Fallout 運び屋の少女   作:Ciels

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第三十三話 ノバックへ、NCRとリージョン

 

 

 

 早朝、ウルフホーン農場から北へ歩いていく。

目的地はやはりノバックで、この調子なら昼か夕方にはたどり着けるはずだ。

 

ウルフホーンから南は人が住んでいる地区がほとんどなく、野生動物やグールの生息地になっていると事前に前哨基地で情報を得ている。

一刻も早くスーツの男に辿り着きたいし、寄り道してもいいことは無いだろう。

聞いたところによると、ノバックの途中への道にはNCRのレンジャーステーション(NCRレンジャーの駐在所)があるようで、大きな障害はないとは思いたい……

 

が、何やら付近でデスクローの目撃談があるらしく、運の悪い私が会わないという保証はない。

 

 

ふぅ、と疲れたようなため息をひとつ。

あれからあまり眠れなかった。

 

 

「Beep!」

 

 

体調を気遣うようにED-Eが覗き込んでくる。

私はにっこり笑うと、大丈夫と言ってボディを撫でた。

 

結局、あのライフルのアッパーレシーバーを持ってきてしまった。

今はED-Eの収納スペースにこっそり入れてあるが、きっともう気が付いているだろう。

気が付いていて疑問を投げかけてこないのは、ED-Eが何かを察してくれたからだろうか。

 

 

と、しばらく歩いているとED-Eが前方で何かを発見した。

Pip-Boyを見てみると、どうやら建物のようで、位置的にレンジャーステーションのチャーリーと合致する。

 

その他に、よく分からない小屋があったり夜通し酒盛りしていたであろうギャング団のたまり場があるようだが、スルーする。

あれじゃあそのうちレンジャーかデスクローに殺されるだろう。

 

 

とにかく、私は丘の上を北上していく。

ここなら見晴らしもいいし、何かあっても対応できる。

 

よく、見晴らしの良すぎる場所は避けろとサバイバルなんかの本では紹介しているが、それは敵地に潜入している場合の話だ。

まぁ、ウェイストランドも似たようなものだが、こそこそ隠れていたらレンジャーや地域住人に怪しまれる。

 

それにED-Eがいるから、数百メートルくらいなら狙われても察知できるのだ。

 

 

「Beepッ!!!!!!」

 

 

突然、ED-Eが何かを探知して上空に急上昇した。

次の瞬間、遠くからわずかに発砲音。

 

Pip-Boyの液晶に何かを探知した方角と距離が記載される。

 

方位30(北北東)、距離、中距離……400m程度。

 

 

次に、上空で熱源を正確に探知したED-Eが数を報告する。

およそ20体で、人間。しかも16対4で交戦中とのこと。

 

更にPip-Boyを操作してED-Eの高倍率レンズで確認させると、劣勢の方がNCR、優勢の方がリージョンだという。

 

 

「いいわよED-E、降りてきなさい」

 

 

そう言うとED-Eは急降下して私の後方に着く。

私は背負っていたバーミンターライフルを手元に手繰り寄せ、いつでも構えられるようにする。

 

NCRを助けることにする。

彼らはモハビ・エクスプレスと取引しているし、何よりも今の所友好的だ。

それにリージョンを味方にしてもいいことはないだろう。

 

 

私は硬い地面を蹴って走り出す。

一難去ってまた一難、運が悪い私にはよくあることだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 急だった。

プリムを離れ、途中道を塞いでいた目の見えないデスクローを何とか倒し、レンジャーステーションへ立ち寄り、そのまま西へ行く。

その間にリージョンと交戦する確率など、ほとんどなかったはずだ。

報告によればこの地域はNCRとノバックにスナイパーがいる影響で、リージョンは立ち入らないとの事だった。

 

なのに、自分は今こうしてリージョンの二個分隊と交戦している。

 

 

自分の運の悪さを呪いたくなった。

よく考えたらプリムの時も運が悪かったのかもしれない。

あの運び屋の少女が来なければ、負傷もしなかった。

まぁ、プリムを奪還して昇進することもなかったが……

 

 

「制圧射を絶やすなッ!!!!!!絶対に奴らを近づけるなッ!!!!!!」

 

 

叫ぶと、部下の上等兵が手持ちのサービスライフルの射撃をより一層激しくさせる。

 

 

「カレンッ!無線はッ!?」

 

 

「ダメよッ!壊れちゃってるわッ!!!!!!」

 

 

そう言って後ろで通信機を弄る部下が、破損した部分を見せてくる。

割と小型な通信機は、リージョンが放った弾丸に貫かれていた。

 

 

「中尉ッ!レンジャーステーションまで後退しましょうッ!この近距離じゃあ狙撃もできやしない!」

 

 

軍曹が愛用のハンティングライフルを抱えて叫ぶ。

確かに彼の言う通りだった。

我々とリージョンとの距離はおよそ100メートルで、段々と狭まっている。

高倍率のスコープでは狙いを付けるのは逆に難しく、無理に狙おうとすればその隙にスコープごと眉間を撃ち抜かれかねん。

 

 

「ネガティブッ!背中向けたら撃たれるか切られるかの二択だぞッ!」

 

 

そうだ。

今でこそリージョンの兵士達は銃を撃ってきているが、彼らは元々接近戦を得意とする戦闘民族だ。好機と分かれば銃を捨ててまで鉈や槍で突撃してくるだろう。

 

悪態をつきながらも背負っていたグレネードライフルを取り出す。

そしてグリップとバレルの間にあるレバーを親指で弾くように動かすと、銃が縦に折れた。

このグレネードライフルはここから榴弾を装填する。

 

腰に巻いた40㎜榴弾用ポーチ付きベルトを取り外し、そのうちの一つから榴弾を取り出す。

そして榴弾をバレルに突っ込むと、バレルをもとの位置に戻してレバーでロックした。

最後に折り畳み式の簡易的なフロントサイトを発てる。

これで発射可能になるのだ。

 

 

「擲弾発射ッ!」

 

 

周りの味方に叫び、狙いを付けて重いトリガーを引く。

 

ポンッ!

 

ポップコーンが弾けるような音を発て、40㎜の榴弾がリージョンめがけて山なりに飛んでいく。

もちろん飛んでいく様は見えないが、弾道は山なりらしい。

 

約1秒かけて、飛んで行った榴弾がリージョン兵たちの真横に着弾した。

 

 

「ぐわぁああああ」

 

 

断末魔をあげて吹っ飛ぶリージョン兵。

格好を見るに新兵だったようだ。

殺せたのは一名だったが、制圧効果は高い。

少しだけ銃撃が弱まったのは好機だろう。

さすが自費でジョンソン・ナッシュから買い取っただけはある。

 

 

「軍曹!俺のライフルで制圧射しとけッ!カレン、無線はもういい!お前も撃てッ!」

 

 

命令すると、軍曹はハンティングライフルを背負って俺がいる遮蔽物まで這ってくる。

そして地面に置いていたサービスライフルを手に取ると、コッキングレバーを引いて撃つ。

 

自分はその間に榴弾を再装填する。

手袋越しでも熱さを感じる空薬莢を排出し、ポーチから新たに榴弾を取る。

そしてそれをバレルに突っ込むと、簡単に照準を付ける。

 

角度は先ほどの射撃でおおよそ分かったから、後は左右の狙いを付けるだけだった。

一人こちらに突っ込もうとしていた兵士がいたので、そいつのあたりを狙う。

 

 

が、

 

 

カチリ。

 

 

「!?」

 

 

トリガーを引いたのに榴弾が発射されない。

 

不発だった。

 

 

「クソッ!」

 

 

「リロードする!中尉、弾をくれ!」

 

 

軍曹がこちらに手を向けてくる。

判断に迷った。

不発を解消するよりもまず、軍曹に弾倉を渡すべきだ。

なのに、予想外の不発でパニックになっていたのだ。

 

一瞬硬直してしまい、弾倉を渡すのが遅れる。

すると、後ろからの銃撃が弱まったことに気が付いた。

 

仲間を見てみれば、上等兵はリロード中、紅一点であるカレンしか撃っていない。

軍曹も普段使い慣れていないライフルのリロードに手間取っている。

 

 

「シーザー万歳ィイイイイイイッ!!!!!!」

 

 

リージョンのデカヌス兵が銃弾を掻い潜り、目前まで来ていた。

 

 

「目の前だッ!」

 

 

咄嗟にグレネードライフルを手放し、拳銃を抜く。

 

 

「もう遅いッ!」

 

 

が、狙う前にデカヌスが鉈を振り上げてこちらの頭をカチ割ろうとしていた。

 

 

「だぁああクソッ!!!!!!」

 

 

拳銃を持ったまま、左手でデカヌスの振り上げられた腕を掴む。

絶命から絶体絶命にまで持ち上げたが、リージョン兵士の力が強く押され気味だ。

 

 

「死ねィ!」

 

 

「死ねッ!」

 

 

死ねを死ねで返すと、右手の拳銃でこのむさ苦しい脳筋を撃とうとしたが、それに気が付いたデカヌスは俺の右手を押さえた。

 

膠着状態。

いや、俺の方が劣勢だ。

 

 

「中尉!」

 

 

軍曹が俺を殺そうとしている脳筋を撃つ。

迫力の割にあっさり力尽きたデカヌスを蹴り飛ばしてどかせると、軍曹に礼を言って拳銃の安全装置を外した。

すっかり外すのを忘れていた。

 

 

「クソッ!いっぱい来たぞ!」

 

 

上等兵がそう叫んだのでリージョン側を見てみると、奴らは銃を捨てて一斉に突撃してきていた。

 

 

「マジかよッ!」

 

 

驚愕し、部下たちと銃を撃ちまくる。

が、奴らの勢いは止まらない。

 

やられたか、折角中尉になったのに。

 

 

ネガティブな思考が頭を支配する。

 

 

 

その時だった。

 

 

 

「うげぇ!」

 

 

 

どこからともなく飛んできた弾丸が、突っ込んできたリージョン達の頭を正確に打ち抜いてく。

発砲音は3時方向の丘の上……そちらを見ると、きらりとスコープの反射光が見えた。

 

 

「あいつはヒーローだなまったく」

 

 

謎の支援者の姿を見て思わず口元がにやけてしまう。

一先ず、体勢が崩れたリージョンを排除しよう。

 

 


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