Fallout 運び屋の少女   作:Ciels

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第二十六話 モハビ前哨基地、キャラバンの女

 

 

 酔っ払いは3名。

一人は麦わら帽子の一見すると若い女性。

そしてもう二人は、前哨基地で暇を持て余しているキャラバンの男たちだ。

 

そしてキャラバンの男がふと歳の事について触れると、女性の雰囲気が一変した。

パキッと、彼女が持つビール瓶にヒビが入る。

まずい、と私の直感が告げた直後、

 

 

 

「もう一辺言ってみろコラァッ!!!!!!」

 

 

「あんだコラァ、うわ殴るなッ!ぐあッ!」

 

 

 

歳の話をされて唐突にキレ、男たちを殴りだす麦わら帽子の女性。

勢いが凄まじく、マシンガンのように拳が繰り出されていく。

恐らく原型はボクシングだろう。

ほぼ我流だとは思うが、もとのセンスがいいのか、経験者並のキレの良さだ。

 

と、私が彼女の拳を観察していると、もう決着が着きつつあった。

ちなみに、他の客は煽ってばかりでなにもしない。

私とレイシーも傍観を決め込んでいる。いちいち介入なんてしないほうがいい。

真横の席で少しだけ警戒しているED-Eだったが、そんな彼のボディを撫でて落ち着かせた。

 

 

だからこそ私は食事を続けようとして、サルサパリラを飲もうとした。

 

 

したのだが。

 

 

 

「このアバズレがぁあああああああッ!!!!!!」

 

 

「あっ」

 

 

ボコボコにされていたキャラバンの一人が、私のサルサパリラの瓶を掴んで女性めがけて振り下ろしたのだ。

 

 

「ッ!」

 

 

パリーンッ!という音を発てて割れる私のサルサパリラ。

そしてその重い一撃を受ける女性。

防いでいても、硬い瓶を使った攻撃は彼女の体勢を容易に崩してしまい、結果、男たちのリンチが始まってしまう。

 

しまうが、そんな事は今はどうでもよかった。

酔っ払いのやることなんてしったこっちゃない。

食事を邪魔された挙句、サルサパリラを奪われた私の心は凍てついていた。

 

 

「く、クロエ……」

 

 

レイシーが慌てた様子で何か言おうとしている。

私は答えずに、立ち上がって女性を寄ってたかって殴る男たちの方を向く。

Beep、といつもよりも元気のない電子音をあげたED-Eだったが、震えて席から立とうとしない。

 

女性は倒れず顔面こそ守っているものの、一方的だ。

 

 

「オラッ!このクソアマッ!」

 

 

「舐めやがってッ!この……おっ?」

 

 

私は男が振り上げた拳を後ろから掴む。

突然拳を制止された男は、不思議そうな顔をしてこちらへ振り返る。

 

その刹那、私は左手で相手の右腕を掴み、右手で相手の首元を押さえる。

男が何かを考える前に、相手の右側へ入りながら、右足で相手の足を鎌で狩るように払う。

プラス、バランスを崩すように相手の上半身を、先ほど掴んだ状態から押し出した。

 

 

「アッ!」

 

 

短い悲鳴をあげて後ろへ倒れる男。

頭を思い切りぶつけて彼は失神したが、お構いなしに私は次の作業に入る。

 

 

「なんだお前」

 

 

仲間が倒れた事に気が付いた男がこちらへ向かってくる。

パンチのモーションに入っていた男に、私は一瞬で攻撃を入れた。

 

まずは左頬にジャブ。

そして次に、左肘のエルボーで男のパンチを真正面から跳ね返す。

ゴキャっという音がして、男の拳が無効化される。

 

あとは一方的。

 

右のローキック、左ストレート、右のボディーブロー、左手で押し出して相手のバランスを崩し、物理法則を曲げたように繰り出す左足のハイキック、そしてその運動エネルギーを回転に換え、回し蹴りを繰り出した。

 

男の腹に突き刺さった回し蹴りは、彼を前のめりにさせる。

 

 

そのまま無言で、私は空中で前に一回転。

そこから踵落としを決めた。

 

 

なんだか人間の身体から出ちゃいけない音がして、男は力尽きた。

ちなみに、二人とも死んではいない。

 

 

「ぐっ……」

 

 

と、結果的に助けた女性がこちらへ殴りかかってくる。

恐らく、アルコールと殴られたことによるショック、そして喧嘩による極度の興奮で錯乱しているのだろう。

 

私はそのパンチを受け流し、相手の後ろへ回り込む。

 

 

「あっ!?」

 

 

女性は可愛らしい声をあげて驚いたが、大した反応は出来なかった。

きっと、アルコールのせいだ、全部そうだ。

 

私は右腕を、彼女の右脇の下から経由して首の後ろへ、左腕を首に回す。

そして左腕を手前に引き、右腕を前に押し出すようにして頸動脈をしめる。

柔道の片羽絞という絞め技だ。

 

 

「ぐっ……!ぎ……」

 

 

5秒も発たないうちに女性は失神してしまった。

元々息が切れていたことに加え、脳に酸素が回らなければそうなるのは当たり前だろう。

 

ふぅ、と私は絞めていた腕の力を緩める。

これで窒息死はしないし、大人しくしてくれるだろう。

サルサパリラは新しく注文しよう……

 

 

と、酒場の外に複数の気配。

恐らく喧嘩騒ぎを聞きつけたNCRの憲兵か何かだろう。

 

 

私は急いで失神させた女性を抱え、席に座らせ、また私もその隣に座る。

座っているのは先ほど私が食事をしていた場所だ。

 

女性は一見酔いつぶれているように見えるし、私も食事をしているただの旅人に見えるだろう。

唯一、倒れている男たちと、ドン引きしたように静かな客たちが異端である。

 

 

「レイシー、口裏を合わせて」

 

 

「え、あ、うん」

 

 

私が呟き、レイシーが呆気にとられたように頷くと、入り口からNCRの兵士が数人入ってきた。

 

私は震えたED-Eを落ち着かせるように撫でる。

しかし余計に震えるED-E……どこか調子が悪いのか。

 

 

 

「なんだ、もう喧嘩してないじゃないか……まぁいい。おい、そいつらを独房へ運べ」

 

 

指揮官らしい兵士がそう命令すると、部下たちが地面に伏している飲んだくれを連れていく。

彼らが撤退すると、私はほっと一息。

 

 

「ほら、とっとといつも通り飲みな!」

 

 

レイシーが静かにこちらを見ている客たちを一喝すると、酒場はいつも通りの活気に戻った。

 

 

「レイシー、サルサパリラ一つ。今度はコップで」

 

 

キャップを出して注文すると、レイシーは頷いて新しいグラスにサルサパリラを注ぐ。

 

 

「なんでそいつを助けたのさ?」

 

 

と、注ぎ終った彼女はそんな質問をした。

私は甘ったるい炭酸飲料を一口飲むと、

 

 

「別に。ニ対一だったから」

 

 

と答えて震えるED-Eを意味もなくペシペシ叩いた。

 

 

 


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