第三十七話 レプコン-実験エリア、グール
機嫌が治ったED-Eを連れ、私はノバック西にある道を歩いている。
ノバックからレプコンの実験エリアへは比較的近く、徒歩で1時間も行けば難なく辿り着くだろう。
ちなみにマニー・バルガスから借りたハンティングライフルだが、弾薬をお土産屋さんで20発ほど購入し、近くにいたモールラットで5発試し撃ちして調整を済ませた。
可愛いモールラットを殺してしまった事には心が痛むが致し方ない。
動いている的を撃った方が色々とタメになるのだ。
さて、今はノバックから3キロ地点の道路上。
ED-Eが400m先で何かを感知したため私達は急いで岩陰に隠れ、双眼鏡で様子を探った。
実験エリア直前までの道は道路が直線の為、岩陰や廃車以外は障害物が少なく、数キロ先のノバックまで見渡せる。
仮に相手がスコープの類の物を持っていたら、確実に見つかるため油断が出来ないのだ。
「ED-E、上には上がらなくていいわ。あと変な音楽も鳴らさなくていいわよ」
「Beep」
ED-Eに命令すると、彼は下部に伸びたアンテナを地面に突き刺して体を固定する。
どうやらこうした方が、浮いているよりも偵察の精度が高くなるそうだ。
ちなみに変な音楽というのは、野生動物や敵対する人間を感知した際に鳴らすもので、警告音のつもりなのだろうがやたらと大きい音で演奏するため禁止にした。
割としょんぼりしていたが、それでバレたら元も子もない。
しばらく前方を双眼鏡で見ていると、何かがもぞっと動いた。
グールだ。それも、フェラル・グールで、群れている。
「Beep、Beep」
更にED-Eが何かを感知したようで、Pip-boyに情報を送ってくる。
それを見ると、あまりよろしくない事が判明した。
奴らの群れの中に光りし者がいるのだ。
光りし者というのは、グールの一種の進化形態である。
放射能汚染が進み続けたグールのなれの果てとも形容できるそいつは、一見すると緑に光り輝いているのだ。
恐ろしいのはその性質。
グールは放射能を摂取すると細胞を回復する性質があるのだが、光りし者はそれに加え、放射能を周囲に放出するという恐ろしい性質も持っている。
その濃度は桁違いで、下手をすれば死に至ったり、何らかの後遺症をもたらすこともあり得る。
「こいつの出番ね」
そこで、私は狙撃することにした。
要は近づかれなければいい。
彼らの知覚能力はかなり高いが、さすがに400メートルもの距離を一瞬で詰めるような事はしてこない。
私は背負ったハンティングライフルを手前に手繰り寄せ、ボルトを後退させると、ライフル下部のインサートにマガジンを差し込む。
「ED-E、バーミンターを。それと万が一の時に備えて待機して」
命令を出しつつもボルトを前進させて弾薬を薬室へ送り込む。
ED-EはいつものようにBeep音を発すると、預けていたバーミンターライフルを召喚し、私の真横に置いた。
さて、久しぶりの長距離狙撃だ。
バーミンターを左手に、ハンティングを右手に持つと、隣りの低い岩へと登る。
平らな頂上で私はうつぶせに寝そべると、傍らにバーミンターを置いてハンティングライフルを構えた。
「ED-E、一番手前のグールの正確な距離は?」
「Beep」
レーザーで距離を測ったED-EがPip-boyに情報を送る。
距離、423メートル。
お利口なED-Eはその他に風速も情報として送る。
えぇと、六時方向からの風、速度は9mph……ってことは4 m/sだったかしら。
ほんとマイルって使い辛いわ……
あー、っと、弾が168グレインで……距離がヤードにすると大体460くらい。
ふむ、風はほとんど考慮しなくていいわね。
落ちる距離は約1.2メートル……ぐらい。数学嫌い。
だが、まぁここまで割り出せば意外と当たるものだ。
ヘッドショットしなくとも、胸にあてる事は可能なはずだ。
「ふー、っ……ふー……」
静かに息を吸って、そしてゆっくり吐いていく。心拍数を抑えるためだ。
スコープ越しに映る光りし者はそんな私なんてお構いなしにボケっと佇んでいる。
エレベーションノブを調整する。
下方向へ9.8MOA動かす……これでど真ん中にグールを捉えれば当たる……はず。
そろそろ撃ち時だ。
安全装置を外してトリガーに指をかける。
そして、息を止めた。
「…………」
何も言わない。
ただ風と、銃と一体になるのみ。
指にゆっくりと力をかけていく。
第一関節の中腹に引き金がくい込んでいく。
軽いトリガープルだ。
あのマニー・バルガスは計算高いが、狙撃に関しては相当な腕なのだろう。
この銃を撃つ前からでもわかる。
このライフルは、彼の分身だ。
バァンッ!!!!!!
.308口径特有の強烈な反動が肩に伝わる。
同時に、スコープに映っていた光りし者の頭が消し飛ぶ。
ヘッドショット。
ピンポイントで仕留めることが出来た。
ボルトを引く。
薬莢が排出するのを見届ける間もなく、ボルトを前進させて装填。
急いでいるのには理由がある。
単純に、グールの連中が攻撃されたことに気が付いたのだ。
スコープ越しに奴らが怒り狂ったように叫んでいる。
刹那、発砲音がした方向へ走り始めた。つまり、こちらへ、ということだ。
トリガーを引く。
幸い、奴らは一直線にこちらへ向かってきているので偏差射撃の必要性が薄い。
だから先頭を走っていたグールの頭を撃ちぬくことが出来た。
だが、これ以上は上手くいかないだろう。
なぜなら、スコープを423メートルに調整しているため、近づかれると修正しなければいけないからだ。
エレベーションノブを動かして調整する時間などはもうないため、経験と勘で狙う。
もちろんスコープを使うが、もはや左右しか狙いは合っていないので、上下の差は自分で調整する。
三発目、胸に直撃。
グールは倒れたが、もがいていて即死はさせられなかった。
残りのグールは4体。距離は300メートル。予想以上に早い。
「ED-E, get ready for action.(準備しなさい)」
そう命令すると、私は寝そべった状態から身を起こし、片膝をつく。
いわゆるニーリングポジションだ。
安定性は匍匐より欠けるが、こっちの方が何かと動きやすい。
四発目、まさかの外れ。
でも焦らず再装填、発射。
五発目はなんとヘッドショット。
「時間がないわね……」
ハンティングライフルの装弾数は5発であるため、本来ならリロードを挟む。
だがそんな時間は無い。
ハンティングライフルをすぐさま背負うと、バーミンターライフルを拾い上げ、装填して狙う。
距離、200メートル。
5.56㎜で狙うにはいい距離だ。
ハンティングライフルよりも少し重めのトリガーを引くと、高初速の弾丸がグールの胸に当たった……が、効果が薄く走ることをやめない。
また装填し、同じターゲットに発射。
今度も胸に当たったが、致命的なダメージを負ったのか倒れた。
「ED-E, go.(行きなさいED-E)」
「Beeeeeeeep!!!!!!」
命令と同時にED-Eが突撃する。
同時にまた再装填して射撃、先頭のグールの足を撃ちぬく。
そこへすかさずED-Eが電気光線銃を発射してグールを灰に変えてしまった。
最後の一人はED-Eの体当たりと電気光線銃のコンボで絶命させる。
あの子、ほんとにアグレッシブだわ。