Fallout 運び屋の少女   作:Ciels

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あけましておめでとうございます。
仕事していたり熱が出たりと色々大変でした……
皆様も体調にお気を付けください。


第四章 One for My Baby
第四十九話 ノバック、ブーン


 

 

 

 

 

 マニー・バルガスの一件を終え、ノバックに帰還した私とED-E。

何やら農場でバラモンを殺そうとしていたナイトキンを狙撃し、その後にあのケチスナイパーにライフルを返し一連の報告をすると、モーテルの鍵を貰えた。

どうやらここの一室を自由に使っていいらしい。

まぁそういう契約で割に合わない仕事に挑んだのだからこれ以上は何も言うまい。

 

そして何だかんだで意気揚々と私の部屋の扉の鍵を開ける。

運び屋と言う仕事柄、どこかに定住した事などほとんどない。

だからこういう隠れ家とか、自分の家と言うのはものすごくワクワクすると言うモノだ。

 

 

「んふっふ~ん、へっへ~」

 

 

気の抜けた笑い声で扉を開ける。

部屋の中身は整えられたシンプルな客室だった。

 

ふかふかのベッドがあり、ラジオもある。

洗面台もあり、クローゼットもある。

洗面台の横には風呂場があるが、まぁ当たり前のように壊れている。

 

それでも嬉しかった。

銃や装備、キャップ以外で自分の物を手に入れた経験が少ないからだ。

 

 

「Beep」

 

 

もちろん隣りで部屋の安全性を確認するED-Eを除いて、だが。

 

部屋に異常がないとの判断をしたED-Eを差し置いて、私はブーツを脱いでベッドに倒れこむ。

見た目に恥じないくらいの弾力を兼ね備えたベッドが私を歓迎した。

 

ウルフホーンの農場にもそれなりのベッドが備わっていたが、これはその比ではない。

こんなに気持ちのいいベッドがあっただろうか。

それなりに色々な土地を歩いてきた。

様々なVaultに行った。様々な村を見て来た。

NCRにも足を運んだことがある。

 

それでも、こんなに素晴らしいベッドはない。

 

 

「はぁ~……とろけちゃいそう……」

 

 

このままここで寝よう。

布団は掛けなくとも、気温は十分だ。

 

 

「Beep……」

 

 

せめて身体を拭いてから寝てくれと言わんばかりにED-Eが呟く。

 

 

「ほらED-Eも来なさい、一緒に寝ましょう」

 

 

「Beep……」

 

 

なぜか嫌がっているようなそぶりを見せるED-Eを強引に抱きかかえ、そのままベッドに埋もれる。

ED-Eの体表にこもった暖かな熱がちょうど良い。

寝るなという方が困難な状況である。

 

鍵は閉めた。

さて、寝るとしよう。

 

 

「ED-E、7時になったら起こして……」

 

 

「Beep……Beep……」

 

 

もう私が抱いて寝ることには慣れてしまったのだろうか。

なんだか反応があっけない。

まぁいいや、寝よう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ライフルの発砲音。

現在夜の10時。まだ寝てから1時間も経っていない。

 

突然外から聞こえたライフルの発砲音で目覚めてしまった。

ホルスターから9㎜ピストルを取り出して、そっとカーテンから外を見る。

 

また発砲音。

どうやらあの恐竜の口から発砲したようだ。

マニー・バルガスの相棒だろうか、そいつが西の方角へ射撃しているようだ。

 

大方害虫駆除といったところだろうか。

 

 

「……ED-E、部屋にいて」

 

 

「Beep」

 

 

最初の発砲から随時情報を送っていたED-Eが待機モードに入る。

さて、少し散歩するとしようか。

スライドを引いて弾丸を送り込み、ドアを開ける。

周囲を確認し、安全であることを確認すると、私はザ・ディノバイトへ向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

 

呼吸を整え、リラックスする。

ライフルを椅子の横にかけ、持参していたタンブラーに入ったコーヒーを一口。

リージョンの歩哨を片づけるのは訳ないが、狙撃と言うのはとても疲れるものだ。

 

人間が最大限集中できる時間は約15分程度。

狙撃というものは集中の中でも最大の集中力が必要になる。

そうでなければ狙撃など成功しない。

針の穴に糸を一発で通すよりも大変な作業なのだから。

 

今狙撃に要した時間は短かったが、とても疲れた。

NCRに居た頃よりも集中力が続かない。

 

 

「上手いのね、惚れ惚れしちゃうわ」

 

 

「ッ……!?」

 

 

突然、後ろから声をかけられる。

ナイフを手に取り後ろを振り向くと、黒いレザーアーマーに灰色のポンチョ、そして白い髪をした綺麗な少女が扉に寄りかかってこちらを見つめていた。

 

得体の知れない少女に見覚えがあった。

昼間にマニー・バルガスと話していた少女だ。

 

 

「……何の用だ」

 

 

「……狙撃、うるさいのよ」

 

 

「……なに?」

 

 

言われた事の意味が分からなかった。

だが、褒めてきたわりにはなぜか少女は怒っている。

 

 

「あのリージョンは新兵とその教官よ。まずノバックに入ってくることはなかったわ」

 

 

「……だからどうした」

 

 

「貴方が撃ったせいで、ここにリージョンからのヘイトが溜まる可能性があるってことよ。それに」

 

 

それに。

少女は続ける。

 

 

「うるさいのよ、人が寝ているのにマグナムは」

 

 

ひやりとした。

こんな幼い少女が、音だけで自分の使った弾薬の種類を割り当てた事に。

 

 

「.300 winchester magnum……それにそのベレー帽……元第一偵察隊かしら」

 

 

頭に被った赤いベレー帽を指差される。

彼女はいったい何なのだろうか。自分の経歴を言い当てられた。

まさか本当に騒音で起こされたからここに来たわけではあるまい。

 

第一偵察隊の知名度はそこまで高くない。

レンジャーの方が人気が高いからである。まぁ、知っていても不思議ではないが……

 

 

「……ッ!」

 

 

人は信用してはならない。

それが今の彼の生き様だった。

 

ナイフを彼女めがけて振るう。

格闘は得意ではないが、この距離でライフルは使えない。

とりあえず殺しはしない、捕まえて本性を暴く。

 

 

「あなた下手ね」

 

 

が、彼が振り下ろした腕は少女の細く引き締まった腕に止められる。

それどころか気が付けばナイフを奪われ後ろに突き飛ばされた。

 

 

「ち……」

 

 

自分が格闘訓練ではよく負けていた事を思い出す。

だが、まさかこんな少女にあっさり負けるとは……

 

ナイフを奪われても拳がある。

得意のフックを彼女の顔面に叩きこむ。

 

 

「荒いわね」

 

 

しかしそれもあっさり片腕で止められ、足を引っかけられる。

 

 

「うおっ!」

 

 

何やら技をかけられて後ろに倒れこんでしまう。

少女はそんな彼の首元にナイフを突き立てると言った。

 

 

「勝てない戦はしない方が良いわよ。寿命を延ばしたいならね」

 

 

そう言うと彼女はナイフをライフルの横に置いた。

そして、こちらに手を伸ばす。

 

 

「……」

 

 

何も言わず、彼は帽子を押さえて立ち上がる。

もちろん得体の知れない少女の手は借りずに。

 

 

「あら、連れないのね。ともかく、明確にこちらに来る敵以外は撃たない方が良いわよ」

 

 

じゃ、と言って彼女はザ・ディノバイトを後にする。

しばらく彼は椅子に座って、一回りも幼い少女に負けた事を反省した。

 

どうやら彼女は本当に敵ではなかったらしい。

 

 

「……」

 

 

なら、信用できるかもしれない。

 

 


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