Fallout 運び屋の少女   作:Ciels

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ちょっとサボりました


第三十六話 ノバック、スナイパー

 

 

 

 

 名物である巨大ダイナソーの中はお土産屋となっている。

そこで私は黒人の店主と会話し、商品の取引をした。

 

いらない物を売り、キャラバンとの取引だけでは補いきれない買い物もしておいた。

ちなみに名物である恐竜のミニチュアを買ったらやたらと店主は喜んでいたが、なんでだろうか。

あんな可愛い物を買わない人はいないだろうに……

 

ちなみに、買ったものは弾薬と、拳銃用のサプレッサー。

弾薬はともかく、サプレッサーは本来必要ないが、このところやたら厄介ごとに巻き込まれているので買っておいて損は無いだろう。

 

 

さて、情報も手に入れた。

どうやらこのノバックには二人の用心棒スナイパーがいるらしい。

 

彼らは24時間交代で、この恐竜の口の部分から東を監視しているらしい。

特に最近はリージョンやギャング団の動きも活発なので仕事も多いのだとか。

 

でも待って欲しい、ノバックから普段リージョンが活動している地点まで1キロ近くはある。

その1キロ先の地点だって、たまに斥候が偵察しに来る程度だと聞いた。

そんな距離の、しかも隠れた人間を撃ち殺せるなんてよっぽど腕がいいのだろう。

 

 

そして今、私はそのスナイパーがいるであろう恐竜の口へ通じる扉の前にいる。

いきなり扉を開けて撃たれるのは嫌だから、ちゃんと二回ノックする。

 

 

「どうぞ」

 

 

扉の奥から許可する声が聞こえたので、私はそっと扉を開けた。

すると30代くらいだろうか、赤いベレー帽を被った男性がこっちを見て驚いていた。

手にはセミオートのスナイパーライフル、ドラグノフを持っており、傍らには簡易的な椅子と双眼鏡が。

恐らく、普段はそこに座って周辺を監視しているんだろう。

 

 

私はいつもの笑顔でお辞儀をする。

 

 

「こんにちは。私、モハビ・エクスプレスの者ですわ」

 

 

職業を明かした瞬間、男の表情が一瞬凍り付いた。

だがすぐににこやかな顔になると、挨拶をし返す。

 

 

「おお、そうかい。俺はマニー、マニー・バルガスだ。だが、一体どうしてここに?モハビ・エクスプレスに依頼なんてしてないが」

 

 

やはり少し警戒している。

なら早めに本題を切り出すべきだろう、でなければこのまま逃げられる。

 

私は見えない程度に深呼吸し、顔からいつもの営業スマイルを消す。

いや、スマイルであることには変わりないが、種類が違った。

 

相手を威圧する笑顔。

 

何を考えているか分からない笑顔、というものがある。

いわゆるポーカーフェイスの一種だろう。

 

その笑顔を作り、言った。

 

 

「《Speech/70》チェックのスーツの男を探しているんですの。知ってますよね?」

 

 

「《成功》あぁ、知ってる。俺が奴らを帰り路へ案内したからな」

 

 

意外だった。

まさか自分から関係をばらしていくとは。

彼は多少の話術を会得しているらしい。伊達にスナイパーなんてやっていないようだ。

そうなると、少しばかり厄介なことになる。

 

そう、と私は頷き、相手の出方を見る。

知っている=素直に話すとは考えられない。

 

 

「ま、嬢ちゃんがなにを考えているのかは何となくわかる。あんた、堅気の人間じゃなさそうだしな」

 

 

そう言うと彼は椅子へ深々と腰を降ろす。

さぁ、厄介な事になったぞ。

 

 

「教えてもいいが、条件がある」

 

 

「はぁ……」

 

 

思わずため息が出てしまった。

やはりこうなったか……最近は特についてないな。

 

しかし条件とはなんだろう。

キャップくらいなら何とかなるが、さすがに身体を求められたりしたら……この場で殺すことにもなり得る。

 

 

「そう身構えるな。ちょっとした調査を依頼したいだけだよ」

 

 

「調査?」

 

 

私が尋ねると、マニーは頷いた。

 

 

「ここから西へ少し行ったところに、レプコンの工場がある」

 

 

私はPip-boyのGPSでその位置を確認する。

確かに、ある。

レプコンという戦前の会社の実験エリアのようだ。

 

 

「最近その辺りでグールを見たって言う住人が増えてな、俺らにクレームが来ちまったんだ……そっちは管轄じゃねえのによ」

 

 

もう話が読めてきた。

私は黙って彼の説明を聞く。

 

 

「依頼したいのは、そいつらの排除だ。あるいは……出来るなら平和的解決でもいい」

 

 

グール。

それは放射能によって変異してしまった人間の事である。

皮膚はただれ、声はしゃがれ、臭いはきつい。はっきり言ってホラー映画に出てくるゾンビのような見た目をしている。

それだけ聞けば嫌悪感しか抱かないが、精神や知能は人間と同じであるため、いいグールもいれば悪いグールもいる。

事実、私にはグールの知り合いもいる。

 

彼らは非常に長寿で、中には戦前から生きている者も存在するくらいだ。

 

 

だが、私にはある疑問が浮かんだ。

 

 

「それは……普通のグールなの?」

 

 

普通、と言ったのには理由がある。

グールには大まかに二種類存在するからだ。

 

まずは、見た目だけが醜く、それ以外は人間と何ら変わりのないグール。

 

そしてもう一つは、放射能汚染や痴呆などが進み、狂暴化したフェラル・グールと呼ばれる者達。

フェラル・グールにはもはや理性や感情などは存在せず、自らの食欲を満たすために人間や動物を襲う、ゾンビと化している。ちなみに、同族であるからか、理性のあるグールは襲わないようだ。

 

 

「あー、それなんだが、両方確認されているらしい。まず、フェラル共がうろつくようになる前に、同じ格好をした普通のグール共が工場へ行くのを見たってやつらがいる」

 

 

「つまり、彼らがフェラル化したと?」

 

 

その仮説にマニーは首を横に振った。

 

 

「いや、普通のグール達の数は多くは無かったらしい。せいぜい十数人かそこらだと……だが、フェラルの数がスコープで見る限りじゃあその倍は居たな」

 

 

「なんであなたが片づけないの?管轄外とは言え、この町の治安維持は貴方の仕事でしょう?」

 

 

「それはそうだが、ネルソンが墜ちたせいですぐ東にリージョンのクソ共が侵攻してきてる。ここの見張りをサボるわけにはいかないんだ」

 

 

なるほど、と私は納得する。

それにしても、内容と報酬が釣り合わなすぎる。

そこで私は、彼からの依頼を受けると同時に交渉に出る。

 

 

「分かったわ、その依頼、受けましょう。ただ、条件があるわ」

 

 

「条件?おいおい、そっちから頼んできたことだろ」

 

 

「《Barter/75》グール相手に女の子一人でどうにかさせようとしてるのよ?情報だけじゃ足りないわ」

 

 

うぐ、っとマニーの表情が歪む。

ちょっとだけ残る良心に私の訴えが通じたようだ。

そして仕方なく、と言った顔で、

 

 

「《成功》分かった、ここのトップに部屋を安く借りられないか掛け合ってみるよ。それでいいだろ?」

 

 

よし。

だがもっと行ける。

こうなったら絞れるだけ絞ってやるぞ。

 

 

「《Barter/75+Speech/70+Terrifying Presence》は?それだけ?舐めてるのかしら。宿なんてここから出れば必要なくなるし、公平とは言えないわね。わかるかしら?わかるわよね。運び屋を舐めないでほしいわね。ぶっ殺すわよ」

 

 

「《成功》あーもうッ!分かったよ!そう怒るなよ!ならこれ持ってけ!ほら!」

 

 

やけになったように彼は言うと、まとめられた荷物の中からハンティングライフルを取り出した。

どうやら、メインのスナイパーライフルが使えなくなった時のために所有していたらしい。

 

彼は無言でそれを突きだしたので、笑顔で受け取る。

 

 

「どうも。弾薬はこちらで調達しますわ。では」

 

 

当たり前だ、と怒鳴るマニーを背に、私は恐竜の口を後にした。

まぁいい、さっさと終わらせてしまおう。

 

 

 


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