―プリム、カジノ―
ビッキ アンド ヴァンス カジノ。
プリムにある唯一の目玉であるこのカジノは、はっきり言って面白くはない。
少なくとも賭け事なんてしない私にはルーレットやカードゲームなんてなんの価値も見いだせないし、囚人のせいで絶賛休業中のカジノに求めるものなんてギャンブラーにもないだろう。
カジノ内は外ほど荒れてはいないが、それでも商売をするには汚れている。
せっせと従業員であろう大人たちが物を片づけている。
どうやらルーレットなどの台をバリケード代わりに使っていたらしい。
その中で一人、不思議なロボットを引き連れて佇んでいる私は場違いなのかもしれないが、手伝いもせずに何やら手帳に書き記している人物も同じく場違いだ。
私は集中してペンを走らせる人物のもとへ向かう。
「こんにちは、保安官代理」
まずは挨拶から。
穏便に済ませられるならそれに越したことは無い。
彼は私の存在に気が付くと、ペンを動かす手を止め、不機嫌そうにこちらを見る。
それがすぐさま青ざめる。
「あ、あんたは……!」
まるでスーパーミュータントに出逢ってしまったかのようなうろたえ様に内心笑いそうになる。だけど、よく考えたら私がミュータントみたいだって事だ。
なんだかいらいらしてきた。
「私は運び屋ですわ、あなたがチェックのスーツを着た男たちを知っていると聞いてやって来たのですが」
あぁ、と保安官代理は納得したように頷いて手帳を開いた。
あれ、これはもしや簡単に事が進むのだろうか。
「あいつらなら、パウダーギャングから隠れ……調査している時に見たよ。グレートカーンズの連中と一緒だったな」
それはもう知っている。
グッドスプリングスでトルーディさんから得た情報だ。
「それで、他に何か?」
急かすように尋ねる。
すると一瞬保安官代理はムッとした表情になったが、私がちらりとポンチョから銃をちらつかせると大人しく手帳を開いて言った。
「二プトンを通ってノバックに向かうって言ってた。誰かと会うってことも……」
「誰か?」
「それは言ってなかったよ、ホントだ」
まぁ、そこまでは期待していない。
彼には嘘をつくメリットはないだろうし……
私は簡単に礼をする。
次の目的地は二プトンか……遠いな。
確か南にかなり行ったところにある、治安の悪い町だと聞いた。
確か、風俗街だとか……
と、そんな事を考えていた私の前におかしな声の主が現れる。
「ビッキ アンド ヴァンス カジノへようこそ!ヒィーハァーッ!!!!!!」
甲高い声と高いテンションで話しかけてきたそれは、プロテクトロンと呼ばれる戦前の二足歩行型ロボットだ。
カウボーイハットを被ったそのロボットは、酷く不自然な風貌だ。
ヴィクターのほうが何倍もカウボーイだ。
ど、どうも、と私は挨拶だけする。
ED-Eのように、プロテクトロンやMr.ハンディにはAIがあるため、割と高度な会話も可能だ。
一説によれば、死刑囚の脳をそのまま移植しているロボットもいるらしいが……
「あぁ、こいつはプリム・スリム。このカジノの……なんだ?」
「観光用プロテクトロンです、イィイヤッフゥウウウウウ!!!!!!」
急に叫び出すものだから耳を塞いでしまった。
ED-Eもなにやら震えてうんざりした様子だ。
「ではごきげんようお客様、ヒィーハァーッ!!!!!!」
それだけ言うと、プリム・スリムと呼ばれたプロテクトロンは遅い足並みで去っていく。
なんだったんだろうか。
私が疑問を抱いて彼の後ろ姿を眺めていると、保安官代理が何か閃いたような顔をして呟く。
「どうしたんですか?」
そう聞くと、
「ああいや、一時的にプリム・スリムを保安官にしてもいいかと思ってね……あいつなら人間と違って壊れにくいし、警戒心も高いから……あとはNCRCFに収監されてる模範囚を保安官にする手も……」
手帳に書き込んでいく保安官代理。
そこまで考えられるんなら自分でやれとも思ったが、そう言えば満場一致で否決されたんだった。
まぁ、私には関係ない。
「行くよ、ED-E」
「Beep!」
元気よく返事をしたED-Eを連れてカジノを後にする。
まずはモハビ前哨基地に向かい、色々準備をしてから二プトンに向かおう。