Fallout 運び屋の少女   作:Ciels

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第六十五話 ネルソン、攻撃3

 

 

 

 

 私がトリガーを引くと、けたたましい音と共に00バックの散弾が飛び出る。

フルチョークでないにせよ、ある程度の長さと絞りがあるショットガンだ。

その威力と範囲は、死のリングとなり、人を殺す事に不足は無い。

横を向いていたリージョン兵にぶち当たると、その鉛の粒は肉に食い込み、骨を砕き、臓器を破壊する。

 

はじけた血肉は砂へと帰り、意識は空へと昇る。

天ではないどこか。もしかすると、地に落ちているのかもしれない。

 

今までの人生で体験したことを振り返りながら、この世からおさらばする時間だ。

 

仮に、今殺したリージョン兵の歳が二十歳だとしよう。

彼は二十年間、親や兄弟、そして友人と教師に育てられてきたと仮定して。

辛いことも、楽しいことも、悲しいことも、たくさんあった。

その積み重ねが今までの彼を形成してきた。

 

生がそこにあるのならば、それは思い出だ。

 

その思い出を、今、私が葬り去った。

無に帰した。

地に伏せさせた。

足で踏みつけた。

00バックの散弾で穴だらけにした。

 

私が彼の生の灯を、一息ふいて消して見せた。

 

 

死。

 

 

彼に、死を与えた。

 

 

私の指先加減で、死は動く。生も与える。

 

 

綺麗なガラスが割れ散るように、生命が破片となる。

 

 

芸術とは、人の感性によって、いくらでも生み出せるものだとお兄ちゃんは言っていた。

誰かが美しいと思えばそれは芸術だし、何かしら心を動かせばそれはもう無価値ではない。

 

 

なら、この瞬間はどうだろう。

 

 

十七歳の少女に吹き消された二十年の篝火は、私の目にどう映る。

 

 

 

綺麗?明媚?みめよい?

 

 

 

全て。

 

 

 

あの瞬間に、私が感じ取れるものすべてが込められているの。

 

 

 

フォアエンドを後退させると、役目を終えたシェルが飛び出る。

このシェルはいつに作られたか。

数日前、それとも数か月前か、いや数年前かも。はたまた数十年前。

いや、数百年前だろうか。

 

 

その間このシェルはどのようにしていただろう。

どこかの倉庫で眠っていたかもしれない、誰かの死体のポケットに入っていたのをスカベンジャーが見つけて売り払ったのかもしれない、ガンランナーが素材から加工して作成したのかもしれない。

 

 

 

その歴史が、私の手によって終わる。

 

 

 

それは、物凄く、ものすごく。

 

 

 

 

 

 

素晴らしいことなんだね、お兄ちゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「運び屋ッ!おい!聞いてるか!おい!」

 

 

 

すぅ、っと身体から暖かい物が消える。

隣りを見てみれば、ヘイズ中尉とその部下が私の隣でリージョン相手に射撃を行っていた。

いつの間に来たのか。全然気が付かなかった。

私は私で、いつの間に新しいショットシェルを装填しているのだろうか。

 

なんだか変な夢を見ていた気がする。

頭を横にぶんぶん振ると、意識を集中させ、中尉達がカバーしている間にショットガンのリロードを終える。

 

 

「ごめん、集中してて聞いたなかった!もう一回言って!」

 

 

そう言うと、中尉は訝しむような目で私を見た。

 

 

「お前どうしたんだ?……まぁいい、俺と上等兵で中央の広場に近づく!お前はこの場で援護してくれ!上手くいけば人質を解放できる!」

 

 

「了解。タイミングはそっちでお願い」

 

 

それだけ言うと私は射撃に戻る。

2発ほど撃つと、中尉と上等兵はもう落ち着きを見せ始めた激戦区へと駆け出す。

ほとんどのリージョン兵は死んでいて、残りは数人。

その数人も、それぞれ負傷していて戦力にはならないだろう。

 

それでもNCRの兵士たち、そしてブーンは射撃を止めなかった。

捕虜など取る気はなく、皆殺しにするのだろう。

 

 

War never changes――

 

 

いつの時代になっても、どこの国へ行ったとしても、これは変わらないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 広場とその周辺の敵を殲滅し、捕虜を解放すると、残党の制圧に取り掛かる事になった。

通常ではあり得ないが、まだ屋内のクリアリングがまったく行われていないのだ。

 

ブーンやED-E、そしてNCRの隊員たちと合流して作戦を練る。

ちなみに捕虜はリージョンへ仕返しがしたいらしく、弱った体ながら作戦に参加することとなった。

 

 

「死体の中にデッドシーがいない、多分どっかの家屋に隠れてやがる」

 

 

捕虜が憤ったように言う。

確かに戦っていたリージョン兵士のなかに指揮官クラスはいなかった。

いてもせいぜいベテランクラスだろう。

 

 

「ED-E、家屋を赤外線探知」

 

 

私が命じると、ED-EはBeep音を鳴らして周辺の家をくまなくスキャンする。

 

 

「いつ見てもあのブリキ缶はすげえな」

 

 

曹長が笑いながら彼を称賛する。

しかしそれなりにED-Eに助けてもらい、感謝と愛着を感じている私としてはその呼び方が好ましくはない。

 

 

「その呼び方、気に入らないわね」

 

 

「冗談だよ、怒んなって……おっかねぇよ」

 

 

ちょっとだけ怯えたように訂正する。

その時、ED-EからPip-boyへ連絡があった。

 

どうやら北側の家屋の一つに数人が立て籠もっているらしい。

 

 

「あれよ。行きましょう」

 

 

目的の家屋を指差すと、ブーン、そしてヘイズ分隊が向かい、後の隊員は周辺警戒をすることに。

 

 

家屋の扉横に張り付くと、小声で突入のやり取りをする。

 

 

「ポイントマンは私がやるわ」

 

 

ショットガンではなく取り回しの良い9㎜ピストルを取り出す。

 

 

「背中は俺が」

 

 

頼もしいブーンおじさんが提案するが、正直近接戦闘はあてにはしていないので、何も言わない。

 

 

「中尉、合図でドアを開けて」

 

 

「了解。気を付けろよ」

 

 

私が頷くと、彼はドアノブをそっと手に取る。

中で何か物音がした。今がチャンスかもしれない。

 

 

Breach(突入)

 

 

その一言の後、中尉はドアノブを捻り開けようと――――――

 

 

「オラァ!!!!!!」

 

 

する前に、ドアが内側から蹴り破られた。

 

 

 

「ッ!!!!!!」

 

 

 

蹴り破られたドアが私の頭にぶつかる。

ガードする暇もなかった。

私はブーンと一緒に後ろ、つまり扉の横へと吹っ飛んだ。

 

おでこが痛いし熱い。

そう認識できたのは、中から飛び出して来たリージョンの兵士が、ヘイズ中尉達と取っ組み合いをしていた時。

 

額を触ると手袋には血が染みていた。

 

 

視界が揺れる。

 

 

私の下敷きになっているブーンが何かを言っている。

 

 

ピストルを握る。

 

 

そこからは覚えていない。

 

 

 


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