Fallout 運び屋の少女   作:Ciels

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第二十五話 モハビ前哨基地、飲んだくれ

 

 

 

 保安官代理から手がかりを得た私はすぐにプリムを後にした。

今は二プトン通りの西ドライブインを抜け、モハビ前哨基地へと進んでいる。

 

ED-Eがいることにより、彼……のハイパーセンサーをPip-Boy経由で確認することが出来るのは素晴らしい。おかげで昼間でも数百メートル先にいるギャング団やラッドスコルピオンを探知して回避することが出来る。

……アフガニスタンに居た時にED-EとPip-Boyがあれば、大分楽だっただろう。

まぁ、そんなこと考えても仕方ないが。

 

プリムを出てからもう丸一日経っているが、疲れはそこまで無い。

ナッシュ家で寝ておいて良かったと本当に思う。

 

仕事の性質上、運び屋は三日くらいなら寝ないで荷物を運ぶことも強いられる。

一番辛かった仕事は、一週間ほぼ寝ないで歩き続けた事だ。

あれはどんなに鍛えていようが疲れる。

 

 

「はぁ……」

 

 

昔の事を思い出し、ふと顔に出てしまう。

 

 

「Beep!Beep!」

 

 

と、そんな私を心配する様にED-Eがこちらを覗き込み、ビープ音を鳴らす。

表情がないはずなのに、なぜか感情が分かる気がするというのも不思議だが、なにより彼の動きがロボットの枠を超えている気がする。

 

私は笑顔を見せながらED-Eのフレームを撫でる。

すると、なんだか嬉しそうに彼は震えてビープ音を出して見せた。かわいい。

 

 

さて、今はまだ昼間だ。

太陽は照りつけているし、さっさと前哨基地で休憩したい。

 

道中には崩れた橋があり、そこにはそれなりの量のジャイアント・アントと呼ばれる巨大アリが居たが、すべて狙撃で片づけた。

 

 

と、そんな時、目の前に大きな坂が。

100メートルは続くであろう大きな坂の上には、大きな人と人が握手している銅像が見える。

モハビ前哨基地の名物であるあの像は、NCRとモハビに展開しているオリジナルのレンジャー部隊が同盟を結んだ際に作られたものだ。

 

もっともあれは政治的な意味合いが強く、他の勢力にNCRの勢力を示すとともに牽制していて、兵士からすれば日除け、リージョンやギャングからすれば狙撃の練習台にしかならない。

 

そんな大きい日除けの像を目指して坂を上っていると、ようやくフェンスが見えてきた。

その横には日陰で休憩しているNCR兵が。

 

彼は嫌々日陰から出ると、例のポンコツ銃を手に取ってこちらへ向かってくる。

 

 

「おい、あんた何者だ?」

 

 

そう尋ねられたので、私はにっこり微笑むと言った。

 

 

「モハビ・エクスプレスの者です。ここで休もうと思いまして」

 

 

「Beep!Beep!」

 

 

ED-Eも挨拶する様に鳴いて見せた。

そんな少女とへんてこな機械という組み合わせにちょっと混乱を見せた兵士だったが、すんなり銃を下げると基地へ入れることを許可した。

さすがに案内はしてくれないし、一度来ているからいらない。

 

 

基地の敷地内に入ると、多くのキャラバンが行先を失ったようにたむろしていた。

恐らく、インターステート15がデスクローによって塞がれているため、ここで足止めを食らっているのだろう。

キャラバンの取引相手にはNCRも含まれているはずなのに、それでも駆除部隊を送らないのは、モハビにおける状況が芳しくないからだ。

ヘイズ少尉もそのうちの一つだったから。

 

 

ED-Eを珍しい目で見ていたキャラバンと保存食や弾を取引し、酒場に入る。

まだ昼間だと言うのに暇を持て余した兵士やキャラバンが飲んだくれていた。

 

 

彼らはどう思っているのか分からないが、このモハビ前哨基地のすぐ後ろはNCR領。

つまり、ここがNCR領手前の最後の砦である。

皆、フーバーダムの方に注意が行っているから重要視されていないが、もしもの時はここが最前線になり得る。

 

 

「や、レイシー」

 

 

私は酒場を一人で切り盛りしている女性店員に手を振る。

ラジオに耳を傾け、つまらなそうにしていた店員は、私を見るなり笑顔を見せる。

 

 

「お!あんたまた来たの!?ほんとバカね!」

 

 

言ってることと表情がちぐはぐであるが、彼女はこれがデフォだ。

お兄ちゃん曰く、これはツンデレというものだそうで、親密な人と接するとうまく感情を表わせない人を指すらしい。

 

プラチナチップの仕事を受ける際にここへ寄った時、たまたま彼女とキャラバンというカードゲームをして仲良くなった。

 

 

仲良くなったんだよね、たぶん?

 

 

「あー疲れちゃった、サルサパリラ一つちょうだいな」

 

 

「キャップは払ってよね?」

 

 

カウンターに座り、頷きながら数キャップをテーブルに置く。

すると、レイシーはキンキンに冷えたサンセット・サルサパリラを瓶ごと渡してきた。

 

 

「おまけで瓶一本ね」

 

 

「んふ、ありがとっ」

 

 

こうした友人は彼女だけではない。

様々な旅の最中で、とてもたくさんの人たちとお友達になった。

それにはグッドスプリングスの皆や、ヘイズ少尉たち、それにジョンソン夫妻ももちろん入っている。

 

 

私はこくこくと得体の知れない美味な炭酸を喉に流す。

このしゅわしゅわ感がたまらない。

 

 

「ヌカコーラもあるけど?」

 

 

「あれは放射能の臭いがするからやだ」

 

 

「……まぁ、あんたがそう言うならいいけど……」

 

 

しばしサルサパリラと、持ち込んだ干し肉を堪能する。

別に食料を持ち込んでも問題ない。

戦前の常識は廃れてしまっている物もあるのだ。

 

 

 

と、私が大地と化学調味料の恵みを堪能していると。

 

 

「あんたから先に手ぇ出してきたんじゃない」

 

 

「うるせぇぞこのババァ!てめぇ見た目より歳いってんだろ!」

 

 

なにやらすぐ傍で、酔っ払い同士の喧嘩が勃発した。

 

 


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