Fallout 運び屋の少女   作:Ciels

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二話連続です。


第四十二話 レプコン地下、生き残り

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ハァ、ハァ、クソッ!」

 

 

「待テェエエエエエエ!!!!!!」

 

 

 一人のグールが地下の通路を走る。

息を切らし、それでも手にしたハンティングライフルを強く握り、ひたすら逃げるように走る。

すぐ後ろには青い巨人が一人、手にした鉄パイプと、上部に鉄筋コンクリートが付いた、武器と呼ぶには物々しいぐらいの何かを、彼に振り下ろそうと迫っていた。

 

ひぃいいい、と喚いて泣きたくなるが、今そんな事をしても何にもならないし、そんな事で体力を消耗するのは馬鹿馬鹿しい。

戦前ならまだしも、戦後生まれウェイストランド育ちの狂暴なこいつらには泣き落としなんて通用しないし、余計興奮させてしまうだろう。

 

そんなんで捕まってみろ、生きながらにして地獄を見ちまうぞ。

 

 

半分錯乱しながら通路を駆けると、扉が見えた。

見つけた瞬間はラッキーだと思ったが、よく考えたら電動式の扉は開くのにラグがあるから実質行き止まりみたいなもんだったから酷く絶望した。

それでもこんなクソ溜みたいな場所で死にたくないので止まらない。

 

扉まで辿り着くと、左手で開閉レバーを操作する。

ガチャコン、と金属の扉がマイペースに開こうとしていた。

 

 

「死ねぇえええええええ!!!!!!」

 

 

「だぁあああクソッたれ!!!!!!」

 

開く前に、ナイトキンが追い付く。そりゃそうだ。

咄嗟に右手を突き出すようにライフルをナイトキンの頭へ向けると、トリガーを引いた。

 

破裂音が最初に響き、続いてドサッと倒れる音。

運よくナイトキンの頭に弾丸がめり込んだようだった。

いや、運は悪いのか?まぁいい。

 

頭が消し飛んだナイトキンを足で小突くと、開けきった扉に駆け込む。

そして扉の開閉ボタンを押す間際、手が止まった。

 

一瞬後ろを振り返り、惜しむような目つきで通路の奥を見た。

 

 

「……、クソが」

 

 

今度こそ彼は扉を閉めた。

後に残ったのはナイトキンの死体のみ。

 

通路にはグールの悲鳴と、ナイトキンの歓声が響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、ED-Eも無事だったので探索と殲滅に戻ろう。

何か有益な情報が無いかED-Eとミュータントの死体を漁っていると、先ほどED-Eを傷つけたミュータントがカギを持っていた。

きっと何かに使えるだろうから持っておこう。

 

また、彼はこいつらのリーダーだったらしく、何やら物騒な大剣を所持していた。

剣はガードレールなどのありあわせの素材で作ったらしく、もの凄い手作り感だった。

なお、私では扱えないくらいの大きさなので拾いはしない。

更にはステルスボーイも所持していたので、今後活用させてもらおう。

 

 

そろそろミュータント探しに戻ろう。

あの爆発と戦闘で寄ってこないという事は、このフロアにはもうミュータントはいないのだろう。

 

通路を進むと、管理人室のような場所に出た。

あのナイトキンのリーダーはここから出てきたようだ。

起動しっぱなしのターミナルに残っているログを見る限り、そうだと言える。

 

どうやら彼は重度の精神障害だったらしく、見えないお友達と頻繁に会話していたようだ。

ナイトキンには珍しいことじゃない。

ステルスボーイの常用が原因で、彼らには精神疾患がみられると聞いたことがある。

確かステルスボーイには脳に影響のある電磁波が出てるとかなんとか……科学は分からない。

 

 

部屋には何も無いようだったので次の探索。

隣りに扉が見えるからそこへ行こう。

 

 

「おっと、死体だわ」

 

 

扉の横にナイトキンの死体が。

しかも首から上が無い……大口径の銃で吹き飛ばされたのだろう。

 

死体の足は扉を向いている……という事は、扉の中から撃たれたのだろうか。

そうなると、撃った者はどこへ逃げて行った?やはりこの扉の奥だ。

 

 

「おっかないわね……」

 

 

仮に相手がグールの生き残りだとして、今私が入っていったらどうなるだろう。

私をナイトキンと勘違いして撃たれるに決まってる。

だが、もしかしたら生き残りを救出できる可能性もあるわけで……結局、入らずにはいられなかった。

 

ショットガンに余っていたスリングを取り付けて背中に背負い、拳銃を抜く。

仮に、生き残りのグールだとしたら連射の効かないショットガンよりも速射性と連射力に優れた拳銃の方が有利だ。

もちろん、戦った場合の話だが。

 

 

「ED-E、中の様子は分かる?」

 

 

「Beep……」

 

 

どうやら熱源探知がうまくいかないようだ。

無理もない、あんな物騒なもので殴られたのだ。

 

 

「分かったわ、後方の見張りをお願い。ちょっと部屋の様子を探るわ」

 

 

それだけ命令すると、扉の横に張り付き開閉レバーを引く。

マイペースな扉くんは、ゆっくりとした動作で開いていく。

 

開けきった後は、ゆっくりとカッティングパイの要領で、拳銃を構えつつ室内を覗いていく。

ゆっくり、小刻みに、注意深く、上下も確認する。

 

 

丁度、扉の中央に来た時だった。

二階部分を見ると、グールがこちらにライフルを向けていた。

 

 

「これでも食らえこのクソッタレッ!!!!!!」

 

 

「ッ!!!!!!」

 

 

すぐに横へ飛び退き、グールが放った銃弾を避ける。

私のすぐ真横を飛んで行った銃弾は、鉄製の床を抉るだけに留まった。

危ない、もう少しで胴体を撃たれていた。

 

起き上がるとすぐに壁に張り付いて聞き耳を立てる。

覗くのも危険な今、安易に頭を出すと確実に撃たれる。

 

 

「Beep!」

 

 

「大丈夫よ!」

 

 

心配したED-Eがこちらを見る。

それと同時に部屋から声が聞こえた。

 

 

「おい!あんたスムーズスキンか!?」

 

 

どうやらグールがこちらの正体に気が付いたようだ。

 

 

「ジェイソンの所の生き残りね!私は味方よ!」

 

 

そう言ってゆっくり、手をあげて扉から中へ入る。

すると、二階にいるグールの方も構えは解いていて安堵したように溜息をついた。

 

そして奥へと進もうとすると、

 

 

「待て!そこの階は罠だらけだ!こっちに来ない方が良い!」

 

 

そう言われ、すぐに立ち止まって辺りを見回す。

彼の言う通り、トラバサミが散乱している……加えて、よく見ればワイヤーが至る所に張り巡らされていて、地面には不自然に盛り上がった部分が結構見られる。

 

まるでウィンチェスターハウスね……あれはまた違うけど。

 

 

「あなたがこの罠を?」

 

 

「ああ、ミュータント共が押し寄せてくるかもしれないからな。事実、二、三人入って来て引っかかりやがった」

 

 

彼が指差した場所には、ナイトキンが三人、罠にかかって死んでいた。

トラバサミはもちろん、ワイヤー爆弾に引っかかって爆散しているものや、頭をショットガンのトラップで破壊されている者もいる。

 

かなりの腕前だ……独学でできるようなものではない。

もしかしたら戦前からの生き残りで、軍属だったのかもしれない。

 

 

「よく生き残ってたわね」

 

 

「排水管を伝う水を飲んだり、ラッドローチを食ったりしてたからな。トイレは部屋の隅で済ませた」

 

 

うわ……私には絶対無理だ。

水はともかく、あんなものを食べる度胸は無い。

 

 

「それよりも、あんたジェイソンから頼まれてここに来たってことでいいんだな?」

 

 

「えぇ、よくわかったわね」

 

 

「ジェイソンの事を知ってるようだったからな」

 

 

そう言うと彼は煙草を取り出し、火を付けて一服する。

自分以外のまともな人間に会えた事でよっぽど安心したんだろう。

 

 

「ミュータント共はどうした?」

 

 

「道中のは殺したわ。そろそろ降りて来たら?」

 

 

そう提案すると、彼は顔をしかめた。

なにやら言いたい事があるようだ。

 

 

「いや、そういうわけにもいかん。罠を解除するのにも時間がかかるしな……」

 

 

あぁ、確かに……これだけあると把握するだけで大変そうだ。

 

 

「それじゃあ、私は他のミュータントを殺しに行くわ。貴方も、ゆっくりでいいからジェイソンと合流してね」

 

 

「いや、俺はただの傭兵だ。ミュータントがいないってんならもう出てくさ……なぁ、あんた、ちょっと頼まれてくれないか?」

 

 

あら、また頼み事……できれば難しくないものがいいわ。

ここまで来たら引き受けてもいいけど。

 

 

「なにかしら?」

 

 

聞き返すと、彼は顔をしかめた。

何か決心が付かないような表情に見えるのは気のせいではないだろう。

 

 

「その……地下から逃げる時、女のグールとはぐれちまったんだ。笑顔が素敵な子でな。もしよかったら、その……探してくれないか?恐らくジェイソン達と合流する前に奴らに捕まったと思う」

 

 

あぁ、そういう……グールも恋をするのね。

ちょっと微笑ましくなったが、その女性の安否は分からない状況だ。

笑みをこぼすのは止そう。

 

だが、私には服装以外でグールを見分ける自信はない。

ジェイソンの信者はみんな同じ服装だ。

 

 

「女性の特徴とかはある?」

 

 

「あー、確か指輪をしてたな。ゴールドで出来た珍しいやつだから、見れば分かると思う」

 

 

金の指輪ね……確かにウェイストランドじゃ珍しいわね。

 

 

「分かったわ。見つけたら戻ってくるから、それまでに降りてきてね」

 

 

「あぁ、すまん。お礼はするよ」

 

 

それが聞けただけでも嬉しい。

タダ働きは民主主義に反する……反するわよね?

 

手を振って別れを済ませると、私はED-Eと合流する。

どんな結果であれ、目的を果たそう。

恋は実ってこそ美しい物だ。

 

 

 


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