Fallout 運び屋の少女   作:Ciels

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第四十一話 レプコン地下、見えざる者

 

 

 

 

 

 地下にやって来ると、空気が変わった。

勿論地下へとやって来たために温度が下がっただけという事もあるのだが、一番強く感じるのは死の臭いだった。

 

鼻に伝う腐ったような臭い。

鉄臭い、それでいて金属の錆とも似ていない不快な臭い。

ウェイストランドでは頻繁に嗅ぐことになる匂いだった。

 

ショットガンを構えつつ、ED-Eを私の後ろに下がらせながら進む。

辺りには、今時珍しい蝋燭や謎の偶像などが散乱している。

 

ジェイソン曰く、礼拝中にスーパーミュータントに襲われたらしい。

という事は、今現在、というよりも、ジェイソン達がここを利用していた時は礼拝堂か何かだったのだろう。

それにしても、陽が当たらない地下で礼拝というのは、いかにも邪教や密教のようで気味が悪い。

ここウェイストランドでは宗教なんてあってないような物だし、この施設にはよっぽどの物好き以外やって来ないのだから、もっと堂々とすればいいのだ。

 

 

「Beep……」

 

 

ふと、散乱したものを見て思案に深けていた私を気遣うようにED-Eが言った。

 

 

「どうしたの?」

 

 

少しばかり睨むように振り返ってしまうと、ED-Eのボディがびくっと驚く。

あぁ、やってしまった。

ついつい昔の事を思い出すと感情が尖ってしまう。彼にはなんの罪もないのに……

 

深呼吸して心を落ち着かせ、いつもの笑顔でED-Eのボディを撫でる。

 

 

「ごめんなさい、ちょっとピリピリしていたわね」

 

 

「Beep……」

 

 

過度なストレスはミスを招く。

ウェイストランドでのミスは死を意味することも少なくない。

自分自身をもっとコントロールしなければ……そう言う意味ではED-Eという存在は非常にありがたいものだった。

彼が私を気遣う時、大体何か不調に陥っている時なのだから。

 

 

気を取り直してショットガンを構える。

 

ジェイソンから譲り受けたこのショットガンは、レミントン社のM870というモデルだ。

レミントン社が開発したポンプアクション方式のショットガンで、非常に堅牢な造りで信頼性が高い。

戦前……と言っても私の世界ではあるが、軍隊から警察、更には狩猟用と、使用範囲は非常に幅広い。

米軍も、室内戦などで短銃身のM870を使用していた。

突入時の扉の破壊、それだけでなくとも近距離から放たれる散弾の威力は凄まじく、非常に高い攻撃力を有するのだ。

 

今回私が使用するのは狩猟用のモデルで、レシーバーやバレルはもちろん金属だが、フォアエンド、つまりシェルを送り込むために前後する部分とストックは木製だ。

フルサイズのショットガンであるため女性である私には大きくて少し扱い辛いが、そこは経験と技術でカバーすればいい。

 

装弾数は5発。もちろんショットガン特有のチューブ式マガジンなので、一発一発ローディングゲートという給弾口から入れる必要がある。

そのためリロードに時間がかかるのだが……個人的にリボルバーと比べれば楽だ。

 

チョーク(絞り)は見た所、インプ・モデというタイプで、散弾はもちろんスラッグ弾を使っても問題は無い。

 

チョークというのは簡単に言えば、銃口の絞りである。

絞られていれば絞れるほど散弾の散らばりが抑制されるし、逆に絞られていなければ拡散するように出来ている。

 

私が貰ったショットシェルはスラッグというタイプで、散弾ではなく一つの塊を撃ちだすタイプだ。

散らばらない代わりに大きな弾を撃ちだせるため極めて高い殺傷能力があるが、拡散しないという事はよく狙わないといけないという事でもある。

 

 

スーパーミュータントは皮膚がケブラー並みに分厚いため、散弾では効果的な損傷は与えられないだろうから、スラッグは非常に心強い。

 

 

と、少し進むと通路に来た。

クリアリングをしてゆっくりと進む。今の所、ED-Eのセンサーと私の耳や目は何も感知していない。

 

と、その時前方から物音がした。

物音……というよりは足音だ。ドシン、ドシン、と物々しい音が曲がり角から近づいてくる。

 

 

「ED-E、隠れて」

 

 

そう指示すると、急いでそばにあった部屋へと駆け込む。もちろん足音は発てないようにして、だ。

 

しばらく身を潜めていると、話し声も聞こえて来た。

 

 

「頭が痛い……最近マトモなもの食ってない……」

 

 

「お前いつも文句ばっかり、デービソンにチクるぞ!」

 

 

どうやら二人いたようだ。

足音が重なっていたため分からなかった。

 

 

「お前も文句言ってた!ステルスボーイがないって言ってた!ぶっ殺す!」

 

 

「お前をぶっ殺す!」

 

 

なんか喧嘩しだした。

声の主は口喧嘩だけではなく、どうやら拳も使いだしたようで、肉を殴る鈍い音が聞こえ始める。

スルーしてやりたいが、ジェイソンからの依頼はミュータントの殲滅。

ならばこの機を逃さない。

 

一度フォアエンドを半分引いてシェルがチャンバーに装填されている事を確かめる。

大丈夫、しっかり装填されている。

稀に装填する際にフォアエンドを引く力が足りなかったり、しっかりとシェルをチューブに装填していないと装填不良を起こすことがあるのだ。

 

 

一気に飛び出す。

ミュータントは割と本気で喧嘩していて、まるでボクシングの試合を見ているようだ。

いや、見た事はないのだが。

 

 

二人ともこちらに気が付いておらず、まだ殴り合っている。

彼らはやはりナイトキンのようだが、ステルスボーイは使用しておらずはっきりと姿が見えた。

 

手前のミュータントの頭を狙い一発。

トリガーを引くと大きな音を発てて銃身からスラッグ弾が飛び出す。

やはりショットガンというだけあって反動が大きい。銃になれている私でも肩が少し痛む。

 

 

「ぐぎぃ」

 

 

ヒットしたスラッグがミュータントの脳を飛び散らせ、次いで重くて大きな図体が倒れる。

 

 

「うおっ!?どうした!そんな殴ってないぞ!」

 

 

殴り合いに夢中になっていたせいで銃声に気が付いていないようだった。

チャンスなので一気に決める。

ガシャッとフォアエンドを引いて排莢、前へ戻して装填、狙ってトリガーを引く。

 

 

「なんだお前、あぎぃ!」

 

 

私に気が付いたナイトキンだったが、攻撃する間もなくスラッグ弾が彼の頭を砕いた。

二人目。

あと何人いるんだろうか。

 

 

装填を忘れずに行い、周囲をチェック。

今の所クリアのようだが、銃声を駆けつけてもうすぐ仲間がやって来るだろう。

 

 

「ED-E、C4と起爆装置を貸して」

 

 

後ろで唖然としているED-Eに命令すると、彼は収納スペースからC4とその起爆装置を取り出した。

今からやろうとしている事は簡単で、死体を餌に罠を仕掛けるのだ。

 

倒れている死体のそばにスイッチを入れたC4を置く。

次に起爆装置の電源を入れて爆薬と連動している事を確かめる。

しっかりとランプが付いているので問題無いようだ。

 

 

すぐに元来た道へと二人で引き返す。

奴らがそこへ来るのは同じタイミングだった。

 

 

「何があった!」

 

 

「敵だ!殺せ!食っちまえ!」

 

 

「グールはマズイから嫌いだ」

 

 

目標は恐らく3人。

姿を消しているが声と光のゆらめき具合から全員が死体に密集している……やるなら今だ。

 

覗くのをやめ、起爆装置を握る。

トリガーの安全装置を外し、三回続けざまに引いた。

 

 

すると、

 

 

「「「ぐぁあああああああああああ!!!!!!」」」

 

 

爆音とナイトキンの叫び声が響いてきた。

どうやらまともに爆発を食らったようで、それ以降声が聞こえない。

 

覗くと、ステルスが解除されたナイトキンのバラバラ死体が転がっている。

酷い光景だが、仕方あるまい。

 

安堵して起爆装置をED-Eの収納スペースに放る

 

 

「ふぅ……さ、行くわよED……」

 

 

「BEEEEEEE!!!!!!」

 

 

突然ED-Eが警告音を鳴らして私を横へ突き飛ばした。

刹那、見えざる攻撃がED-Eを襲う。

 

鉄がひしゃげた様な音と共に、ED-Eが地面に転がった。

 

 

「グワアアアアアアアアお前たち殺すッ!アントラーがそう言ってるッ!!!!!!」

 

 

ステルスボーイを解除したナイトキンが真横で叫んだ。

全然気が付かなかった。

 

仰向けになりながら、すぐにショットガンを狙わずに放つ。

近くにいた事から、スラッグ弾はナイトキンの胸にヒットした。

 

 

「あぁあああああ痛いぃいいいいい!!!!!!」

 

 

もがくナイトキンを殺すべく、フォアエンドを前後してトリガーを引く。

今度は頭を狙って、だ。

 

ゴシャ、と鈍い音がしてナイトキンは力尽きた。

後ろ向きに倒れるナイトキンをよそに、私は立ち上がってED-Eのもとへ駆ける。

 

 

「ED-Eッ!!!!!!」

 

 

転がるED-Eを抱きかかえると、弱々しく彼は鳴いて見せた。

 

 

「Beep……」

 

 

どうやら致命的なダメージには至っていなかったようで、すぐにフラフラと浮きはじめる。

Pip-boyで彼の損傷を確認するが、一部センサーに不具合が生じているようだが、自動修理機能でどうにかなるレベルだ。

 

今度こそ私は安堵してその場にへたり込んだ。

私のミスで彼が死なずに良かった。

 

 

「ごめんED-E……私のせいよ」

 

 

「Beep!」

 

 

当の本人は横にボディを振るわせて否定するような動作を見せる。

そんな彼を、私は撫でて感謝した。

 

 

「あなたのおかげで助かったわ。ありがとう」

 

 

微笑んでそう言うと、ED-Eはボディをこちらに預ける。

私の心が落ち着くまでの2分、ひたすらに彼のボディを撫で続ける。

 

 

……過去の事を思い出すと、本当に碌な事がないわ。

 

 


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