「助かった、感謝するぞ運び屋」
リージョンを追っ払った後、こちらに手を降っていた懐かしい顔の兵士たちに合流する。
懐かしいと言っても、会って別れたのはつい最近の事であり、一週間も経っていない。
数メートルある崖を降りると、一度周囲を確認してライフルのチャンバーに入っている弾薬を抜いた。
速射性に優れたショットガンを使わなかったのは、単純にスラグ弾の精度がそこまで高くないのと、銃本体の精度もあてにならないからだ。
「ちょっとぶりですね、少尉」
軽く手を振り、笑顔を見せる。
彼と、彼の率いる部下はあの時から変わっていない。
「今は中尉だ。君のおかげだな」
そう言って自らの襟元の階級章を指差す。確かに前に会った時とバッジが違う。
なら昇進祝いでもしてやろうか。
私は隣にたたずむED-Eの四次元スペースからレバーアクション・ショットガンを取り出す。
「ならお祝いしないと。これを」
そう言ってショットガンを渡す。
中尉は受け取ると、コッキングレバーを引いてチャンバーを確認した。
「お前、これ処分するか迷ってただろ」
ギクっと図星であったことを表情に出してしまうが、中尉は仕方なく笑ってありがとう、と言って見せた。
意外と彼は心がイケメンである。
惚れはしないが……こんな時代には勿体ないだろう。
さて、話を変えよう。
一つ気になることがあるのだ。
「中尉達はなぜここに?プリムにいたんじゃ……」
そう聞くと、中尉達は表情を硬くしてお互いの顔を見合わせる。
なにかまずい事を聞いてしまったか。
だが、左遷されたと言っていたはずの中尉がなぜ昇進できたのか、その答えにも繋がっているのかもしれない。
「キャンプ・フォーロン・ホープに配属されることになったんだ」
一瞬、背筋が凍った。別に私が何かに怯えたわけじゃない。
彼らの運命に、少し同情してしまったのだ。
キャンプ・フォーロン・ホープ。
モハビで、今最も過酷な戦場の一つが、そこである。
ネルソン、という町がある。
元は寂れた集落であったそこは、リージョンの略奪部隊に占領され、モハビとNCRを悩ませる種になっている。
その敵地のすぐ隣に作られたのがキャンプ・フォーロン・ホープ。
加えてネルソン自体がモハビ・ウェイストランドの西部方面の町や拠点に比較的近く、頻繁に小競り合いが起きているため、殉職率が以上に高い。
加えて、周囲に野生動物やリージョンの偵察部隊が展開しているため、補給もままならない。
辿り着けるかさえも怪しいものだ。
そこへ、かつて一緒に戦った人たちが送られていく。
昔を思い出してしまった。
一緒に学び、同じものを食べ、皆が等しい星空を見上げながら寝る。
そんな彼らが戦地へ送られていく。
そして、帰ってこない。
広大な砂漠の砂や山々に埋もれ、痕跡すらも見つからない。
もし死体や遺品が見つかれば運がいい方だ。
爆撃や砲撃を受けて死体はおろか欠片も残らない。
そういう世界。
「……あぁ……そうなの」
何も言えなかった。
昔なら何か言えただろうか。
労いの言葉の一つでも、言えたのかもしれない。
「別に死ぬわけじゃないさ。自費でグレネードライフルまで買っちまったしな」
そう言って少尉は背負っていたグレネードライフルを見せる。
「折角昇進して給料も上がったしな……運び屋は、ノバックに?」
私が頷くと、そうか、と一言。
「それじゃ、また会おう。それまで元気でな」
無理矢理、少尉は別れを切り出す。
私も手を振り、そんな彼らの背中を見送る。
何か言わなくちゃ、そう思って必死に考えるが、いい言葉が浮かばない。
「あの、みんな!」
声をかけると、四人は振り向く。
そんな彼らへ送る言葉は、
「武運長久を、お祈りします」
「……ああ、ありがとう」
それだけ交わすと、少尉たちはモハビの砂漠へと消えていく。
それまで、私はED-Eとその姿を眺めていた。