私がトリガーを引くと、けたたましい音と共に00バックの散弾が飛び出る。
フルチョークでないにせよ、ある程度の長さと絞りがあるショットガンだ。
その威力と範囲は、死のリングとなり、人を殺す事に不足は無い。
横を向いていたリージョン兵にぶち当たると、その鉛の粒は肉に食い込み、骨を砕き、臓器を破壊する。
はじけた血肉は砂へと帰り、意識は空へと昇る。
天ではないどこか。もしかすると、地に落ちているのかもしれない。
今までの人生で体験したことを振り返りながら、この世からおさらばする時間だ。
仮に、今殺したリージョン兵の歳が二十歳だとしよう。
彼は二十年間、親や兄弟、そして友人と教師に育てられてきたと仮定して。
辛いことも、楽しいことも、悲しいことも、たくさんあった。
その積み重ねが今までの彼を形成してきた。
生がそこにあるのならば、それは思い出だ。
その思い出を、今、私が葬り去った。
無に帰した。
地に伏せさせた。
足で踏みつけた。
00バックの散弾で穴だらけにした。
私が彼の生の灯を、一息ふいて消して見せた。
死。
彼に、死を与えた。
私の指先加減で、死は動く。生も与える。
綺麗なガラスが割れ散るように、生命が破片となる。
芸術とは、人の感性によって、いくらでも生み出せるものだとお兄ちゃんは言っていた。
誰かが美しいと思えばそれは芸術だし、何かしら心を動かせばそれはもう無価値ではない。
なら、この瞬間はどうだろう。
十七歳の少女に吹き消された二十年の篝火は、私の目にどう映る。
綺麗?明媚?みめよい?
全て。
あの瞬間に、私が感じ取れるものすべてが込められているの。
フォアエンドを後退させると、役目を終えたシェルが飛び出る。
このシェルはいつに作られたか。
数日前、それとも数か月前か、いや数年前かも。はたまた数十年前。
いや、数百年前だろうか。
その間このシェルはどのようにしていただろう。
どこかの倉庫で眠っていたかもしれない、誰かの死体のポケットに入っていたのをスカベンジャーが見つけて売り払ったのかもしれない、ガンランナーが素材から加工して作成したのかもしれない。
その歴史が、私の手によって終わる。
それは、物凄く、ものすごく。
素晴らしいことなんだね、お兄ちゃん。
「運び屋ッ!おい!聞いてるか!おい!」
すぅ、っと身体から暖かい物が消える。
隣りを見てみれば、ヘイズ中尉とその部下が私の隣でリージョン相手に射撃を行っていた。
いつの間に来たのか。全然気が付かなかった。
私は私で、いつの間に新しいショットシェルを装填しているのだろうか。
なんだか変な夢を見ていた気がする。
頭を横にぶんぶん振ると、意識を集中させ、中尉達がカバーしている間にショットガンのリロードを終える。
「ごめん、集中してて聞いたなかった!もう一回言って!」
そう言うと、中尉は訝しむような目で私を見た。
「お前どうしたんだ?……まぁいい、俺と上等兵で中央の広場に近づく!お前はこの場で援護してくれ!上手くいけば人質を解放できる!」
「了解。タイミングはそっちでお願い」
それだけ言うと私は射撃に戻る。
2発ほど撃つと、中尉と上等兵はもう落ち着きを見せ始めた激戦区へと駆け出す。
ほとんどのリージョン兵は死んでいて、残りは数人。
その数人も、それぞれ負傷していて戦力にはならないだろう。
それでもNCRの兵士たち、そしてブーンは射撃を止めなかった。
捕虜など取る気はなく、皆殺しにするのだろう。
War never changes――
いつの時代になっても、どこの国へ行ったとしても、これは変わらないのだ。
広場とその周辺の敵を殲滅し、捕虜を解放すると、残党の制圧に取り掛かる事になった。
通常ではあり得ないが、まだ屋内のクリアリングがまったく行われていないのだ。
ブーンやED-E、そしてNCRの隊員たちと合流して作戦を練る。
ちなみに捕虜はリージョンへ仕返しがしたいらしく、弱った体ながら作戦に参加することとなった。
「死体の中にデッドシーがいない、多分どっかの家屋に隠れてやがる」
捕虜が憤ったように言う。
確かに戦っていたリージョン兵士のなかに指揮官クラスはいなかった。
いてもせいぜいベテランクラスだろう。
「ED-E、家屋を赤外線探知」
私が命じると、ED-EはBeep音を鳴らして周辺の家をくまなくスキャンする。
「いつ見てもあのブリキ缶はすげえな」
曹長が笑いながら彼を称賛する。
しかしそれなりにED-Eに助けてもらい、感謝と愛着を感じている私としてはその呼び方が好ましくはない。
「その呼び方、気に入らないわね」
「冗談だよ、怒んなって……おっかねぇよ」
ちょっとだけ怯えたように訂正する。
その時、ED-EからPip-boyへ連絡があった。
どうやら北側の家屋の一つに数人が立て籠もっているらしい。
「あれよ。行きましょう」
目的の家屋を指差すと、ブーン、そしてヘイズ分隊が向かい、後の隊員は周辺警戒をすることに。
家屋の扉横に張り付くと、小声で突入のやり取りをする。
「ポイントマンは私がやるわ」
ショットガンではなく取り回しの良い9㎜ピストルを取り出す。
「背中は俺が」
頼もしいブーンおじさんが提案するが、正直近接戦闘はあてにはしていないので、何も言わない。
「中尉、合図でドアを開けて」
「了解。気を付けろよ」
私が頷くと、彼はドアノブをそっと手に取る。
中で何か物音がした。今がチャンスかもしれない。
「
その一言の後、中尉はドアノブを捻り開けようと――――――
「オラァ!!!!!!」
する前に、ドアが内側から蹴り破られた。
「ッ!!!!!!」
蹴り破られたドアが私の頭にぶつかる。
ガードする暇もなかった。
私はブーンと一緒に後ろ、つまり扉の横へと吹っ飛んだ。
おでこが痛いし熱い。
そう認識できたのは、中から飛び出して来たリージョンの兵士が、ヘイズ中尉達と取っ組み合いをしていた時。
額を触ると手袋には血が染みていた。
視界が揺れる。
私の下敷きになっているブーンが何かを言っている。
ピストルを握る。
そこからは覚えていない。