Fallout 運び屋の少女   作:Ciels

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第六十七話 第188交易所、ガンランナー

 

 

 

 

 視線を無視して、私は武器弾薬の調達をする事にした。

元特殊部隊のブーンにはこのおぞましい視線が分からないらしく、それがかえって恐ろしい。得体の知れないものほど恐い物は無い。

ブーンは経験上、人の視線などには敏感らしいが、その彼ですら気付けないほどの視線。

しかも恐ろしいほど鋭く、邪悪。

 

リージョン兵のアサシンですらここまで酷くなかった。

 

 

気を取り直し、武器商人の下へ行くことにする。

どうやらここにはガンランナーと呼ばれる、実弾兵器に精通した武器商人がいるようなので、彼らのいる橋の下へと向かった。

 

中年の男性が、護衛の傭兵を引き連れて何やら在庫のチェックをしている。

道に広げられたそれらは、普段入手できないような銃器ばかりで、私とブーンの心を躍らせた。

よし、少しずつ気を紛らわしていこう。

 

 

「こんにちは」

 

 

まずは挨拶から。

すると、中年の男性はこちらへ振り返るや否や、目を細めた。

 

 

「ガキが何の用だ……ちょっと待て、お前運び屋か?」

 

 

私の職業を呼んだ中年には見覚えがあった。

確か、昔ガンランナーからの依頼を引き受けた時に会った商人だ。

名前は、アレクサンダーだったかしら。

 

 

「アレクサンダー……で会ってるかしら?」

 

 

「ほう、覚えてたか。久しぶりじゃないか」

 

 

彼が手を差し出して来たので、握り返す。

 

 

「ええ。まさかこんなところで会うとはね」

 

 

「知り合いか?」

 

 

ブーンが尋ねると、私は頷いた。

 

 

「昔、彼らから依頼を受けた時にね。紹介するわ、彼は……」

 

 

「元第一偵察隊のブーンだろ?うちのお得意様さ」

 

 

そう言うと、アレクサンダーは笑った。

普段は仏頂面で余所者を追い払っている彼であるが、私は一度彼の命と荷物を救っている上に、ブーンはお得意様と来た。

これなら商談をスムーズに行える。

 

 

「なら話は早いわね。武器と弾薬を買いたいのだけれど」

 

 

そう言うと、アレクサンダーは地面に並べられている武器を指差した。

 

 

「お好きな物をどうぞ。値引きはしておくよ……お前は命の恩人だからな」

 

 

「それはどうも。さて……」

 

 

並べられた武器を、内心ワクワクしながら眺める。

新品のサービスライフル、一般的なリピーター、更にはコンバットマグナム。

色々あって迷っちゃう。

 

私は女の子だが、同時に武器オタクな一面もある。

だから、おもちゃ屋に来た男の子の気持ちがよく分かるのだ。

 

 

「いいわね~、相変わらずガンランナーの武器は素晴らしいわ……」

 

 

うっとりとした表情で、マークスマン用に改良されたM14ライフルを眺める。

あぁ、これならスポーツ射撃が楽しいだろうなぁ。

 

あ、こっちには9㎜オートの拳銃がある。

しかも、いつも使ってるブローニングじゃないわ、この世界では珍しいシグ・ザウエル製だ。

どれも新品、質の悪い武器なんてありはしない……お兄ちゃんに見せたら、喜ぶだろうなぁ。

 

 

「お前も相変わらずだなぁ運び屋。今もモハビ・エクスプレスで運んでるのか?」

 

 

あっ。

大事な事を忘れていた。

あのスーツの男の事を聞かなくては。

 

我に返り、咳払いすると私はアレクサンダーに尋ねる。

 

 

「そうそう。貴方、最近チェックの柄のスーツを着た男を見なかったかしら」

 

 

「チェック柄の?あー、いたなそんなヤツ」

 

 

やはり。

あいつはここを通っている。

 

 

「確か、俺らを眺めるだけ眺めてボルダーシティの方へ向かったよ……知り合いか?」

 

 

「ええ。どうしても会って話をつけなくちゃいけなくてね」

 

 

何かを察したのか、アレクサンダーは頷いた。

 

 

「深くは聞かんさ。とりあえず、今は何を買うか悩んでくれ」

 

 

「そうするわ……あぁ、お金がいっぱいあったら全部買うのに」

 

 

キャップに関しては、昨日の作戦の報酬として、ボラトル少佐から1500キャップほど頂いた。実はジーニー・メイ・クロフォードの金庫からもお金をくすねているので手持ちには余裕があった。

でも、ガンランナーで使うとなれば、そのお金はすぐに消え去る。

 

 

「うーん……」

 

 

「おい運び屋、まずは弾薬の補充が先だろう」

 

 

ブーンがまともな事を言う。

確かにその通りだ、武器に気を取られ過ぎていた。

私の悪い癖だ……てへっ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜。

仮設ベッドに腰かけながら、私は購入した武器や装備をいじくりまわしていた。

まるで小さな女の子がぬいぐるみを買ってもらったみたいに、そして男の子がかっこいいおもちゃを与えられたみたいな表情と心情でそれらで遊ぶ。

 

今回購入したのはサービスライフル……なのだが、NCRが使用するポンコツではない。

戦前のアメリカ軍が使用していた、R91アサルトライフルだ。

まるでH&KのG3系にみえるそのライフルは、ガンランナーが設計図を基に作成し、ガンスミスが徹底的に改良した、とても優れたライフルである。

東海岸では多く生産されたと聞いていたが、まさか西海岸でこれを入手できるとは……

 

本来この5.56㎜口径ライフルは、戦前の物資不足や資源枯渇に際して急造、コストカットされたライフルであるために、昔ながらの木と鉄のみの安価なものである。

 

だが、ガンランナーの職人たちはそれらを徹底的に見直した。

まず、材質の見直し。

木と鉄という、とても発展していた社会とは思えない原始的な材料をやめ、鉄はそのままにポリマーとよばれる樹脂を追加した。もちろん木は使っていない。

 

このポリマー、つまり強化プラスチックの利点は、高耐久、耐熱性、そして軽量化である。

私がいた世界では、もう一般的な拳銃やライフルに採用されており、初めてポリマーを使ったグロックを握った時は軽さに驚いた。

 

このライフルは、基本的にアッパーとロアーレシーバーが金属であるが、ロアーレシーバーがポリマーのものに換装されている。これにより軽量化が図られていて、とても扱いやすい。

更にストック、ハンドガードともにポリマー。

ストックに関してはM4系統に使用されているような伸縮型で、小柄な私にもフィットする。

細身のハンドガードには細長い鍵穴のような空洞が軽量化のために空いていて、上部のみにピカティニーレイルがある……そのため、光学機器などが安易に取り付けられるのだ。

 

 

「あら~これKey-modなのね」

 

 

ハンドガードに開けられた鍵穴をよく観察する。

どうやら、この穴に後付けでレイルが取り付けられるKey-modシステムを採用しているようだ。

あぁ、そういえば付属品にレイルのパネルがあったなぁ。後で取り付けなきゃ。

 

アイアンサイトは取り外し可能なフリップアップサイト……恐らくTROY製のものだろうか。昔写真で見た気がする。

 

バレルは11.5インチのショートバレルだが、ちゃっかりヘビーバレルで耐久性が高い。

 

よく見ればピストルグリップは元のデザインから変更されていて、人間工学に基づいた形だ。

 

カラーはブラックだが、砂漠には合わないので後でタンカラーにでも塗ろう。

 

使用する弾薬はもちろん5.56㎜NATO弾だ。

バーミンターライフルを手放して購入した甲斐があったわ……

 

 

ちなみにこのライフル、本当なら8000キャップもする。

さすがにそんなお金持ってないし、バーミンターライフルや鹵獲した武器を売っても数百キャップにしかならない。

 

実はこれ、試験運用中らしいのだ。

アレクサンダー曰く、熟練した兵士のフィードバックが欲しいらしいので、私にその試験評価を兼ねてバーミンターライフルと交換で譲ってくれた。だから、ほとんどタダ。

持つべきものは友達と腕前ね。

 

ともかく、このライフルは素晴らしい。

持っただけで職人たちの苦労がよく分かるわ……

 

 

「あぁ、早く撃ちたい……」

 

 

ちょっと危険な香りを出しながら、ライフルを整備する。

テストファイアのみで未使用に近いため、まだ本格的な分解とクリーニングはしなくていいだろう。

 

 

おっと、まだ購入したものがある。

チェストリグ(弾帯)とコンバットアックスだ。

 

チェストリグとは、弾薬を入れておくポーチ群のことだ。

サスペンダーのように吊り下げ、胸部にポーチが密集している。

 

このチェストリグは……Haley Strategic製のD3チェストリグとラベルに書いてある。

ライフル用ポーチは四つ、ピストル用ポーチが二つに、無線などを入れられるユーティリティポーチが一つ。あとはフラッシュバンやスモークグレネードを入れられるようなポーチが一つと、非常に小型ながら最低限のものはほぼ入れられる。

ポーチは前面にあるので、リュックを背負っていても問題は無い。

 

昔私が中東にいた頃に使っていたものと比べると、天と地の差がある。

まぁ、あれは冷戦の頃に作られた横流し品だったし……

 

値段は安くしてもらった。

新品未使用だったから、500キャップはしたが……いい買い物だ。

 

コンバットアックスは、いわゆる手斧を戦闘やサバイバル向けにデザインしたものだ。

昨日の戦闘でマチェットを無くしてしまったので、仕方なく購入した。

リーチの短いナイフでは何かと不便だからね。

 

これはSOG社製のTactical Tomahawkだろう。

前の世界で特殊部隊がよく使っていたのを覚えている。

実際、お兄ちゃんが鹵獲したこれを使っていた。

お値段200キャップなり。割と安い。

 

 

さて、主な装備品はここまで。

次は銃のMOD地獄だ。

 

 

まずはライフル用光学機器。

R91にはバーミンターライフルの代わりも務めてもらわなくてはならないので、低倍率のショートスコープを選ぶことにした。

スコープはトリジコン製で、倍率は1倍から4倍まで切り替えが可能だ。

しかも、レティクルの中央には赤いドットがあり、昼間は太陽光で、夜間はトリチウムによって常に発光しているから、視認性も高いのだ。

おまけにすぐに倍率を変更できるレバーも付いているから、急な切り替えも可能だ。

 

よくトリジコンといえばACOGサイトを思い浮かべる人も居るが、あの会社は色々な光学機器を製造しているのだ。

 

 

お次はフォアグリップ。

これにはTango Down製のショートフォアグリップを使うことにした。

私の手はそこまで小さくないが、短めのフォアグリップは小さくて可愛いし、手になじむ。なにより、CQBの際に構えやすい。

フォアグリップは銃口寄りにすることで、3ガンマッチスタイル……いわゆるコスタ撃ちしやすくする。遠距離時にはハンドガードを握ればいいし。

 

 

フラッシュライトも用意した。

こちらは定番のSUREFIREではなく、INFORCE製のウェポンマウントライトだ。

アレクサンダーが気前よくKey-modマウントを用意してくれたので、斜め上に取り付けることができ、射撃時の視界を遮らない。なるほど、だからマウントを付けてくれたんだ。

おまけに、私のフォアグリップの握り方ではフラッシュライトのスイッチが親指に来るため、点灯し易い。

 

MODについてはこんなところだ。

なんだか一気に時代が飛んだ気がしたが、これで戦力増強になるなら気にしない。

 

 

ブーンの方も何か買っていたが、後で聞いてみるとしよう。

 

 

 


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