サバゲー合宿に行っていたため投稿が遅れた事をお詫び申し上げます。
銃声がした。
音の発信源は市庁舎の外で、かなり近かった。
その時ソファーで仮眠をしていた彼は、飛び起きるとすぐそばに置いてあった狼の毛皮のフードとサングラスをかけ、腰に愛用の武器があることを確認する。
同時に部下の1人が仮眠を取っていた町長の部屋へと駆けてきた。
部下の慌ただしい様を見て情けなさを感じた彼は、特に何も言わずに不快な眼差しをサングラス越しに向ける。
「報告しろ」
そう言うと、息を整えることもせず、部下は言った。
「申し上げますッ!子供が一人、外で磔になった者達を殺していますッ!」
「落ち着け馬鹿者。その子供の勢力は?武装しているんだろう」
あからさまに襲撃を受けた街へ入ろうとする者などいない。
好奇心旺盛なスカベンジャーやゴロツキでさえも恐怖する、シーザー・リージョンの旗が見えるように配置されているのだから。
仮に何らかの手違いで入ってしまっても、街の惨事を見れば大概の人間は逃げ出すだろう。
となれば、その子供はどこか……この場合は煙を見たNCRが確認に送らせたのだろう。
相変わらず、自分たちの手を汚すのが嫌いな奴らだ。
無関係な子どもを……
そこまで考えて、彼は内心笑った。
それは自分たちも同じか、と。
目の前にいる部下も、ついこの間に成人したばかりだ。
「え、あ、そこまでは……見た目はただの放浪者です」
「……ちょっと待て、よく考えたら、警備は何をしてたんだ?」
「……どうやら寝ていたようです」
頭を抱え込みそうになった。
一瞬目の前の部下を引っ叩いてやろうかとも思ったが、自分の指導不足でもある。
彼は分かった、と言うと部下と共に急いで玄関へと行く。
貧乏くじを引いてしまった、そう彼は思った。
彼の名はバルプス・インカルタ。
モハビ全体が震えあがるシーザー・リージョンの、その中でも最強と自負しているフルメンタリー部隊の、更にその中の最強の男だ。
その最強の男が今何をしているのかと言うと、若い兵士の育成だ。
そんなもの訓練担当官に任せておけとも思うが、今回ばかりはそういう訳にもいかなかった。
素質のある若者を育成するには、優秀な者が導いてやらなくてはならない、とは自分が尊敬し仕えるシーザーの言葉。
頼まれてしまった以上、やらなくてはならないし、これもリージョンのためと思えば楽しい物だ。
そう自らに思い込ませていたが、そうもいかなかった。
何せ、素質があるだけで基礎が無い。
どうすれば潜入できるか、相手を効率的に殺せるか、目立たずにいられるか。
いくら戦士としての素質があっても土台がしっかりしてなければ三流もいいところだ。
だから今回この街を殲滅したのも、彼らの成長のためでもあった。
「子供が囮である可能性は?」
「窓から双眼鏡で確認しましたがいないようです」
「それで狙撃されたらどうするんだ馬鹿者……」
はぁ、とインカルタはため息をつく。
まぁド素人が窓から覗いても撃たれないというのなら大丈夫だろう。
NCRの最重要指名手配犯である自分がここにいるとは、奴らも思っていない。仮にリージョンをただ討伐しに来た部隊なら、もうこの市庁舎は攻め込まれている。
玄関までやって来ると、部下が総出で小窓から外の様子を窺っていた。
呆れて物も言えないが、それでも上官として後についてくるように言うだけ。
今叱っても何も解決しないのは自分が良く知っている。
さて、一体子供とは何ぞや。
彼は、外へと通じる扉に手をかけた。
もう何人殺しただろう。
二回は拳銃の弾倉を交換した覚えがある。
一人ひとりの十字架に回り、眉間に一発ずつ。
そんなに時間はかからなかった。数分だろう。
でも、その数分が酷く長く感じてしまったのは、きっと……なんだろうか。
先ほどからちらちらと市庁舎の中から見ているリージョンが酷く不快だ。
できるならさっさと終わらせてしまいたいと、そう思っていた。
依頼はこの町の偵察。
本来の目的はもう果たしている。
でも、それでも煮え切らないから、個人的な感情で、彼らを非難する。
「……お前が何者か知らんが、見当はついている」
だから、いつでも相手にできるように拳銃とマチェットは手放さない。
「あら。それなら話が早いわ」
玄関から出てきた男とその取り巻きを無表情で迎える。
男はおかしな格好をしていた。
シーザー・リージョンの服装は知っていたが、あれは初めて見る。
狼のフード……まるで大戦前の女の子が可愛い系のファッションのために着ているようなフードだ。
或いはハロウィン。聞いたことしかないけれども。
「なぜこんな事をしたのか……聞いていいかしら?」
尋ねると、男は答えた。
「こんな事……ふん、それに値する連中だっただけだ。堕落し、価値の無い者達を消して何が悪い?」
まるで害虫を駆除することのように言う。
心の中の善の心がそれを否定する。同時に、それ以外が彼の言っている事を肯定し始める。
「それでも……やったことのツケは払うわよね?」
メキメキっとマチェットを握る手の力が強くなる。
それに対応する様に、男の手に握られた小型のチェーンソーのような武器が回転を始めた。
ケタタマしい音を発てて刃が死のリズムを刻む。
「死にたいなら、お望み通りにしてやる……が、今はその時ではない」
そう言うと、男は武器のスイッチを切って腰の鞘にしまう。
てっきりこのまま襲い掛かって来るかと思ったが、どうやら違うようだ。
「お前には伝令になってもらう。NCRにこの出来事を伝えるのだ」
「そう安々と従うと思うかしら?残虐な事をした連中を、許すとでも?」
「従うさ。君も私達がしたことに賛同しただろう?」
ばくっと、心臓が跳ね上がった。
見透かされてような、そんな感覚だった。
私が何も答えられずにいると、男は部下を引き連れて町から離れる。
そんな彼の背中めがけて、私は叫んだ。
「《Brothers' Creed》Errare humanum est!!!!!!(誰だって間違いはあるわッ!!!!!!) 」
負け惜しみのように言い放つ。それは死んでいった二プトンの人々を指しているのか、はたまた自分自身を指しているのか。
それを聞いてどう思ったのかは知らない。
だけど、確実に反応があった。
ぴたりと、男は足を止めてこちらを振り返る。
そしてこちらをじっと見ると言った。
「Commodum ex iniuria sua nemo habere debet(何人も自分自身の悪から利益を得てはならない)……そうとだけ言っておく」
今度こそ、彼は去った。
私は、その背中をただ見ていることしか出来なかった。
二プトンは、悪人の町だった。
それでも、虐殺されていい道理はない。そのはずなのに。
「見逃して良かったのですか?」
部下の一人が、先を行くインカルタに尋ねる。
インカルタは視線を前に向けたまま言った。
「むしろこちらが見逃してもらえた事に気が付かなかったか?」
その答えに若者は、は?と声をあげる。
インカルタは気が付いていた。
先ほどの少女がどのようなものであるか、という事に。
もし戦えば、インカルタはともかく、部下の命は無かっただろう。
自分も無傷でいられたかすら危うい。
だが、それでも戦わないのは恥である。
ならばなぜ、最強とまで自負する男が恥を忍んでまで彼女を見逃したのか。
それは、彼女にとある日の亡霊を見たからだった。
「……お前なのか……ハーディ」
その呟きは、モハビの砂漠に埋もれ、かき消される。
ちょっと待って!戦闘描写ないやん!