「その首貰ったぁああああああああッ!!!!!!」
岩というよりも崖から飛びかかって来たリージョン兵が叫ぶ。
振りかぶった手にはマチェットが握られており、私の首を落としに来ているようだ。
反射的に、私はその兵士の右腕を撃った。
12ゲージの、それもバックショットが、近距離から兵士めがけて炸裂する。
バックショットの着弾と同時に、リージョン兵の右腕が消し飛んだ。
それもそのはず、この至近距離からバックショットを撃たれれば致命傷は免れない。
このバックショットは軍用としても昔から使用されており、一個のシェルから9つの小さな弾が飛び出す。
その一つ一つの威力は、大体9㎜口径の弾と等しいと聞く。
つまりこの兵士は、一度に9㎜拳銃を9発撃たれた事になるのだ。
「ぎえぇええええええッ!!!!!!」
空中で撃たれたことにより体勢を崩す兵士。
そのまま頭から地面へ落ちるとそのまま動かなくなった。
運悪く、首の骨を折ったようだ。
しかし一人倒してもまだまだリージョン兵士は沢山いた。
おそらく一個分隊程度はいるに違いない。
「俺の獲物だッ!」
ブーンはそんな状況にも関わらず、自前のライフルで岩の上のリージョン兵士を撃つ。
今のような至近距離ではスコープ付きの銃ではかなり不利であるが、そこは元第一偵察隊。
正確に胴体を撃ちぬいている。
.300口径のマグナム弾なんてものは、被弾するだけで動けなくなる。
いかに訓練されている兵士でも、胴体に大口径弾を被弾しては動けなくなるのは目に見えていた。
「Beep!Beep!」
ED-Eが左右の岩場から攻撃を受けている事を知らせてくる。
この人数で挟撃されるのは非常に厄介だ。
「遮蔽に着いて!ブーン、出過ぎよ!」
未だにその場から狂ったように射撃するブーンを近場の遮蔽に引きずる。
引きずっている際も、弾の切れたライフルから拳銃にトランジションし、執拗に射撃をしていた。
リージョンに対する憎しみは分からなくもないが、冷静さを欠いてしまっては死ぬだけだ。
「俺に構うな!」
「まだ借りを返してもらってないのに死なれちゃ困るわ!」
若干怒ってそう言うと、ブーンは渋々了承したようにライフルのリロードに入る。
仲間にして早々こんな調子でいいのかしら……とにかく今はこいつらを始末しなければ。
ちらりと遮蔽から奴らを覗き見る。
その瞬間、岩の上からマズルフラッシュ。反射的に隠れると、今まで顔を出していた場所を曳光弾が通った。
おお怖い。
かなり訓練されているようだ。
「ムカつくわね」
「お前リージョンに狙われるような事したのか?」
「さあ。仕事柄色々な人に恨まれるわ」
「……運び屋なのにか?」
最後の問いには答えない。
友達を作るのは得意だが、敵を増やすのも得意である。
誰からも愛されるということは、誰からも妬まれ、恨まれるものだ。
さて、どうするか。
ED-Eはその装甲の硬さを利用して懸命に身を晒して反撃している。
だが、成果は薄いようだ。
「敵の装備はリピーターね。それも
.44マグナム弾の一般的なエネルギー、つまりジュールは約1500J程度。
一方で9㎜弾は500J程である。これだけ強力な弾丸なら手足に食らっても重傷を負うだろう。
敵との距離は40メートル。
モデチョークのバックショットでは割と理想的な射程距離だが、数が違う。
飛び出せば蜂の巣だ。
「この距離では狙撃にも向かないぞ」
「分かってるわ……ED-E!」
ED-Eを呼ぶ。
すると彼は牽制しながらもこちらへ降下してきた。
ボディは頑丈だが、所々塗装が剥げてしまっている。
「このまま真っ直ぐ突っ切りながら敵へ攻撃。その隙に私も前進するわ。ブーンはその場で援護して」
「正気か?」
「いつでもね。それ、行きなさい!」
Beep!といういつも通りの返事と共に、ED-Eが前方へ突撃する。
するとリージョン兵士はED-Eを意地でも落とそうと射撃を開始した。
どうやら予想以上に硬いED-Eのボディに驚いているようだ。
注意が逸れた事で私も行動を開始する。
走り出すと、こちらの動きに気が付いた兵士が私を狙った。
だが、
「死んだな」
ブーンの無慈悲な言葉と共に、.300口径弾がその兵士の頭を抉った。
漫画のように飛んで行った兵士の頭が岩下に落ちる。
ナイスアシストと褒めてやりたいが、そんな余裕はなかった。
遮蔽に取り付くとこちらから見える兵士たちに狙いを付ける。
ED-Eを撃つのに必死になっていたのか、崖上から身を乗り出すようにしていたのだ。
私から丸見えだった。
フォアエンドを引いて素早く次弾装填。
そして甘く狙って撃つ。
直径約1メートルに拡散した12ゲージの、死のリングが、兵士の一人を襲った。
顔、胸、腕。
上半身の主要な部分に細かい粒がめり込み、兵士が倒れる。
「クソッ!」
隣りに居た兵士がこちらを狙う。
割と早かった。訓練の賜物だろうか。
だが、私の方がもっと早い。
もう一人も、隣りに倒れている兵士の後を追う形になった。
これで左側の岩場の脅威は排除。
「あの機械は無視しろ!目標はあのガキだ!」
「シーザー万歳!」
まるで昔の自分たちを見ているような忠誠心だ。
それもブーンと、戻って来たノーマークのED-Eに攻撃を受けている。
彼らがやられるのも時間の問題だろう。
が、一つ誤算があった。
壊滅しかけていたリージョン兵士たちが、手に何かを持ってこちらに突っ込んできたのだ。
グレネードとダイナマイト。
自爆をするつもりのようだった。
「どうしてああいうのは死にたがりが多いのかしら……」
うんざりしたようにそいつらを狙う。
距離は離れている。
このままショットガンを連射していれば、こちらの勝ちだ。
だが、
カコン。
今、ショットガンのフォアエンドを引いて次弾を装填した時に違和感を覚えた。
すぐにエジェクションポートを覗く。
装填不良を起こしていた。
「ついてないわ……」
言いつつ、ショットガンを捨てて拳銃を抜く。
セーフティを外してスライドを引き、撃つ。
その瞬間、
「ぐああああああ」
「シィイイイイザアアアアアアアアッ!!!!!!」
どこからか銃弾が飛んできて、自爆しようとしていたリージョン兵士たちが倒れて行った。
周りをチェックするが、発砲元が分からない。
ただ、一人残らずリージョン兵士を撃ったところを見ると敵では無いようだった。
ブーンもきょろきょろと周りを確認するが、同様に援護してきた者の姿を確認できないでいた。
だが、発砲音から推測するに、リージョンは真後ろ、つまり彼らが下りて来た崖の方向から撃たれたようだった。
ショットガンを拾い、ブーンと合流する。
「誰かしら?」
「NCRかもしれん。この距離なら銃声を聞きつけても不思議じゃない」
確かに。
あと少し進んだところにキャンプ・フォーロンホープがあるのだから、そこの誰かが応援に来たのかもしれない。
NCRはキャラバンの保護にも微力ながら取り組んでいるから……
そして、私達を救った者たちが崖の上から姿を表わす。
私達は反射的に銃を向けるが、その者たちの制服を見て……そして何より、見知った顔がこちらを見下ろしていたので銃を下げた。
「つくづくお前とは縁があるな」
「あら、ロマンチックじゃない?ヘイズ中尉」
鼻でNCRの軍人が笑う。
ヘイズ中尉。
数日前に会ったばかりの、馴染みの顔が、そこにあった。