ボルダーシティは、はっきり言ってしまえば何も無いただの廃墟の町だ。
過去のフーバーダムをめぐる戦いで、逃走し、ここへ逃げ延びたNCR。
それを追っていたリージョンがここで衝突、町はNCRの仕掛けた爆弾によってリージョンごと吹き飛んだ。
今ではフーバーダムの補修と防御陣地構築のためのコンクリートを作る工場と、それを運ぶための駅があるだけだ。
町の手前には石碑があり、戦没者の名前が刻まれている。
「人が居ない町、ね」
ボソッと、呟く。
こういうのは珍しい事ではない。
事実、元々私がいた世界……それも中東ではそんなものが沢山あった。
正しさなんてありもしない戦争で捨てられ、壊された町が、あちらこちらに。
そのたびに、お兄ちゃんは疲れたような顔を見せた。
「……ここへ来るのも久しぶりだ」
「そうなの?」
「……なんでもない」
自分から言いだしたんじゃない……もう。
すっかり黙りこくってしまったブーンを他所に、私はボルダーシティ内部へと入ろうとする。
ここはNCRの管理している町なので、当然のように彼らが辺りをウロついている。
「おーい!ここは今封鎖中だ!」
と、ゲートにいるNCR兵が先頭を行くベロニカの前に立ちはだかった。
どうしてかNCRの事を良く思っていない様子のベロニカは、まるでヤンキーのように彼を睨む。
「あ?なんでよ」
その鋭い眼光にNCR兵は少したじろいだ。
「グレートカーンズの奴らがうちの隊員を人質に取って立てこもったんだよ。だからほら、あっちへ行った」
グレートカーンズ。
確かチェックのスーツ男と一緒にいたのもグレートカーンズだった。
単なる偶然だろうか?いや、ヤツが向かったのはボルダーシティ。
ならば偶然と考えるのは愚かだ。
もしかしたら、何かが起きて人質を取らざるを得なくなったのかもしれない。
ならば事の真相を確かめる必要がある。
ヤツが、いるかもしれない。
私はベロニカを手でどかし、NCR兵に面と向かう。
「私が交渉するわ」
「何を……」
「このままNCRが突入すれば人質が死ぬわ。私ならうまくやれる」
「何を根拠にそんな……」
中々どかないNCR兵。
と、そんな状況に介入してきたのはブーンだった。
「俺たちはNCRの味方だ」
そう言って彼は自慢の赤い帽子を指差す。
「第一偵察隊……?」
「元だがな。少なくともお前らよりこういった事態には慣れている」
NCR兵は悩む。
ベロニカが小声でやっちゃう?なんて言っているので手で口を塞いだ。
この人は少し気性が荒いわね。人の事言えないけど。
「分かった。確かに今俺たちが行けば最悪の事態になりかねんからな。普通なら民間人にこういうことは頼まないんだが……」
「分かったなら退きなさい」
目標を前にして私まで気性が荒くなる。
退いたNCR兵を背に、私はゲートを開ける。