生き残りのグールからの依頼を受け、金の指輪をした女性グールを探すことになった。
もしかしたら、ナイトキン達から逃げてジェイソン集団と合流しているのではないかと思い、インターホン越しにあのハゲ頭に聞いてみたが、どうやらいない様子。
捜索はまた振り出しに戻ってしまったが、ハゲ頭から有益な情報を得ることが出来た。
それは、ここレプコン地下にある収容所のことだ。
元々は倉庫か何かだったその場所は、今現在ではナイトキン達に収容所として利用されているとの事だ。
収容所はそれほど遠くもなく、すぐに行ける場所にある。
だが、さすがに収容所というだけあって警備が厳重だった。
「これは見つからずにってのは無理ね……」
収容所に通じる扉から、かなり広い収容所の内部を覗く。
収容スペース自体は更に1フロア下にあり、ここから奥の階段を下らないと降りられない。
階段を下りなくとも、二階はほぼ吹き抜けになっているので、手すりなどから下へ降りられるのだが……
問題があった。
それは、スーパーミュータントの看守がいるということだ。
彼はステルスボーイを着用しておらず、代わりにドでかい兵器を自慢の腕で持ち上げている。
確か、ヘビーインシネレーターだったか。
見た目は大きな大砲のような形で、使用するものはガソリンや火炎放射器の燃料。
ボール大の火の玉を飛ばし、着弾した部分を火の海にする、火炎グレネードランチャーのようなものだ。人間との相性が最悪な兵装。
あんなの当てられたら一溜まりもない。
だがジェイソンの依頼もあるから避けては通れない。
どうするか、と対処に悩んでいると、ふとある事を思い出した。
そういえば、ナイトキンのリーダーからステルスボーイを手に入れたではないか。
こういう時に利用しなくては、恐らく永遠に利用しないだろう。
「ED-E、ここで待機して。もし見つかったら援護を」
「Beep!」
そう命じると、私はPip-boyからステルスボーイを取り出して腰のベルトに取り付ける。
確か使い方は……スイッチを入れるだけか。
スイッチを入れると、ブゥン、という起動音がして私の腕が見えなくなる。
足元を見てみても、透明だ。
どうやらうまく起動できたようだ。
ゆっくりと、しゃがみつつ、音を発てないように吹き抜けの通路を進む。
看守は私に気が付くどころか、居眠りしそうな状態らしく、あくびをしている。
今私の手には、先ほどから使用しているショットガンが握られている。
これで近くまで寄り、背後から頭を消し飛ばす算段だ。
「暇だナァ。ステルスボーイもねぇしナ~」
どうやらステルスボーイが切れてしまっているらしい。
それで注意力が散漫してしまっているのだろうか。
それは好都合だ。
そっと、彼の横を通り抜ける。
あとは背後を取って……
ガツン。
その時、ショットガンがナイトキンの足にぶつかった。
透明になっていたためにバレルの長さが把握できていなかったのだ。
一気に血の気が引いていく。
ナイトキンの方もおっ、と訝しむような顔でこちらを見ている。
だが、見ているだけで何もしてこない。
「……疲れてるんだナ」
よかった、バカで。
ナイトキンの看守は再びあらぬ方向をボケっと見始める。
同時に、ステルスボーイの電池が切れた。
ブゥン、という音と共に私の姿が可視化してしまう。
「なんだお前ッ!?」
その音につられてこちらを振り向いたナイトキンが叫ぶ。
まずい、非常に危険な状態だった。
私は咄嗟にポーチからフラググレネードを取り、ピンと安全レバーを引く。
「Beep!!!!!!」
こちらの危機に気が付いたED-Eが警告音を鳴らし、ナイトキンの注意を引きつつ電気光線銃を放った。
一歩間違えれば私にも当てかねないし、どうやらナイトキンの皮膚を破るにはいたらないようだが、それでも看守の注意をそらしてくれたことに感謝しよう。
「ロボットッ!?」
ED-Eの丸いフォルムに気を取られているナイトキンを背に、私は手すりから下へ飛び込む。
そのことに気が付いたナイトキンが手すりにインシネレーターを向けたが、もはや手遅れ。下を覗きこむも私の姿はなかった。
クソ、と悪態をつき再びED-Eと退治しようと向き直る看守。
だが、
「ありゃ?」
扉の奥にED-Eの姿は無かった。
何だったんだ、と困惑する看守だが、足元で何か音がする。
コロン、コロン、という音と、コツン、と何かが足に当たる感触。
気になって足元を見てみると、野球ボール大の、それでいて黒い何かパイナップルのようなものが転がっていた。
フラググレネード。
先ほどの少女の置き土産がそこにあった。
「アッ」
気が付いた時にはもう遅い。
けたたましい爆音と共に、ナイトキンの右足と右腕が吹き飛ぶ。
それだけならまだしも、彼の自慢のインシネレーターの燃料タンクにまで、グレネードの破片が及んでしまった。
爆発こそしなかったものの、地面に倒れて悲鳴をあげるナイトキンの身体に大量の燃料がドバっとかかってしまったのだ。
「アァァアアアアア痛イイイイイ!!!!!!」
もがき苦しむナイトキン。
と、そんなところにBeep、という聞き慣れた電子音。
気を振り絞ってそちらを見てみると、扉の傍に先ほどこちらを攻撃していた丸いロボットがこちらをあざ笑うかのように見ていた。
ぶっ殺してやる、ナイトキンがそう言おうとした瞬間。
「Beep!」
丸いロボットからレーザーが放たれる。
正確に放たれたレーザーはナイトキンのボディに当たったが、傷は浅かった。
その代り、高温のレーザーに引火した燃料が、ナイトキンの身体を炎で包んだ。
異常な高温にも関わらず、ナイトキンはまだ死ねなかった。
悲痛な叫びをあげ、もがいていると、ゴツンと、何かが左腕に当たった。
インシネレーター。
彼の自慢の武器であり、彼を火だるまにした間接的な要因。
それが彼の見た最後の光景。
炎がインシネレーターのエンジンにも引火する。
そして、
ドボォォォォオンッ!!!!!!
インシネレーターの爆発に、今度こそナイトキンは絶命した。
頭上に爆音が響く。
どうやらインシネレーターが爆発したようだ。
直前にED-Eの電気光線銃の音がしたが……まぁいい、そのおかげで私は助かったわけだし。
今日はED-Eに助けられてばかりだ。
しかし、銃まで透明になるとここまで感覚が狂うとは思わなかった。
今度からはそのことを頭に入れて使用しなければ……
ところで、私が降り立った先は収容施設であり、重苦しい扉がかなり多くある。
きっとこの中に、女性のグールが閉じ込められているんだろう。
とっとと探して彼の恋を成就させてあげなくては。
いや、もちろんそれが目的ではないが。
「誰かいますか?」
扉を一軒一軒開けていく。
しかし、モールラットやバラモンの死体ぐらいしか見当たらない。
4つあるうち3つ確認したが、グールはいなかった。
もしかしたら、もう脱出しているのではないだろうか。
看守もあんなんだったし……
最後の扉を開ける。
刹那、酷い腐臭。
もちろんバラモンやモールラットの匂いもキツかったのだが、今回の匂いはそういうのではない。
人間の匂いだった。
「……酷いわね」
目にした光景に嫌悪感が表れる。
そこにあったのは、グールの山積みになった死体だった。
地下に来てから感じていた臭いの元はこれか。
つまり、彼の想い人も……
「……、」
だが、このままじゃまだ死んだとは分からない。
私はPip-boyから取り出したゴム手袋をはめて死体を漁る。
五体満足の死体は少なく、ほとんどがバラバラにされている。
どこだ。
金の指輪をした腕は。
しばらく死体の山を探る。
「……あった」
呟き、見つけたのは、金の指輪が薬指にはめられた手首。
これだけだった。
彼の言っていたかわいい笑顔はどこにもない。
なんて説明しよう。
とにかく、私は手首をビニール袋にしまう。
指輪をしていなければ、女の人だともわからない。
「……悲しいわね」
誰にも弔われず、こんな場所で朽ちていく。
それがウェイストランドの常識ではあった。
だが、それでも……
マイナスな思考を振り払う。
今は彼に、この手を届けよう。