「クソ、NCRの奴ら俺たちをやる気だぞ」
廃墟の外でグレートカーンズの一人が苛立ったように呟いた。
彼はボロボロの双眼鏡を片手にボルダーシティ入口に隠れているNCR兵を見ている。
特徴的なコヨーテブラウンの装備に身を包んだ兵士たちは、どれもこれも銃を構えてその場を離れない。
「そんな事分かってんだよ。ったく、ジェサップのヤツ、嵌められやがって……」
物陰に隠れサブマシンガンの弾詰まりに対処する女が言う。
何とも言えない髪型と、悪趣味な服装に身を包む彼女もグレートカーンズの一人だ。
グレートカーンズのメンバーはだいたいモヒカンやエンジェルカットといった奇抜な髪型に、バイカーのような服装をしているのですぐに分かる。
この世界では彼らは部族ということであるが、文明が整った違う世界であるならば、世紀末コスプレやらバイカー集団と間違われるだろう。
「お前らこんなことしてただで済むと思うなよ」
ふと、捕虜に取ったNCR兵が言った。
彼は両手両足を縛られており、顔面には殴られた跡がある。
「黙っとけ!殺したくなるだろうが!」
男が言った。
人質というものは殺さずに生かしておかなければ価値がない。
「ジェサップの野郎は何してんのさ!」
「さぁな、また話し合いと称して薬でも決めてんだろ」
「クソ、こっちにも寄こせってんだ」
ボルダーシティ内部のカーンズ達は皆、苛立っていた。
理由は簡単、自分たちが良いように利用されて裏切られた挙句、NCRと鉢合わせしてしまったから。
恐らくこれもあのベニーとか言うインチキ野郎の差し金なんだろうなと、彼らは考えている。
はぁ、と男のカーンズはため息をつく。
貧乏くじを引かされたな、と心底後悔しながら。
こんな時にはタバコでも吸おう。
そう思って、男はポケットに手を伸ばした。
その時だった。
「ッ!!?」
ギュッ。
突然後ろから物凄い力で首が絞められる。
その襲撃に男は必死に抵抗するが、そのまま地面に座らせられて首を絞め続けられるのだ。
抵抗もむなしく男の意識は途絶える。
「おい、どうしたんだい」
奥で急に静かになった男を不審がった女は、そう尋ねる。
そしてそちらを振り向くと、
「邪魔よ」
一人の少女が、彼女の目の前に立っていた。
「ちょ」
女が何か言う前に、少女は女の首に手を伸ばして膝蹴りを繰り出す。
鈍い音が響き、身体がくの字に折れ曲がる。
あまりにも重いその一撃は、おおよそ少女のような小柄な身体から繰り出されたものとは信じがたいものだった。
だが曲がりなりにもカーンズの一員、女はすぐに抵抗しようと試みる。
が、
「黙りなさい」
少女の無慈悲な一言と共に、女は柔道でいう大外刈りをかけられ、そのまま地面に倒れ込んだ。
この時点でまだ意識はある。女は立ち上がろうとして――
「おやすみ」
ガンッ!
顔面を少女に踏みつけられた。
今度こそ、女の意識は途切れた。
「ナイスクロエ、容赦ないわね」
ふと、男を絞め落とした女……ベロニカがニコッと笑って言った。
「あなたも大概ね。行くわよ」
それだけ言うと、二人はグレートカーンズのリーダーがいるであろう建物の入口へと向かう。
それを遠目に見ていたNCR兵は一言、
「おっかねぇなあんたの連れ」
と、ライフルを構え援護しているブーンに言った。
彼は何も答えず、代わりにその隣で観測手をしているED-EがBeep音で答えて見せた。