Fallout 運び屋の少女   作:Ciels

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遅くなってすみません


第五十八話 キャンプ・フォーロンホープ、お医者

 

 

 

 

 

 

 物資を無事に基地へと届けた私たちは、束の間の休息をとっていた。

もう日は暮れ、モハビの冷たい夜が来る。その前に、ご飯を食べて温めておくに限る。

ここではシャワーなんかもないから、ご飯を食べることが唯一の健康法だったりもするのだ。

 

睡眠はあてにならない。

なぜなら、数時間に一度、あるいは数分に一度の割合で、リージョンかNCRのどちらかが発砲をする。

神経質ではないが、ぐっすり寝ている最中にいきなり発砲音が聞こえれば驚くのは無理もない。イライラする。

そんなんで睡眠なんかできるわけない。

 

 

「すまないな、こんな事に付き合わせてしまって」

 

 

隣りでスープを飲む中尉が言った。

 

 

「ええ、本当に。まぁ、これも何かの縁です」

 

 

「ふふ、そうかもな」

 

 

会話をしながら食べる夕食は、たとえ味の良くないレーションであっても美味しく感じる。

ブーンは喋らないし、ED-Eはそもそも機械だから物を食べない。

ED-Eは話し相手にはもってこいだが、イマイチ何を伝えたいのかが分からないから、私が一方的に喋るようになってしまうのだ。

一人で旅をしていた頃に比べれば、それも最近は悪くないのだが。

 

 

ふと、Pip-boyの時計を見る。

現在6時45分。

秋になってくれば、日も短くなる。

それでも昼間が暑いのはどうしてだろうか。

 

そうそう、Pip-boyと言えば、ジェイソンから貰ったホロテープによるアップデート内容が分かった。

 

それは、V.A.T.S.の機能向上だったようだ。

今までは単に使用中の時間の流れが遅く感じるだけだったが、アップデートにより敵や味方の状態の分析、また自分が使う武器の命中率を図るようになった。

ためしに近くに飛んでいたでっかいハエを狙ってみたら、命中率は70%と表示されたのだ。個人的にもっと当たらないかと思っていた。

 

 

「そろそろ時間ね」

 

 

そう呟くと、私は空のトレーを片づける。

夜になっても仕事はある。それは、ここの救護室で怪我人の治療をすることだ。

そんなもの、私とブーンでどうにかなるのかしら。

 

 

「俺はどうする?」

 

 

ふと、先に食べ終わってテントの隅っこで銃の手入れをしていたブーンが尋ねた。

 

 

「医療の知識は?」

 

 

「応急処置程度なら」

 

 

「待機して」

 

 

「……わかった」

 

 

なんだかやや不服そうな顔をして……いや常にしかめっ面だから詳しい事は分からないのだが、ブーンは手入れに戻った。

この人意外と面白いわね。

 

 

「確か怪我人の治療だったか?」

 

 

中尉が聞いてくる。

 

 

「そうです。まぁ、私も専門的な知識があるわけじゃないんですけどね」

 

 

それだけ言うと、私はED-Eを引き連れて救護用テントへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「酷いわね」

 

 

救護室に入っての第一声が、それだった。

テントの中は血と肉の腐敗した臭いで充満しており、加えてうめき声もする。

ぎゅうぎゅう詰めのベッドに寝かされている兵士たちを見るが、怪我も見ただけで重傷だと分かる。

手や足が無い者、上着が血だらけの者、全身包帯でグルグル巻きにされている者……

 

戦場では、相手を殺すよりも怪我を負わせたほうが有利な局面が多々存在する。

特に規律の取れた軍隊などでは、負傷者は見逃せないものであり、その者の治療に人員や物資を取られる。そうすることにより効果的に損害を与えることができるのだ。

……テロリストやゲリラなら、話は別だが。

 

 

「なんだお前は?怪我人じゃなさそうだな」

 

 

一人考えに浸っていると、ここのドクターである男性が奥からやって来た。

白いシャツは所々返り血で染まっており、見方によってはマッドサイエンティストに見えなくもない。

 

 

「ボラトル少佐から派遣された者です」

 

 

そう伝えると、ドクターはあぁ、と納得して言った。

 

 

「やっと俺以外に医療知識を持ってる奴が来たか……俺はリチャードだ。見ての通り、俺だけじゃ人手が足りなくてね。是非とも手伝ってほしいんだ。……医療経験はあるよな?まだ子供だが」

 

 

その質問にムッとする。

確かに見た目はちょっと幼いかもしれないが、子供ではない。

私はもう大人だ。

 

 

「《Medicine/40》心配せずとも多少の医療経験はありますわ」

 

 

「《成功》よろしい。さっきも言った通り、患者の数が多すぎてね。俺だけじゃ全員診る事なんてとてもできないんだ。君には、患者の容体を診てもらって、治療できそうならしてほしい」

 

 

「あー、もちろんですわ、えぇ」

 

 

まずい、意地を張らなければ良かった。

多少の事はできるが、大規模な手術なんてほとんど経験がない。

あぁ、こういうところが子供だって言われるんだね、お兄ちゃん……

 

自分の未熟さを悔やんでも仕方ない、私は早速診察に取り組むことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

まず、近くにいた気を失っている負傷兵から。

リチャード先生はもう他の患者を診ているからあてにできない。

仕方ないか……

 

この兵士の身体の至る所に切り傷がある。

幸い脈は逸れているようだが、そのすぐ近くを負傷しているため、下手に治療すれば脈を傷つけて殺してしまう可能性もあるだろう。

スティムパックを使うことも考えたが、下手に投与すれば傷の再生のために体力を消耗してしまう。難しいわね。

 

 

だが、これくらいの傷なら私も見てきたし、治療もしてきた。

 

 

まず丁寧に消毒する。

昨日運び込まれたのか、傷は古くないが、新しくもない。

消毒が間に合えばいいのだが。

 

次に縫合。

手先は器用な方なので、これは問題ない。

それでも慣れない作業に数十分もかけてしまった。

 

 

「抗生物質は……あった」

 

 

近くのテーブルにあった抗生物質を手に取る。

 

 

「ドクター、抗生物質借りますね?」

 

 

「好きにしたまえ!」

 

 

手術しているドクターはこちらを振り向きもせずに言った。

 

私は負傷兵の口を開け、少しだけ身体を起こさせると抗生物質を口に押し込んだ。

そしてED-Eが四次元スペースから取り出した水の入ったボトルを開け、水を口へ流す。

 

 

「ごほっ、ごほほ」

 

 

むせているが死ぬよりはマシだろう。

飲み終えた兵士をまた寝かせると、縫合した傷口に近くにあった包帯を巻く。

もういちいち許可を取らずともいいだろう。

 

 

「ふぅ~、終了!」

 

 

「Beep!」

 

 

これで一人目。まだまだ患者はいっぱいいる。

さて、今日は徹夜だわ。

 


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