはずがない。

 

なにか裏があるのだろう。

 

 

「はい、バラモンステーキとサルサパリラおまたせ!」

 

 

その声で、私は現実に戻る。

自然な笑顔で、私はループと名乗る従業員の女性に感謝を述べる。

 

 

「ありがとうございます。これ、キャップです」

 

 

そう言って、私は懐から30キャップ取り出す。

もちろん一人分の料金ではない。ブーン、ベロニカを含めた三人分だ。

ブーンは最初こそ自分で金を払うと言っていたが、私が説得してなんとか場を治めた。

だって、一応私の旅に付き合ってもらっているようなものだし……ベロニカは気に食わないけど。

 

 

しばし羊肉のようなステーキを味わう。

あぁ、やっぱり缶詰よりも新鮮な料理の方が美味しい。

加えて甘めのサルサパリラ。シュワッとした炭酸がたまらない。

 

 

「お味はどう?」

 

 

「えぇ、とても美味しいです。ここは二人で経営しているのですか?」

 

 

なるべく丁寧に尋ねる。

女性はにっこりと笑って答えた。

 

 

「えぇ、あそこにいるフィッツと二人でね。水はラスベガス湖から引いてるから、安全よ」

 

 

そう言ってループが私の左隣を指差す。

そこにはステーキを平らげ水をがぶ飲みするベロニカの姿が。

私は目を逸らして会話に戻る。

 

 

「それにしても、凄い繁盛ですわね」

 

 

「えぇ、ありがとう……と言っても、かなり少なくなった方なんだけどね」

 

 

「そうなんですか?」

 

 

「えぇ……なんでも、インターステート15には最近デスクローやらパウダーギャングがいるらしくてね……それだけならまだ道もあるんだけど、なんでもその近くの山にスーパーミュータントも出始めたらしいのよ」

 

 

そういえば、ヴィクターもグッドスプリングスより北は危ないと言っていた。

デスクローねぇ……確かに、あれは危険ね。昔デスクローの群れに遭遇した事があるが、数匹倒すので精一杯だった。逃げられたのは奇跡に近い。

 

 

「それは……気の毒に」

 

 

まぁ、今の私には関係ないっちゃ関係ない。

非情だが、私なんかが動くよりも、NCRレンジャーが動いた方がいいだろう。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。