Fallout 運び屋の少女   作:Ciels

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第三十二話 ウルフホーン、ノバックへ

 

 

 

 「……はい、二プトンはもう……はい、わかりました。それでは」

 

 

通信を切り、無線機をPip-Boyへと収納する。

現在はウルフホーン農場と呼ばれる廃農場。ここで私は、NCRへの報告を済ませていた。

 

通信に出たのはナイトという少佐で、彼に二プトンの惨劇を伝えると驚き、すぐにNCRの部隊を二プトンへ向かわせると言う。

ため息まじりに熱したミルクを飲むと、体の内側と心の外側がほっかり温まる。

 

夜のモハビは寒い。

日中はあれだけ日が照り付けているのに、夜ではそれが嘘のように凍り付いてしまうのだ。

砂漠の夜が辛いことはアフガニスタンやイラクに派兵されていた時に学んではいた。

もちろん体験もした。

でも、この寒暖差は慣れないものだ。

 

 

「Beep……」

 

 

ぶるぶると震えて小屋へと入ってくるED-E。

機械だから寒さなど感じ無い筈なのに、まるで私に共感する様に寒がっている様は人間らしい。

寄り添って来た彼のメタルボディを撫でてやると、嬉しそうに鳴いて見せた。

 

 

「おかえり。周辺に異変はない?」

 

 

尋ねると、Pip-Boyのログに情報が記載される。

どうやらモールラットという大きなネズミやビッグホーナーという羊がいるだけで害をなすようなものはいないとのこと。

基本的に手を出さない限り害にならない彼らは、私相手だとまるで親や家族のように接してくる。

いくら触っても逃げないし、攻撃もしてこない。

モールラットに至っては自分から撫でられに来るくらいだ。

 

グッドスプリングスでビッグホーナーの子供と戯れたことを思い出す。

ほんとに可愛かったなぁ……

 

 

「……それにしても、ここの住人はどうしたんだろうね」

 

 

ED-Eに語り掛ける。

私がここに来た時には、農場に住民の姿は無かった。

 

小屋はもちろん、周辺をED-Eに捜索させたが気配はまるで無し。

だが、つい最近まで誰かがここで生活していた痕がある。

 

そもそも農場というよりはここは偽装された隠れ家だ。

菜園は最低限しか敷地がないし、家畜の姿もない。

周辺には簡易的な罠が巧妙に敷設されていて、気が付かなければトラバサミに足を挟まれる。

もちろん私はそんなヘマはしないが、これは動物用というよりは対人用を意識して設置されている。

 

ここで私が恐れているのは、農場の主が運悪くここへ迷い込んだ者を略奪しようとしているのではないか、という事。

一見穏やかな農場を装い、入ってきた人を襲う、なんてことはよくある。

 

でも、小屋と菜園を調べた所、そうでもないらしい。

ここが使われていたのは一、二週間前のようで、それも一人だ。

菜園の食べものは定期的に収穫された痕跡があるし、家具も一人用だと思われる……

まるで突然放棄せざるを得なくなったかのように、この農場は捨てられていた。

 

その突然が何かは分からないが、今の所何も起きない。

 

 

それと、興味深い事がある。

それは、ここの家主であった人の趣味である。

 

珍しく掃除された本棚があり、そこには科学や言語、そして歴史書といった学問に関する戦前の本がぎっしり並んでいた。

識字率の低いウェイストランドでは、本を集めるのはもちろん、こうして勉強しようとしている事が稀だ。

きっと、ここの家主は頭がいいに違いない。

 

加えて、銃や機械に対しても理解があるようで、メンテナンス用品や色々なスペアパーツが多く引き出しに収納されていた。

ベッドの下には隠すように道具箱があり、その中には武器に取り付けられるアタッチメントが複数ある。

 

さすがに人の物を盗むのは気が引けたが、生き残るためには仕方がないし、そもそもここの家主が生きているかも分からない。

私は家主に感謝しながらそのアタッチメントを残らずED-Eの収納スペースに押し込んだ。

 

 

 

そして深夜。眠れない私は一人ベッドに腰かけながら本を読む。

語学、機械、コンピュータ、科学、そして銃。

マンガもあったが、途切れ途切れなので読まないことにした。だって続きが気になっちゃうもん。

 

 

「アラビア語の入門書……珍しいわね」

 

 

懐かしい言語の本がある。

アフガニスタンではアラビア語は使われていなかったが、会話できるくらいには教え込まれたものだ。

ちなみにアフガニスタンの主な言語はダリー語である。

 

でも私がいた組織は様々な国の人が多かったので、共通言語は英語だった。

それに英語なら相手を攪乱させることや、情報を引き出すこともできる……けど、あんまり使い道はなかった。

唯一、モハビに来て言葉には困らなかった。

 

 

「……あ、9㎜の整備してないや」

 

 

唐突に、9㎜ピストルを整備していなかったことに気が付く。

私は手頃な机に座り、9㎜ピストルを取り出して分解する。

 

……そういえば手に入れたアタッチメントの中に9㎜ピストル用のカスタムバレルがあった。

こっそりと、寝て(?)いるED-Eの収納スペースから9㎜ピストル用のカスタムバレルとサイレンサーを取り出す。

 

このバレルには、マズル先端にネジが切られている。

通常の正ネジではなく、逆ネジで、左に回すことによりネジが閉まるようになる。

理由としては、銃身内にはライフリングと呼ばれる溝が彫ってあり、それが弾丸を加速させる仕組みを持つ。

銃弾が発射された際に生じたガスも、銃身を通っていくと右回りに彫られたライフリングに沿って右回りで出ていくため、通常の正ネジではサイレンサーやハイダーが緩んでしまうのだ。

理論上、撃てば撃つほどネジはしまっていくことになる。

 

 

それはともかく、スライドとフレームを分離し、スライドからリコイルスプリングやらバレルを抜き取る。

 

今まで簡易的なメンテナンスしかしてこなかった事が災いしてか、バレルはやや劣化している。

 

劣化したバレルをED-Eの収納スペースへ放り込むと、新たにカスタムバレルを組み込む。

カスタムバレルはネジがある分、元のバレルよりもわずかに長い。

 

組み込み後は元通りにスライドとフレームを組み合わせる。

サイレンサー、またはサプレッサーをマズルのネジ部分にクルクルと回してはめ込んでいく。

 

 

「これでよしっ」

 

 

全長が長くなった9㎜ピストルを構えてみる。

サプレッサーの直径は細く、減音効果は通常のものよりも望めないだろうが、別にいい。

そもそもサプレッサーで音を完全に消すことは不可能だ。

本来の使用用途は、指向性のある高音域を掻き消し、銃声ではないと誤認させたり発射位置を特定させない事だ。

 

とにかく、このサプレッサーは直径が短いため、アイアンサイトが埋もれてしまうような事はない。

まぁ半分ほどサプレッサーに埋もれてはいるが、拳銃は近距離での運用がほとんどなので問題ないだろう。

 

 

「ふぅ……寝よう」

 

 

本と銃に集中していたためか、すっかり眠くなってしまった。

ベッドへ行こうと椅子から離れる……

 

その時。

 

 

ガタッ、と机の引き出しの下にある何かが膝にぶつかった。

痛、と言って私は机の下に潜り込んでその何かを確認する。

一体なんだろう……

 

暗くてよくわからないが、どうやら銃のパーツが括り付けられているようだ。

 

 

「もうなによ……」

 

 

ライトを付けると、その姿が露わになる。

私は……

 

 

 

言葉を失ってしまった。

 

 

 

 

「これ……」

 

 

 

慌てるような手つきでソレを机から引き剥がす。

ダクトテープを引きちぎって机の上にソレを置く。

 

 

それはライフルのアッパーレシーバーだ。

問題は、そのライフルの種類だった。

 

 

Mk18 Mod1。

かつて私がいた世界に存在していたM4A1というカービン銃の、特殊部隊向け改良型。

なぜこんなものが……

 

昔、私の尊敬していた兄が、敵から奪ったこの銃を使用していた。

懐かしいが、この世界ではこの銃は開発されなかったはずだ。

 

よく観察してみる。

アッパー側面に意図的に付けた傷がある。

 

 

なんだろうか。

ライトを付けて見てみる。

 

 

 

 

 

 

「……Hardy……」

 

 

 

私の、大切な人の名前が刻まれていた。

 

 


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