Fallout 運び屋の少女   作:Ciels

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最初のコンパニオン


第二十二話 プリム、ED-E

 

 

 

 ナッシュ家で一晩を過ごし、今は朝の6時。

8時間ほど睡眠を取った私は、すっかり元通りの体調に戻っていた。

快適なベッドの上で取る睡眠はやはり心地良いものだ。

 

 ウェイストランドでは寝る場所を確保するだけで一苦労なもので、ベッドを探すとなるとそれだけで夜が明ける。

もちろん戦前の汚れて破れかけている布団を使うという事もあるのだが、肌触りが最悪だし、何よりも衛生面で良くないから推奨はしない。

 

 

 さて、今日はビーグル保安官代理に色々聞かなければならない。

荷物をまとめ、私は出発の準備をしたはいいものの、さすがに朝早くから尋ねるのは失礼にも程があるだろう。

なので私は、少しだけナッシュ家の家事を手伝ったり、武器の点検をしていたのだが。

 

 ふと、物置を見ると見慣れないモノが転がっていた。

一見するとバスケットボールよりも大きいその鉄の塊は、見た目に反して軽い。 

側面に付いているナンバープレートには、ED-Eと名誉生徒という文字。

戦前のロボットなのだろうか?なんだか昔見たことがある気がするが、まぁいいだろう。

 

 そのロボットは酷く破損していて、見た所直せるようなものではない。

しばらく私はその奇妙なロボットを観察していると、ふと、このロボットが機能停止した原因である外傷を見つける。

 

 フレームにぽっかり空いた小さな穴。

銃弾を撃ち込まれたようだ。それも、それなりに強力な弾丸を。

 

 穴の直径から察するに恐らく7.62mm口径。

しかし、通常のファクトリーロードではないだろう。

リロードベンチで自作して火薬量を増強したハンドロード弾だろう。

 

 数発撃ちこまれたようで、一部は同じ場所に命中している事からマシンガンではなくスナイパーライフル系統の銃で狙撃されたようだ。

 

 

「おじいちゃん、これどうしたの?」

 

 

すぐ傍で事務作業をしていたジョンソンおじいちゃんに尋ねると、彼はかけていた老眼鏡を外して丸い金属のボールを見る。

 

 

「あぁ、この前スカベンジャーと取引してな。奇妙なロボットだったから直せたら使い道があると思ったんだが……無理だった」

 

 

「私が直してみてもいいかな?」

 

 

甘えるように申し込むと、ジョンソンおじいちゃんはにっこりと頷いた。

今ではすっかり孫のような扱いを受けている。

 

 了承を得たので、工作台でロボットを分解する。

どうやら重大なダメージを受けたためにスリープモードに入っているらしく、破損は外観だけで中身は無事なようだ。

電力は専用の核分裂バッテリーを使用しているようだから問題は無い。

外装もスクラップメタルを流用すれば何とかなるだろう。

 

工作や修理自体はそこまで得意ではないが、なんとかなるレベルだ。

 

 

「あれ、これPip-Boyと連動できるんだ」

 

 

ふとロボットの中のメンテナンス用モニターを弄っていると、Pip-Boyと連動するかというような表示が出てきた。

このロボットはかなり高性能な偵察用ロボットらしく、Pip-Boyに繋げてリアルタイムで情報を受け取れるようになっているようだ。

前の世界のUAVやドローンみたいなものか。

 

そうなれば安全の確保にも役立つだろう。

 

 

 

 

色々な設定が終わった後、外装を修理し、Pip-Boy経由でスリープモードを解除する。

しばらく待ったが軌道音が響くだけで何も起こらない。

 

まだ直ってないのか、と思いロボットに手をかけようとした瞬間。

 

 

 

「Beep!!!!!!」

 

 

突然甲高い音を発してロボットが宙に浮いたのだ。

私はびっくりして思わず腰のホルスターからピストルを取り出し、ロボットに向ける。

 

もし狂ったロボットだったら襲ってくるかもしれない。

現に、戦前の軍事用ロボットの多くは劣化により見境なく人間を襲う。

稀に、家庭用ロボットのはずのMr.ハンディですら襲ってくるが。

 

 

しばらく混乱したようにあたりを見回すロボット。

 

 

「……Beep」

 

 

唐突に私と同じ目線に降りてきて、左右にフラフラと体を振って見せた。

これは、仲間であるという意味なのだろうか。

 

ゆっくりと銃を降ろすと、ロボットは私に寄り添ってくる。

これどうやって浮いてるんだろう。

 

 

ロボットを撫でてあげると、嬉しそうな音を発てて震える。

ちょっとだけその動物的な動きにほっこりしてしまう。

かわいい。テディベア型だったらもっと可愛かった。

 

 

「……あなた、名前は?」

 

 

「Beep!」

 

 

「え、わからない」

 

 

どうやら音声を発することは出来ないようだ。

意思疎通は難しそうだ。

 

私はちょっとだけ悩む。

もちろんこのロボットをなんて呼ぶか、だが。

 

 

と、不意にロボットのナンバープレートを見る。

ED-E。

 

そうだ、ED-E(エディ)にしよう。

ドッグミートとかつけるよりはマシだ。

 

 

「ED-Eでいいかしら?」

 

 

「Beep!!!!!!」

 

 

喜んだように音を鳴らす。

これが、これからモハビでいくつもの激戦を共に渡り歩く、ED-Eとの出会いだった。

 

 

 


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