Fallout 運び屋の少女   作:Ciels

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遅れました。この場にてお詫び申し上げます。
あと話の進行速度が遅すぎるので、これから省く部分は省いていきます。


第四十七話 レプコン、2281年宇宙の旅

 

 

 

 

 

 

 ギブソン老婦人からスラストコントロール・モジュールを買い取った私は、朝まで彼女のスクラップヤードで休憩をとらせてもらった。

昨日一日、ろくに休憩していない上に戦闘続きだったので、あの知性と優しさに溢れた老婦人がソファーを貸してくれた時は心の底から感謝したものだ。

 

ふと私はプリムでの事を思い出す。

ヘイズ中尉達と飲んだあのコーヒーのことを。

同時にグッドスプリングスで過ごした数日間にも思いを馳せる。

 

モハビは厳しい。

大きな軍が各地で争い、小さな部族でさえも生き残りを賭け武器を取る。

 

でも、それでも人の優しさは失われていない。

私は、そんな人たちが大好きだ。

プラチナチップの仕事が終わったら、しばらくどちらかの町で休暇を取るのもいいかもしれない。

 

 

早朝。

スラストコントロール・モジュールは手に入れた訳だが、ギブソン老婦人曰くもう一つの材料であるアイソトープ-239点火剤はスクラップヤードには無いそうだ。

困る私に老婦人が笑いながら教えてくれたのは、ノバックのお土産屋さんのおもちゃのロケットの中身がアイソトープ-239点火剤らしい。

 

正確には違うようだが、代用可能らしい。

あの老婦人はどこでそんな知識を得たのだろうか。

 

 

 

「早朝からこんなものを買ってくれるヤツが居たなんてな……」

 

 

 

これはお土産屋さんザ・ディノバイトの店主、クリフ・ブリスコーが言っていたことだ。

彼に100キャップ見せると、快く在庫の半分のロケットを売ってくれた。

もちろんそんなに持てないので、四次元スペースの容量がもうパンパンになりつつあるED-Eに預けてある。

 

どうやら私以外に買い手がいなかったそうだ。

 

 

 

そして現在、昼時。

レプコン地下にある監督室で、サンドイッチ片手にジェイソンとロケットを眺める。

もちろん放射能汚染が凄まじいため、監督室のガラス越しである。

 

宇宙服を着たグール達がロケットの周辺で作業をしている姿を眺め、サンドイッチを口に運ぶ。

 

 

「君のおかげで偉大なる旅がようやく遂げられる」

 

 

ふと、満足そうな顔をしてジェイソンは言った。

彼はパイプ椅子に深々と座り、コーヒーを口に含んでいる。

ちなみに彼が質素なパイプ椅子に座っている横で、私は監督官用のふわふわとした質の良い椅子に腰かけている、いぇい。

 

 

「偉大なる旅の目的地はどこなのかしら?」

 

 

ふと、私は思った疑問を投げかけた。

具体的な場所を聞いていない上に、ロケットを持ち出す意味が分かっていなかったからだ。

 

すると、ジェイソンはニヤリと口を歪め、上を指差す。

 

 

「月だ」

 

 

「……月?」

 

 

「Beep……」

 

 

私とED-Eは困惑したように彼を覗き見た。

彼は自信満々といった顔で頷く。

 

 

「約束の地は、遥彼方、月にある」

 

 

もう何も聞かないことにした。

人々は優しいこともあるが、おかしいこともある。

おかしなグールの話をつまみに昼食と行こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕方。

いよいよロケットの発射準備が整った。

ジェイソンはスーツを脱ぎ、今は他の者と同じように宇宙服を着ている。

狭い部屋に宇宙服を着たグール達が密集している様はなんともシュールである。

 

 

彼はヘルメットを外し、跪く信徒たちの前で演説を始める。

 

 

「ようやく、ようやくこの時がやって来た」

 

 

感極まったように、彼は言う。

 

 

「神の導きにより、真実の言葉が伝えられる。全能なる神が、我々の祈りに応えてくださった。ロケットに乗り込み、偉大なる旅に出る時が来たのだッ!!!!!!」

 

 

おぉぉおおおおおおおおお!!!!!!

グール達の歓声が響く。その中にはもちろんクリスの姿も混ざっている。

彼の服が白衣でなければ、見た目が人間でなければ、違和感は無い。

 

しばらく宗教特有の長くありがたい話が続く。

途中で飽きていた私はED-Eの四次元スペースの中身をチェックしたり、銃のコンディションを確認していた。

だって本当に長いんだもん。

 

 

「偉大なる旅は、二人のヒューマン無しでは実現できなかった。一人は新たな友人……クロエだ」

 

 

「えっ」

 

 

突然名前を呼ばれたかと思ったら、グール達が私に感謝する様に頭を下げている。

一体何が起きたのだろう、やっぱりちゃんと聞いておくべきだった。

 

 

「……は、はーい」

 

 

苦し紛れに愛想笑いする。

なんたる苦行だろうか。

 

 

「そしてもう一人は、古くからの友人、クリスだ!」

 

 

「ウオォーッ!!!!!!」

 

 

なんだか薬物中毒患者みたいに発狂し、喜んでいるクリス。

泣いているのに笑っているその様はまさに危険である。

 

 

「二人の友人に感謝を述べる。新たなる地への旅路に貢献してくれたことを、我々は忘れないと誓う……だが、クリスにはそれだけでは足りない」

 

 

そう言うと、ジェイソンはクリスにそっと近寄り、泣きじゃくる彼の肩をそっと抱き寄せる。

 

 

「偉大なる旅を完成させたのは他でもないお前だ。お前の活躍は、偉大なる聖者として、永遠に記憶されるだろう」

 

 

「ぐぉおおおおおおおおおじぇいぞんんぅううううううう」

 

 

なんて光景なのだろう。

グールとむさ苦しいハゲの親父が抱き合っている。

 

いや、感動の瞬間ではあるのだろうが、部外者からするとこれはかなりキツイ。

 

 

 

「お前の事は忘れない。我々を許し、その祈りを授けてくれ」

 

 

「はぃいいいいいいいいいいい」

 

 

もう帰りたい。

私とED-Eだけ完全にアウェイじゃないか。

 

 

 

ようやく演説が終わり、信徒たちがロケットへと乗り込む。

クリスも最終調整のためになにやらコンピューターを弄っているので話しかけられない。

 

と、ジェイソンが何かを持ってこちらへやって来た。

 

 

「運び屋よ、君の事は忘れない」

 

 

「あー、うん、光栄ですわ」

 

 

「これを君に。Pip-boyをアップデートできるはずだ」

 

 

そう言って渡してきたのは一枚のホロテープ。

私は素直にそれを受け取ると、Pip-boyのホロテープ収納スペースにそれを収めた。

 

よく分からないが、どうやらPip-boyが再起動しているようだった。

 

 

「感謝します、ジェイソン・ブライト。幸運を」

 

 

最後なんだ、挨拶ぐらいはしっかりしておこう。

私は頭を下げ、旅の幸運を祈った。

 

ジェイソンは頷き、立ち去ろうとする。

したが、こちらを振り返り、何やら少しだけ申し訳なさそうに言った。

 

 

「君のこれからのことだが……」

 

 

「え?」

 

 

「今まで以上に仲間を頼れ。仲間は君を裏切らない、絶対だ。そうすれば、あの男も喜ぶに違いない」

 

 

突然の意味深な発言に私は困惑する。

ヴィジョンとやらだろうか、でもそれが何を意味するのか全く分からない。

私が問いかけようにも、彼はさらばだ、とだけ言って発射台へと繋がる梯子を下りて行ってしまった。

 

仲間、ED-Eの事だろうか?それとも、まだ会っていない誰か?

そして、あの男とは?

 

分からない。

分からないことだらけだ。

 

 

 

 

 

 

……もしかしたら、いや、まさかそんなはずは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『合図でボタンを押せばいい!いいな、しくじるなよ!』

 

 

 

インターホンからクリスの声が響く。

ここは管制室。

ここからロケットを発射することが出来るのだが……なぜか私がその役割を頼まれてしまった。

 

クリス曰く、自分は最後の最後まで調整をしなければならないから発射ボタンは押せないらしい。

なら遠隔操作にすれば良かったんじゃ……まぁいい。

これも何かの縁に違いない。

 

 

「分かってるわ。……うるさいわね」

 

 

小声で悪態をつく。

同じようにED-EがBeep音を鳴らして同調した。

 

 

『発射5秒前!』

 

 

「え、ちょ!」

 

 

唐突に5カウントされる。

こういうのは何分か前から知らせるのではないのか。

 

急いでボタンのカバーを開く。

すると、ボタンではなくレバーが姿を現した。

 

 

「ボタンじゃないわよ!レバーでいいの!?」

 

 

『似たようなものだ!3!』

 

 

「ああもう!」

 

 

急いでレバーを握る。

 

 

そして、

 

 

 

『発射!』

 

 

「よっと!」

 

 

レバーを手前に引いた。

 

 

 

 

 

最初、地震かと思った。

それがロケットによるものだと分かったのは、ドームから三機のロケットが飛び立った瞬間。

 

思わず見惚れてしまった。

 

 

複雑な軌道を描いて、今にも落っこちてしまいそうなロケットは、踏ん張るかのようにジェットを噴射しつつ空へと伸びていく。

 

大きな鉄の塊が飛んでいくその姿。

まるで、天へと昇っていく魂のように。

 

 

懐かしかった。

 

どこで見たのか分からないけど、懐かしかったのだ。

そして、美しかった。

 

 

 

あぁ、確かに偉大だわ。

 

 

彼の言っていた事のほんの1mmも理解は出来ていないけれど、私は思った。

 

 

 

 

 

 


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