Fallout 運び屋の少女   作:Ciels

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第六十一話 ネルソン、襲撃2

 

 

 

 

 

 伏せる。

朝日がまだ砂漠の砂と土に熱を与える前では、この行為が酷く苦痛に感じるものだ。

もちろん炎天下の砂漠やアスファルトに横たわったりなんてこともしたくないのは明白だ。

しかし何というか、冷たい土や砂に横たわるというのも案外辛いものなのだ。

 

まだ夜の寒さが抜けていないのにひんやりとした感触を体いっぱいに感じなければならない。

これが苦痛と言わずになんと言えばいい?

 

 

砂と土、そして幾分かの草に紛れながらひたすら待つ。

微動だにせず、私とブーンはまるで死んでしまったかのようにそうしていた。

 

私達はまだ良い。

この砂漠には、手足を落とされ近くに地雷を設置されて放置されたNCR兵が何人もいた。

彼らはネルソンを奪還するまでの間、一日中この地獄のような苦痛に耐え、あるいは絶望して死ななければならないのだ。

 

 

 

このまま寝てしまいたい。

二度寝なんてこっちの世界に来てからほとんどしたことがないから。

前の世界ではよくしていたのを覚えている。

数分するとよくお兄ちゃんに起こされたものだった。

 

ふんわりと香る朝食の匂いと、優しく体を揺らす手つき。

今でもはっきりと覚えている。

 

 

「いつまで続くんだろうなぁ」

 

 

「さぁな。奴らがこの土地を諦めるまでだ」

 

 

すぐ近くから声がした。その声で私は我に返る。

やたらめったにトリップするのは私の悪い癖だ。

ポジティブに言えば夢見る少女ではあるのだろうか。

 

声は足音と共に右から段々と近づき、私達の前を左へと通り過ぎた。

通り過ぎて、完全に私達が視界から消えた事を予想すると、ゆっくりと立ち上がる。

 

音もなく立ち上がると、私はブーンから借りていたコンバットナイフを片手にゆっくりと声の主たちに忍び寄る。

さっきの声はリージョンの監視員で、二人とも運悪く足を止めて朝日を眺めていた。

 

そっと、手前の兵士に近づく。

ナイフを逆手に握ると、もう片方の空いた手で兵士の口を塞ぐ。

 

びくっと驚く兵士だが、声も出せずに助けを求めることも出来ない。

続けざまに膝を後ろから蹴り、跪かせて斬りやすい位置まで兵士の身体を下げる。

 

後は肺と心臓を突き刺して喉を掻き切る。

この単純な作業のみで大の大人は事切れた。

 

死体をゆっくりと地面に置き、あくびをしながらストレッチする前方の兵士へと寄る。

リージョン兵はリピーターを所持しており、スリングを首からぶら下げ体の前に保持していた。

 

ナイフを右手に持ち替え、また逆手にすると後ろから襲撃を開始する。

 

手始めにナイフで相手の右ひじを引っかけ、手前に手繰り寄せる。

同時に左手で相手の右肩に垂れていたスリングを、左後ろへと引っ張った。

 

 

「ぐぉッ!?」

 

 

すぐさま右ひじを引っかけていたナイフで心臓を突き刺す。

後ろから、しかも体のコントロールを奪われた状態では対応のしようがなかった。

後ろ、つまり私の方向へと倒れ行くリージョン兵にとどめを刺すために攻撃を続ける。

 

まず引き寄せていた右腕を今度は押しやり、仰向けになっている相手を左に寝返らせる。

そして喉を切り、心臓をまた突き刺した。

上半身は無力化。

 

次に手前の太ももを二回ほど切りつけ足を使えなくする。

 

今度はまだ生きている利き手である右腕を使用できなくするために切りつける。

 

とどめに肺。

これで主要な抵抗手段と生命維持ができなくなったリージョン兵は、命を落とした。

 

 

「……どこでその技術を習った?」

 

 

「お兄ちゃん。ナイフありがとう、行きましょう」

 

 

後ろでED-Eと二人で引いているブーンに血を払ったナイフを返し、先に進む。

時間は刻一刻と迫っているのだ。

 

 

 

そうしてリージョンの監視台の傍まで到着する。

ここまでで接敵はさきほどの二人のみだったが、さすがに監視台まで来ればそうはいかない。

 

私達が攻め入った方角の監視台にはスナイパーと思われるリージョン兵が一人いたのだ。

不幸な事に、番犬も引き連れている。

 

 

監視台の真下まで忍び足で来ると、私は足を止めた。

こっちは風下だからいくら犬でもこの距離で匂いを嗅ぎ取るのは難しい。

 

私はPip-boyから干し肉を取り出し、風上に向けて思い切り投げる。

ブーンもその意図を理解していたらしく、その妙案ににやけていた。

 

 

「ワンッ!」

 

 

肉の匂いを感じた番犬が匂いの発信源へと向かう。

いくら訓練されている犬でも、欲には勝てない。彼らは満足に食事を与えていないだろうからなおさらだ。

 

 

「おい!どうした!」

 

 

すぐに監視台のリージョン兵が犬を追いかけようとするが、その前に私が行動していた。

持ち前のフリーランニングを利用し、監視台を一瞬で登り切ったのだ。

 

そして腰の鞘からマチェットを抜く。

その段階でリージョン兵は私の存在に気が付いた。

彼は心底驚いた様子で私を見ており、その隙に攻撃を仕掛ける。

 

 

まずリーチの長いマチェットで目の前を縦に一閃した。

 

 

「がぁっ!?」

 

 

顔と胴を切られて痛がるリージョン兵。

私は続けざまに首を横に切りつけ、直後に腹を横に切りつける。

 

 

「ぶっふがっガッ」

 

 

まだ死ねないリージョン兵に慈悲の一撃を。

また彼の胴を一閃し、股間を突いた。

 

言葉もなく大きく前のめりになるリージョン兵。

最後に頭を掴み、マチェットで首を突き刺した。

 

 

「眠りなさい」

 

 

言い捨て、彼の身体を地面に寝かせる。

犬の方はというと、ブーンが苦手と言っていたナイフで処理していた。

 

 


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