その日の夜、仮眠を済ませた私とブーンはヘイズ中尉に呼ばれ、作戦指揮を担当しているテントの中へと集合していた。
襲撃前の作戦会議だろうと予想はしていたが、やはり当たった。
ここの司令官であるボラトル少佐やその他の現場指揮官が大きなテーブルを中心ににらみ合いをしていたのだ。
「遅れました少佐」
テントに入り私がお辞儀すると、少佐は手を振った。
ここ数日の私の働きはこのキャンプにとってはかなりの救いであったようで、いつの間にか少佐や他の隊員は私を信頼し始めていたのだ。
彼らから得られる物的資源は少ないが(弾薬も自分持ち)、恩を売っておいて悪いことはない。
ウェイストランドに恩などと言う感情論があるのか疑問視する人も多いが、少なくとも私はそうして生き残ってきた。
私は親しいヘイズ中尉横へ並ぶと皆が凝視するテーブルの上には、地図や写真が貼ってあった。ネルソンのものだ。
「今どういう状況?」
ぼそっと隣りのヘイズ中尉に質問する。
「難航している。どうにも突破口が開かない」
なるほど。それでみんなで沈黙しているのか。
戦術なんて私の担当ではないが、ちょっとでも力になるために地図を見てみよう。
どうやらネルソンは町の西側、そして北側に主な侵入路がある。
だが西側のメインゲートはリージョンによって強固に守られており、突破するのは難しいだろう。
では北側はどうだろうか。
北側の侵入路とキャンプ・フォーロンホープ間には数百メートル四方の小さな砂漠が広がっている。
高低差もそれなりにあり、ここからならば見つからずに侵入できそうなのだが……問題もある。
地図に書かれたMineという文字……つまり、地雷原なのだ。
いくら罠に精通している私でも、地雷原を突破することはできない……
「Beep」
と、そんな時抱えていたED-Eが鳴いた。
意味もなく鳴くとは思えないので、不思議に思ってPip-boyのモニターを確認する。
すると、自動的にED-Eとのリンク画面が表示されていたのだ。
そこに記載されていたのは赤外線センサーと磁力センサー。
……物は必ず赤外線を発すると本で見た事がある。それは地雷も例外ではない。
そして磁力。地雷は鉄製なので磁力を発する。
あれ?
「あの」
私が手を上げると、テント内の全員がこちらを凝視した。
ブーンまでもサングラス越しにこっちを見ているからとても居心地が悪い。
「作戦があります」
踊るだけの作戦会議を一歩前進させたのは、軍属でもない運び屋の少女だった。
早朝、キャンプ・フォーロンホープの南側の砂漠。
太陽はまだ完全に姿を表しておらず、それなりに寒い。
私とED-E、そしてブーンは姿勢を低くしながらネルソンに向けて前進していた。
珍しくED-Eが先頭で、その後ろに私とブーンが続く。
ふと、前方5メートルを浮遊するED-Eが止まってBeep音を鳴らした。
「Beep、Beep」
Pip-boyのモニターには
分かったかもしれないが、私の作戦と言う物は、ED-Eの地雷探知能力を利用して北側からごり押すという単純なものだった。
我ながら杜撰だが、まぁ総員突撃されるよりはマシだろう。
手はずとしては、私たちが北側の見張りを殺害後、西側からヘイズ中尉たちの別動隊が攻撃、その混乱に乗じて私たちは町を掃討する。
「地雷はね……素早く、慎重に解除ボタンを押してあげればいいのよ」
そう自分に言い聞かせ、ED-Eが見つけた地雷の起爆装置を解除する。
手を伸ばそうとしたとき、一瞬警報が鳴ったが、すぐに中心のボタンを押して事無きを得た。
この地雷は近接信管持ちなので、近づいただけで爆発する。
だが弱点もあり、その性質から地面に埋められないのだ。
あと、割となんにでも反応してしまう。
解除した地雷をPip-boyの四次元スペースに放り込む。
この四次元スペースがどこに繋がっているのか知らないが、仮にこの中で爆発しても使用者に損害は無いらしい。
「ふぅ……まだネルソンまで300メートルあるわね」
「時間がない。無駄口を叩いている暇はないぞ」
「急かさないでよ……あら?」
ブーンの説教じみた進言に辟易していると、不意に何かを見つけた。
それは現在地から東に少し下ったところにある……下水道への入り口だった。
だが、今はそれほど重要でもない。
この時の私は深く考えずにネルソンへの道のりを進めることにしたのだ。