Fallout 運び屋の少女   作:Ciels

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ようやくノバックへ来ました。


第三十五話 ノバック、恐竜

 

 

 ヘイズ少尉……じゃなかった、中尉と別れ、北へ歩く事数分。

よく目立つ大きな恐竜の建物と、NO VACと書かれた電光掲示板が見えてきた。

あれが目的地であるノバックという町だ。

 

あそこは小さいながら農業と畜産、キャラバン達への宿を提供するホテル業を生業としており、二プトンからベガス地区へ目指す者なら一度は立ち寄ることになるだろう。

私はベガスというよりも、そこにかかわり合いのある人物に用があるのだが。

 

 

近くまで来ると、飼われているバラモンが数匹と、それを世話している老夫婦が見えた。

彼らのそばには死体と化しているバラモンもあり、モハビでの生活がいかに厳しいのかを物語っている。

 

まずは滞在してるキャラバンや医師と物資の取引をする。

こまめに取引と噂話をしておくのは重要だ。

と言っても、噂と言えば取るに足らないものばかりだ。

 

 

さて、それでは情報収集といこう。

チェックのスーツの男が生きていれば、ここへ来ているのは間違いないのだから。

 

キャラバンたちは男についてなにも知らないようだったのであてにはならなかった。

医師は取引だけにしか応じず、無駄な会話に時間を取られたくなかったようなので、早々に退散したのだ。

 

となれば、やはり住民に聞くのが早い。

 

 

まずは……あそこでホテルの窓を覗いている老人から。

怪しいが、ああいう人に限って色々知っていたりするものだ。

 

ED-Eにその場で待機させ、わざと足音を発たせて老人に近づく。

こっそり後ろから忍び寄ったら、場合によっては会話どころではない。

 

 

「あの、少しよろしいでしょうか」

 

 

話しかけると、老人は少し興奮したような目つきでこちらを振り返った。

もしかしたらこの人、相当ヤバい人かもしれない。

 

 

「誰の差し金だ?俺は何も喋らんぞ!前にも俺に吐かせようとしてきたヤツがいたが、俺は吐かなかった!今もだ!」

 

 

ヤバい。

私は内心ドン引きしつつも、愛想笑いだけは絶やさない。

 

 

「ええと、モハビ・エクスプレスの者です」

 

 

「あぁ、あの青い箱で情報統制しようとしてるんだろう!俺にはわかる、あれはエシュロンだ!会話を盗み聞きしてるんだ!」

 

 

頭が痛くなってきた。

ていうか、エシュロンとはなんだろうか。

そもそも青い箱とはエクスプレスボックスの事を言っているのだろうか……

どうやって郵便ボックスで会話を傍受しろと。

こういう人は私の話術でどうにかなるものでもない。ドッグ・ミッチェルの担当だ。

 

 

「チェックのスーツの男を見ませんでしたか?」

 

 

もういきなり本題へ。

すると老人はあぁ、と何か知っているそぶりを見せた。

 

 

「見たし、話したよ。思うにあのチェックのスーツは迷彩で、白黒チェックの柄が見えない生命体から身を隠そうとしているんだ。だが、頭をチェック柄にするのを忘れているぞ、それじゃ奴らは騙されないと言ったら真剣になって聞いてたぞ。一見デジタル迷彩みたいだが、赤外線対策も忘れるなと……」

 

 

「あ!あの、ありがとうございます。失礼します」

 

 

「奴は夜になるとダイナソーの傍で口髭のスナイパーと話してた、奴は前から……」

 

 

話しを切り上げ、ED-Eと合流する。

勘弁してほしい、一体何がどうなってああなってしまったのか。

はぁ、とため息を吐き捨てるとED-Eが同情するように鳴いた。

彼も聞いていたのだろう。

 

だが収穫はあった。

どうやら、口髭のスナイパーと夜に話していたらしい。

これで良しとしよう、もうあの老人の事は考えたくない。

 

 

次にやって来たのはディノバイト・ギフトショップ。

この町の名物である恐竜型の建物で、中でお土産屋さんをしているとのこと。

このご時世にお土産なんて珍しい。

ちなみに老人が言っていたダイナソーというのもこの建物だ。

 

しかし店へ入る前に、懐かしい顔をホテルのフェンスで見かけた。

正確にはボディ、だが。

 

 

「ヴィクター、久しぶりね」

 

 

懐かしのボディとは、あの喋るカウボーイロボット、ヴィクターだった。

彼がこちらを向くと、画面に映ったカウボーイのイラストが不敵に笑った。

 

 

「いよう!グッドスプリングス以来の友よ!久しぶりだな!頭の傷はもう大丈夫か?」

 

 

マニピュレータを動かして手を振る動作をするヴィクター。

 

 

「ええ、貴方とドッグ・ミッチェルのおかげで何ともないわ。どうしてここに?グッドスプリングスにいたんじゃなかったの?」

 

 

そう言うと、ヴィクターのカウボーイイラストが疑問をもったような顔に切り替わる。

 

 

「それが俺にも分からない。どういうわけか、ニューベガスに行こうと思ってな……後は着いてから考えようってこった」

 

 

何かがおかしい、そう思った。

グッドスプリングスといい、ノバックといい、少し偶然が過ぎる。

もしやつけられているのでは、と考えたが、無駄だと感じた。

だって、見た事もないロボットを操れるような組織が相手なのだ。

一介の運び屋風情が手を出していいことではない。

 

つまり、私が言いたいのはヴィクターがプラチナチップの配達の依頼者か、或は関係者であるということだ。

 

 

 

「ノバックはどう?良い町かしら?」

 

 

話しを変える。

 

 

「グッドスプリングスには及ばないが、良い町だと思うぜ。だがここだけの話……この町に入ってから、身体が“痒く”なったんだ。気を付けな」

 

 

何かよからぬものでも見たのだろうか。

いつになく声色が真剣だ。

 

しかし、そのあとはいつも通りのヴィクターに戻った。

 

では、一番聞きたい事を聞こうじゃないか。

それはプラチナチップの件だ。

 

 

「《Speech/70》ねぇ、最後に聞きたいんだけど……プラチナチップの配達を依頼したのはあなたよね?」

 

 

そっと呟くように、でもはっきりと聞こえるように言った。

するとヴィクターのイラストが困ったように笑った。

 

 

「《成功》それなんだが……たぶん、そうだと思う。何分覚えてないんだ。ただ、あのチップとお前さんのことが頭から離れないってのは、そういうことだろうよ。今回の事にしたって偶然が過ぎる。きっと、何か気が付かないうちにどこかから指令を受けてるんだろう」

 

 

やっぱり。

でも、覚えていないというのは信憑性に欠ける。

というより、ロボットが覚えていないなんて事があるのだろうか。

 

 

「そう。ありがとう、ヴィクター」

 

 

礼はしっかりする。

彼はもうここを旅立つと言うと、一輪を器用に動かして去っていく。

また会う気もするが、何も言わずにまたね、とだけ言って別れを済ませた。

 

 

「さ、行きましょうED-E」

 

 

「……Beep」

 

 

ちょっとだけED-Eの声色が優れない。

どうかしたのか。

 

 

「ED-E?」

 

 

俯くボディを覗き込むと、ED-Eはそっぽ向くように顔をそらした。

もしかして、私が同じロボットと親しく話していた事に嫉妬しているのだろうか。

だとしたら、なんて可愛げのあるロボットだろう。

 

 

「……うふふ、嫉妬しちゃって可愛い」

 

 

そう言って思わずED-Eの丸いボディを抱き込む。

するとED-Eはビックリしたのと照れているのが混ざったのか、ぶるぶると振動し始めた。

 

 

「ひゃ、そんなに照れないでよ!」

 

 

くすぐったい気持ちを抑え、ED-Eをより一層強く抱きしめるとED-Eの震えは収まった。

代わりに、今度はボディの表面温度が熱くなる。

 

 

「Beep!Beep!」

 

 

思春期の男の子のように私から離れると、しばらくED-Eはその場でうずくまる。

しょうがない、今は放っておいてあげよう。

私はにっこりと彼へ笑みを向けると、ディノバイトへと足を運んだ。

 

 

 

 

 

「……Beep」

 

 

少女が恐竜の建物へ姿を消した後、ED-Eは一人、路上で彼女を待っていた。

 

その間、先ほど喋るロボットと親しげに話していた少女の事を思い出す。

確かに、彼はその光景に嫉妬していた。

自分がパートナーロボットであるはずなのに、なぜ彼女は他のロボットと親しくしているのだ、と。

 

それは彼の精神的幼さから来る一種の人間らしい感情である。

同時に、理性はその嫉妬という感情を否定していた。

なぜそんな事に焼き餅を焼かねばならないのだ、彼女は人間で、自分はただのロボットであるのに、と。

 

 

でも、ED-Eは彼女の事が気になって仕方なかった。

まだ出逢って数日なのにも関わらず、彼女に惹かれている自分がいる。

 

それはいつも自分に向けてくれる、ペットに対するような愛情からかもかもしれない。

はたまた二プトンやウルフホーンでのような、時折見える弱さからかもしれない。

 

 

「Beep……」

 

 

そこまで考えて、ED-Eは無性に恥ずかしくなった。

そしてよく思春期の少年が、得体の知れない感情を持て余すように、真っ赤になる。

 

 

だが、彼は一番大切な事に気が付いていない。

あのロボットと少女を見て、一番抱いていた感情を。

 

 

それを知るのは、もっと後の事である。

 

 

 




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