夜の十時。
太陽は沈み、代わりと言っては貧弱な光を放つ、それでも美しくそして青白く光る月が出ている時間帯。
ノバック周辺一辺は暗闇に飲まれ、遠くのもので見通せるのは前述の月とそれに従う星々、そしてニューベガスのネオン。
ウェイストランドでは深夜という定義が場所によって違う。
電気が通っていてその恩恵を受けられる場所であるなら、この時間帯は深夜ではない。
文明のかけらもなく、あるいはその文明が消え去ってしまった場所であるならば、そこはもう深夜と言えるだろう。
夜は神秘的である。
深い闇は人を飲み込み、その壮大さを物語っているかのようである。
いわゆる深淵と呼ばれるそれは、いつの時代も人々の心を掴んで離さない物であるのだ。
闇が恐ろしいと分かっていても、恐いもの見たさで深入りする。
闇に得体の知れないものが溢れていると知っていても、自らの勇気を証明するために一歩を踏み出す。
だが、闇というのは必ずしも人を惹きつけるだけの美術品ではない。
そこには確かな恐怖と死が存在する。
当たり前であるが、夜は目が利かない。
戦前にはナイトヴィジョンと呼ばれた優れものやキャットアイという薬もあったが、今では希少価値である。
夜に動くのは何も冒険心溢れる人間だけではないのだ。
例えばナイトストーカー。
野犬と蛇の混合種のようなそれは、名前の通り夜に蠢くものの後ろを追う。
例えばカサドレス。
新種のこの生物は、昼間の内は日陰を好むが夜にはモハビを飛び回り、目にしたものを自慢の毒針で串刺しにする。
そして、デスクロー。
名を表わす凶悪な爪は、鋼鉄のパワーアーマーですら貫くこともある。
最後に、旗に身を包み武器を手にした人間たち。
明確な殺意と共に現れるその人間たちは、時にデスクローですら凌駕する。
遠くから見つかれば、.308口径の弾丸が一秒程度で頭を貫く。
近づけば散弾か刃物で相手を八つ裂きにする。
深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いているのだ。
だが、そんな深淵から町を護ろうとする者もいる。
ザ・ディノバイトの頭から、闇を覗くもの。
ナイトスナイパー、ブーンもその一人だ。
「…………」
サングラスの暗いレンズに秘められた目が、何かを見つけた。
ゆっくりとした動作で、手にしたライフルを構える。
スコープを覗くと、夜の砂漠に赤い衣装に身を包んだ3人が見えた。
右手でボルトを上げ、引くとチャンバーから弾薬が映る。
.300 Winchester Magnum弾。
一般的なハンティングライフルの使用する.308弾よりも威力や射程が長いマグナム弾である。
ボルトを前に押すとチャンバーへと装填される。
そして下げ、今度は距離を測る。
700m、狙撃には十分な距離だ。
スコープのエレベーションノブを弄る。
カチカチ、と上下左右に動かし、経験と計算をもとに調整する。
セーフティを外し、ライフルの準備が整ったところで肺を空気が満たす。
いつも普通に吸うより少し余分に肺が膨れる。
そして息を止める。
まだ撃たない。
スコープの中心線が目標とずれている。
ここで撃つのは三流のすることだ。
身体の力を抜く。
もちろんライフルを持つ腕に無理がない程度で。
自然と空気が肺から口へ、外へと流れ出て、肺の膨らみがいつも空気を吸い込んだ時と同じくらいの厚みになる。
ここで息を止める。
最後に、彼はトリガーに指をかけた。
何も言わず、ただ無言でトリガーを絞る。
撃つ前に神に祈ったり、何か呪文を呟く奴もいるようだが、そんなことをしていてはブレるに決まっている。
乾いた銃声が響く。
一秒経って、二秒経たないうちに、赤い三人のうちの先頭の頭が弾け飛んだ。
そこからは異常に早かった。
すぐに次弾を装填し、慌てる後ろの人員を狙う。
逃げ始める前に、後ろの一人の胸に穴が空いた。
とうとう最後の一人が逃げ始める。
彼は次弾を装填し、また狙う。
最後に響いた銃声は、最後の一人に届くことはなかった。
その前に脳をぶちまけてしまったからだ。
すべての目標が地に伏せた事を確認すると、ボルトを上げて後ろへ引いた。
そして周辺を確認し、新たな脅威がいないかスキャンする。
敵映無し。
その日、彼が再びライフルを撃つことはなかった。
新たに小説を書き始めました。
まだ2ページですが、よろしければ読んでやってください。