Fallout 運び屋の少女   作:Ciels

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第三十四話 ノバックへ、ヘイズ分隊

 

 

 

 

 

 「助かった、感謝するぞ運び屋」

 

 

リージョンを追っ払った後、こちらに手を降っていた懐かしい顔の兵士たちに合流する。

懐かしいと言っても、会って別れたのはつい最近の事であり、一週間も経っていない。

 

数メートルある崖を降りると、一度周囲を確認してライフルのチャンバーに入っている弾薬を抜いた。

速射性に優れたショットガンを使わなかったのは、単純にスラグ弾の精度がそこまで高くないのと、銃本体の精度もあてにならないからだ。

 

 

「ちょっとぶりですね、少尉」

 

 

軽く手を振り、笑顔を見せる。

彼と、彼の率いる部下はあの時から変わっていない。

 

 

「今は中尉だ。君のおかげだな」

 

 

そう言って自らの襟元の階級章を指差す。確かに前に会った時とバッジが違う。

なら昇進祝いでもしてやろうか。

 

私は隣にたたずむED-Eの四次元スペースからレバーアクション・ショットガンを取り出す。

 

 

「ならお祝いしないと。これを」

 

 

そう言ってショットガンを渡す。

中尉は受け取ると、コッキングレバーを引いてチャンバーを確認した。

 

 

「お前、これ処分するか迷ってただろ」

 

 

ギクっと図星であったことを表情に出してしまうが、中尉は仕方なく笑ってありがとう、と言って見せた。

意外と彼は心がイケメンである。

惚れはしないが……こんな時代には勿体ないだろう。

 

さて、話を変えよう。

一つ気になることがあるのだ。

 

 

「中尉達はなぜここに?プリムにいたんじゃ……」

 

 

そう聞くと、中尉達は表情を硬くしてお互いの顔を見合わせる。

なにかまずい事を聞いてしまったか。

だが、左遷されたと言っていたはずの中尉がなぜ昇進できたのか、その答えにも繋がっているのかもしれない。

 

 

「キャンプ・フォーロン・ホープに配属されることになったんだ」

 

 

一瞬、背筋が凍った。別に私が何かに怯えたわけじゃない。

彼らの運命に、少し同情してしまったのだ。

 

キャンプ・フォーロン・ホープ。

モハビで、今最も過酷な戦場の一つが、そこである。

 

ネルソン、という町がある。

元は寂れた集落であったそこは、リージョンの略奪部隊に占領され、モハビとNCRを悩ませる種になっている。

 

その敵地のすぐ隣に作られたのがキャンプ・フォーロン・ホープ。

加えてネルソン自体がモハビ・ウェイストランドの西部方面の町や拠点に比較的近く、頻繁に小競り合いが起きているため、殉職率が以上に高い。

 

加えて、周囲に野生動物やリージョンの偵察部隊が展開しているため、補給もままならない。

辿り着けるかさえも怪しいものだ。

 

 

そこへ、かつて一緒に戦った人たちが送られていく。

 

 

 

昔を思い出してしまった。

一緒に学び、同じものを食べ、皆が等しい星空を見上げながら寝る。

そんな彼らが戦地へ送られていく。

 

そして、帰ってこない。

広大な砂漠の砂や山々に埋もれ、痕跡すらも見つからない。

 

もし死体や遺品が見つかれば運がいい方だ。

 

 

爆撃や砲撃を受けて死体はおろか欠片も残らない。

そういう世界。

 

 

 

「……あぁ……そうなの」

 

 

 

何も言えなかった。

昔なら何か言えただろうか。

労いの言葉の一つでも、言えたのかもしれない。

 

 

「別に死ぬわけじゃないさ。自費でグレネードライフルまで買っちまったしな」

 

 

そう言って少尉は背負っていたグレネードライフルを見せる。

 

 

「折角昇進して給料も上がったしな……運び屋は、ノバックに?」

 

 

私が頷くと、そうか、と一言。

 

 

「それじゃ、また会おう。それまで元気でな」

 

 

無理矢理、少尉は別れを切り出す。

私も手を振り、そんな彼らの背中を見送る。

 

何か言わなくちゃ、そう思って必死に考えるが、いい言葉が浮かばない。

 

 

 

「あの、みんな!」

 

 

声をかけると、四人は振り向く。

 

そんな彼らへ送る言葉は、

 

 

「武運長久を、お祈りします」

 

 

「……ああ、ありがとう」

 

 

それだけ交わすと、少尉たちはモハビの砂漠へと消えていく。

それまで、私はED-Eとその姿を眺めていた。

 

 


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