「Beep!」
ジョンソン夫妻に別れを告げるようにED-Eが音を発する。
私も深々と頭を下げるとにっこり笑って笑顔で送ってくれている夫妻に言った。
「短い間ですが、ありがとうございました」
礼儀だけはちゃんとしておこうと思い、精一杯の敬語を使う。
すると、夫妻はそんな私の肩を支えるように手を置いて見せる。
しわしわの顔には、しわの数に比例するような笑顔が咲いていた。
「私達も孫が出来たみたいで楽しかったわよ」
その発言を言及するようなことは言わなかった。
このモハビでは、孫どころか子供すら作れない人も多い。
それは経済的や、肉体的な事情が多く絡んでいる。
「身体に気をつけてな。プリムに寄ったら家に来なさい、歓迎するよ」
「ありがとうございます……では」
その言葉を最後に、私はジョンソン夫妻の家を出る。
目に飛び込むのは眩い太陽の光。
神からの大きな贈り物であるその光は、今のプリムを表わしているようだった。
暴力から解放され、今この町は復興作業中。
中にはNCRの兵士も混ざり、ダイナマイトで吹き飛ばされた家々の瓦礫を処理していた。
その中には、ヘイズ少尉の姿もあった。
「御機嫌、少尉」
声をかけると、休憩がてらにタバコを吸っていた少尉が私に気付く。
彼は手を振るとタバコの火を消してこちらへ向かって歩く。
「おう、運び屋。何か探し物か?」
「えぇ、ビーグル保安官代理を探しているの」
一瞬少尉が誰だ、という表情になったが、数秒して納得したような顔になった。
そう言えば、保安官代理が無罪だと分かって解放されたのは少尉が輸血を受けている最中だった。
疲れていたから私も彼が釈放されたことに気が付かなった。知ったのはもっと後だ。
「あいつならカジノに居たな。手伝うでもなく、ただ手帳に何かを書いてたよ」
手帳……もし何か知っているなら、記録していることも考えられる。
彼を助けたのは私達だけど、あの扱いじゃあ良いようには思っていないだろう。
そうなると、素直に喋らないかもしれない。
ここで出てくる手段は三つ。
一つは交渉して喋ってもらう。
なんだか頭を下げるようで納得いかないが、穏便に済ませられる。
もう一つは手帳を盗む。
少尉の話から推察するに、彼は手帳に色々と書き記しているようだ。それに、ジョンソン夫妻も食事の際に彼は几帳面でけちクサくてさらに臆病者とも言っていた。
彼が何か知っているなら書き残しているはずだ。
ただ、見つかる可能性もある。肌身離さず持っているとなると、バレる可能性は増すだろう。そうなれば、プリムを敵に回すか、ビーグルを消すしかない。
これは危険な賭けになるが、手帳は嘘を言わない。
最後に、無理矢理聞き出す。
人気のない場所で恐喝すれば簡単だ。評判を下げないよう釘を打っておけば完璧に事が進む。
まぁ、彼の性格を考えるにこれが一番いいだろう。
「俺も事情は知ってるが、あんまり無茶な事はするなよ……なんだこのロボット」
彼には私の経緯を話してある。
これは彼なりの私への警告だろう。
私は頷くと、ED-Eを不思議そうに観察している少尉に別れを告げてカジノへと向かう。
後にはBeep!という特徴的な電子音が響いていた。