Fallout 運び屋の少女   作:Ciels

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第四十五話 レプコン-クリス

 

 

 

 

 

 

 「もう地下にナイトキンは居ないわ」

 

 

上のフロアに戻り、コーヒーを飲んでいるジェイソンに素っ気なく言うと、彼はなにやら感慨深いような表情をして宙を見上げた。

しばらく無言が続き、突然手を空へと突き付けた。

 

 

「神を讃えよッ!彷徨えし者に幸あれ!」

 

 

急にそんな事を叫ぶものだから、私とED-Eはしばし面を食らう。

すると、どこからともなく信徒たちがやって来てジェイソンの周りを囲み跪いた。

その中にはあのインターホンハゲも混ざっていてもの凄くシュールだ。

 

……無宗教の人から見たら、アフガニスタンでの私たちもこんな感じだったのだろうか。

確かに一日五回メッカの方角に向けて祈るのは他の文化の人からすれば異端かもしれないが……うーん。

 

 

「道は開けた!信徒たちよ!地下の霊場へ向かえ!」

 

 

ウォオオオオオオ!

 

という信徒たちの叫びが部屋に木魂する。

耳をつんざくような叫びは私の耳どころかED-Eの聴覚センサーすらも混乱させているほど大きい。

 

そして信徒たちが地下への道へと走り出す。

まるでゲルマンの大移動のようなグール達は、ジェイソンを残してもういない。

 

 

「さて、運び屋よ。成すべきことはまだある。霊場で会おう」

 

 

ジェイソンはそれだけ言うと、ゆっくりとした足取りで地下へと向かう。

だが、部屋を出る時にふと彼の足が止まった。

 

そして振り返ると、

 

 

「意地悪をして済まなかったな。それは君にやる」

 

 

背負ったショットガンを指差すジェイソン。

 

 

「そのつもりだったわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、地下へとやって来た私とED-Eのお友達コンビ。

さっさと次の仕事を終わらせてプラチナチップを追わなければならない。

 

もう外は夜になっている頃だが、地下にいるとその感覚も怪しくなるものだ。

時間の把握に自信があっても、Pip-boyの時計が無ければそうだとは気づかなかっただろう。

 

 

先ほどナイトキンを掃討していた時は気が付かなかったが、リーダーの部屋に隠し扉があったらしい。

隠し扉を開くと、ロケット発射場に通じる通路が広がっていた。

 

リーダーが鍵を持っていたということはこの通路の存在に気が付いていたのだろうか。

だが、ナイトキンが通路に配置されていないことを考えると……どうなのだろう。

彼らの思考はよく分からない。

 

ロケット発射場とは言っても、ロケット周辺は漏れだした放射性物質で充満しているため、私では入れない。

グールにもその放射能は強すぎるらしく、ロケットの修理をしている者達は宇宙服や、RADスーツと呼ばれる対放射能性能がある作業服を着ている。

 

 

人間である私とインターホンサイエンスハゲとジェイソンは現在、監督室であろう場所でガラスを隔ててロケットを眺めていた。

 

 

「次は何をすればいいのかしら?」

 

 

私がジェイソンにそう尋ねると、彼は椅子に深々と座って言った。

 

 

「クリスの研究を手伝ってやってほしい。あのロケットがちゃんと飛ぶようにな」

 

 

クリス……あぁ、インターホンサイエンスマッドハゲか。

あいつそんなまともな名前だったのか。

 

……なぜ、グールの中に人間がいるのだろう。

 

 

「……一つ聞いていいかしら」

 

 

クリスは向こうでなにやらコンピューターを弄っているし機械の作動音がうるさいため、会話は聞こえないだろう。

 

 

「なんだね?」

 

 

私の質問はビジョンに入っていなかったジェイソンが、少し驚いたような表情をした。

 

 

「彼はなぜここに?まともな人間なら……言っちゃ悪いけど、貴方たちのような集団と共に行動するとは思えないわ」

 

 

その質問にジェイソンは困ったようにため息をついたが、渋々了承したように頷いた。

 

 

「君にも彼と同じ経験があるかもしれないな」

 

 

そう言うと、彼は一度クリスをちらっと見てこちらの話を聞いていないことを確かめる。

 

 

「彼が私達の下へと来た時、私達は彼がヒューマンであることを説得しようとした。だが、彼はそれを受け入れずに怒りを見せたのだ……彼は、迷える子羊だったのだ」

 

 

あぁ、と納得してしまった。

私自身にはないが、そう言う理由で入信する人も中にはいる。

人生に迷い、あるいは些細な事で傷つき、神に救いを求める。

 

 

「数日彼を置いてやると、彼の技術力が我々をはるかに上回っている事に気が付いた。神が偉大なる旅の成功のために、彼を遣わせたのだと私は確信したのだ」

 

 

ビキ、っと私の手に力が篭る。

これ以上は聞いてはならないとは思いながらも、好奇心が勝ってしまった。

 

 

「彼は自分をグールだと思っているわ」

 

 

それは最初の会話から明らかだ。

すると彼はやや悲しそうな顔をして、それでいてどこか自信を持ったように言う。

 

 

「クリスがヒューマンであることも、それ故に偉大なる旅に出られない事を知らぬまま働くのも、すべては神の意思だ」

 

 

ホルスターから銃を抜いた。

マズルを彼の緑に光る頭に向ける。

 

 

「ならこれも神の意思よ」

 

 

「そうしたいならすればいい。だが、君には撃てん」

 

 

銃を突きつけられているのにも関わらず、彼は動じない。

それどころか余裕すら見られる。

 

最悪だった。

こいつは、悪人だ。神の名を語り、人を騙す。

人は何も変わっていない。アフガニスタンから、人は学ばない。

世界は変わろうとも、人は変わろうとしない。

 

トリガーに指をかける。

 

 

 

でも、引けない。

力が入らない。

 

ビジョンとやらが使えるジェイソンの力ではない。

私がトリガーを引くことを拒んでいる。

 

 

気が付くと、私は銃を下ろしていた。

 

 

「ほらな?君に私は殺せない。私が死ねば、クリスが絶望するからな」

 

 

「……人は変わらないわね」

 

 

「それが“人”だ、運び屋よ」

 

 

私は、その現実に立ち尽くすしかなかった。

 

 


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