レプコンの実験エリア近くに来ると、検問所が見えた。
戦前はここで運ばれてくる車などをチェックしていたのだろうが、今では襲撃者に備えるための砦と化していた。
至る所に弾薬や土嚢が積まれており、何かの襲撃に備えていたのだろう。
その何かとは……
この場にあるのは死体が複数に私とED-Eだけ。
死体も普通の人間ではない。
まずはグール。
フェラル・グールが複数体、私が殺したものも含める。
問題なのは、通常のグールについてだ。
皆、共通のローブを着ているのだ。手にはレーザーピストル……戦闘慣れしているようには見えないが、ウェイストランドでこれだけの装備を共有できるということは、それなりに大きい勢力なのだろう。
グールはグールに対して攻撃しない。
手を出されない限りは、だが。
見た所、フェラルも通常のグールもお互いの攻撃で死んだようには見えない。
ならば一体誰が彼らを葬り去ったのか。
私以外の介入者はいったい誰か。
「……スーパーミュータント……」
目の前に横たわる大きな亡骸を見て呟く。
そう、正解はスーパーミュータントだった。
それも普通の、よく見られる緑の肌ではない。
青い肌に壊れたステルスボーイ……ナイトキンと呼ばれる亜種だ。
ステルスボーイとは、携行型の光学迷彩だ。
一時的に透明になって周囲の風景と同化する恐るべき兵器。
バッテリー消費が尋常じゃないというのがネックだが。
ナイトキンはただでさえ生命力と力が強いのに加え、ステルスボーイを使用して姿を消すのだ。
「ED-E、通常の生体センサーの他にサーマルセンサーとソナーも起動しなさい」
「Beep!」
ED-Eにそう命令する。
ステルスボーイが効果を及ぼすのは通常視覚効果のみだが、若干の対熱源放射があると聞いたことがある。
ならば、通常ED-Eがアクティベイトしているセンサーだけでは発見できないかもしれない。
ほんとについてない。
まさか、グールだけじゃなくスーパーミュータントとも戦う可能性が出てくるとは……
「帰ったら追加報酬請求ね……」
そうぼやくと、私はとうとうレプコン、実験エリアの正面玄関へとやって来た。
ちなみにフェラル・グールが複数いたが、すでに排除済みだ。
扉に張り付き、ゆっくりと開けるとしっかりクリアリングしていく。
ちなみに今は9㎜ピストルを手にしている。
そりゃそうだ、建物内ではハンティングライフル等の長物は取り回しがきかない。
ピストルのマズルにはしっかりとマズルが取り付けられている。
「……クリア、かしら」
玄関内は誰もいない。
だがどうやらこの建物内には何かがいるらしく、ED-EがPip-boy越しに通知してくれた。
ラッドローチだったら嫌だな……
『おい!そこのスムーズスキン!お前だ!』
不意に、真横から怒鳴るような声が聞こえた。
あまりにも突然だったので、拳銃を向けてしまう。
が、その先には誰もいない。
あるのはインターホンだけだ。
「……?」
戦前からあるインターホンが機能するのだろうか?
確かに音質もいいものではなかったが……
『おい!銃を向けるなスムーズスキン!』
やはり、インターホンだったようだ。
聞こえる声は人間で、中年男性の声。
「だぁれ?」
銃を下ろし、そう尋ねる。
『建物の東側にある大部屋へ行って金属の階段を登れ!』
「建物の東側にある大部屋に行って金属の階段を登れ!さん?」
『違うッ!名前なんてどうでもいい!いいからそこへ向かえ!』
もちろん私なりのギャグだ。
だが、こんな無礼な人にまともな会話はしたくない。
「なんであなたの言う事を聞かなくちゃいけないの?」
ここはもはや敵地だ。
敵地にいる人間に碌なのはいない。
『好きにしろ。だがお前に対しても悪い話じゃないはずだ』
そう言うと、ブツッと音が途切れた。
どうやらインターホンの電源が切れてしまったようだ。
何なんだろう一体……
「Beep……」
同情する様にED-Eが鳴く。
そんなED-Eを撫でると、私は考える。
とりあえず、このグール大量発生の手がかりは今の所、インターホンの主だけだ。
なら、向かってみてもいい。
仮に攻撃されるようなら、返り討ちにしてやればいい。
そう楽観的に構えながら、私は建物の東側へ向かう事にした。